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転・個人恋愛ルート、続編
ラファエルルート 2
しおりを挟む「・・・・・ん」
視界は布で塞がられていて、何も見えない。
それをはぎとろうと思っても、両の手の自由も奪われて動けない。
「・・・・・ッ!!」
「ハハッ!今日も一緒に楽しもうね!」
その犯人は、ここ最近音沙汰がめっきり無く安心しきっていたはずのラファエル先輩。
ついに、完全復活してしまった。
『ら、ラジエル助け・・・・・ッ!!』
『ロード!!』
帰ろうと席を立ったその瞬間、窓から植物の触手が勢いよく入り込みロードの手足をあっという間に掴んでそのまま屋上へとさらっていった。
「・・・・・ひゃッ!!」
手足を縛っている触手の植物とは別の、ヌルヌルしたぬめり付きの触手がロードの首元に触れる。
視界が奪われるというのは本当に怖いもので、どこから何が来るのか何をされるのか分からないせいで普段よりも視覚以外の感覚が鋭く敏感になってしまう。
触手は首元を邪魔しているチョーカーを取ろうと真っ先に近づくが、そこに触れた途端に植物の先端部分が焼き焦げた。
「な、何だ!?なんか、焦げ臭い?」
「ちっ・・・・のモノに!」
「!?」
ビリッと布が裂ける音とともに、素肌に空気が直接触れて鳥肌が立つ。
「・・・・・ァァッ!!」
その素肌の中に触手が入り込み、脇腹や胸元などロードの弱いところをピンポイントで攻めてくる。
「せ、先輩!こ、これいやだっ!!」
不法侵入反対!!
ヌルヌルとした感触が気持ち悪いのに、それだけじゃない感覚が徐々にロードを確実に襲う。
頼むから、俺の未知なる扉は開けないで頂きたい!!
俺以外なら大歓迎!!
「バカだな~~嫌じゃないと意味ないだろ?それより、この匂いはウリエルか。アイツにココ、触らせたの?」
「・・・・んんっ!!」
ロードの耳の穴の中に、植物の触手とは違う感触のヌルヌルした感触が触れる。
ウリエル先輩は、むしろそこしか触れないです。
「ふーーーん。ぼくの、許可もなく?」
「うっ・・・・きょか、って・・・・んっ」
ロードの耳に唇をつけ、反対側の耳には自分の指をいじりながらラファエル先輩の舌がチロチロと穴の入り口を舐めた。
その間もロードの胸元やズボンのジッパーを器用に降ろして、何の承諾もなしに侵入した触手が下半身をあちこち好き放題勝手に動き回っている。
なんて手癖?の悪い触手なんだ!!
やられてるのがハニエル君なら、大喜びでもっとやれ!!と声援を送ってやるのに!!
とにかく気持ちが悪いのに、自分の意思では逃げることも外すこともどうにも出来ないことがさらに気持ちを混乱させていた。
お笑い番組で、生きた『うなぎ』とかをズボンの中に何匹も入れられてたけど、こんな感じだったんだろうか。
あの時は大口開けて笑って、本当にごめんなさい!!
「ら、ラファ・・・・・痛っ!!」
「これ、ぼくのお気に入りのピアスなんだ。君に片方あげる。あっ、傷口は後で治してあげるから、安心していいよ♪」
針のようなもので刺されたような強い痛みに一瞬襲われ、その後はジンジンと耳たぶの部分が痛み血の匂いがした。
ロードには見えていないが、ラファエルの片方の耳にはまっていた深い緑色の石がついた小さめのシルバーピアスがロードの片耳につけられ、傷口から血がにじみ出ている。
「それに、この匂いはガブリエルか。アイツにはどこを触られた?」
「へ?・・・・・い、痛っ!!」
ロードの鎖骨の部分に、強い痛みが走る。
ラファエル先輩が噛み付いたのだ。
かなり強めに噛まれた為、ロードの皮膚が歯型とともに血で滲む。
「あいつの匂い、べったりついてやがる」
「に、匂いって・・・・・んっ!」
噛んだ場所にもう一度口をつけると、ラファエル先輩の舌が噛み跡を舐めた後で強く皮膚を吸い上げる。
チュっ、と効果音とともに唇が離れると、皮膚は赤く鬱血し跡がしっかりと残された。
「あと、この香料の匂いはミカエルの気に入りのやつだっけ?」
「も、もうやめ・・・・・あっ!!」
先ほどまで、散々ヌルヌルの植物触手がベタベタにしてくれた胸元や脇腹にラファエル先輩の舌が移動し、あちこち噛み付いては強く吸われていく。
もう俺の体は、自分では見えてないけど全身傷だらけだ。
「はぁ、はぁ・・・・痛ッ!!」
「ミカエルには、ここも触らせたの?」
「!!??」
いつの間にかズボンが下に降ろされており、素肌になった太ももにラファエルの指と舌がゆっくりと触れた。
「ふっ・・・・・んッ!!」
「ねぇ、触らせた?」
太ももの内側辺りの、皮膚が柔らかい部分に先ほどより強く噛みつかれる。
「触って、な・・・・・!!」
「ハハッ、嘘がヘタだね~!ここに、あいつの匂いがしっかり残ってる」
強い匂いを放つその場所をラファエルは布越しに噛み付くように唇で触れると、同時に少し歯を立てながら強く吸い上げた。
「・・・・・・アァァッ!!」
ロードの熱が弾けそのすぐ後にロードを拘束していた触手が外された瞬間、ぐったりとした身体が屋上の地面に勢いよく倒れこむ。
全身硬直状態だったせいかすぐに起き上がることが出来ず、ロードは肩で大きく呼吸をしながら塞がれた視界を取り戻そうとなんとか目元へ手を伸ばすが、その手首が突然掴まれた。
掴んだのは、もちろん。
「!?」
「明日から、気をつけてね。もしまたぼくの断りなくアイツらに好き勝手触らせたら、おしおきしちゃうよ?」
「・・・・・ッ!!」
ラファエル先輩の手によって目隠しが外されようやく開けたロードの視界の中で、学園の中では爽やかな犬系男子と呼ばれて愛されているラファエル先輩が笑っていた。
笑っているのに何か胸が苦しくなるような、そのまっすぐな瞳はロードに無言のまま何かを訴えてくる。
ロードはなぜか、ラファエルのこの瞳に弱かった。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
そこへちょうど沈みかけた夕陽の光が屋上を照らし、とてもそんなことを考えている場合ではないのに、キレイだなと素直にそれだけを感じてしばらく見惚れていた。
「じゃ、また明日な~~!」
「!?」
その後、これまでロードは中々見ることがなかった無邪気な可愛い笑顔を見せると、地面に寝っ転がったまま起き上がれないロードを置き去りにして、ラファエル先輩は軽やかにその場から去っていく。
「・・・・・また、明日って」
恐る恐る、耳を始めとした身体に触れるものの、つけられた傷跡や歯型は跡として残っていたが全ての傷からすでに血は止まっていた。
「まずいんじゃないか、これ?」
歯型と跡だらけの身体をギュッと抱きしめながら、とにかく明日からより本気で逃げなくてはと心に強く誓う。
ラファエル先輩は最初の頃のような、他国のスパイなのでは?という疑いはどうにか晴れたものの、一体どこの選択肢を間違えたのか。
よく分からない執着心から、特に他の生徒会メンバーに関わった後の機嫌は最恐最悪で『おしおき』と称して嫌がらせを受けるのだ。
制服を脱いだ俺の体は泣けてくるほど痣と歯型の嵐で、とてもではないが寮の大浴場には行けず、体育の着替えの際もかなり気を遣わなくてはならずどれだけ暑くてもジャージを脱ぐことすらも許されない。
ラジエルやチャミエルとも必要以上にスキンシップは取らないよう気をつけ、生徒会メンバーには決して鉢合わないよう死に物狂いで逃げた。
だが、あんなに必死で逃げたのに1日に3人の中の1人には必ず出くわしてしまうのはどういうことなのか。
『なぜ、耳を塞いでいるんだ?』
『なぜって、答えは1つしかないじゃないですか!』
『どうしたの?そんなに震えながら怯えた顔して』
『お、怯えてなんか・・・・じ、実はと、トイレに今すぐ行きたくて!』
『ファルシオン!なぜ俺から逃げる?それに、最近は風呂にも入れてないじゃないか!』
『やめてください!寮のお風呂にちゃんと毎日入ってますからっ!!ちょ、ズボン引っ張らないでっ!!』
なぜ会いたくない時ほど、こんなにも連続で遭遇するのだろうか。
生徒会は仕事におわれて、常にいそがしいんじゃないのか?
なんなんだよ、このエンカウント率の異常な高さは!!
そうだ、『聖水』振りまけば!!って、あれは自分より弱いものしか効かなかった。
あの3人、いや4人はどう考えても俺よりはるかにレベルは上だ。
防げるわけが、ない。
「ーーーーーーーー以上、各自気をつけて帰宅するように」
「!?」
「ロード?」
放課後、担任が最後の言葉をいい終わり日直が最後の挨拶を告げる前に鞄を手に持ち、足を曲げてスタートダッシュで走る体制を取る。
「起立、礼!」
「!!??」
だが、ロードが走り出したと同時に窓から激しい風と何本もの木々の枝が伸びてきて、ロードの身体に素早く巻きつくとそのまま窓の外へとさらっていく。
「・・・・ラジエルッ!!」
助けを求めて叫んだが、その先にはもう1人のロードがおりラジエルに普段通りの笑顔で話しかけていた。
それが、誰の仕業かなんて言う必要もないだろう。
「ら、ラファエル先輩ッ!!」
「おつかれさま!今日の午後は体育があったから、疲れたんじゃない?この間みたいに、意識が飛ばないよう、気をつけてね?」
「・・・・・・・ッ!!」
今日もまた、『おしおき』の時間が始まるのだ。
あれから、Pちゃんには会えてない。
ウリエル先輩に聞いてみたいが、今はエンカウント自体を避けることが何より先決な為確認の仕様がないからだ。
いや、ただ元気でいてくれればそれだけでいい。
なんでそんなことを考えているかと言えば、今日の魔生物の授業の内容が滅多にお目にかかることのない、伝説の生物についてだったからだ。
神聖な森の中で、乙女にだけその身に触れることを許す鋭い一本角が額から生えた美しい馬、ユニコーン。
賢者とも呼ばれる、森の番人として暮らす下半身が馬で上半身が人間のケンタウロス。
美しい女の上半身と魚の下半身を持つ人魚の姿とも、人の身体の腕が翼のような姿とも言われる、海で船乗り達をその歌声で死へと呼び込むセイレーン。
獅子の胴体に鷲の顔と翼を持つ、大空を自由に駆け巡りその力も怪力な天空の番人グリフォンなどなど。
そして、ワーウルフ。
別名狼男や人狼、つまりは獣人。
オオカミの頭と獣の後ろ足を持ち、二本足で直立、全身は体毛に覆われている。
もし、この世界に存在するならぜひともお目にかかってみたいと思っていた存在の1つだ。
授業の中では、かつてケンタウロスとともに人が立ち入らぬ深い森の奥で群れをなし、大勢の獣人が平和に暮らしていたとのことだった。
だが、獣人の持つ独自の技術方法で作られた武器防具や珍しい宝に目をつけた人間のハンターが群れを襲って略奪したり、その立派な毛皮を商品として売る為に獣人自身を狩ったり奴隷として使役する為に生きて捕まえるなどして、かなり数が減り今では絶滅危惧種として認定されているらしい。
どこの世界にもそういった、欲が膨れ上がり思い上がった気持ちから愚かしいことをする者は必ずでてくるが、一見平和なBL学園であるこの世界も例にもれないようだ。
世界によっては獣人と人が共存していたり、逆に人間が使役される立場の世界もあるのだから色々な形があるのかもしれないが、どうせなら仲良く共存している世界で獣人BL、オメガバース設定付きならもう最高!!をぜひとも生で拝みたかったな。
あと、普段は人の姿をしていて満月になると獣人の姿になるものもいるらしい。
そういえば、今夜がその満月だっけ?
その場合は人の血が混じっているとか。
ちなみに、生まれた時はどっちの姿で誕生するんだろう?
狼の赤ちゃん?
人間の赤ちゃん?
狼の赤ちゃんなら、きっとPちゃんのように凛々しさを残しながらもとてつもなく愛らしいことだろう。
いや、もしや人間の赤ちゃんに狼の耳と尻尾がついたハイブリッド式スーパー萌えな姿ではっ!?
敵対する人間と獣人による、禁断の恋!
性別だけでなく、種族の壁まで立ち塞がり純愛&肉欲有りでどんどんお互いの身体に溺れていき、果てにはお互いの種族からのライバル登場!!
これ、どっちが攻め受けの方が萌えるだろうか。
「ーーーーーーーーと、言うわけだ。ここは今度のテストにも出るから、しっかり復習しておくように!」
「はーーい」
よし、今度復習がてら試し獣人×ハニエル君で、設定だけでもノートに詳しく書いてみよう!
この日はびっくりなぐらい平和な時間が過ぎていき、なんと午後の授業が終わってもあの触手らに襲われないばかりか、ラファエル先輩に遭遇すらしなかったのだ。
いつもなら生徒会の誰かしらに遭遇してはそこから本気の逃走中がスタートしたり、ラファエル先輩に襲撃されてはまた気に食わない匂いをつけてと理不尽な言いがかりを適当につけられて嫌がらせを受ける、などがちょこちょこあるのだが。
「キャン、キャン」
「ぴ・・・・P、ちゃん?」
学園から寮までの帰り道、珍しく一人きりで帰宅していたロードの耳に聞き覚えのある鳴き声が響く。
「Pちゃん!どこにいるんだ?」
「キャン、キャン!」
「Pちゃん!!」
だいぶ離れた距離に、Pちゃんらしき姿を見つけ急いでそこに向かっていく。
この道の先は確か、まだ行ったことのない学園の裏山だ。
「Pちゃん、待って!!」
もうすぐ日が暮れる。
急いで連れ戻さなくては、あんな小さな身体で森の中で迷子になっては大変だ。
ロードは一度ラジエル達のところへ引き返そうか一瞬迷ったが、見失っては意味がないとすぐさまPちゃんを追いかけて行く。
結局、森の中の一応道らしき道を進んでいるうちに日が落ちてしまった為、場所によってはうっかり足下も見えなくなってしまうほどの闇に包まれる。
だが、幸いなことに今夜は満月だ。
新月などの、空に明かりが何もない時よりずっと視界が開けている。
Pちゃんはある程度まで進むと、ロードが後ろからついてきてるのかを振り返って確認しながら、見失わないギリギリのところまで素早く駆けていく。
そして、山の中腹辺りにある小高い丘の上の開けた場所に出た。
そこだけ木々で空が遮られることがない為、月明かりがしっかりとロードを照らしている。
「Pちゃん!!」
「キャン、キャン!!」
その月明かりの中で、ちょこんと座り込んでいたPちゃんを見つけて駆け寄ると力強く抱きしめる。
前と変わらずふわふわの毛先は緑がかっており、月明かりの下では銀色に光っていた。
「Pちゃん、よかった!早くかえ・・・ッ!?」
声をかけた次の瞬間、Pちゃんの体が強く光りあまりの眩しさに一瞬だけ目を瞑る。
「!!??」
光りが消えた先には、ロードの腕の中にすっぽりと抱き抱えることができた子犬のPちゃんではなく、その毛先は白の地の色に緑がかった銀色の毛が模様で浮かび、ロードよりもはるかにがたいの良い筋肉と鋭い眼差しを向けた『獣人』が目の前に佇んでいた。
大きな口には鋭い牙がのぞき、深い緑の瞳にはギラついたとても平静ではない感情が浮かんでいる。
「ぴ、Pちゃんが・・・・獣人?」
「ガルルルルるるッ!!」
どうしよう!?
姿形や特徴は習ったけど、まさかの遭遇した時の逃げ方なんてまだ何も習ってないって!
背を向けて逃げても大丈夫なのか?
いや、熊は目をそらさずに後ろ歩きで逃げないと、背を向けることは命に関わるって確か聞いたような気がする。
ゆっくり、ゆっくり下がって。
「グアァァーーーーーーーーッ!!」
「ぎゃあぁぁーーーーーーーッ!!」
血走ったPちゃん、獣人、いやP獣人?が逃げる暇もなく飛び掛ってきて、ロードはあっという間に地面に押し倒されたような形でのしかかられていた。
「・・・・・・ッ!!」
ロードが見上げた先には満天の星空と一際輝く月が光り、その光に照らされた目の前の獣人の毛がキラキラと銀色の光が反射して輝いている。
なんて、キレイなんだろう。
命の危機を感じる場面だというのに、俺はその光景にそんなことを思っていた。
今でも十分怖いはずで手足は確実に震えているというのに、鋭い眼差しの奥にある深いエメラルドの双眸と、その瞳と同じ色をした獣の耳に片方だけついているピアスを見た瞬間、考えるよりも先に言葉が口から飛び出した。
この瞳を、俺は知ってる。
「・・・・・・ラファエル、先輩?」
「!!??」
ロードの言葉に反応し明らかに動揺の意を示した獣人が、そのままロードの首元に牙を向けて襲いかかる。
噛み殺されるッ!!
逃げようにも両手は塞がれ、足も腰に乗っかられてる為に抵抗らしい抵抗もできず、ただ痛みを堪えるしかないときつく目を閉じて全身に力を入れてその瞬間を構えて待つ。
「グアァァァッ!!グウゥッ!!」
「い、痛い、けど・・・・・生き、てる?」
よくゾンビ映画とかで見る、首元から噛み付かれてそこから大量の血がドバドバ~って感じで、即死するんじゃないかと思っていたのだが。
現実は甘噛みよりは痛いものの、噛み付くというよりも牙を引っ掛けて何かをかじり取ろうとしているような感じだった。
「ウガァァッ!!がアァウッ!!」
ガチャンッ!!
「!!??」
そしてついに、ロードの首元につけられていた黒いチョーカーが鋭い牙によって噛み切られる。
「ラジエルが、魔法で何やっても切れなかったのに」
「メザワリナ、匂いダ」
「!?」
ざらっとした感触の大きく長い舌が、ロードの先ほどまでチョーカーがつけられていた首元を舐めた。
「アレだけシミツケタノに、もう上書キするトハッ!!」
「い、痛ッ!!」
がぶっと、先ほどの甘噛みよりも強く首元を噛まれ同時に皮膚が舌で舐められる。
耳というよりも耳の奥に直接響く、聞き覚えのある声よりずっと低めのその声はやはり別物なはずなのに、なぜか似た雰囲気を感じてならない。
「コレは、オレのモノだ!誰ニモ、渡さナイッ!!」
「・・・・・ッ!?」
ビリッ!!と力任せにシャツを破かれ、噛み跡隠しで着ていたインナーも爪で勢いよく引き裂かれる。
「ちょ、ちょっとこのインナー、買ったばっかりでっ!」
「ダマレッ!!」
「・・・・・・んんっ!!」
人のそれとは全然違う長さと体積も持つ舌が無理やりロード口の中にねじ込まれ、口内を乱暴に動きロードの言葉を塞ぐ。
体温が元々違うのか、燃えるように熱い舌で口の中をいっぱいにさせられ息苦しさに呼吸が上手くできない。
「!!??」
だが、口元だけに意識をずっと向けることも許してもらえず、先ほどまで両手をそれぞれで抑えつけられていたはずが、気づけば1つに束ねられ頭上でまとめて抑えられている。
残念ながら片手とはいえ、どれだけ力を込めようともびくともしない。
さすがは獣人。
見るからに羨ましいくらい、良い筋肉してるだけのことはある。
「ん・・・・ふっ!」
空いているもう片方の手がロードの首から下にゆっくりと向かい、腰の裏へと回った。
まさかっ!?と一気に背筋へと緊張が走ったロードの予想通りその手はロードの腰からズボン越しにお尻に触れ、そのまま腰を自分の方へとグッと引き寄せる。
下半身同士の距離が縮まり、ロードは先程から痛いほど存在感をこちらへアピールしてくる、およそ人間のそれとは比べものにならない大きさと硬さのモノを嫌でも感じて大きく心臓が跳ねた。
さすがは獣人、これはもはや凶器レベルだろっ!!
獣人の腰がさらに激しく動き、ロードに自分のモノを何度も激しく擦りつける。
「あっ・・・んんっ・・・・はぁっ!!」
下半身に熱が集まると同時に、口内も脳内も熱さにやられてまともな思考ができない。
ただ擦りつけているだけの、ピンポイントではないがもどかしくも強い刺激にロードの高められた下半身も悲鳴をあげる。
「・・・・・ッ!!」
ただもう、その熱を一刻も早く吐き出したい!と気づけばロードからも腰を擦りつけ、そのことに気づいた獣人がロードの口をすぐさま解放すると無防備となっていた首元にそのまま強く噛み付いた。
「いた・・・・・あ、あァァーーーーッ!!」
痛みと同時に、これまでにない強い刺激が一気に下半身から全身を襲いロードは熱とともに意識も手放す。
手放す間際に、ロードの視界の隅に映ったのは深い緑色の光。
その光を、俺はやっぱりキレイだと思った。
「・・・・ナンデ、そんな顔ガデキル?」
獣人となったラファエルの腕の中で、ロードは穏やかな顔で眠っていた。
ラファエルがこの姿を見せて、すぐに自分だと気づいたのは2人目だった。
「なンデ・・・・・?」
ロードの閉じた目から涙がこぼれ落ち、その雫を長い舌ですくい取る。
意識のないままのロードの身体を抱きかかえると、獣人ーーーラファエルはその先にある崖の手前まで移動した。
崖の先端には小さな石の置かれた暮石がある。
「タミエル・・・・オレは」
月明かりに照らされた獣人はロードを抱きかかえたままその場に座り込むと、ただまっすぐその暮石を見つめていた。
目が覚めたロードは、いつも通り自分の寮のベッドで目がさめた。
夢だったのかと疑ってみたが、首元にあったはずのチョーカーが無くなり代わりに歯型があることを鏡で確認すると、昨夜の記憶が一気にロードの頭に蘇る。
月明かりが光る夜景の中で、凛々しい姿をした銀色の毛並みの美しい獣人。
その獣人に噛みつかれ、口の中を好き放題に舐められた時の熱さと感触がリアルにロードを襲いかかる。
「おはよう、ロード。どうかしたのか?」
「!!??」
先に起きていたラジエルが声をかければ、首まで真っ赤なロードがタオルを首元をぐるぐる巻きにしながら慌てて振り返った。
「な、なんでもない!!それより、包帯あるかっ!?」
「包帯?お前、どっかケガしたのか!?」
「い、いや、夕べ寝ぼけてかきすぎたら傷になっちゃって!」
「おいおい、気をつけろよ?」
「・・・・・・そ、そうする」
傷に効くという軟膏をラジエルからもらい巻いてやる!とはりきるラジエルを自分でやるからとなんとか言い聞かせて包帯を巻き終わると、ロードの頭の中には先日習ったばかりの獣人の知識をふと思い出す。
『かなり数が減り、今では絶滅危惧種として認定されている』
その日の昼休み、獣人についてのことを調べたくて学園内にある図書室へとロードは向かった。
だが授業で習った以上のことはあまり分からず、気になったと言えば数年前に森の奥でひっそりと隠れ住んでいた獣人の生き残りの集落が発見され保護されたとの記述ぐらい。
もしかしたら、その保護された獣人の1人がラファエル先輩なのかもしれない。
「・・・・・・・月に一度、満月の夜は獣人の血が一番強まり、人との混血であっても本来の獣人の姿となり本能が蘇る。その本能に従い、成人を迎えた獣人は発情期を迎える」
発情期って、確かオメガバースとかでよく出てきたーーーーーーーー。
「は、発情っ!?」
ラファエル先輩、こんな俺に発情したのか!?
いやいや、落ち着け。
誰が相手でも発情状態になって襲いかかってしまうのが、発情期というものだったはずだ。
今回は、たまたま目の前に俺がいただけのこと。
たまたま?
「いや、たまたまじゃ・・・・・ないよな」
あの日、あの森へ案内されなければ。
「・・・・どうして?」
Pちゃんと過ごした日々の思い出が、頭をよぎる。
普段のラファエル先輩に子犬のPちゃん、そして獣人のラファエル先輩。
気づけば、ラファエル先輩のことばかり考えしまっている。
出会ってからずっと、あの人には振り回されっぱなしだ。
それなのに、顔はなぜか熱かった。
そして、ついに運命の日がやってくる。
「みんな、今日から我がクラスでともに学ぶことになった新入生を紹介する!!」
「ハニエル・ハルモニーと言います。この学園のことはまだまだ分からないことだらけなので、どうぞこれからよろしくお願いします!」
キタァァーーーーーーー!!!
担任が立つ教壇の横には、ハニーブロンド色の柔らかい髪質をしあちこち跳ねている髪と、琥珀色の大きなクリッとした瞳をした明るく元気な表情のハニエル君が眩しい笑顔で立っていた。
待ってた!!
首を長くして、君のことを待ってたよハニエル君!!
「みんな、ハルモニーと仲良くな!あと、席はグレイシーズの隣が空いてるな。グレイシーズ、頼んだぞ!」
「・・・・・・あ、はい!」
なんと、ルームメイトだけでなく教室でも隣同士になったのはラジエルだった。
「えっと、グレイシーズくん。これからよろしくね!」
「・・・・・・お、俺はラジエルだ。よろしくな、ハニエル!」
ニッコリとお互いに爽やかな笑顔を浮かべながら、2人は挨拶とともに握手を交わした。
うんうん、いい場面だ!
いよいよここからスタートするんだな、友人からのBOYS LOVEが!
「あと、シュトラーゼ!お前昼休みに、ハルモニーを生徒会室まで案内してやってくれないか?」
「・・・・・へ?お、俺がですか!?」
まさかの名指しで指名!?
こういう時は、攻略相手でもあるラジエルかチャミエルにお願いするんじゃないのか?
「お前が一番うちのクラスで生徒会役員と親しいからな。適任だろ?」
「て、適任って先生」
確かに、不本意ながら生徒会全員と直接の面識がある上にラファエル先輩にいたってはほぼ毎日会ってって、毎日のように嫌がらせを受けている普通の先輩後輩だけじゃないこともけっこくかなり致してる、今考えてもよく分からない関係ですけども。
「ごめんね、君の貴重な時間なのに」
「い、いや全然大丈夫!むしろ光栄です!」
しゅん、と落ち込んだハニエル君も可愛い!
「ロードが行くなら、俺も一緒に行くよ!」
ラジエル、グッジョブ!!
さすがはハニエル君の未来の相棒!!
何かあったら頼りにしてるからな、リーダーレッド!!
「それなら、チャーミーも一緒に行く!あ、ボクはチャミエルって言うの♪チャーミーって呼んでね!」
「ちゃ、チャーミーくん?よろしくね!」
「ブブーー!!チャーミーって呼んでくれなきゃ、チャーミーすねちゃう!」
頰を可愛らしく膨らませたチャミエルに、ハニエルは苦笑しながらすぐに『チャーミー』と言い直し、チャミエルはすぐさまご機嫌な様子であれこれと話しかけている。
ちなみに席順はラジエルの前がロード、ロードの左隣でありハニエル君の前がチャミエルだ。
「あ、それと、シュトラーゼ!お前にもう一つあった!放課後伝えたいことがあるから、教官室に来てくれ」
「!!??」
「わ、分かりました!」
来た来た!!
このタイミングなら、間違いなくハニエル君絡みの寮の部屋移動のことだろう。
「ロード、お前何かやらかしたのか?」
「いや、やらかしてはないけど。多分大したことじゃないって」
そうだ。
あの満月の日から全く会えていないラファエル先輩に、昼休み生徒会室でもし会えたらこの間のことも含めて話をしてみよう。
考えてみれば、ラファエル先輩とはこれまでにもちゃんと話せる機会がほとんど持てていないのだ。
「ほら、ハニエル。今日は俺の教科書見せてやるから、もっとこっちに寄れって!」
「うん!ありがとう、ラジエル!」
「!!??」
おぉぉぉーーーーー!!!
さすがは面倒見のいい、兄貴ポジションラジエルッ!!
さっそく萌になる構図をありがとう!
今日からハニエル君でより素晴らしいBLが萌え放題かと思ったら、笑いが止まりませんよ、へっへっへ!
それに昼休みの生徒会室では生徒会役員達がハニエル君に初お目見えの、ゲームならスチル絵有りなスペシャルイベントじゃないか!!
きっと、ラファエル先輩もすぐにハニエル君が気にいることだろう。
「・・・・・・・」
ハニエル君にも、Pちゃんや獣人の姿を見せるんだろうな。
それに、ハニエル君にならきっと心からの笑顔やありのままの彼を見せることだろう。
俺が見たことのない顔を向けて。
ズキン。
「・・・・・ッ!?」
いや、なんでズキン?
ここは萌えるところだろう!
あまりの嬉しさに効果音がうっかり誤作動しちゃったんだな、きっと。
そして昼休み。
ロードとハニエル君、そしてラジエルにチャミエルの4人は普段一般生徒が立ち入り禁止区域である生徒会室へと訪れていた。
「普段は来ちゃダメって、すごい場所なんだねここ!」
この学園のことは初めて尽くしのハニエル君は、キョロキョロ周りを不思議そうに見渡しながら興味津々だ。
「今回は担任にもらった許可章があるからなんともないが、間違って普段この場所に踏み込もうならそこに描かれている防犯用の魔法陣が作動してペナルティ食らうから気をつけろよ?」
「キャハ☆そうそう、うっかりしてると丸焦げのハニートーストちゃんになっちゃう!」
「き、気をつけます」
「・・・・・・・・」
そうだったんだ。
俺もそれ、全然知らなかったよ。
コンコン。
一呼吸置いてから、生徒会の扉をノックする。
「失礼します!1年のシュトラーゼです!ハルモニー君を連れて来ました!」
「・・・・入ってこい」
静かな、それでいて威厳のあるこの声はミカエル先輩。
その言葉とともに、扉が1人でに開いた。
「す、すごい!」
「ここが選ばれし者だけが入室を許された、生徒会室!!」
「チャーミー生徒会室入るの初めて!ドキドキしちゃう!」
「し、失礼します」
はしゃぐチャミエルと、案の定誰よりも興奮しているラジエルをなだめながらハニエル君とともに部屋の中へ入ると、そこはまるでどこぞの貴族の応接間かなにかのような豪華な作りをした空間が広がっている。
床には真紅に金の刺繍がびっしりと施してあるアンティークな雰囲気のじゅうたんが敷かれ、真ん中には重厚感のある焦げ茶色のこれまたアンティーク調のテーブルにソファが並んでいた。
「やぁ、よく来たね。今煎れたばかりのお茶でもどう?」
「キャーー!!ガブリエル先輩!!」
「!?」
入り口付近で部屋にある数々の高級家具達にあっけに取られていた3人とは違い、普段から同じかそれ以上に最高級な一級品に囲まれて生活しているチャミエルは普段通りに、むしろ憧れの君であるマドンナ・ガブリエル先輩に会えたことで周囲に花が飛ぶ勢いで喜んでいる。
「俺がハルモニーの同行として指名したのは、ファルシオ・・・・・ロード=シュトラーゼだけだったはずだが?」
豪華なソファの奥にある部屋から、不機嫌を隠そうともしないミカエル先輩が小さなため息とともに現れた。
「は、初めまして!ハニエル=ハルモニーです!」
ハニエル君!姿勢正しく深いおじぎとは、なんて礼儀正しい!
俺なんて思わず、いつもの癖で逃げようとしてしまったよ。
だって未だにミカエル先輩の手先が密かにわきゃわきゃ動いてるしね。
「俺は生徒会長の、ミカエル=エルドラード。あいにく副生徒会長のラファエルは不在だ。そこでお前達にお茶を煎れているのが、書記のガブリエル=グランドリーム。そして、俺の後ろにいるのが会計のウリエル=レゴラメントだ」
「・・・・・・・」
ミカエル先輩の後ろには、ハニエル君への挨拶も無言のまま頭を軽く下げるだけにとどめたウリエル先輩が静かに佇んでいる。
そっか、ラファエル先輩は不在なのか。
こちらが会いたくない時は嫌でも毎日向こうから会いにきてくれたというのに、会いたい時には会えないなんてな。
「今回、転入早々の君に我が生徒会室まで来てもらったのは、理事長から直々に君の面倒を見てくれとの連絡が先日あったからだ。君と理事長との関係は知らないし興味もさしてないが、今日から君は生徒会見習いとして毎日放課後ここへ来ることを許可する」
「え?」
「!!??」
出たッ!!
先に入学してた俺ですら顔すらまったく知らない理事長とか学園長となぜか関わりがあり、BL主人公が生活していく中でピンチになるとどこからか現れ助けてくれる摩訶不思議な生命体、じゃなくて絶対的な権力者!!
「ふーーーーん、ハニーは理事長さんとお知り合いなの?」
「まさか!この学園の理事長さんから確かに途中入学を許可する旨の連絡は紙面でもらったけど、直接会ったこともないよ!」
そうそう、姿形が分からないのがお約束ってね!
でも、大抵は主人公の近くにいてその生活を温かく見守ってるはずなんだけど、そのうち新たなフラグとともに現れるんだろうか?
このフラグとはもちろん、BLフラグ。
ダンディなイケメンおじさんパターンか、まさかどころか実際のゲームでもあった同級生や先輩に紛れ込んでのパターンか、事務員や清掃業者に扮してのパターンか。
その可能性はうっかり忘れていた。
明日からもっと校内を体験して、怪しげなイケメンをチェックしておこう。
攻略相手の最低条件は、美形・イケメンだ。
「とりあえず、君は今日の放課後からこの場にはいないがラファエルの下に着いて彼の仕事をまず徹底的に見習え。ウリエル、ラファエルに放課後必ず生徒会室へ戻るよう伝えとけ!」
「は、はい!!」
「承知した」
「ハルモニー、お前に記入してもらう書類が山ほどある。下らない寄り道は一切厳禁だ」
ミカエル先輩は手に抱えた大量の書類をキレイに揃えると、その束を脇へと勢いよく置きハニエル君へと向き直る。
「分かりました!!」
おぉ!!
なんかファルシオン事件からかなりキャラが総崩れになってたけど、やっぱり我が校の生徒会長!!
かっこよく決めポーズを取り、ハニエル君も緊張感からぴしっと背筋を伸ばしてミカエル先輩と見つめあっている。
「では、この話はここまで。各自、自分のクラスへ戻って次の授業の準備に取りかかれ!」
ミカエル先輩の言葉とともに昼休み終了のチャイムが鳴った。
この後20分後にもう一度チャイムがなり、午後の授業がスタートする。
割と余裕があるのは、校舎が広すぎて移動に時間がかかってしまうが為の配慮だ。
「おい、そこ!いつまで茶菓子を食べている!ファルシオン!お前はちょっとここに座っていろ!」
「え?」
「だって~このお菓子って、あの有名パティシエが限定品で出した星屑のショコラじゃないですか~♪チャーミーうっかり予約し忘れて食べ損ねてたんです☆」
「おい、それは俺がファルシオンの為にわざわざ・・・・って、菓子をつまむその手を止めろ!!」
「2人とも、お菓子ならまだあるから落ち着いて」
「キャハ☆ガブリエル先輩とお茶できるなんて、チャーミーうれしすぎて今夜は寝られないです!」
「こ、これ!!もしかして、あの伝説の勇者がのぞいたと言われる伝説の鏡!かもしれないシリーズの中でもレアもののやつじゃないですか!?」
「ふむ。その価値が分かるとは、それならばこちらも見てみるか?」
「あ、あの!みんな、そろそろチャイムがなるんじゃな・・・・・うわっ!な、何?あれ?いつのまにか、僕の膝で知らない人が寝てる?」
厳かな雰囲気だったはずの生徒会室はあちこちで騒がしくなり、ハニエル君に至っては本当にいつのまに戻っていたのか、ラファエル先輩がちゃっかり天使の膝枕でお休み中だ。
「・・・・・ラファエル先輩」
「え!?この人が?ら、ラファエル先輩、起きてください!これからお世話になる、ハルモニーです!ラファエル先輩ってば!」
ハニエル君が何度か声をかけながらラファエル先輩の身体を揺すっているが、ぐっすり寝入ってる様子のラファエル先輩は起きる気配がなかった。
これ、俺の時との扱いの差がものすごいな。
やっぱり本物の主人公は格が違うってことか。
そうだよな。
ハニエル君が来たなら、俺はラファエル先輩にとって何の意味も価値もなくなる。
きっとそれまでの執着も、ちょっと気に入った『おもちゃ』みたいなものだったんだろう。
「ラファエル先輩!寝るなら、ぼくの膝なんかよりあっちのソファの方が寝心地いいですよ?」
「・・・・・・・」
それが正しい形だ。
なのに、なんでだろう?
なんで俺はハニエル君の膝で眠る、見たことがないほど穏やかに眠るラファエル先輩の顔を見ているだけで、こんなにも胸が苦しくなっているのか。
これから、ハニエル君とのBLライフが始まるのだ。
そこに俺みたいなモブが紛れ込んでいたら、じゃまにしかならない。
「俺、次の授業の準備があるんで、そろそろ帰りますね!」
なぜか、この場に居続けることが辛くてミカエル先輩達に頭を下げると一人生徒会室を早足で出て行く。
後ろからファルシオン!と叫ぶミカエル先輩の声や、待てよ、ロード!と慌てて追いかけてくるラジエルの声も聞こえたがなぜか振り返れない。
「いやぁ~~、これで明日からは平和で安全なBLを影からひっそりと思う存分萌える腐男子ライフが楽しめるんだ!」
命の危険に怯えることもないし、振り回されることもない。
なのに、なんで上手く笑えないんだろう。
「おい、そこの1年生、早く教室戻らないと遅刻するぜ?」
「え?」
トン、とロードの背中を軽く叩いたのは見覚えのない茶髪の青年。
「俺は3年のタミエル!よろしくな!」
「!?」
爽やかな笑顔で去っていくその男の姿に、なぜかロードの胸がざわつく。
その理由が分かるのは、もう少し先のこと。
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