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モブ女子、いざ騎士院へ!

トキメキで殺されそうです

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『ーーーーズク!!シズク!!』



あれ?

私、誰かに呼ばれてる?


『シズク、死ぬな!しっかりしろ!!』


あぁ、この声はジークフリート様。
しかもこのセリフ、確かゲームのイベントで出てきたやつだ。

ジークフリート様とのイベントを起こしていくと起こる、街の辺境に現れて暴れていた封印されていたはずの獰猛なモンスターを退治するイベント。

ここで主人公のステータスが低いと、ジークフリート様が主人公を庇ったせいで死んでしまう。

主人公のステータスが高ければ、ジークフリートをかばって主人公がケガをしてそのことに怒りMAXになったジークフリート様がものすごい力を発揮してモンスターを一気に倒すのだ。

このセリフは、モンスターを退治した後ケガをした主人公にジークフリート様が駆け寄り抱きかかえられてる時のもの。

何度も見すぎて、ついには夢の中でまでイベントをみてしまったのか。


『シズク!!俺がそばにいながらこんなケガをさせて、すまなかった!!』



あれ?
夢なのに私のほおに触れるジークフリート様の体温まで感じてくるなんて、なんてリアルな夢だろう。

でも、暖かくてなんだかすごく気持ちがいいしなんでもいっか!


『ジークフリート様がケガをおわなかったのなら、それが私には一番幸せなことです』


しかもローズのセリフのはずなのに、自分の口から出てくるって、なんだかいつもと違う感じ。

これが夢だからかな?



『シズク!!』



ジークフリート様が私の頬に添えてくれた手の上から、私も自分の手を重ねる。

本当にこの体温が温かくて、気持ちがいい。



『私はこうして、生きているあなたのそばにいられるだけで、本当に幸せです』


『シズク・・・大丈夫だ!俺はここにいるぞ!!』


『お慕いしております、ジークフリート様』






あぁーーーー気持ちがよくて、なんだろう??

視界がぼやけて、ジークフリート様がよく見えない。

いや、彼はちゃんとそこにいるじゃない。

私の頬に手をそえてくれている、戦いの後の血と泥で顔を汚したジークフリートさまがーーーーーーーーー!?






「よかった。気がついたようだな」

「え??」



目の前には夢の中とは変わらず、穏やかな笑みを浮かべたジークフリート様が私の頬に手をそえながら、私が眠るベットのそばにある椅子に座ってこちらを向いていた。



「えぇぇぇーーーーーーーー!?」



その瞬間、顔を茹でタコのように真っ赤にした私が再びベットに勢いよく倒れこんで気を失ってしまったので、ジークフリート様が心配してまたまた迷惑をかけてしまった。



「ほ、本当にすみませんでした!!!」

「いや、元気になったのなら何よりだ」



あれからしばらく気を失ってたようで、ようやく目が覚めて今にいたる。

鼻血吹き出して気絶して起きたと思ったらまた気絶してって、せっかくのジークフリート様との時間なのに何やってんだ私は!!



「遠くからわざわざ持ってきてくれた、差し入れのサンドイッチ。部下達もとても喜んでいた。ありがとう」

「あ、いえ、新作の試食をして頂いたようなものですから!こちらこそ喜んでもらえたらありがたいです!!」


体調が落ち着いたので、医務室から場所を移動して今は団長の自室件仕事場におじゃませて頂きお茶までごちそうになってしまった。


「忙しい中でご迷惑をかけてしまって、本当にごめんなさい!!」



我に返ってみれば、ジークフリート団長は騎士院の中で誰よりも忙しく多忙を極めている方。

死亡フラグの原因の中には彼の疲労がキッカケを作って、フラグへと繋げてしまっているものもあったぐらいだ。

そのフラグをおる為にここにやってきたはずなのに、感動にはしゃいでぶっ倒れて彼の負担になっていては何も意味がない。



「そんなに謝らないでくれ。君がここに来てから、俺も含めてなぜかみんな疲れが吹き飛んだと仕事が逆にはかどったぐらいなんだ」


「え??」


「マルコなんか長年の腰の痛みが嘘のように治った!と、生き生きしながら門番に戻っていったよ」


「そう、だったんですか」


いつもは大きく波がある他者自動回復機能が、なぜか今回はフル活動されてしまったようだ。まさか鼻血吹いたからか?



「少しでもお役に立てたならよかったです」

「あぁ、あんなに疲れきっていた皆が、君がこの院に来た瞬間から不思議と生き生きし始めているんだ」


「そ、そんな、ただの偶然ですよ!!」


「偶然だろうと俺は君に感謝している」


「!?」



何百回・何千回と繰り返し見たゲームの中でも、先ほどの夢の中でも同じようにジークフリート様の笑顔は見てきたし、声も聞いてきた。

その度に萌えて萌えて、興奮して発狂して!
心臓はその時にもドキドキMAXでうるさいぐらいに鳴り響いていた。

本当によく壊れなかったと思う。

なのに今目の前で柔らかく自分に向かって笑顔を向けて話しかてくるジークフリート様を見ていると、なんだか胸の奥がキュッと苦しくなる。



この人が、死んでしまうなんてーーーーーーーー。



「あ、そういえば、持ってきたサンドイッチはジークフリート様も召し上がられたんですか?」


胸の苦しさをごまかそうと、話を切り替えた。



「いや、俺よりも部下達が皆食べたいと嬉しそうだったからな。食べそびれてしまった」


「!?」



あぁーーーーそうだった。
この人はそういう人だった。

自分のことよりも他人のこと。
自分のお腹が空いてても、目の前でお腹が空いている人がいれば自分のパンを与える人。

目の前でケガをして倒れている人がいれば、自分が大怪我していても目の前の人を助けるために全力を出す人だった。

だからもうこれ以上死んでほしくなったし、幸せになってほしいと心から思ったんだった。



 「ジークフリート様」

「ん?どうした?」



そうだ!
  
彼の死亡フラグに騎士院の仕事での疲労が少しでも関係しているなら、もしかしたら私のこの『他者自動回復機能』が少しでも役に立つのかもしれない。

そばにいることで疲れも癒し、ケガをしてもすぐに治せるようになるのかもしれない。



「もし迷惑でないのなら、もし料理を気に入って頂けたのならでいいんですが、ステル・ララのお弁当を昼食用として持ってくることを許してはもらえませんか?」


「ステル・ララのお弁当をか?」


「はい。騎士院からレストラン等がある城下までは少し距離があります。もし、お弁当を届けることができてその行き帰りの時間も騎士様達の休憩の時間にできたらどうかと思って!」
  

「それは、こちらとしてはとてもありがたいことだが、君は大丈夫なのか?
騎士院の人数は結構いる。お弁当を頼むとすると、かなりの重さになってしまうぞ?」

「そ、それは全然大丈夫です!私、こう見えてもって、倒れておいて説得力もないかもですが実は結構力もちでして!!」


ふん!!と、立ち上がって気合を入れると、腕まくりして力こぶを作ってみせる。
 


「ーーーーーーははっ」

「え?」

「あぁ、すまない。なんでもないんだ。
いや、本当にその申し出はとてもありがたい。あとで団員達にも確認して、希望するものがいたらその人数を後からお店に伝えよう」


「は、はい!ありがとうございます!!」
 

「・・・・・」



そのあとジークフリート様はふいになぜか先ほどのベットでしたように、私の頬に手を添える。



ドックン!




「!?」


「不思議だ。なぜか君に触れていると、心が穏やかになって体が軽くなる」



ドックン!ドックン!



不思議でもなんでもないです!
それは『他者自動回復機能』のおかげです!



「ずっと触っていたいような、不思議な気持ちだ」

「!?」



ほおが、ジークフリート様が触れているところから熱がジワジワの伝わってきて顔が余計に熱くなってくる。

今もジークフリート様の熱いまなざしが私の方へと一心に向き、その真摯なまなざしに今にも全身が焼き殺されそうだ。

しかもさっきから低いバリトンボイスに甘いものが混じってるような感覚までして、全身がむず痒くてなんだかとってもいたたまれない。



「もっと君と、一緒にいたくなる」

「!!??」



も、もうそれ以上はやめて!
なんで今回こんなに甘いの!?

なんでこの甘さを10分の1でもゲームに織り交ぜなかった!?

すみません、団長。
あなたはやればできる子だったんですね!!

画面越しでは味わえなかった、あなたのリアルフェロモンに今にもノックアウトしそうです!!

でも、それは『他者自動回復機能』のおかげなんですーーーーーーー!!




ドックン!ドックン!ドックン!!




「あ、あの!!」


「ん?どうした?」


「わ、私、仕事がこのあともあるので、帰らせて頂きます!」


「そうか。気をつけて帰るんだぞ」


「し、失礼しましたーーーーー!!!」




バタン!!

バタバタバタバタ!!

ズターーーーンッ!!




「だ、大丈夫ですかッ!?」

「あ、おい!また鼻血が!!」




バタバタバタバタッ!!!




「今の音、確実に転んでないか?」


嵐のように去っていった少女が大きくずっこける姿をイメージして、ジークフリートは思わず小さく笑った。


「ハハッ。本当に、不思議な子だ」



連日の仕事の書類と町の見回りに、団員の訓練と己の訓練、王室の警護にとここ数日激務に追われてろくに休みも取れず、体も心もどうしようもないほどに疲れて重々しかったはずなのに。

彼女が騎士院に来たそう長くない時間の中で、今は驚くほどに体が軽い。

彼女に触っていると、触れた先から何やら暖かいものが流れてきて全身が癒されていくような不思議な感覚が広がっていき、その感覚をもっと味わいとつい手が離せなくなっていた。


それに、医務室で彼女が眠りながら急にうなされて苦しくなった時、なぜかそばにいてあげなくてはと感じ代わりに行こうとした部下を止めて自分がそばに座った。


あの時、顔中から汗を流して苦しそうにする彼女が少しでも楽になればと、顔の汗をタオルで拭き取った。



『大丈夫か?』


『・・・・・ッ』


『大丈夫だ。今は俺がそばにいるから』


『・・・・・・』



俺の声が届いたのか、苦しそうにしていた彼女は穏やかな顔になり閉じている目からは静かに横に涙がこぼれた。


『!?』


どれくらいだろう、俺は彼女の涙を流す姿に見入っていた。


しばらくしてから、はっと気がついて
涙を拭こうと思って近づけた手をなぜか彼女の頬に直接手を添えると、俺の手に自分の手を添えて彼女は静かに微笑んだ。



『お慕いしております。ジーク・・・フリード、さま』


『!?』



あの時の衝撃は今だに忘れられない。
彼女に会うのは今日が初めてだったはずなのに、なぜだろうか。

彼女からは不思議と懐かしいものを感じる気もする。



「!?」



そういえば、肝心の彼女の名前すらきちんと聞いていなかった。



「俺としたことが、やってしまったな」



こんな失態は初めてだ。
まさか初対面の相手に名前も聞かずに話し続けるとは。

向こうがこちらを知っていたからといって、それは失礼以外の何ものでもない。

 

「グレイ、グレイはいるか?」

「はい」



急いで騎士院を取り仕切る副長を呼び出すと、先ほどのステル・ララのランチの件を伝え団員達に希望の有無を聞いてくるように伝えた。



「かしこまりました」

「頼んだぞ」




次彼女に会えたときには、まずは名前を聞かなければならないな。

今度はいつ会えるだろうか?

自身が多忙なせいで店には直接会いに行けないが、彼女がステル・ララの件で騎士院に来た時には会えるかもしれない。


その時には、この胸のもやもやした気持ちの訳もわかるだろうか。



彼女が眠りながら涙を流して微笑んだあの顔と、自分の名を呼ばれた時に走ったこの心の衝撃の理由が、いつか分かるだろうかーーーーーー?
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