33 / 212
氷の神と赤髪の少年
氷の神と赤髪の少年 1
しおりを挟む泣いている。
誰かが、真っ暗な闇の中で泣いている。
あまりの痛みにとうとう意識を手放した私は、気づくと上下左右どのを見ても黒しかない世界にいた。
その中で、青い光を放つ1人の少女がいる。
床にまでつきそうに長く豊かな青い髪と澄んだ瞳を持つ、肌が雪のように真っ白な美しく可愛らしい私と同じくらいの年齢に見える少女。
その子が、目を両手でおおいながらずっと泣き続けている。
『許さない』
この声は、もしかしてイヴァーナ様??
『私から、あの人を奪った者も世界も許せない』
イヴァーナ様、あなたが泣いてるんですか?
『お願い返して、私にあの人を・・・・ジャックを返して』
ジャック。
その人がイヴァーナ様の大切な人なんですね??
『あなたは誰?』
泣いていた少女が顔をあげて、私の方を見る。
ずっと泣いていたのか、目の周りが真っ赤だ。
初めまして。
クローディア=シャーロットといいます。
ボルケーノの友達です。
すいません。
今の私は声が出せないようです。
でも、心に浮かべた言葉があなたに伝わるようですね。
『ボルケーノ?あぁ、懐かしい』
あの、もしよければ、何があったのかを聞かせてくれませんか?
『ここに人が来るのは、初めてだ。あの人もここまでは来なかった』
ジャックさん、ですか?
『そう。私の愛するただ一人の、ジャック』
青い髪と目の美少女が、柔らかく笑う。
『いいだろう。お前といるとなんだか心が温かくなって、久しぶりに気分がいい』
そう言うと、少女は私の手を握った。
『だが話すより、私の記憶を見せてあげよう。この場所に来れたごほうびだ』
あっ・・・・・・ッ!!!
繋がれた瞬間に私の目の前には様々な色が一気に広がり、見たこともない世界という映像が視界全部に映った。
始まりは、死の山に似た雪の時期が長い氷山。
そこには四季があり春には山に花が咲き乱れ、夏には青々とした緑が豊かに生い茂り、秋には木々な見事な紅葉を見せ、そしてこの山で1番長い季節となる冬は純白の美しい世界が広がった。
山の麓にはこの山の木の実や果物、そしてそこに住む動物などを食料として静かに暮らす1つの小さな村がある。
村の名は『グラン』。
それまで色んな国や町・村を見てきた私だが、そのどこもがいづれも戦になり争いの中にたくさんの命が消えていった。
人間はその欲望のままに同じ人間も他の種族の命も何かもを奪い、奪い合い醜い姿を見せていく。
私は、その姿を見ていることしかできなかった。
そんな人間は、この世界にとって害ではないのか?
滅ぼすべきではないのか?と考える神もいたが、私はそれだけではない人の姿も知っているが故にそこに賛成は決してできなかった。
『グラン』は、そんなことを繰り返して心が疲れはてた頃に出会った村だった。
『グラン』に住む人々は少人数ながらとても温かい心のものばかりで、私が住処とした山も必要以上の収穫や殺生はせずにとても大切にしてくれていた。
私はその村が気に入り、少しでも村に住む人々が平和に安らかに過ごせるよう恩恵を与えている。
ジャックは、そのグランに住む少年の1人だった。
村の人々は子どもが生まれると、山の神に挨拶をとその姿を見せに来る。
ジャックは赤ん坊の頃から不思議な子で、本来私の姿は見せないように魔力でバリアを張っていたのにも関わらず、彼はずっとそこにいる『私』を見ていた。
私に向かって手を伸ばし、私に向かって笑いかけて来る。
幼い子どもは感覚が鋭く大人に見えないものがあるというからジャックもそうなのだろうと思ったが、ジャックが私の姿を見失うことは一度たりともなかった。
『ねぇ、山の神様!見てみて、今日僕が川で釣った魚だよ!すごいでしょ!?』
赤い髪と緑の瞳を持ち日に焼けた健康な肌をしたジャックは、毎日のように私の山に来ては自分の話をしに来た。
『ねぇ、神様!!この間、別の村に僕1人でお使いに行ったんだ!』
『・・・・・それはよかったな』
私はジャックの話を聞き、その頭を撫でてやる。
そしてそのことに喜んで、エヘヘ!と笑うのが私達の毎回のやりとりだ。
赤ん坊だったジャックが少年になり、青年になってもそれは変わらなかった。
最近は、私も彼が訪れて来るのが楽しみの1つになってしまっている。
彼はどんなことでも、いつまでも幼い頃と変わらない、無邪気な笑顔でその喜びを伝えてくれていた。
だが、ジャックは昔のような幼い子どものままではない。
彼も大人になって、好きな少女と親になり温かい家族を作っていくのだ。
我ら死なないものと比べて人の一生は瞬きのように一瞬で、だからこそ貴重で美しいもの。
いつまでも、この時間を続けていいわけがないーーーーーー。
『ねぇ、神様!!俺が育てたカボチャ、村一番だったんだぜ?!こーーーーーんな、大きかったんだ!すごいだろ??』
『あぁ・・・・・それはすごいな』
『だろ~~!!あ、明日そのカボチャで作ったお菓子を一緒に食べようぜ!!』
『ジャック』
いつものように無意識で彼の頭を撫でようとした手をとめて、私はジャックに向き直る。
『どうしたの、神様??』
『それは私ではなく、村の娘にやったらいい。お前は村の人気者だろう?この間も、お前に好意を持ってるキャシーが声をかけていたじゃないか』
『・・・・・・』
とたんに、ジャックの顔は不機嫌になる。
『俺は別にキャシーのことが好きじゃない』
『そうか。ではサラはどうだ?お前より年上だが、働き者のいい娘じゃないか』
『サラのことも、好きじゃない』
『ジャック。私のところにばかりきていては、お前の家族ができないぞ?』
『俺は・・・・ッ!!』
必死な表情をしたジャックは私の方に向き直ると、神である私の身体を抱きしめた。
本来、精霊のように肉体を持たないものと同じ存在だが、魔力が強くなった我らにはその魔力で出来た肉体というものがある。
だが、それでも普通の人間には触れることもできないはずなのに。
『じゃ、ジャック!!お前は何をッ!』
『俺が好きなのは、生まれた時からずっとずっと神様だけだ!!』
『!!??』
『神様に挨拶に連れて行かれたあの瞬間から、俺はあんたに心を奪われたんだ!!』
他の人には見えてなかったその場所に、透き通った美しい氷の女神がそこにいた。
その光景はいつまでも忘れることもなく、俺の心の中に強くしっかりと刻まれている。
あんなに美しく気高く、キレイな存在を俺は他に知らない。
『バカなことを言うな、ジャック。私は神だ。私のことを好いてくれるのはありがたいが、人間のお前とは違う』
『何が違うんだよ!!俺はあんたが好きだ!あんたじゃないと嫌なんだ!!』
『しばらく、頭を冷やせ・・・・・ジャック』
『!!??』
私は魔力を使ってジャックを村の入り口に強制的に移動させると、山を激しい吹雪でおおいジャックが入れないようにした。
もちろん山の中の動物には被害がないように、人にだけその吹雪が反応するようにして。
ジャックは私といた時間が長すぎて、勘違いをしているだけだ。
これからの時間を他の女性と過ごせば、ジャックの気持ちも自然の流れで変わっていくだろう。
本当はもっと早くこうするべきだったのに、彼との時間が心地よくて近くにいさせすぎた私の責任だ。
彼は私の愛するたくさんの人間の中の1人。
それだけだ。
0
お気に入りに追加
850
あなたにおすすめの小説
暗殺者から始まる異世界満喫生活
暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。
しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。
同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。
ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。
ファーストカット!!!異世界に旅立って動画を回します。
蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)
BL
トップ高校生we tuberのまっつんこと軒下 祭(のきした まつり)、17歳。いつものように学校をサボってどんなネタを撮ろうかと考えてみれば、水面に浮かぶ奇妙な扉が現れた。スマホのカメラを回そうと慌てる祭に突然、扉は言葉を発して彼に問い掛ける。
『迷える子羊よ。我の如何なる問いに答えられるか。』
扉に話しかけられ呆然とする祭は何も答えられずにいる。そんな彼に追い打ちをかけるように扉はさらに言葉を発して言い放った。
『答えられぬか…。そのようなお前に試練を授けよう。…自分が如何にここに存在しているのかを。』
すると祭の身体は勝手に動き、扉を超えて進んでいけば…なんとそこは大自然が広がっていた。
カメラを回して祭ははしゃぐ。何故ならば、見たことのない生物が多く賑わっていたのだから。
しかしここで祭のスマホが故障してしまった。修理をしようにもスキルが無い祭ではあるが…そんな彼に今度は青髪の少女に話しかけられた。月のピアスをした少女にときめいて恋に堕ちてしまう祭ではあるが、彼女はスマホを見てから祭とスマホに興味を持ち彼を家に誘ったのである。
もちろん承諾をする祭ではあるがそんな彼は知らなかった…。
ドキドキしながら家で待っていると今度は青髪のチャイナ服の青年が茶を持ってきた。少女かと思って残念がる祭ではあったが彼に礼を言って茶を飲めば…今度は眠くなり気が付けばベットにいて!?
祭の異世界放浪奮闘記がここに始まる。
【完結】愛する人にはいつだって捨てられる運命だから
SKYTRICK
BL
凶悪自由人豪商攻め×苦労人猫化貧乏受け
※一言でも感想嬉しいです!
孤児のミカはヒルトマン男爵家のローレンツ子息に拾われ彼の使用人として十年を過ごしていた。ローレンツの愛を受け止め、秘密の恋人関係を結んだミカだが、十八歳の誕生日に彼に告げられる。
——「ルイーザと腹の子をお前は殺そうとしたのか?」
ローレンツの新しい恋人であるルイーザは妊娠していた上に、彼女を毒殺しようとした罪まで着せられてしまうミカ。愛した男に裏切られ、屋敷からも追い出されてしまうミカだが、行く当てはない。
ただの人間ではなく、弱ったら黒猫に変化する体質のミカは雪の吹き荒れる冬を駆けていく。狩猟区に迷い込んだ黒猫のミカに、突然矢が放たれる。
——あぁ、ここで死ぬんだ……。
——『黒猫、死ぬのか?』
安堵にも似た諦念に包まれながら意識を失いかけるミカを抱いたのは、凶悪と名高い豪商のライハルトだった。
☆3/10J庭で同人誌にしました。通販しています。
婚約者様は大変お素敵でございます
ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。
あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。
それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた──
設定はゆるゆるご都合主義です。
【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました
木嶋うめ香
恋愛
政略で嫁いだ相手ピーターには恋人がいたそうです。
私達はお互いの家の利益のための結婚だと割りきっていたせいでしょうか、五年経っても子供は出来ず、でも家同士の繋がりの為結婚で離縁も出来ず、私ダニエラは、ネルツ侯爵家の嫁として今後の事を悩んでいました。
そんな時、領地に戻る途中の夫が馬車の事故で亡くなったとの知らせが届きました。
馬車に乗っていたのは夫と女性と子供で、助かったのは御者と子供だけだったそうです。
女性と子供、そうです元恋人、今は愛人という立場になった彼女です。
屋敷に連れてこられたロニーと名乗る子供は夫そっくりで、その顔を見た瞬間私は前世を思い出しました。
この世界は私が前世でやっていた乙女ゲームの世界で、私はゲームで断罪される悪役令嬢の母親だったのです。
娘と一緒に断罪され魔物に食われる最後を思い出し、なんとかバッドエンドを回避したい。
私の悪あがきが始まります。
第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。
応援して下さった皆様ありがとうございます。
本作の感想欄を開けました。
お返事等は書ける時間が取れそうにありませんが、感想頂けたら嬉しいです。
瀧華国転生譚 ~処刑エンド回避のために幼い病弱皇子を手懐けようとしたら見事失敗した~
飛鳥えん
BL
【病弱捨てられ皇子(幼少期)と中身現代サラリーマン(外見・黒い噂のある美貌の文官青年)】
(中盤からは成長後のお話になる予定)
社会人の芦屋は、何の前触れもなく購買した乙女ノベルゲーム「瀧華国寵姫譚(そうかこく ちょうきたん)~白虎の章~」の世界に取り込まれていた。そのうえ、現在の自分の身上は悪役として物語終盤に処刑される「蘇芳」その人。目の前には現在の上司であり、のちの国家反逆の咎で破滅する「江雪(こうせつ)」。
このままでは自分の命が危ないことを知った芦屋は、自分が陰湿に虐げていた後ろ盾のない第3皇子「花鶏(あとり)」を救い、何とか彼が国家反逆の旗振りとならぬよう、江雪の呪縛から守ろうとする。
しかし、今までの蘇芳の行いのせいですぐには信用してもらえない。
それでも何とか、保身のため表向きは改心した蘇芳として、花鶏に献身的に尽くしつつ機をうかがう。
やがて幼い花鶏の師として彼を養育する中で、ゲームの登場人物としてしか見てこなかった彼や周りの登場人物たちへの感情も変化していく。
花鶏もまた、頼る者がいない後宮で、過去の恨みや恐れを超えて、蘇芳への気持ちが緩やかに重く積み重なっていく。
成長するに従い、蘇芳をただ唯一の師であり家族であり味方と慕う花鶏。しかしある事件が起き「蘇芳が第3皇子に毒を常飲させていた」疑いがかけられ……?
<第1部>は幼少期です。痛そうな描写に※を付けさせていただいております。
R18 サブタイトルも同様にさせていただきます。
(2024/06/15)サブタイトルを一部変更させていただきました。内容の変化はございません。
◆『小説家になろう』ムーンライト様にも掲載中です◆
(HOTランキング女性向け21位に入れていただきました(2024/6/12)誠にありがとうございました!)
【完結】呪われ王子は生意気な騎士に仮面を外される
りゆき
BL
口の悪い生意気騎士×呪われ王子のラブロマンス!
国の騎士団副団長まで上り詰めた平民出身のディークは、なぜか辺境の地、ミルフェン城へと向かっていた。
ミルフェン城といえば、この国の第一王子が暮らす城として知られている。
なぜ第一王子ともあろうものがそのような辺境の地に住んでいるのか、その理由は誰も知らないが、世間一般的には第一王子は「変わり者」「人嫌い」「冷酷」といった噂があるため、そのような辺境の地に住んでいるのだろうと言われていた。
そんな噂のある第一王子の近衛騎士に任命されてしまったディークは不本意ながらも近衛騎士として奮闘していく。
数少ない使用人たちとひっそり生きている第一王子。
心を開かない彼にはなにやら理由があるようで……。
国の闇のせいで孤独に生きて来た王子が、口の悪い生意気な騎士に戸惑いながらも、次第に心を開いていったとき、初めて愛を知るのだが……。
切なくも真実の愛を掴み取る王道ラブロマンス!
※R18回に印を入れていないのでご注意ください。
※こちらの作品はムーンライトノベルズにも掲載しております。
※完結保証
※全38×2話、ムーンさんに合わせて一話が長いので、こちらでは2分割しております。
※毎日7話更新予定。
転生腹黒貴族の推し活
叶伴kyotomo
BL
屈強な辺境伯爵家の三男に転生した主人公は、家族大好き!推しも大好き!
チート能力を自分の好きにしか使わないけど、案外努力系主人公です。
推し達の幸せの為なら、こっそりギルドにだって登録しちゃうし、嫌いな奴の婚約破棄に暗躍するし、ドラゴンだって仲間にするし、嫌な奴は叩き潰します!
一応R18ですが、それまで長いです。とてもとても長いです。やだもう長〜い。一応※を付けておきます。
そこからはどこそこ※になります。
エロは十分頑張ります。
※男性同士の結婚が普通にあります。
※男性の妊娠出産も普通にあります。
誤字や名前が違うぞ?とお気づきになられたら、ぜひ教えてください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる