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氷の神と赤髪の少年

氷の神と赤髪の少年 1

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泣いている。

誰かが、真っ暗な闇の中で泣いている。



あまりの痛みにとうとう意識を手放した私は、気づくと上下左右どのを見ても黒しかない世界にいた。

その中で、青い光を放つ1人の少女がいる。

床にまでつきそうに長く豊かな青い髪と澄んだ瞳を持つ、肌が雪のように真っ白な美しく可愛らしい私と同じくらいの年齢に見える少女。

その子が、目を両手でおおいながらずっと泣き続けている。





『許さない』


この声は、もしかしてイヴァーナ様??



『私から、あの人を奪った者も世界も許せない』



イヴァーナ様、あなたが泣いてるんですか?



『お願い返して、私にあの人を・・・・ジャックを返して』



ジャック。

その人がイヴァーナ様の大切な人なんですね??



『あなたは誰?』



泣いていた少女が顔をあげて、私の方を見る。

ずっと泣いていたのか、目の周りが真っ赤だ。


初めまして。

クローディア=シャーロットといいます。

ボルケーノの友達です。


すいません。

今の私は声が出せないようです。

でも、心に浮かべた言葉があなたに伝わるようですね。



『ボルケーノ?あぁ、懐かしい』



あの、もしよければ、何があったのかを聞かせてくれませんか?



『ここに人が来るのは、初めてだ。あの人もここまでは来なかった』



ジャックさん、ですか?



『そう。私の愛するただ一人の、ジャック』




青い髪と目の美少女が、柔らかく笑う。




『いいだろう。お前といるとなんだか心が温かくなって、久しぶりに気分がいい』


 
そう言うと、少女は私の手を握った。




『だが話すより、私の記憶を見せてあげよう。この場所に来れたごほうびだ』



あっ・・・・・・ッ!!!




繋がれた瞬間に私の目の前には様々な色が一気に広がり、見たこともない世界という映像が視界全部に映った。











始まりは、死の山に似た雪の時期が長い氷山。

そこには四季があり春には山に花が咲き乱れ、夏には青々とした緑が豊かに生い茂り、秋には木々な見事な紅葉を見せ、そしてこの山で1番長い季節となる冬は純白の美しい世界が広がった。

山の麓にはこの山の木の実や果物、そしてそこに住む動物などを食料として静かに暮らす1つの小さな村がある。


村の名は『グラン』。


それまで色んな国や町・村を見てきた私だが、そのどこもがいづれも戦になり争いの中にたくさんの命が消えていった。

人間はその欲望のままに同じ人間も他の種族の命も何かもを奪い、奪い合い醜い姿を見せていく。

私は、その姿を見ていることしかできなかった。


そんな人間は、この世界にとって害ではないのか?

滅ぼすべきではないのか?と考える神もいたが、私はそれだけではない人の姿も知っているが故にそこに賛成は決してできなかった。



『グラン』は、そんなことを繰り返して心が疲れはてた頃に出会った村だった。

『グラン』に住む人々は少人数ながらとても温かい心のものばかりで、私が住処とした山も必要以上の収穫や殺生はせずにとても大切にしてくれていた。

私はその村が気に入り、少しでも村に住む人々が平和に安らかに過ごせるよう恩恵を与えている。



ジャックは、そのグランに住む少年の1人だった。

村の人々は子どもが生まれると、山の神に挨拶をとその姿を見せに来る。

ジャックは赤ん坊の頃から不思議な子で、本来私の姿は見せないように魔力でバリアを張っていたのにも関わらず、彼はずっとそこにいる『私』を見ていた。

私に向かって手を伸ばし、私に向かって笑いかけて来る。

幼い子どもは感覚が鋭く大人に見えないものがあるというからジャックもそうなのだろうと思ったが、ジャックが私の姿を見失うことは一度たりともなかった。



『ねぇ、山の神様!見てみて、今日僕が川で釣った魚だよ!すごいでしょ!?』


赤い髪と緑の瞳を持ち日に焼けた健康な肌をしたジャックは、毎日のように私の山に来ては自分の話をしに来た。


『ねぇ、神様!!この間、別の村に僕1人でお使いに行ったんだ!』


『・・・・・それはよかったな』



私はジャックの話を聞き、その頭を撫でてやる。

そしてそのことに喜んで、エヘヘ!と笑うのが私達の毎回のやりとりだ。

赤ん坊だったジャックが少年になり、青年になってもそれは変わらなかった。

最近は、私も彼が訪れて来るのが楽しみの1つになってしまっている。

彼はどんなことでも、いつまでも幼い頃と変わらない、無邪気な笑顔でその喜びを伝えてくれていた。




だが、ジャックは昔のような幼い子どものままではない。

彼も大人になって、好きな少女と親になり温かい家族を作っていくのだ。

我ら死なないものと比べて人の一生は瞬きのように一瞬で、だからこそ貴重で美しいもの。



いつまでも、この時間を続けていいわけがないーーーーーー。




『ねぇ、神様!!俺が育てたカボチャ、村一番だったんだぜ?!こーーーーーんな、大きかったんだ!すごいだろ??』

『あぁ・・・・・それはすごいな』

『だろ~~!!あ、明日そのカボチャで作ったお菓子を一緒に食べようぜ!!』

『ジャック』



いつものように無意識で彼の頭を撫でようとした手をとめて、私はジャックに向き直る。



『どうしたの、神様??』

『それは私ではなく、村の娘にやったらいい。お前は村の人気者だろう?この間も、お前に好意を持ってるキャシーが声をかけていたじゃないか』

『・・・・・・』



とたんに、ジャックの顔は不機嫌になる。



『俺は別にキャシーのことが好きじゃない』

『そうか。ではサラはどうだ?お前より年上だが、働き者のいい娘じゃないか』

『サラのことも、好きじゃない』

『ジャック。私のところにばかりきていては、お前の家族ができないぞ?』

『俺は・・・・ッ!!』


必死な表情をしたジャックは私の方に向き直ると、神である私の身体を抱きしめた。

本来、精霊のように肉体を持たないものと同じ存在だが、魔力が強くなった我らにはその魔力で出来た肉体というものがある。

だが、それでも普通の人間には触れることもできないはずなのに。


『じゃ、ジャック!!お前は何をッ!』

『俺が好きなのは、生まれた時からずっとずっと神様だけだ!!』

『!!??』

『神様に挨拶に連れて行かれたあの瞬間から、俺はあんたに心を奪われたんだ!!』



他の人には見えてなかったその場所に、透き通った美しい氷の女神がそこにいた。

その光景はいつまでも忘れることもなく、俺の心の中に強くしっかりと刻まれている。

あんなに美しく気高く、キレイな存在を俺は他に知らない。



『バカなことを言うな、ジャック。私は神だ。私のことを好いてくれるのはありがたいが、人間のお前とは違う』

『何が違うんだよ!!俺はあんたが好きだ!あんたじゃないと嫌なんだ!!』

『しばらく、頭を冷やせ・・・・・ジャック』

『!!??』


私は魔力を使ってジャックを村の入り口に強制的に移動させると、山を激しい吹雪でおおいジャックが入れないようにした。

もちろん山の中の動物には被害がないように、人にだけその吹雪が反応するようにして。

ジャックは私といた時間が長すぎて、勘違いをしているだけだ。

これからの時間を他の女性と過ごせば、ジャックの気持ちも自然の流れで変わっていくだろう。

本当はもっと早くこうするべきだったのに、彼との時間が心地よくて近くにいさせすぎた私の責任だ。



彼は私の愛するたくさんの人間の中の1人。




それだけだ。


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