5 / 42
如月瑠璃は錆びた弦を掻き鳴らす
いいほねーはんあね
しおりを挟む
第五話
「こちらプレッツェルとグリルソーセージプレートです」
「おー、美味しそっ」
目の前に置かれた料理に、再びお腹の虫が騒ぎ出しそうになるが、同級生の前ということでなんとか堪える。
意外と我慢できるものだ。
「ねぇ、ひとつ聞いてもいい?」
「ん?」
私は横に立つ速水さんの言葉に、手を合わせたまま止まる。
「なんで私のギターに触ってたの?」
「え? あー……」
私はその質問に、正直に答えることにした。
「実は——」
結果的に嘘をつくようなことになってしまったことも含めて、私が謝ると、彼女の周りにあった赤い色の感情は綺麗さっぱり消えて無くなり……代わりに鮮烈な橙色と黄色の色が浮かんできた。
これは……期待と喜び?
なぜそんな感情になるのか分からず、私は首を傾げる。
「あ、あのっ、そのっ、ありがとう! まさか、そんな勘違いをしていたなんて……本当にごめんなさいっ!」
「いや、いいよ別に」
当初の態度とは打って変わり、猛烈に感謝される。
気分はいいけど、あまりの変わりように少し戸惑ってしまう。
あのツンツンしていた態度は頑張って作っていたのかもしれないと思うほどに、今の速水さんの雰囲気は別人のように柔らかい。
今の速水さんが本来の姿なんだろう。怒らせないようにしよう。怖いから。
「それで、あの……如月さんはギターに興味があるの? なんか、詳しいような気がして」
「いや、別にそんな詳しくはないかな。私のお父さんがよくギターを弾いていたから、まあ、基礎的なことはなんとなくって感じ。弾くのはドレミで簡単なものならギリギリってレベルだよ」
「そうなの? でもそうね……あの、もしよかったらなんだけど!」
と、そこで速水さんの背後からやってきた人影に、速水さんは襲われた。
「あいたっ⁉︎」
頭頂部に落とされた手刀によって目を白黒させる彼女は、勢いよく振り向くと、チワワのように身を縮こまらせた。
「ひぃっ、お姉ぇ」
「お前さぁ、早く食べたがってんの見てわかんないの? ごめんねお客さん、うちの妹が食事の邪魔して」
「え? あぁ、いえ」
やってきたその人は、長い黒髪を後ろで一つにまとめた快活そうな女性だった。
渚とはまた違う、気の強そうな顔つきだけど、どこか親しみやすそうな人だと感じる。
ただなぜか、好奇心を感じさせる緑色が発せられているのが気になった。口元が楽しそうに歪んでいるから、間違いなさそうだ。
「お客さん、双葉の友達?」
「え?」
「ちょっとお姉、そういうのはやめてって!」
「いいだろ別に。お前が誰かと普通に話してるの、あんま見たことないから気になったんだよ。で、どうなんだ?」
「お姉、もうあっちに——」
「はい、友達……になりたいと思っています」
「——っ!」
「へぇ~」
あんな風な出会い方だったけど、私が速水さんと友達になりたいというのは本心だ。
だっていい人だし可愛いし。
それに何より渚と同じで感情的で、いい色をたくさん見せてくれる。
一緒にいて楽しい人だ。
「じゃあ、その……よろしく!」
「うん」
「初々しいね~。よし、サービスしちゃおう。双葉の初めての友達記念に」
「初めてじゃない!」
はっはっはっ! と笑いながら店の奥に消えていったお姉さん。
去り際に速水さんには聞こえないように「双葉のことよろしく」と言っていたけど、かっこいいお姉さんだ。
あんな姉が私にもいたらよかったのに、なんて思ってしまうのも当然だろう。
しかし、家族公認のお友達になれた訳で、私としてもこれは喜ばしいこと。
……ただまあ、とりあえず。
冷めないうちに料理をいただくとしよう。
「ごめんね、うちのお姉が」
「はいほうぶ、いいほねーはんあね」
「あ、ごめん、冷めちゃうよね。ごゆっくり」
まだ何か言い足りなさそうな表情だったけど、それについて聞きたい好奇心より、私の食欲が上回ってしまった。
なので私は、めちゃくちゃ美味しい料理に舌鼓をうち、最高に贅沢な昼食を堪能したのだった。
「それでね、うちのお姉ってば——」
私の目の前に座って姉への愚痴をこぼす速水さん。
水のおかわりを入れにきたかと思えば、正面に座った彼女はいくつか言葉を交わすうちに、こうして永延と、姉がいかに自分をこき使っているのかについて話している。
背後でしっかり聞き耳を立てているお姉さんの姿は……見なかったことにしよう。
「——だからさぁ」
「おい」
ああ、これはダメですね。
真っ赤です。
姉妹って感情の色まで似るんですね。
「ひぃっ⁉︎」
「なにがひぃっだよ、可愛くねぇから。ほら、如月さんって言ったっけ? これサービスね。今後ともうちの店をご贔屓に」
「お姉、そこは妹をよろしくとか言うところじゃ?」
「お前をよろしくしたところで金にならないだろ」
「これ、こういうところが酷いんだよ如月さん。分かってくれるよね⁉︎」
同意を求められてもなにも言えないよ。
私は悲鳴をあげながらお姉さんにアイアンクローをされる速水さんを眺めつつ、再び美味しい料理に舌鼓を打つのであった。
あぁ、おいし。
「こちらプレッツェルとグリルソーセージプレートです」
「おー、美味しそっ」
目の前に置かれた料理に、再びお腹の虫が騒ぎ出しそうになるが、同級生の前ということでなんとか堪える。
意外と我慢できるものだ。
「ねぇ、ひとつ聞いてもいい?」
「ん?」
私は横に立つ速水さんの言葉に、手を合わせたまま止まる。
「なんで私のギターに触ってたの?」
「え? あー……」
私はその質問に、正直に答えることにした。
「実は——」
結果的に嘘をつくようなことになってしまったことも含めて、私が謝ると、彼女の周りにあった赤い色の感情は綺麗さっぱり消えて無くなり……代わりに鮮烈な橙色と黄色の色が浮かんできた。
これは……期待と喜び?
なぜそんな感情になるのか分からず、私は首を傾げる。
「あ、あのっ、そのっ、ありがとう! まさか、そんな勘違いをしていたなんて……本当にごめんなさいっ!」
「いや、いいよ別に」
当初の態度とは打って変わり、猛烈に感謝される。
気分はいいけど、あまりの変わりように少し戸惑ってしまう。
あのツンツンしていた態度は頑張って作っていたのかもしれないと思うほどに、今の速水さんの雰囲気は別人のように柔らかい。
今の速水さんが本来の姿なんだろう。怒らせないようにしよう。怖いから。
「それで、あの……如月さんはギターに興味があるの? なんか、詳しいような気がして」
「いや、別にそんな詳しくはないかな。私のお父さんがよくギターを弾いていたから、まあ、基礎的なことはなんとなくって感じ。弾くのはドレミで簡単なものならギリギリってレベルだよ」
「そうなの? でもそうね……あの、もしよかったらなんだけど!」
と、そこで速水さんの背後からやってきた人影に、速水さんは襲われた。
「あいたっ⁉︎」
頭頂部に落とされた手刀によって目を白黒させる彼女は、勢いよく振り向くと、チワワのように身を縮こまらせた。
「ひぃっ、お姉ぇ」
「お前さぁ、早く食べたがってんの見てわかんないの? ごめんねお客さん、うちの妹が食事の邪魔して」
「え? あぁ、いえ」
やってきたその人は、長い黒髪を後ろで一つにまとめた快活そうな女性だった。
渚とはまた違う、気の強そうな顔つきだけど、どこか親しみやすそうな人だと感じる。
ただなぜか、好奇心を感じさせる緑色が発せられているのが気になった。口元が楽しそうに歪んでいるから、間違いなさそうだ。
「お客さん、双葉の友達?」
「え?」
「ちょっとお姉、そういうのはやめてって!」
「いいだろ別に。お前が誰かと普通に話してるの、あんま見たことないから気になったんだよ。で、どうなんだ?」
「お姉、もうあっちに——」
「はい、友達……になりたいと思っています」
「——っ!」
「へぇ~」
あんな風な出会い方だったけど、私が速水さんと友達になりたいというのは本心だ。
だっていい人だし可愛いし。
それに何より渚と同じで感情的で、いい色をたくさん見せてくれる。
一緒にいて楽しい人だ。
「じゃあ、その……よろしく!」
「うん」
「初々しいね~。よし、サービスしちゃおう。双葉の初めての友達記念に」
「初めてじゃない!」
はっはっはっ! と笑いながら店の奥に消えていったお姉さん。
去り際に速水さんには聞こえないように「双葉のことよろしく」と言っていたけど、かっこいいお姉さんだ。
あんな姉が私にもいたらよかったのに、なんて思ってしまうのも当然だろう。
しかし、家族公認のお友達になれた訳で、私としてもこれは喜ばしいこと。
……ただまあ、とりあえず。
冷めないうちに料理をいただくとしよう。
「ごめんね、うちのお姉が」
「はいほうぶ、いいほねーはんあね」
「あ、ごめん、冷めちゃうよね。ごゆっくり」
まだ何か言い足りなさそうな表情だったけど、それについて聞きたい好奇心より、私の食欲が上回ってしまった。
なので私は、めちゃくちゃ美味しい料理に舌鼓をうち、最高に贅沢な昼食を堪能したのだった。
「それでね、うちのお姉ってば——」
私の目の前に座って姉への愚痴をこぼす速水さん。
水のおかわりを入れにきたかと思えば、正面に座った彼女はいくつか言葉を交わすうちに、こうして永延と、姉がいかに自分をこき使っているのかについて話している。
背後でしっかり聞き耳を立てているお姉さんの姿は……見なかったことにしよう。
「——だからさぁ」
「おい」
ああ、これはダメですね。
真っ赤です。
姉妹って感情の色まで似るんですね。
「ひぃっ⁉︎」
「なにがひぃっだよ、可愛くねぇから。ほら、如月さんって言ったっけ? これサービスね。今後ともうちの店をご贔屓に」
「お姉、そこは妹をよろしくとか言うところじゃ?」
「お前をよろしくしたところで金にならないだろ」
「これ、こういうところが酷いんだよ如月さん。分かってくれるよね⁉︎」
同意を求められてもなにも言えないよ。
私は悲鳴をあげながらお姉さんにアイアンクローをされる速水さんを眺めつつ、再び美味しい料理に舌鼓を打つのであった。
あぁ、おいし。
2
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生
花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。
女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感!
イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる