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第1話 学園の魔法使い候補生

scene5 ヴァンパイアとの死闘

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     中学部棟は一階から四階まである中学部の校舎で、構造は高等部棟と寸分たがわず同じである。
『ターゲット移動! 四階に上ってる! まずい! 早くして! 教室入っちゃう!』
「場所は?」
『一年六組!』
 美絵里ちゃんの声が焦っている。そうなるのも仕方ない。ヴァンパイアは基本的に身体能力が高いため、窓から外に脱出して、逃亡してしまうこともありる。加えて教室には生徒のプライバシー保護を理由に防犯カメラがない。カメラの映像が頼りの美絵里ちゃんを頼れなくなってしまう。つまり、教室に入ってしまうと行動が追えなくなってしまう。
 僕は急ぎながらも慎重に一年六組の教室に入った。高等部の教室と何も変わらない内装である。
 ターゲット――橋本かなでは端から三番目、前から四番目の席に座っていた。まるで誰かを待つかのように、背筋を伸ばして座っていた。
 僕は腰の拳銃を音を立てないように抜いて、彼女に向けた。中には銀の銃弾が全弾込められている。
「――動くなフリーズ。動けば、銀の弾丸で頭を撃ち抜く」
 お決まりの台詞である。だが、彼女は少しも怯えることなく、視線だけこちらに向けた。美絵里ちゃんの声がイアホンから聞こえる。
『橋本かなで――高等部一年三組。弱属性、光。吸血した人間の数は、一人、同級生の藤川春音。血をすべて吸い取られ、亡くなった』
「友達を吸ったのか」
 橋本に言う。彼女は少し広角を上げた。
「何がおかしい?」
「思い出し笑いよ――あの血、美味しかったなあって」
 やっと喋った。これが初めて交わした彼女との会話だが、そんなことはどうでもいい。
「知っているか、ヴァンパイアは死んだ人間の血しか吸うのを許されていない」
「もちろん、知っているわ。人間が定めた地獄のような法律よね」
「お前はそれを破った。だから、処刑する」
「生きた人間の血を吸った者は死ね、と?」
「ああ」
「何故?」
「人間にとって、害のある存在だからだ」
 橋本はゆっくり椅子を引いて立ち上がった。さっき撃つと言ったが、ここで引き金は引かない。さっきあんなことを言った分、彼女も警戒しているに違いない。撃って避けられて黒板に当たったりしたら、このクラスの生徒に迷惑がかかる。それにまだ動きが読めないから、ここは拳銃を向けながら、じっくり行動を見るのが賢明だ。
「人間は知らないのよ。死んだ人間の血は、まずいの。吐くほどまずい。一回だけ吸ったことがあるけれど、あんなの二度と吸いたくないわ」
「それでも、法を守らなければいけない」
「人間のあんたに何が分かるって言うのよ! 生きた人間の血は最高に美味いの。人間だって黒い毛の牛とか泳ぎながら寝る大きい魚とかを最高に美味しいって言うでしょ。それと一緒なの。美味しいものを我慢できないの!」
 油断した。
 次の瞬間、光にも劣らない速さで距離を詰めてきて、羽交い締めされた。辛うじて拳銃は持っているものの、首を圧迫されて力が入らない。ヴァンパイアには人間の一般男性の五倍の腕力があると言われている。そう簡単には離れられない。
「白い肌だわ。血管が良く見える。とっても美味しそう」
「僕の血なんか美味しくないぞ」
 会話を続けながら、腕を動かしてみる。多分、彼女は全力を出しているわけではない。少しずつなら動かせる!
「そんなわけないわ。私は今、すごくお腹が空いているの。空腹は最高の調味料なのよ」
 腕が、腰に届けば――
「さて、吸ってあげるから首を曲げなさい。早くしないと、よだれが垂れてきちゃうわ」
 よし!    目的のものに手を触れた。腰にあるのは、金属の杭だ。ヴァンパイアの心臓に刺せば、一瞬にして命を絶つことができる。あまり得意な武器ではないが、この場合は最良な武器だ。
 ぎゅっと握りしめ、僕の首に巻き付く彼女の腕に刺した。心臓に刺せば即死するが、体の他の部位に刺すだけでも効果はある。
 橋本は僕を離して、傷口を手で塞いだ。力が強いのと、痛みに強いのは別だ。
    傷口から血がだらだらと流れ出ている。
『橋本かなでの弱点はお腹! そこを重点的に狙って!』
「了解」
 距離を置き、再び拳銃を構える。まだ全弾入っている。僕は遠距離戦が得意だ。照準を合わせ、ぶち抜く――最も単純な戦法だ。
『カメラがないから、こっちからは何もできないよ!』
「大丈夫」
 今回は的が広くて距離が近いから狙いやすい。もう一つの拳銃を出して、銃口を向けた。
 ――引き金を引いた。
 銀の銃弾が彼女の身体にめり込んでいく。さっきまでの強気が嘘のように、弱っていく。二本足で立てなくなるまで、何度も弾を入れて撃ち続ける。
 六十ほど撃ったところで、ようやく手を床につけた。
「て、てめえ……、殺す! 殺してやるよ!」
 床に血を吐きながら、僕を見る。普通の女の子だったあの子が、汚い言葉を僕に吐く。
 さて、そろそろか。
 僕は拳銃を改めて構えて、目をつぶる。
 そして、唱える――魔法を発動させるために。
「我、光の力求めしとき、石、光の力与えん――」
 呪文を唱え終わると、二つの弾を発射した。弾は太陽にも勝る強い光を放ちながら、橋本の身体に突き刺さった。橋本は声にもならない悲鳴を上げながら、強い光に包まれた。光が止んだとき、彼女はもういなかった。
 ――完全消滅した。
「完了」
『うん。そんな感じの音が聞こえたよ。お疲れ様。報告書を書かなきゃいけないから、早く帰ってきてね』
「分かった」
『あ、声が疲れてる』
「そりゃあね、魔法使ったから」
『美味しい紅茶とお菓子、用意してあるから頑張って帰ってきて』
「ありがとう」
 さて、帰るとしよう。魔法を使うと、体力が著しく低下する。今日も疲れた。
 そう思って教室を出ようとしたとき、誰かがいる気配がした。
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