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呪い
しおりを挟む「それでその儀式が何?」
「適齢の女宮様と言えば誰だと思う?」
「・・・桜姫様しかいないでしょう」
「そうだ。本来なら四年も前の十一歳の時からこの儀式に参加するはずだったんだが・・・当初から問題が起こってたんだ」
「問題?」
「ーーーーーーーー儀式に参加しようとすると、体中に赤い花の模様が浮かび上がる。ひとたびそうなれば、火傷をした訳でもないのに体中が熱くなり酷い痛みに苦しめられてしまう」
桜姫は、呪いにかかっているのだと大和は言う。
これは内々の者にしか知らない事実であり、儀式に関わらなければ普通に暮らせるのであまり問題視されていなかった。
それをなぜ一隊士である大和が知っているのか、という疑問もあったがとりあえず。
なぜ、一庶民である照葉にそんな重大な事実を話すのかということの方が問題だった。
「今までの儀式は四人の舞姫だけで良いと占いで決まっていたから問題はなかったんだが、今年は違う。必ず五人の舞姫で儀式を行わなければならないと結果が出たそうなんだ」
「でも無理なんでしょう?」
「ああ。試しに舞姫の衣装に袖を通そうとしただけで赤い花の模様が浮かび上がったらしい」
「なら例年通り四人でやるしかないでしょうよ」
「だが、例外は作れる」
その例外、と聞いただけで照葉は嫌な予感が止まらなかった。
そもそも、大和がわざわざ協力と言った時点で気づくべきだったのだ。
ろくな頼み事ではないということを。
「『国一番の清く美しい娘を五人目の舞姫にすることは可能』・・・と、占いで出たそうだ」
「さよなら」
「ここまで聞いておいてさよならはつれないぞ?」
「揃いも揃ってもっと合理的に考えられないの?貴族の娘たちの中からふさわしい娘を選べばそれで済む話じゃない!」
「貴族の中から選べない理由は三つある」
大和は重いため息を吐きだすと、つらつらと理由を説明し始めた。
「桜姫の代わりを務める訳だから、もしかして自分にも呪いが移るのではないかという不安。
国一番の美しい娘と銘打っている以上、選ばれなかった娘たちはもちろんのこと親たちまでもが『私たちの娘が劣っているとでも言うのか!?』とねじ込まれる可能性。
そして・・・・・・無事に儀式を終えられれば、自分の娘を帝の妃に推挙しやすくなる」
「・・・ああ、帝にはまだお子がいないものね。上位貴族の姫君が三人、妃になっていたんだったかしら?」
「左大臣の姫、右大臣の姫、内大臣の姫、と見事に上位貴族ばかりが妃になっている」
「入内(結婚)して三年・・・確かに、新しい妃をと言われてもおかしくはないわね」
「だがすでにやんごとなき方々が妃の座に座っている以上、並の姫じゃあ入内すら許されない」
だからこそ、国一番の美姫と言われた者なら国一番の貴きお方の妃になるにふさわしいと誰もが思うのだろう。
たとえこじつけなのだとしても、身分で敵わない以上それ以外のもので認めさせるしかない。
それを踏まえているからこそ、中小貴族が成り上がりを夢見て我先にと娘を押し出しているのだ。
おかげで皇居は軽く混乱状態になっているらしい。
「政に関わらせないでほしいのだけれど?」
「頼む!照葉の美貌は認めない者はいないし、面倒で厄介な背後関係もない。頭の回転も早いし、運動神経も抜群だから舞姫の振り付けもすぐに覚えられるはずだ!!」
「私に得が一つも無いわ」
照葉はピシャリと言い放つ。
儀式は稼ぎ時なのだ、前日までに注文されただけの花を用意し皇居に納めなければならない。
ただでさえ忙しい時に、下手に目をつけられそうな儀式に直接関わっている場合ではないのだ。
ちなみに断ったからといって、花の注文を無かったことにされる心配はしていない。
なにしろ必要な花の数が数なので、一つでも注文先を取り消してしまったら十分な数が揃わなくなる。
だからこそ、その注文ありきでさらに照葉に旨味があるものがなければ受けるだけ損なのだ。
大和は一隊士なので、交渉の内容を決めるのは限りがあるだろう。
ならば、明後日。
帝と謁見する際に、直接交渉する方が手間がない。
「恐れ多いことだと言われても、直接お願いするしかなさそうね」
「やめてくれっ・・・!それで目をつけられたらどうするんだ!?御簾越しで謁見するというから俺は了承したのに、そんな興味を引くようなことをすれば確実に手を回してくる!!」
「あなたが私に会いに来る時点で、私が納得出来る交渉材料を用意出来なかったのだから仕方ないでしょう?」
一隊士に無茶を言わないでほしい、大和は絞り出すようにそう言った。
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