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起・キャラ紹介

ミカエルの場合

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ラファエル先輩の一件があってから、その時に決めたとおりにしばらく最期の砦となるミカエル生徒会長のことを調べるのは自粛している。

BL妄想と萌えの為に命の危機にさらされてはたまらないからだ。

それと同時に朝登校前にランニングをラジエルと一緒に始め、筋トレも日課にするようになった。

もちろんこれはいざという時に逃げる為と、自衛のためにだ。

まさか腐男子として過ごすためには体力と防御力がなければ、思いきり楽しめないんだとは腐女子の頃は考えたこともなかった。

おかげで身体は日々筋肉痛になり、夜は余計なことを考える余裕もなくぐっすり眠れている。

ぐっすり眠れているからなのか、ある日からオレは不思議な夢を毎夜見るようになった。






そこは中世のヨーロッパ、いやそれを元ネタに作られたRPGの世界の方が正確か。

その中では生徒会に似たというか、もうご本人確定っていうぐらいまんまのメンツが揃っていて魔王を退治する為の旅をしていた。

リーダーである勇者はもちろん、ミカエル先輩。
その後ろから当然そのポジションであろう僧侶のラファエル先輩に、もはや賢者かもしれない大魔法使いのウリエル先輩、踊り子&戦士で剣の舞とか踊っちゃうガブリエル先輩が付き従っている。

うん、なんとも強そうなパーティーだ。


彼らを導いているのは、純白の衣に包まれた天使である容姿は髪の長いところだけ除けばまんまハニエル君。

うん、愛らしい顔に天使の羽がよく似合う。

なるほど。

よくゲーム中のイベントで主人公が夢に見る前世からの浅からぬ縁というやつですか。

いや、なぜこれを俺が見ているのかと言えば俺もそのパーティーの住人だからである。

え?どこにいるかって?

ちゃんといるじゃないですか。


『ヒヒーーーン!!!』


馬車をひく馬として。

頼むから『馬の糞』だけは道具にしないでくれよ。
夢とは言え、明日からとてもいたたまれない気持ちになるから。


『どうした、ファルシオン?お腹が空いたのか?』

ファルシオン、はい。
今回はそういう設定の俺の名前らしい。

これが前世なのか?なんなのか。

実は覚えてないだけで、道子からロードに向かうまでにいくつか前世があるのかもしれない。


ファルシオン。
どっかで聞いたことあるような、いやゲームに出てくる馬としては割とよくある名前だ。

馬の俺に声をかけてきたのが、勇者ミカエル先輩。

勇者のくせに人嫌いらしく、魔王倒したら自由にしていいという王様からの提案に渋々魔王討伐に出た人。

パーティーメンバーとは昔馴染みなようで、割とコミュニケーション取ってるが、町や村の人とは一切会話なし。

そんでもって勇者のくせして町に入らず、馬車でお留守番。

勇者なのに、勇者として必須ではないかというぐらい毎回することになる住人の頼みを全く引き受けずスルー。

おかげで必須イベントが起こらないばかりか攻略に必要な道具も情報も中々揃わず、能力高くてレベルアップはバンバンしてるのに以外とシナリオは進んでない感じの能力持て余してる残念なパーティーです。

ほら、ハニエル君も押しが今一弱い為に天使としての役割が果たせなくて、かなり困った顔してあわあわしてる。


『ヒヒーーーン!!』

『ファルシオン、なぜ俺の身体を押す?俺は町には入らないと言ったはずだ!俺はお前とこうして森の中でのんびりできればそれでいいんだ!』

結局、何をどうやってもミカエル先輩がテコでも動かない為、ハニエル君と3名が代わりに町へ行って人様のミッションクリアーと情報収集を行っていた。

勇者なのに、町入らないってある意味斬新なRPGである。


『ファルシオン、お前だけだ。俺が一緒にいてこうして心安らかになれるのは』

『!?』

勇者にしてはかなりお美しい顔をしたミカエル先輩が悩ましげな顔をしながら、俺の身体であるファルシオンの頰や首元に顔を擦りつけている。

正直、感覚としては馬としてでなく人として頰ずりをされてるのと同じ感覚だから、はっきり行って今すぐ逃げたい。

でも、だんだんこれに慣れつつある自分もいてそれがすごく怖い。

近くの木にこれでもかというくらいにがっちりくくりつけられているこの縄を引きちぎってもいいから、この場から全力で立ち去りたい。

君が頰ずりするのは、ファルシオンじゃなくて天使であるハニエル君だろう!?

なんで君は馬とばかり交流を深めてるんだ!

おかげで、現実では全く関わってないのに俺がミカエル先輩に対して妙な親しみが湧いてしまったじゃないか!!

現実じゃツンツンツンツンしかしてないのに、夢の中では俺にだけデレデレデレデレ。

なんだこの空間を超えたツンデレは!!

頼むからハニエル君にもデレてくれよ!

ほら、勇者の力になろうとあんなに健気に見守っていてくれてるじゃないか。


『なんだ、ファルシオン?あぁ、あの天使か』

そうだ!いい加減、興味を持て!

お前が一歩踏み出すだけで、王道BLの道が勝手にそれはもう簡単にスタートするから!


『フン!忌々しい神の手先め!何が勇者だ!魔王を退治したいなら、己の手をまず汚すべきなのに安全な天界に自分の身を置いたまま、勝手に勇者なのだからと面倒ごとを押しつけているだけじゃないか!』

『ひ、ヒーーン・・・・』


た、確かに。
中にはそういう神様もいるかもしれないが、魔王と先に神様が死闘して勝てなかったからってパターンもありましたよ?


『それにあの天使だって、応援?だかよくわからないことばかりして全く戦わないじゃないか!馬であるお前だって戦いの場に参戦してるというのに!』


『ひ・・・・・ヒン』


そうなんだよ、馬なのに俺戦ってるんだよ。
この自慢の前足でもって。

いやだってモンスターから襲いかかられてるのに逃げるとか見てるだけとか、そんな悠長なこと言ってられないからね?

俺だって生き延びるべく必死ですからね!

なんかのゲームで馬も参戦してたのを思い出して、思わず攻撃しちまったよ。

いや、参戦も何も立派なボスでも馬いたけども。


『ファルシオン、俺はお前がいてくれればそれでいい。魔王を倒したら山にこもってゆっくり2人で過ごそう!』

『ヒヒーーーン!!』


馬鹿野郎!!って馬は俺の方だけど、ばかやろう!!

それじゃあ、俺のBL腐男子ライフが全然楽しめないじゃないか!!


もういい!!
この世界じゃミカエル先輩とハニエル君が全然BLしないから次だ、次!!





次の世界にチェーーーーーンジッ!!!!











そして、次の日の夜。


『マジかよ、本当にチェンジしやがった』

今回の舞台は童話に出てきそうな王国な王宮で、ミカエル先輩は国の第1王位継承である第1王子。

ラファエル先輩たちはその優秀な侍従といった設定だった。

その世界の中でもハニエル君はもちろんいて、王座を密かに狙ってる大臣の娘として登場している。

つまり、この世界では正統な王位継承者とその王位を奪わんとする大臣の娘であり王子の許嫁候補である、ある意味敵同士でありロミオとジュリエット的なロマンスも期待できる流れである。

今回、ハニエルくんは正真正銘の女性のようだがこの際それは目を瞑ろう。

BLには必殺『女体化』という、すばらしい裏技がある。

それで身体だけは女性になってるんだと、脳内補完しておけばいい。
それをミカエル先輩が前世思い出して、現世であいつがなんだか可愛く見える!?とか動揺すればいい。


そして、そんな世界で俺はどこにいるのかと言えば。


『ヒヒーーーン!!』


なんで、なんで俺だけまた『馬』なんだよ!!

一応前世だった『道子』は戸籍と身体と基本の心は人間の女性だったじゃないか!

なぜ俺は馬の人生を繰り返してるんですか!?

しかも、またミカエル先輩の愛馬。

末席の侍従とか、もういっそ馬番とか色々役割は掃いて捨てるほどあるじゃないか!


『あぁ、ファルシオン。森の中で真っ白な美しい毛並みを持つお前を見た時に、俺は運命を感じたんだ。この名もお前を見た瞬間頭に思い浮かんだ。俺は、お前と会うために生まれてきたのかもしれないな』


『ひ、ヒヒーーーンッ!!!!』


何俺の首元に顔をよせて、ちょっと頰赤らめて良い顔して和んでるだこのバカ王子!!

お前が生まれてきたのはファルシオンじゃなくて、ハニエル君に会うために決まってんだろっ!!

なんで来る日も来る日もファルシオンとの愛を育んでるんだ!?


『お、怒ってるのか?ファルシオン。そうか。俺が落ち込んでばかりいるから、元気出せって言ってくれてるんだな』


『ヒヒーーーン!!ヒヒーーーン!!』


ちっがーーーーーう!!!

正しいルートへフラグを今すぐ立てろって言ってんだよ、この馬バカが!!


『父上が、いい加減に嫁を娶れと言うんだ。大臣まで自分の娘を候補に上げてきて婚約話を本格的に進めてきている。本当は自分が時期王位の座を狙ってる癖に。あんな輩の娘をなぜこの俺が気にかけてやらねばならない!?第一、俺は女は嫌いだ!やれ香水だのきらびやかな装飾品だの、己を華美に目立たせることしか頭にない!!そばにいるだけで虫酸が走る!!』


だからこそ着飾ることをせず自分らしく輝くハニエルくん、じゃなくてハニエル嬢がお似合いなのに。

人嫌い、女嫌いはBL的には割とポピュラーだし、そんな心を閉じてしまったA○フィールドを自然と解けるのがその相手だけとか、むしろ空気のように自然とその辺に転がってる標準装備の1つである。


『でも、お前は違う』

『!?』

『お前からは、草の匂いがする』


まぁ、毎日毎日嫌ってほど草食べてるしね。
さすがは王宮、おいしい草だよ。

この夢見始めてから、現実でもやたら葉物ばっかり食べるからラジエルからそれじゃ筋肉つかないぞ!って怒られたばっかりだ。


『お前からは陽だまりの安心感がある』


まぁ、だてに毎日草原を走り回ってないしな。


『お前が、人間だったらよかったのにな』

『!!??』



やーーーめーーーろーーーーー!!!


さらっと、妙なフラグを立てんな!!


『ミカエル様』

『お前はっ!?』

『ヒヒーーーン!!!』


ようやくきました、我らがヒロイン・ハニエル君じゃなくて、ハニエル嬢登場!

ハニエル君の顔そのままで、体つきも細身でドレスも簡素なとても大臣の娘とは思えないような庶民に近い格好である。


『ミカエル様、私は王妃になどなりたくありません!私は森で友人と動物達と一緒に、ただ静かに暮らしたいだけなのです!どうか父である大臣にこの婚約を解消するよう一緒に説得して下さい!』

『!?』


いいぞ!
自然と動物、今のミカエル先輩には大事なキーワードだ。

もういっそ、ハニエル君が空と大地と呪われし大臣の娘をやれば丸くおさまるんじゃないか?

最初は草食べたり四つ足で歩くのが違和感あるけど、すぐに慣れるから大丈夫!


『ハニエル嬢、俺もちょうど同じことを考えていたんだ!』

おぉ!!
いいじゃん、いいじゃん!

価値観が一緒で、気が合うところも大事な恋愛ポイントだ。

なんか側にいるのが自然で、一緒にいるのが心地いい的存在的なBLカップルも好きだ。

そんでもって夜は、その分激しく求めあえばいい!!

むしろその夜がじっくりと見たい!!



『ミカエル様、それでは!』

『あぁ!俺達はさっそく森に走りに行ってくる!』

『ひ・・・・ヒーン?』



なんですと?



『それはすばらしいですね!それなら私は森に花を摘みに行ってきます!』


『ヒヒーーーン!!!』

『きゃっ!』

『何をしてるファルシオン!ハニエル嬢の服は食べ物ではないぞ?』


そうじゃないだろーーーーーー!!!

なんだこのツッコミ不在の全く噛み合わない2人は!

花摘みじゃなくて、ミカエル先輩の心を摘みに全力で行けよ!!





これもチェーーーーーンジ!!!!







「チェーーーーンジ!!!」

「ど、どうしたロードッ!?」


突然、大声で叫びながら飛び起きたロードに向かって慌ててラジエルが側に駆け寄ってくる。


「大丈夫か?汗びっしょりじゃないか!」

「ら・・・・ラジエル?」


ラジエルが手にしていたタオルでロードの顔中を包み込みながら拭き取ってくれるが、ロードの息は中々整わない。


「ラジエル。お、俺は誰だ?」

「俺の目を見ろ。今のお前はロードだ。俺の相棒のロード=シュトラーゼだ」

「!?」


両頬を両手で包み込みまっすぐな眼差しで、力強くラジエルが俺の名を告げてくれる。

この妙な夢を見るようになってから目が覚めてからすぐは俺じゃないような、いやもはや人ではないような馬の感覚が残っていることがあり、ラジエルには俺の名を告げてほしいとお願いをしていた。


「・・・・・サンキュー。もう大丈夫だ」

「そっか、よかった!俺今日早番で先に出るけど平気か?」

「あぁ。少し走ってから俺も学校向かうよ」

「分かった!それじゃ、また後でな!」


爽やかな風を吹かせながら、ラジエルは笑顔で部屋を出て行く。


「よし!俺も気持ちを切り替えて、走りに行くか!」


ロード自身も軽く水を飲んで喉を潤すと、Tシャツとジャージに着替えて外へ走りに出て行った。

夢のおかげ?で走るのは前より苦ではない。

草原ではないが、走れば走るほど身体がリズムに乗ってきて軽やかに足が前へと進む。


「ファルシオンッ!」


そうそう、それが俺の馬の名前だ。
散々呼ばれすぎて何やら他人じゃないような、不思議な感じがしてしまう。

 
「ファルシオン!!待ってくれ!!」

「ひ・・・・へ?」


あ、危ない。
うっかりヒヒーーーンとか言いそうになった。

っか、誰がその名を?


「ファルシオンッ!!!」

「み、ミカエル先輩ッ!!??」


がばぁっ!!!!


ものすごい勢いで抱きつかれたため、その場で踏ん張ることもできずに俺はミカエル先輩に抱きつかれたままその場に2人で倒れて行く。

倒れた地面は、ちょうど柔らかい草が生い茂った芝生の上で痛みはそこまでない。


「み、ミカエル先輩!?」


ミカエル先輩はたぶん全力でもってロードの身体を抱きしめているのか痛いぐらいで、その顔はかなり至近距離にありいつそういうラブシーンに繋がってもおかしくないくらいの、つまりは息がかかるような距離に大変美形の顔がある。


「・・・・・ファルシオン」


近い近い近い近い近いっ!!!!


なんでこのゲームの攻略者たちはいちいち距離が近すぎるんだ?

って、BLだからか。
にしたってこんな、キスから始まるミステリーみたいな近さはいい加減にやめてください!


「最初にお前を見た時、すぐに気づいてやれなくてすまなかった。ここ最近お前の夢を繰り返し見るようになって、ようやくお前が俺の愛しいファルシオンの生まれ変わりだと気づいたのだ」

「!!??」


熱のこもった眼差しと、ロードの顔に優しく触れる指先といい。

妙に艶っぽい声といい、重なり合った身体から伝わるロードだけのじゃない心臓の早鐘といい。

それはここ最近当たり前に側にあった懐かしいモノで、けどそれを違和感でそうじゃないだろう!!と全身で拒否しようとする現実のロードもいて頭は混乱の極みだ。


「ファルシオン。やっぱり俺はお前に会うために・・・・・・・」

「ひ、ヒヒーーーンッ!!!」


混乱のあまり、真っ赤な顔のまま思わず馬の鳴き声で叫んだロードは火事場の馬鹿力でミカエル先輩を突き飛ばすと全力でその場から走り去って行く。

あ、危なかった。

馬の時はどれだけ頬ずりされようが、頰にキスをされようが最初こそ動揺したものの途中からは大して気にならなかったものが、人間の身体では破壊力が凄まじい。

しかもミカエル先輩のデレ具合を知ってるからこそ、一度気を許せばしばらく身体を離してくれないのも夢で嫌ってほどよく分かっている。

あれだ、もし犬とか猫とかペットとして飼ってたら可愛い可愛いとかまい倒し過ぎてペットがストレスで毛がハゲるタイプだ。

ミカエル先輩の馬、いやファルシオンに対する普段標準装備しているだろうツンデレはもはやツンが役割を果たさないどころか原型を全く留めてない溺愛ぶり。

難攻不落の城が、何自分からあっさり開場してんですかっ!!

お前の頑なな、ダイヤモンドより硬いはずのA○フィールドはどこに行った!?


「ハニエル君!!!頼むから、お願いだから一刻も早く転校してきてくれっ!!!」


ロードはただただ必死に、青く澄みきった大空に向かって叫んだ。






元腐女子・道子である、腐男子ロード=シュトラーゼ。
願いは影からこっそり腐男子ライフを満喫すること。

もう色々手遅れかもしれないが、ロードは神にもう一度自分の立ち位置について考え直してもらうよう何度も祈りを捧げた。


何より恐ろしいのは、まだまだ俺のBLゲームが舞台の学園生活は始まったばかりであるということである。

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