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起・キャラ紹介
ラジエルの場合
しおりを挟むあのあと、胃を強く圧迫された反動で散々吐いたあと『わたし』はラジエル氏の背中におぶさりながら自室の寮へと帰って行った。
ちなみに、嘔吐処理はチャミエル氏が炎の魔法で全て灰にして燃やしていた。
「キャハ☆このチャーミーがぜーーんぶもやしてあ・げ・る!」
それはもう、良い笑顔で。
ラジエル氏の背中でぐったりしながら、ようやく『わたし』の意識から本来のこの身体の持ち主である『ロード』氏の記憶と意識が鮮明に浮かび上がってきた。
そうだ。
『俺』の名前はロード=シュトラーゼ。
普通の、庶民の父と母から生まれた、平凡ぼんの一庶民の男子。
容姿も体験も特に秀でることはなく、良くも悪くも全部が普通止まり。
それでも父と母は特にきにすることはなく、元気で毎日過ごせればいいという穏やかな両親の元、それはそれは平和に育った。
だから、とくにすごい悲惨な過去があるわけでも特殊な血筋や環境があるわけでもない。
その、これまでならなんとも当たり前で気にも止めなかった事実に、もう1つの記憶?意識が納得と少しの落胆を見せる。
なるほど、生まれ変わっても庶民は庶民かぁ~。
先ほど、一気に蘇ってきた前世の記憶。
思い出した直後はその時の意識に頭がいっぱいで自分が男子ということすら忘れていたが、冷静になってみれば十数年間男子として生きた意識がちゃんとあるんだから、むしろ女子の意識が自分の一部の中にある方がおかしなことだ。
まぁ、女子だとしても大して変わらないということがよくわかったけれど。
「どうした、ロード?まだ気持ち悪いか?」
「ありがとう。大丈夫だよ、ラジエル。それより重くないか?」
「なに言ってんだ!全然軽いぞ、お前。むしろもっとちゃんと食わなきゃだめだ。あとで俺の特製おかゆ作ってやるからな♪」
「・・・・あ、ありがとう」
俺をおんぶしてる男は、背は俺よりも高いものの体格的には見た目も俺とそこまで大きく変わらないくせに実は脱いだら凄いんです!を地でいく細マッチョなボディーと、爽やかな頼りになる兄貴オーラ満載のこの男の名は『ラジエル =グレイシーズ』。
ゲームでは元気で明るく少しドジで天然なハニエルの相棒となる、よくある頼れる身近な親友ポジションの男。
成績も運度もそこそこできて、何より兄弟が多くその長男の為によく家の家事を手伝っていたとのことで、家事は完璧。
特に食事は何を作らせてもほおがとろけるような旨さで、相手の胃袋からつかんでいくタイプだ。
そんな優秀な彼が、なぜか寮の相部屋の相手がこの俺ということに入寮当初からかなり疑問視していたが、実は彼には一応の裏の顔があったりする。
「ラジエル、あとでお前がすごい喜びそうなこと話すかも」
「な、何っ!?何かあったのか?」
この顔。
さっきまで頼れる兄貴風だった男が、一気にキラキラオーラ全開で目の中に星が見える。
「実は・・・・・さっき、前世の記憶とやらを思い出したっぽくって」
一応小声で、ラジエルの耳元だけに向けてそっと伝えてる。
周りに誰がいるわけでもないんだけど、念のため。
「なにーーーーーーーっ!?何でそれを早く言わないんだ!?それなら急いで部屋に戻るぞっ!!」
「えっ!?ちょ、ちょっと頼むからあんまり揺らさ・・・・う、うぷっ」
さっきまでの優しい気遣いは何処へやら。
吐き気を必死でこらえながら、途中何度か限界を本気で超えそうになりながら何とか自室へと無事に帰宅した。
「そ、それでっ!!お前の前世は何だったんだっ!!」
「うっ!!ゴホゴホッ!!ちょっ、せめて食べ終わってからに」
「わ、悪い!だけど、さっきからそればっかり気になって!」
帰宅するなり俺はお風呂に入り、ラジエルはマッハの勢いでおかゆを作って大の男がおかゆを食べながら今に至るというわけだ。
この寮は立派な食堂も完備してるから、そっちでお前は食べてきたらいいと勧めたものの、作りすぎたから自分もおかゆを食べる!と側から離れたがらない。
これがBL的に言えば、お前が心配だから~とかならまだ萌えるものの、彼が側を離れたがらないのは別の理由だ。
「そ、それでっ、お前の前世は!?」
「・・・・・あ~、なんか、普通の女子だった」
「おぉ!!女子かぁ!そ、それで、死んだ後の記憶とか、神様と邂逅した記憶とかあるのかっ!?」
「・・・・・・えっと、不◯子ちゃんとのやりとりなら」
「ふ、ふじこ?」
魔法が当たり前に側にあり、魔力が高いものの中には精霊の姿も見れるこのファンタジーな世界の中で、ラジエルは特にこの神や生まれ変わり、前世の記憶などのスピリチャルな話が何より大好きだった。
よって先ほどからあえて触れずにはいたが、実はこの部屋には天使や女神などの絵が飾ってあり簡素ながらもしっかりした祭壇があり、床には大きな魔法陣が描かれた絨毯がしいてある。
部屋の四方には水晶が置いてあり、悪魔払いの怪しげな魔除けがあちこちに飾ってあったりするのだ。
世間には一応この趣味?は隠しているようなのだが、ロードがあまり細かいことを気にしない性格と彼の趣味をうっかり目撃してあっさり受け入れてしまってからは、ロードの前では趣味?を全く隠そうとしなくなってしまった。
これ、ハニエルが入園した時にも見せるんだろうか?
ゲームでは確か、ハニエルとの同室設定は彼だったと前世の方の記憶にあるから、多分ハニエルが転校してくると同時に自分が別部屋へ何らかの理由で移動すると思うのだが、未だにその気配はない。
スピリチャルが大好きな彼なら、前世の記憶を突然思い出したと告げてもはなからバカにするようなことはないだろうと思ったのだが。
「す、すっげーーーじゃん!!マジでお前死んだ時の記憶が蘇ったんだな!!そっか~~!!死後の世界はそんな感じになってるんだなっ!!」
「えっと・・・・・まだ本当かどうかわからないけどね。ほ、ほら、夢かもしれないし」
「いや、それだけ鮮明に覚えてるなら現実に違いないさっ!!それより!!」
「そ、それより?」
「・・・・・・・・・」
「!!??」
だんっ!!と2人が向かいあって座るテーブルを強くにぎった手で落とすと、ずずいっとラジエルがロードへと顔を一気に近づける。
「ら、ラジエルさん?な、何だか、顔が近すぎやしませんかね?」
はっきり言って、この距離はキスまであと5秒前!の近距離だ。
ロードとしての意識はちょっと近いな~くらいの認識だが、蘇ったもう1つの意識が勝手に意識して慌てている。
あ、相手はラジエル!!同じ同性の友人!!
こいつは元々人との距離感が近いし、これがあいつのわりと普通!!
BL学園とは言っても、まだハニエル君が入寮前ならBLスイッチは押されてないはずだ!!
落ち着け俺!!いや、落ち着け道子!!
お前は男だ!!あるものがちゃんとついてる男だ!!
さっきも風呂場で嫌ってほど確認したじゃないかっ!
胸は元々ないにしても、嫌それでもペタンコではなかったからそれなりにショックだったけど!
何で庶民の何やっても普通の俺が、あそこだけは普通サイズじゃないのかな?
いや、ロードとしてはそれはそれは嬉しい限りなんだけどね!!唯一の誇れるところなんだけどね!
それでもっ!!
「お前・・・・・・」
「な、なに?」
あまりにもまっすぐな虹色かかった黒い瞳がロードを射抜く。
「いつ、勇者としての血に目覚めるんだ?」
「ーーーーーーーーーーーーーーは?」
あんなにドキドキしてた心臓が、一気に凍りついた。
「間違いない。俺は今ようやく確信した!!」
「な、何が?」
「これを見ろっ!!」
「????」
変わらず真剣な眼差しのラジエルが、テーブルにかなり古ぼけた魔法陣の描かれた本を後ろから出してくる。
あぁ、これ前に一緒に買い物した街でうさんくさい物売りからたぶんじゃなくて騙されて買ったやつだ。
「ほら、ここに書いてある!!この世を救う勇者はその血を守る為に庶民の中で育ち、普段はその能力を封印している為に能力も容姿も普通極まりないと!!」
「・・・・・・・・・はぁ?」
びしっ!!と古い本のとある部分を指差し、かなり興奮気味のラジエルは止まらない。
「お前と同室になってから数十日!!絶対にただもんではないと、俺の感じていた勘がやっぱり当たってたんだな!!しかも、勇者はある日突然前世の記憶を思い出す!って、ここにちゃんと書いてある!!」
「・・・・・・・・・」
なんだその、後付けみたいな勘とやらは。
それは勇者としての記憶ではないですか?
俺が思い出したのは、オタクで腐女子だった記憶だけですよ?
「おかしいと思ってたんだよ!!将来有望なやつしか入学してこない中で、こんなに何やっても普通なやつはいない!絶対何かの能力を秘めてるはずだ!ってずっと俺は密かにお前の可能性を感じてたんだ!!」
「!!??」
そんなことを感じてたんだ。
ごめん、俺泣いていいかな?泣いていいよね?これ、ディスられてるよね?
友人だと思ってた人間から全力でディスられてるよね?
可能性って、腐男子になる可能性しか広がってないからね?
「勇者が目覚めたなら、これから先絶対魔王も目覚めるよなっ!!いや~~お前の友達で俺は誇らしいよ!!絶対魔王討伐の際はぜひ俺を連れて行ってくれよな!」
ぎゅっ!!とそれはそれは力を込めて、ラジエルがロードの両手を自分の両手で包んで握りしめる。
その瞳には尊敬のオーラが溢れていた。
ほらあの小さい子がイベントでヒーローと握手しちゃった時とかに見せるすごいいい笑顔あるじゃないですか。
そんな目で俺を見ないください。
それは別のゲームの世界です。
これはあくまでBLの恋愛ゲームの世界です。
目覚めるのは俺でも魔王でもなくて、君や他の男のハニエル君への想いだけです。
「・・・・・・・・・う、うん。も、もし万が一、世界がひっくり返りでもしてそんなものに目覚めたらな」
「あ、あぁ!!楽しみにしてるからな!!」
「とりあえず、おかゆの続き食べていいかな?」
「あぁ!おかわりならたくさんあるからな!遠慮せずに食べてくれ!もうお前だけの身体じゃないんだからな!」
「・・・・・・・・・」
今は、とにかくおかゆを食べよう。
吐くだけ吐いたら、もうお腹が空きすぎて力も気力も出ない。
それでこのヒーローに恋したような眼差しで自分を見てくる、ある意味残念な兄貴ポジションの男がもう少し冷静になったらもう一度ちゃんと話してみよう。
俺が思い出したのは村人Aの記憶で、勇者どのろか、勇者を見送ることはあってもその旅に同行するような人間では前世でもなかったことを。
勇者がもし現れるなら、それは別の人間だからその期待に満ち満ちた眩しい眼差しをいい加減にやめてくださいと。
お願いだから、昨日までの頼れる友人ポジションのままでいてください。
「あ、そうそう、ロード。胃に優しいデザートも・・・・って、これからはロード様だなっ!」
「ゲホッ!ごほっ!!」
「だ、大丈夫ですか!?ロード様!」
「・・・・・・・・・た、頼むから、それだけはやめてください」
「そうか?それなら、これまで通りで今はいいか!で、デザートは食べられそうか?」
「・・・・・・・・いただきます」
これならまだ何バカなこと言ってるんだ!と笑い飛ばされて信じてもらえない方がマシなんじゃないかと思いもしたが、この先もそんな大層なものに目覚める気持ちも予定も全くないから、そのうち飽きて別の古の魔法書だの新たな魔法陣だのに食いついて忘れることだろう。
とりあえず、ラジエル作の先ほどのおかゆもこの豆腐で作ったデザートも死ぬほどおいしい!!
本気で嫁に欲しいレベルだよ、この女子力!
いや、『わたし』が欲しかったよこのスーパー家事力。
「ラジエル!めちゃくちゃコレおいしい!!おかゆもだけど、俺なんかの為に本当にありがとな!!」
「あぁ、喜んでもらえたならよかった」
感動レベルでおいしい!
明日から色々不安がいっぱいだけども、とりあえず俺は幸せだ。
しかも、明日から日常レベルの雰囲気BLが見放題!
まだ恋愛に発展してない友情以上のBLが楽しみ放題だ!
なんでこんな楽しい環境が周りにあるのに、これまでの俺はその素晴らしさに気づかなかったのか!!
父さん母さん、天国に入学させてくれてありがとう!!
俺は心の底から幸せです!!
「ロード!ほら、お前ががっつくから口元にさっきのおかゆがついてるぞ?」
「ん?あ、ありがとう」
「全く、お前は毎回本当にうまそうに食べるよな」
「!!??」
その俺についてたおかゆを自然な流れで指で拭き取ると、その指をこれまた自然な動きでさらりとラジエルが舐めとる。
さすが、脱いだらすごい男!!
さすがは後々のBL学園!!
そのあまりにもナチュラルな動きに『わたし』が慌てふためくが、次の瞬間に『ロード』がそういえばこういうやつだったと冷静に心を鎮めていく。
明日からの日々が本当に楽しみだ♪
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