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第1章
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しおりを挟む「あれって俺があげた魔法道具だよね?君、鑑定なんてしに来てたの?使い方が分からないんだったら俺に聞いてくれれば良かったのに」
キースは私が誤魔化すための間も与えずに状況を理解してしまった。
拗ねたように口を尖らせているが、とてもわざとらしい。
うーん、こんなことになるだろうと思ってたから知られたくなかったのに。
というか、あの魔法道具って高価な物だったのだろうか。
高度な術式と言っていたけど結構乱暴に扱っていたことを思い出し、壊れていないか不安になった。
「なんじゃ?この魔法道具、お前さんが作ったのか?道理で癖の似た術式だと思ったわい。それもまた無駄のない組み方で」
「あ、分かっちゃった?うん、俺の。秘匿の魔術を組み込んであって、隠したい秘密を隠してくれるんだ。持ってるだけで効果があるから、どうやって使うとかいう物でもないんだけどね。どう?鑑定合ってた?」
私がキースに聞かなかった仕返しなのか、鑑定結果を店主が言う前に制作者であるらしいキース本人が言ってしまった。
私にする分には良いけど他の人にするのは迷惑だからやめて!
言おうとしていたことを言われてしまったことに面食らったようで、店主は固まってしまった。
ところでキースは魔法道具も作れるのか。
まあ、無効化魔法が使えるということは術式に相当詳しいと言うことだから不思議ではないけれど本当に何でも出来るすごい人物だ。
「あ、ああ、そうじゃ。わしがした鑑定結果と同じじゃ。言われてしまったら仕方がない。鑑定料はいらんから早く帰ってくれ」
キースの態度に機嫌を悪くしたのか、店主は魔法道具を返すとぶっきらぼうに私を店から追い出そうとした。
しかし、鑑定はして貰ったのだからその報酬を払わないなどあってはならないと思い、私は鑑定料を渡そうと食い下がった。
「いらんと言っておるだろう。わしゃ絶対に受け取らんぞ」
そう言って店主は私の差し出すお金を見ようともしない。
しばらくの間、渡す、受け取らないの押し問答が続いた。
「いらないって言ってるんだから、そのまま払わなくても良いと思うけど。じゃあさ、代わりにこの店の商品でも買っていったら?」
私たち二人の平行線のやりとりにしびれを切らしたのかキースが横から口を挟んだ。
確かに、この頑固な店主を説得するのには骨が折れそうだ。
キースもこの店に何か用があって来たのだろうから、私がここに居座ることで迷惑になっているのかも。
そう考えるとその方法が一番よい気がしてきて、私は店の商品を一つ取ってお金をカウンターに置いた。
「え?それにするの?そんなガラクタより他にももっと便利な魔法道具がいっぱいあるよ」
キースは私が手に取った商品、先ほどのブローチを見て反対した。
“いいんだ。僕、これが気に入ったから”
それでも、私は数多くある商品の中から買うならこれがよかった。
見た瞬間に目を引かれたのは、この魔法道具を作った職人の気持ちが本当にこもっているように感じたから。
売れ残っているなんてとてももったいなく感じた。
男として生きている私がこれを付けることはないけれどお守り代わりとして持っておこう。
そっと、大事にポケットにブローチをしまうと私は店を後にしたのだった。
道を歩きながらキースから貰った魔法道具をもう一度じっくりと見ていた。
四角い箱のようなその道具の側面はただ単に平面ではなく、花や鳥などと模様が彫られていて見た目にも楽しい。
魔法道具としての作用を求めるだけならばこんなことはしなくても良いものだがキースの道具に対してのこだわりと思い入れが感じられる。
私がブローチを選んだとき、キースは口では反対していたがどこか少し嬉しそうな顔をしていた。
同じ魔法道具を作るものとしての気持ちが分かっていたのかもしれない。
そして、私はどうやら気づかないうちにこのキースの魔法道具に助けられていたようだ。
秘匿の魔術は自分が隠して起きたいことを相手に分からせないようにする幻覚魔法の一種だ。
私の場合、一番隠したいことは女であること。
恐らくキースは旅の途中で接近したときに私が女なのではないかと疑い始めたのだろう。
身体を見られたときに|やっぱり(・・・・)と言っていたから違和感をえるほどには分かってしまうのかもしれない。
だからジェラールに迫られたとき、通常であったらめざとい彼は気づいてしまった可能性もある。
あの時はいろいろと気が動転していてそのことを考えるような余裕などなかったが、後から思えば迂闊なことをしていた。
それにガレスに掴まれたときだって近距離で見られていた。
ウィルも……まあ、彼は女性にはあまり慣れていないようなのでどっちにしても気づかれなかったと思うけど。
エルザやガブリエルのように小さい頃から見ていて先入観のある人でないと至近距離からは男と見えづらくなっているのだろう。
この魔法道具とこれを作ったキースには感謝しきれない。
だがそれと同時に、親しくなっていく人物を騙して嘘の自分を見せるということが私を後ろめたい気持ちにさせる。
それでも私は本当の自分を見せるなんてことは一生ないのだろう。
いや、そうじゃない。
今のこの自分こそが本当の自分なのだ。
私は生まれ変わって生きていくと決めたのだから。
そう自分に言い聞かせて、私はどうすることも出来ない気持ちに蓋をしたのだった。
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