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 女御の乱があったからか、さらに待たされたもののようやく帝と会うことが出来るという。
最初の予定にあった庭での謁見えっけんは無しにして、さっさと本題に入る為に完全に人払いされた一室で会うのだそうだ。

 まだるっこしいことが無くなったことは素直に嬉しいが、それはそれで情緒じょうちょ不安定になっている妃たちに余計に心労しんろうをかける可能性が高まることを意味する。
なにせ国一番と占いで認められた美女と帝が、一目を忍んで密会する事実が生まれるのだから。


直答じきとうが許されたので、人を介さずそのまま帝とお話しください」
「・・・いいのですか?」
「すでにあのようなことがあったのだから、今さらだと帝は仰せです。お互いの考えが曲解きょっかいしても無駄むだでしかないから、言いたいことがあれば今のうちに言うようにと」
「ずいぶんくだけたお方ですね」
「頭が柔らかくないと、外国との交易こうえきなんて出来ないし続けられない。国もここまで発展しないさ」
「あなたが言ったってことがしゃくだけれど、本当にそう思うわ」


 女運がすこぶる悪いだけで、まつりごとに関しては感心することばかりだと照葉は思っている。
国中があまねく等しく幸福に満たされているかと問われれば否だが、大小合わせた過激かげきな反勢力は無いし飢饉ききんも無ければひどく貧乏で食うや食わずという町も村も無い。

 災害は多少なりともあるが、それも頻繁ひんぱんにあるわけでもなく規模きぼも小さい。
疫病えきびょう流行はやったことが無く、よくある季節の変わり目だったり寒い冬には風邪が流行りやすくなるということがある程度だ。

 おそらく歴史の中で、最も素晴らしい統治とうちをしている時代だろう。
そんな国を治めている帝は、一体どんな方なのか。


「いや~、うちの奥さんが盛り上がり過ぎたみたいで申し訳ない!」


 ーーーーーーーー夜の居酒屋で働いている気のいい兄ちゃんのように対応された。



 朗らかで人が良さそう、というのが第一印象。
まるで息をするようにさらりと照葉の手をしっかりと握ってきたので、軽薄けいはく、というのが第二印象。
どんどん顔を近づけ、あと一歩で照葉の唇に触れようかという時に大和と榊の二人がかりで後ろに引っ張られ。
思いきりすごまれても笑顔を絶やさないところが、とにかくつかみどころが無いというのが第三印象だった。


「あれほど口をすっぱくして言ったよな?しつこいぐらい言ったよなぁ?照葉に触れるな見るな近寄るな同じ部屋で息を吸うなって!!」
「いやだから呼吸は無理だろって言った!」
「この国をあまねくべる帝ならそれくらいやってみせろと言った」
「さすがに無理って言った!」
たわむれはそこまでにしなさい照葉殿の前ですよ!!」


 重ね重ね申し訳ない、と言って頭を下げる榊の言葉も、右から左へと流れてしまうほどには衝撃しょうげきを感じていた。


「ずいぶん、仲がよろしいのですね・・・?」
「お恥ずかしい。私たちは、いわゆる幼なじみというものでして」
「榊に至っては乳兄弟ちきょうだいにもなるな。こいつの母親が私の乳母うばをしていた」
「教育係も兼任けんにんしてたよな。大概たいがいいつきが悪いことを思いついて協力しろとおどして。その度に連帯責任だって言って三人一緒に怒られたなぁ」


 懐かしい、と言いながら乾いた笑いをこぼしているあたりよほどきゅうをすえられたのだろう。
あの榊でさえ若干青ざめているので、よほど厳しい人に違いない。
なんだか意外だと思いながら、照葉はふと首をかしげた。


いつき?」
「帝の名だよ」
「・・・私が聞いていいことじゃないでしょう」
「平気平気、真名まなじゃないし。なんなら照葉殿にだけ私の真名を教えてもいいぐらい・・・」


 そう言って樹が再び照葉の手を取ろうとするのを、背後を取った大和が首の絞め技を決めて阻止する。
慌てた榊が必死になって仲裁ちゅうさいに入るのを見ながら、照葉は現実逃避をしながらこの場が静かになるのを大人しく見守っていた。


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