上 下
69 / 214

69

しおりを挟む
レッドたちは数日はシュルバーンで過ごす予定でいる。
前は温泉に浸かる一泊だけであったが、温泉以外にも土産物として作っている工芸品もあるし、鉱山がある地域であるため、武具だって見たいしとあるのだ。
前までと違ってレッドとリベルテの二人だけではなく、マイとタカヒロも一緒にいるようになってから、こなせる依頼は増えたし、手分けして受ければその分の報酬がもらえる。
食費というところはあるが、家もリベルテが手に入れてくれたおかげで、日々払っていた宿代もなくなったことでだいぶ生活が楽になってきていた。
だからこうして、西に東に旅をしたり、豊穣祭やここシュルバーンでいっぱいマッフルを買ったりとしていたのだが、どこまでも使えるほどにお金があるわけではない。

「ここがシュルバーンの冒険者ギルドかぁ」
タカヒロが重厚そうな造りの建物を見上げて言葉をこぼす。
王都のギルドは清潔というか、王都の雰囲気を壊さないように綺麗な造りになっている。
依頼を出しにくる人たちにとっては綺麗な建物の方が安心できるだろうという思いがあり、外装を整備するための工事が、定期的にあったりする。
もっともそこを出入りしているのが、職にあぶれてたどりついた冒険者であったりするのだから、逆に浮いてしまっているところもあるのだが……。
タカヒロの感想を拾うでもなく、レッドを先頭にギルドに入っていく。
中はどこもそう変わることは無く、依頼板のところには数名の冒険者が依頼を見て、手にしていく。
「やはり、鉱山関係の依頼があるな」
「その地域の依頼というのはありますからね。ハーバランドでは農作関連が多かったですよ?」
ほのぼのと依頼を見ているレッドたち二人に、マイとタカヒロはこの地域の冒険者は厳しいなぁと思っていた。
「鉱山関連のお仕事は嫌ですか?」
それが少し顔に出ていたのだろう、リベルテが二人に質問する。
自分で依頼を見て回って受けれるとはいえ、職にあぶれた人間が生活費を稼ぐために受けていくのだ。
場合によっては好き嫌いで選んでいたら、ご飯が食べられないか街中で野宿生活になってしまう。
それにそのような生活をしながら、その生活から抜け出そうと依頼を受けていく者たちだっているのだから、思っていたとしても口に出すのは憚られた。
さすがに1年も冒険者を続けたタカヒロたちもそこはわかってきている。
二人もレッドたちに会い、ついて行こうとしなければ、家を借りることが出来ていたとは言え、メレーナ村で細々と生きていけたか怪しいところであったし、フィリスにご飯を届けてもらえていたとは言え、食べたいものが食べられるわけでも十分すぎる量を食べられたわけでもない。仮で騙っていた薬師は証明できるものがないため調査が来たら捕まってしまうし、傷薬だって村では頻繁に必要となるものではなければ簡単に稼ぐ手段がない。
二人が作らない(作れない)というのもあったが、前の世界のような道具や料理を作っても村では売れるものではないのだ。

「他に無ければやるしかないですから」
「ほかの方が稼げるというのでもなければ受けますよ」
といっても出てくる言葉は消極的になるのは仕方が無い。
「運ぶだけの仕事だろうから、大変っちゃ大変だが、楽っちゃ楽な仕事になるだろうな」
「え? こう、つるはしとかで掘ってくんじゃないんですか?」
「そんなん当日から数日だけのヤツにやらせるか? 崩落させたりしそうで怖いだろ」
「ある程度の予測を立ててから掘り進めていくそうですが、掘った土や石など見ながら判断もするそうですから。そこを私達のような経験もない人に任せはしないと思いますよ。ただ掘っていくだけの内容であればあるかもしれませんが」
頭の中で想像していた炭鉱の働きと違い、マイたちは何するんだろうと首をかしげる。
「掘った土や石を運ぶ仕事になるな。どうやって運んでくのかはわからんが、袋に入れて背負うのか、引っ張りあげるのか」
「楽に運べないんですかね?」
恐る恐るという感じで質問するタカヒロに、レッドは少し思案する。
「……馬車とかか? そんな広さはないだろうよ。どう掘ってるのかも鉱山で働いたことないからわからんからなぁ。下に掘り進めてるかもしれないしなぁ」
それを聞いてますます受けたくは無いなと思うタカヒロとマイ。
「ん~、討伐のもあるな。これにするか?」
思いっきり顔に出していたタカヒロに苦笑しながら、レッドが違う依頼を指差す。
「鉱山での討伐ですか? どんなのですか?」」
マイが気になったのかレッドの方に身を乗り出す。
「ん~……。虫、っぽいな。あとは鳥っぽい?」
レッドの疑問系の言葉に首を傾げてしまうところであったが、虫との言葉を聞いた時点でマイは先ほどまで居た場所に身を引いている。
「なんで疑問系なんですか?」
「いや、俺だって見たことないやつは知らないっての。王都で聞いたことない名前だからな」
「え? じゃあ、何で虫とか鳥ってわかるんですか?」
「勘?」
タカヒロの質問に首をかしげながら答えるレッドに、タカヒロの首もかしげる。
「レッドが鳥と言ったのはディズィーズムラシェラゴ、虫はケイブシュピンネ、ナムネスミリピードでしょう。あと、ヴェノムセルパンもいることがあるみたいですね」
いつの間にか数枚の紙を手にしていたリベルテが答える。
「それは?」
「つい先ほど、受付のところで買ってきました。情報は大事ですから」
そこで買ってくるのが先だったと反省しているレッドを横目に、タカヒロとマイはさらに首をかしげていた。
モンスターの名前だけ言われても分かるものではなかったからだ。
「んじゃ、これいくか。多少狭いから気をつけろよ」
レッドがさっさと手続きに向かってしまい、タカヒロたちに止め様が無かったのだが、レッドの顔を見ていたら殴ってでもとめていただろう。
先の二人を目にして嫌な笑みを浮かべていたのだから……。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!! こないで!! 無理無理無理ぃ!!」
マイの絶叫が響き渡る。
掘り進めた穴の道だけあって4人全員が横に並ぶには狭い道に、声が反響してすごい音になっていた。
そのせいでレッドたちの先で結構な数が蠢いているのがよくわかる。
「ちょっと……声が大きい。落ち着けって」
レッドがマイを落ち着かせようとするが、ろくに教えもしないでモンスターに引き合わせた相手の言葉では落ち着けるわけが無い。
レッドたちの足元では、レッドたちの剣で斬り捨てられたミリピードやシュピンネの死骸があり、ミリピードにいたってはたまにピクピクと足がまだ動いたりしていた。
「ムカデじゃないですか! こういう足がうじゃうじゃあるの嫌いなんですよ! なんで言ってくれなかったんですか!」
涙目で怒ってくるマイにレッドはひたすら謝るしかない。
以前に虫と戦ったときも嫌がっていたが、まさかここまで怒るとは考えていなかったのである。
前は外であったが今回は狭い坑道である。
暗さと狭さの中、嫌いな多足の虫を見るには条件が違いすぎることをわかっていなかったのだ。
これにはリベルテも弁護する気はないし、リベルテ自身も虫相手は好きではないため、今も声を出さないように我慢しているし、タカヒロにいたっても少しでも刺激を与えたら威力を考えず魔法を打ち込みそうな気配である。
これが広い外であればまだ違ったのだろうが、早々経験の無い狭く暗いところでの討伐ということを、これまでの戦闘経験から軽く考えてしまっていたのが原因であった。
「受けた依頼だからな倒していかないとまずいんだ。放置するのは街の人たちにも良くないしな。そ、それに今回のこの穴はそんなに深くないらしい。すぐ終わるから」
「なんで深くないんですか?」
いつもより小さな声でタカヒロが質問する。
「いや、予測して掘ったもののそんなに出なかったらしくてな。早めに見切りをつけてほかのところから掘ることにしたからそんなに深くないそうだ。そんでここはまたほかが出なくなったら掘りなおしする予定なんだそうだ。だから定期的にモンスターが住み着かないようにしたり、住んでたら駆除が必要なんだと」
「ほかのところもそこまで深く掘れないそうですよ。今もモデーロ候が研究させているそうですが」
タカヒロの目がなんで? と問いかける。
「深く掘っていくと掘っていく人が息苦しくなり、場合によっては命を落としたことがあったそうで。なのでその息苦しさを無くしたり軽減したりできないか動いているそうなのですが。崩落については技術が確立したのかずいぶんとしっかりとしたものになってますよね」
鉱山ではよく崩落事故が起きていたのだが、こちらも侯爵の支援が入り、なるべく崩れないように補強しながら進められるようになっていた。
それでも完全ではないあたりが、掘っていくことの難しさである。
補強を入れるためもあってそこまで曲がりくねったりしていないため、道に沿って少しずつ着実に確認しながら、目に付いたモンスターを始末していく。
マイは完全にリベルテにしがみ付いていて、そのためリベルテも戦いにくい状態となっていた。
罪悪感もあってかレッドがあちらこちらに見えるモンスターを切り倒していき、タカヒロが淡々と、それはもう感情も何も抜けたようにモンスターを倒していく。
本当は燃やし尽くしたいところであったのだが、さすがにそれは自分たちが危ないと自重できる落ち着きは残っていたため、作業的に動いているのである。
最初のマイの絶叫で動き回っていたのもあってか、虫同士の戦闘、その虫の捕食と数が幾分か減っていたらしいこと、運が良かっただけかもしれないが全てのモンスターが一斉に出口に向かってこなかったということにより、精神的に厳しい討伐はそこまで時間がかからずに終わった。
外に出たときにはマイはへたり込んで泣き、タカヒロも具合が悪そうにしていた。
レッドは謝り倒して一人、ギルドに完了の手続きに向かっていく。
「大丈夫ですよ。ほら、私達は怪我もせずに終わりましたし。後でレッドにお菓子を買いに行って貰いましょう」
「……うん。マッフルの新味」
「そうですね。並んできてもらいましょう」

この後、宿に戻った一行は温泉に入ってゆっくりしようとしたレッドをマッフルを買いに叩き出し、レッド一人精神的にも肉体的にも疲れ果てる一日となった。
ちょっとした悪戯心であったのだが、その結果はレッドに辛いものとなったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

召喚幼女は魔王さま!〜ルルはかわいいなかまとへいわなせかいをめざしたい〜

白夢
ファンタジー
 マイペースな幼女が、魔物たちと一緒にほのぼのと平和な世界を取り戻す物語。完結。  ある洞窟の中で行われた、魔王召喚の儀にて。  ルルは魔王として、そこに召喚された巻き角の幼女。  しかし、その後まもなく、ルルを召喚した一団は、全滅してしまう。    一人取り残されたルルは、その後現れた魔物のジャックと共に、長い間二人きりで生活していた。  そんなある日、突然騒ぎ始めたジャックに誘われるがままにルルが洞窟から外を見ると、  ボロボロになった白いドラゴンが、森へと落ちていくところだった…… ーーー  大きなツノを持つモコモコの魔物、ジャック。  自称勇者に追われる、白いドラゴン。  ぽんぽん跳ねるぽよぽよスライムなど、楽しい仲間が色々います。    ファンタジーな世界で、可愛い頭脳派?幼女が、ちいさな仲間たちと人類を蹂躙し追放する、ほのぼの支配者シフトシナリオを目指しました。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします!

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...