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もう一つのプロローグ

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「七海(ななみ)ちゃん。朝食の時間ですよ」

 上下真っ白な服を着た四十代後半の女性が薄いピンクの服を着た二十代の二人の女性を連れてノックをして部屋に入ってベッドに寝るニット帽を被った少女に声をかける。

「ん~ん、寒い~あと五分~」

 現在は十二月、室内は暖房がついていても気分的には寒さを感じる季節。
 少女は布団を顔まで掛けてお決まりの台詞を言う。

「いけません!起きてお薬飲みなさい」

 白い服の女性が布団をめくりながら眉間にシワを寄せて言う。

「……イヤ!美弥子(みやこ)さんもう若くないんだからシワ残るよ」

 少女は布団を奪い返してかぶり直し言う。

「フフフ・・・そうね、わかっわ。じゃあ五分暇だから昔のことを思い出してしかも、若くないからついつい思い出したことが口から出ても仕方ないわよね?」

「えっ!?」

 少女が目元まで出して女性を見ると、黒いオーラを出しているような笑顔をしていた。

「そうね、あれば七海ちゃんが六歳の時だったかしら?七海ちゃんが好きになった直人(なおと)くんと遊んでいた時(室内で)に急に天気が変わって雷が鳴り出してそれに驚いた七海ちゃんたら泣きながら七海くんに抱きついておもら「ワァァァァァ~!!!」あら起きたの?」

 少女は消したい黒歴史を暴露され慌てて叫びながら跳ね起きる。

「起きたのなら朝食を済ませてお薬飲みなさい。もう少ししたら先生が来るから」

「もう十八歳になったんだよ!子供扱いしないでよ!」

 少女が頬を膨らませる。

「フフ、いつまでたっても七海ちゃんは可愛い娘みたいなものよ」

 二人のやり取りはいつものことらしく一緒に来ていた若い女性は何事も無いようにテキパキト用意を終わらせていた。

「じゃあ、ちゃんとお薬飲んでおくのよ!先生と一緒にまた来るからね」

 そう言って二人は部屋を出ていった。


 ここは有名な大学病院の個室だ。
 少女は物心ついた頃から病院の中で暮らしていた。
 病院から出たことがなく学校にも通ったことが無く勉強も院内学級で勉強をしていた。
 小児ガンと診断された少女は十歳まで生きられないと言われていたが薬のおかげか本人の気力か先月十八歳の誕生日を迎えたばかりだった。
 美弥子と言う女性は少女が病院に入院した当初から担当をしている看護師だ。
 
「直人くんか…………」

 少女は病院に長くいる。
 そのためたくさんの別れをしてきた。
 小さい頃、急にいなくなる友達に理由を誰も教えてくれないが何となくわかってしまい次は自分だと毎日恐怖を感じていた。
 そんなある日隣の部屋に同い年の男の子が入ってきた。
 それが直人と言う少年だった。

 二人はすぐに仲良くなりたくさん遊びずっと一緒にいようと子供同士のよくある約束をした。
 そして、十三歳の頃に少年の容態が急変した。
 少年の両親は最後に少年の願いでもある少女との
お別れをさせる為に少女を少年の病室に呼んだ。

『なおぐん!』

 少女は泣きながら色々な機械や酸素ボンベをつけた少年の側による。

『……泣かない……で………やくそく………まもれなくて………ごめんね………いっしょに………いてあげられなくて…………ごめんね………やくそく………まもれないなんて…………ダメだね……』
 
 少年は目に涙を浮かべながら消え入りそうな声で途切れ途切れに少女に言葉を伝える。

『ぞんなごどない!なおぐんはやさしがっだ!なおぐんどいれでだのじがっだ!なおぐんがだいずぎ!』

『……フフ……うれしいな……ぼくも……だいすきだよ………ねぇ……さいごに……ナナちゃんの………えがおが……みたいな……』

 少年がそう言うと少女は涙や鼻水を袖で拭いてニッと笑顔を向ける。

『……うれしいな……だいすきな……ナナちゃんのえがおが………またみれて………ナナちゃん……まけないでね………さいごまで………ナナちゃんらしさを………わすれないでね………そんな………ナナちゃんが………だいすき……だったから………』

 少年が笑ったような顔で目を閉じると目から一筋の涙が流れて室内にピーーという電子音が鳴り響いた。



「直くん、私自分らしくしてるかな?………私も最後は直くん見たいに格好よく笑いたいな」

 そう言いながら少女は頬をつたう涙を拭う。
 少年の最後の言葉を聞いてから少女は人前ではいつでも明るく過ごしていた。
 それを見ていた看護師達は少女が少年のことを乗り越えていて、少年の名前をだしてもいつも通りの反応をする少女に大丈夫だと勝手に思っていて一人で少女が泣いていることは誰も知らない。



 それから数ヵ月がたち普通の学校では卒業式が行われている頃、院内学級でも少女の後に入院して院内学級で仲良くなった子供たちが手作りの卒業式を少女の為にひらいてくれた。


 それから数日後、私はベッドの上から動けなくなっていた。

(ああ、私も直くんと同じ格好してる。お揃いだ)

 少女はぼんやりとする意識の中で少年のことを思い出していた。

(お母さんお父さんお姉ちゃん泣かないで)

 少女は泣いている家族を見て精一杯の笑顔を向ける。
 丈夫に産めなくてごめんねとか言いながら泣いている家族に声を振り絞る。

「お母さん………私を産んでくれて……ありがとう……お父さん……面白い話を聞かせてくれたり……励ましてくれて……ありがとう……お姉ちゃん……ずっと……お父さんと……お母さんを……取っちゃって……ごめんね………それでも……優しくしてくれて……ありがとう……私……凄く……幸せだったよ」

 そう言うと少女は笑顔を見せてゆっくりと目を閉じる。
 
 
 少女は自分が溶けていく感覚を感じたあと苦しい感じが無くなったことに驚き目を開ける。

「…………うわぁ!!」

 するとそこには金色の短い髪に蒼い目をした美少年が除き混んでいた。

「ムゥ!人の顔見て驚くなんて失礼だな!」

 美少年は手を腰に当て頬を膨らませる。

「ごめんなさい急だったから。えっとそれでここはどこ?病室じゃないし、天国?」

 少女は誤り辺りを見回す。
 そこは辺り一面花畑になっており、そらには穴の空いた太陽とその穴を八の字を書くようにくぐる光の筋がある。

「ここは僕の住んでる場所、所謂天界だね」

「…………えっと、じゃあ君が、じゃなかった。あなた様が神様でいらっしゃいますか?」

 急なことに緊張し始めて言葉を使いがおかしくなる。

「アハハハ、そんなに畏まらなくて良いよ。僕のことはアリアスって呼んで」

「はい!アリアス神様!」

「いや、アリアスだけでいいから」

「そんな!恐れ多いです!」

 少女は手を前に出してブンブンと振るう。

「いや、それも失礼だって、それに神様が言っているんだよ?」

「はぁ、せめてアリアス様で、呼び捨てなんて無理です」

 少女は神の勢いに負ける。

「うん!それでしょうがないね」

 少女は少し落ち着くとハッとする。

「死んだ人は皆ここに来るんですか!?直くんも来ました!?」

 少女は神に詰め寄る。

「えっ!?えっと近いよ」

 神は少女の勢いに後ずさる。

「あっ、ごめんなさい!」

「いや良いよ。死んだ人だね普通は僕の部下が振り分けてるからここには来ないよ」

「そうなんですか………じゃあ何で私はここに来たんですか?」

 少女は直人君と違う場所に来たことにあからさまに落ち込む。

「君は僕の持つもう一つの世界、異世界に勇者として召喚されるんだ!君を選んだ理由は言えないけど色々あるんだ」

「そうですか……」

「色々特典を付けちゃうよ!向こうは魔法とかあるんだよ!?ファンタジーでメルヘンだよ!」

「はぁ………」

 神がいくらテンションを上げても少女は沈んだままだった。

「ムムム、なら取っておきのボーナスをあげるよ!直くんって言ったね?君の記憶にある森直人くんのことだね?」

 神が少年の名前をだすと少女は勢いよく顔を上げる。

「直くんを知ってるんですか!?」

「本人には会ったことは無いけど、君の記憶を見せてもらたから、ここに残ってればその少年の魂のありかを探せるよ」

「本当ですか!?直くんは今どうしてます!?元気ですか?どこに居ますか!?」

 少女は目を輝かせる。

「ん~と………もうここには居ないな~」

「え、どこに!」

「何処かで転生したみたい。僕が直接転生させたならわかるんだけど、部下が転生させたらわからないんだ、ごめんね。強い意志を持つ人ならあそこに居るかと思ったけど」


 そう言うと神は太陽の穴をくぐっている光の筋を指差す。

「えっ!?あそこですか?」

「そう!普通人間は一度死ぬと魂の器が弱くなるから虫とか魚とかに何度か転生して魂の器を強くしてから人間になるんだけど、なかには次も人がいいと言う人もいてねそう言うと人は僕が強制的に転生させるか、あそこで長い時間をかけて魂の器を創って転生するんだ。あそこで創った魂の器を持つとね幸運を持って産まれるんだ。僕しか知らないことだから内緒だよ」

「えっとじゃあ直くんは?」

「ん~と、君の記憶の中の彼くらい強い魂ならあそこに居るかと思ったんだけどね」

「じゃあ、あそこで直くんが戻ってくるまで待ってる!」

 少女が力強く言う。

「いや、君はこれから異世界に転生するんだよ」

「いや!!」

 少女は首を振る。

 神は少し悩んみ

「よし!ここでさっき言ったボーナスだ!直人君がここに戻ってきたら僕が責任を持って彼に話をして君が戻ってくるまで留めあげる。そのあいだ君は異世界で勇者をしてきて?そしたらその後死んだ時に直人君と君を来世でもう一度出逢う運命をあげるよ」

「本当に!?」

 少女は目を見開いて驚く。

「本当さ、実は直人君の希望も君と巡り会うことだったらだけどね。そこに君が異世界で勇者をしてきた功績を考慮してあげると二人に運命を付けて同時に転生させてあげるよ。出会った後どうなるかは来世の君達次第だけどね」

 神は嬉しそうな少女にウインクする。

「ありがとうごさいます。神じゃなかった、アリアス様!私異世界に行ってきます!」

 少女は力強く体の前で拳を握る。

「そうだね。がんばってね。それで、異世界に行くに当たって勇者召喚だからそれなりのチートとして体が常人より何倍も丈夫になるよ。もちろんいままで苦しんでいた病気も無くなるから。それと、僕からいくつか加護をあげられるけど何か欲しいものある?」

「髪が欲しい!!!」

 即答で答える少女がニット帽を取ると髪の毛は無かった。
 少女を生かす為に使われていた薬の副作用で髪や眉毛など全ての体毛が無くなっていた。

「詳しく言うと髪だけじゃなくて毛ですね。毛と言っても脇とかはいらないです。髪や眉毛とかまつ毛それと鼻と耳の中かな。髪はポニーテールに出来るくらい長いのが良い!出来ます?」

 少女はやはり女性なためファッション雑誌等で見るモデルのように色々な髪型に憧れていた。
 鼻毛や耳に毛が無いと菌が入りやすく病気になりやすいことは病院で暮らしていた為によく知っていた。
 生前の少女はいつでもマスクをしていた。

「………………プッ、プハハハ!!まさか力とかじゃなくてククク神に頼むのが髪だなんてクククギャグかい?」

 神は腹を抱えて笑っていた。
 少女は自分が言ったことを頭で考えて恥ずかしくなり顔を赤くしてうつ向く。

「ククク、容姿については今のままで髪をククク生やせばいいんだな。あとは、武術全般と全魔法の適性付けてあげるから向こうでがんばって勉強してね」

「は、はい!ありがとうごさいます」

 少女は深々と頭を下げる。

「うん!じゃあそろそろ送るからがんばってね。詳しいことは向こうで色々と教えてくれる筈だから。君を呼んでいる国の王は優しい人だから安心していってらっしゃい!」

 神が笑顔で手を振ると少女の足元に魔方陣が生まれて光りだす。

「本当にありがとうございました。がんばって行ってきます!」

 少女はそう言うと光りに飲み込まれた。

 次に少女が目を開けた時には広いコンサートホールの様なところにいた。
 少女は周りにいる人々よりも自分の頭で揺れる黒い艶やかな髪の毛が気になっていた。



 


 

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