28 / 32
帝
しおりを挟む女御の乱があったからか、さらに待たされたもののようやく帝と会うことが出来るという。
最初の予定にあった庭での謁見は無しにして、さっさと本題に入る為に完全に人払いされた一室で会うのだそうだ。
まだるっこしいことが無くなったことは素直に嬉しいが、それはそれで情緒不安定になっている妃たちに余計に心労をかける可能性が高まることを意味する。
なにせ国一番と占いで認められた美女と帝が、一目を忍んで密会する事実が生まれるのだから。
「直答が許されたので、人を介さずそのまま帝とお話しください」
「・・・いいのですか?」
「すでにあのようなことがあったのだから、今さらだと帝は仰せです。お互いの考えが曲解しても無駄でしかないから、言いたいことがあれば今のうちに言うようにと」
「ずいぶん砕けたお方ですね」
「頭が柔らかくないと、外国との交易なんて出来ないし続けられない。国もここまで発展しないさ」
「あなたが言ったってことが癪だけれど、本当にそう思うわ」
女運がすこぶる悪いだけで、政に関しては感心することばかりだと照葉は思っている。
国中があまねく等しく幸福に満たされているかと問われれば否だが、大小合わせた過激な反勢力は無いし飢饉も無ければひどく貧乏で食うや食わずという町も村も無い。
災害は多少なりともあるが、それも頻繁にあるわけでもなく規模も小さい。
疫病も流行ったことが無く、よくある季節の変わり目だったり寒い冬には風邪が流行りやすくなるということがある程度だ。
おそらく歴史の中で、最も素晴らしい統治をしている時代だろう。
そんな国を治めている帝は、一体どんな方なのか。
「いや~、うちの奥さんが盛り上がり過ぎたみたいで申し訳ない!」
ーーーーーーーー夜の居酒屋で働いている気のいい兄ちゃんのように対応された。
朗らかで人が良さそう、というのが第一印象。
まるで息をするようにさらりと照葉の手をしっかりと握ってきたので、軽薄、というのが第二印象。
どんどん顔を近づけ、あと一歩で照葉の唇に触れようかという時に大和と榊の二人がかりで後ろに引っ張られ。
思いきり凄まれても笑顔を絶やさないところが、とにかく掴みどころが無いというのが第三印象だった。
「あれほど口をすっぱくして言ったよな?しつこいぐらい言ったよなぁ?照葉に触れるな見るな近寄るな同じ部屋で息を吸うなって!!」
「いやだから呼吸は無理だろって言った!」
「この国をあまねく統べる帝ならそれくらいやってみせろと言った」
「さすがに無理って言った!」
「戯れはそこまでにしなさい照葉殿の前ですよ!!」
重ね重ね申し訳ない、と言って頭を下げる榊の言葉も、右から左へと流れてしまうほどには衝撃を感じていた。
「ずいぶん、仲がよろしいのですね・・・?」
「お恥ずかしい。私たちは、いわゆる幼なじみというものでして」
「榊に至っては乳兄弟にもなるな。こいつの母親が私の乳母をしていた」
「教育係も兼任してたよな。大概、樹が悪いことを思いついて協力しろと脅して。その度に連帯責任だって言って三人一緒に怒られたなぁ」
懐かしい、と言いながら乾いた笑いをこぼしているあたりよほど灸をすえられたのだろう。
あの榊でさえ若干青ざめているので、よほど厳しい人に違いない。
なんだか意外だと思いながら、照葉はふと首をかしげた。
「樹?」
「帝の名だよ」
「・・・私が聞いていいことじゃないでしょう」
「平気平気、真名じゃないし。なんなら照葉殿にだけ私の真名を教えてもいいぐらい・・・」
そう言って樹が再び照葉の手を取ろうとするのを、背後を取った大和が首の絞め技を決めて阻止する。
慌てた榊が必死になって仲裁に入るのを見ながら、照葉は現実逃避をしながらこの場が静かになるのを大人しく見守っていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる