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マルクは確かに留学中もすごくモテていたと噂では、聞いていた。
マルクは兄の贔屓目なしにイケメンだし、同性も羨む肉体美を持ち、剣術にも勉学にも優れている自慢の弟だ。
それなのにマルクに未だに婚約者がいないのは、俺がアンネリネと婚姻を結び、侯爵からの後ろ盾を得て、王太子としての地位をきちんと確立してからだという話も聞いている。
でも、マルクが婚約をしない理由は、それだけじゃなく、マルク自体がまだまだ子供で、あまり女性に興味がないのだと思っていた。
だが、先ほど目にした姿からすると、俺のその仮説は覆されてしまう。
もしかして、俺に内緒で女性と付き合っていたのか?
だけど、そうだとしても、どうして俺に内緒にするんだろうか。
兄の俺に知られたくないような相手なのか?
いや、そんなわけがない。
あの可愛い弟のマルクが、俺に隠し事なんてするわけがない。
いや、でも、まさか……。
そんな風に悶々とソファーに腰掛けてしばらく悩んでいると、入り口の扉を叩く、ノックの音が聞こえた。
「兄上、マルクです。アンネリネ嬢も一緒です。入ってもよろしいですか?」
「あぁ、入ってくれ」
「失礼します」
そういうと、マルクとアンネリネが入室した。
入室してきたアンネリネの衣装をみて、俺は驚いてしまった。
アンネリネのドレスは、まさに、さきほど遠目でみたパステルグリーンのドレスだった。
俺が固まっていたせいか、マルクが心配そうに近づいてきた。
「兄上、どうかされましたか?」
「あ、いや、アンネリネ。そのドレスはどうしたんだ?」
今回の夜会のために、俺はアンネリネにドレスを贈っていたはずだ。
俺の記憶が正しければ、俺が用意したのは王太子の婚約者に相応しい伝統的なデザインで、俺の瞳の色に合わせた深緑色のドレスだった。
「?このドレスは私がデザインしたんです。似合いませんか?」
「……そんなことはない。すごく似合っているよ」
応えたアンネリネは、まるで、俺にドレスを贈られたことを忘れたか、もしくは、知らないかのような態度だった。
アンネリネの着ている今日の衣装は、見たことのない真新しいデザインのドレスだった。
色も最近流行りのパステルカラーで、申し訳程度に緑色であることから、一応は俺の婚約者として着ていてもおかしくはないドレスだ。
しかし、しかしだ。
この国の王妃や王太子妃は、公式の場では、国の伝統的なデザインのドレスを纏うのが慣例だ。
それは、当然、婚姻前の婚約者にも適用される。
だから、俺も婚約者のアンネリネのために伝統的なデザインのものを公式のパーティーが開かれるたびに、毎回、新しく特別に作らせたドレスを贈っていた。
だから、本音を言えば、アンネリネに俺の贈ったドレスはどうしたんだ?と問いただしたかった。
今までこんなことは一度もなかったのに。
アンネリネは俺のことが、おそらく、気に食わないとはいえ、常に表向きは完璧な婚約者を演じてくれていた。
なのに、なぜ?
目の前にいるアンネリネに色々と問いただしたいことはあった。
それでも、男として、王太子としてのプライドが邪魔をして何も聞くことができなかった。
「アンネリネ、すまないが夜会の時間まで執務室で仕事をしていてもいいだろうか」
「えぇ、時間までここでお待ちしておりますね」
あくまで悪気のない態度を貫くアンネリネの様子に、内心、混乱した俺は、客室から逃げるように退出したのだった。
マルクは兄の贔屓目なしにイケメンだし、同性も羨む肉体美を持ち、剣術にも勉学にも優れている自慢の弟だ。
それなのにマルクに未だに婚約者がいないのは、俺がアンネリネと婚姻を結び、侯爵からの後ろ盾を得て、王太子としての地位をきちんと確立してからだという話も聞いている。
でも、マルクが婚約をしない理由は、それだけじゃなく、マルク自体がまだまだ子供で、あまり女性に興味がないのだと思っていた。
だが、先ほど目にした姿からすると、俺のその仮説は覆されてしまう。
もしかして、俺に内緒で女性と付き合っていたのか?
だけど、そうだとしても、どうして俺に内緒にするんだろうか。
兄の俺に知られたくないような相手なのか?
いや、そんなわけがない。
あの可愛い弟のマルクが、俺に隠し事なんてするわけがない。
いや、でも、まさか……。
そんな風に悶々とソファーに腰掛けてしばらく悩んでいると、入り口の扉を叩く、ノックの音が聞こえた。
「兄上、マルクです。アンネリネ嬢も一緒です。入ってもよろしいですか?」
「あぁ、入ってくれ」
「失礼します」
そういうと、マルクとアンネリネが入室した。
入室してきたアンネリネの衣装をみて、俺は驚いてしまった。
アンネリネのドレスは、まさに、さきほど遠目でみたパステルグリーンのドレスだった。
俺が固まっていたせいか、マルクが心配そうに近づいてきた。
「兄上、どうかされましたか?」
「あ、いや、アンネリネ。そのドレスはどうしたんだ?」
今回の夜会のために、俺はアンネリネにドレスを贈っていたはずだ。
俺の記憶が正しければ、俺が用意したのは王太子の婚約者に相応しい伝統的なデザインで、俺の瞳の色に合わせた深緑色のドレスだった。
「?このドレスは私がデザインしたんです。似合いませんか?」
「……そんなことはない。すごく似合っているよ」
応えたアンネリネは、まるで、俺にドレスを贈られたことを忘れたか、もしくは、知らないかのような態度だった。
アンネリネの着ている今日の衣装は、見たことのない真新しいデザインのドレスだった。
色も最近流行りのパステルカラーで、申し訳程度に緑色であることから、一応は俺の婚約者として着ていてもおかしくはないドレスだ。
しかし、しかしだ。
この国の王妃や王太子妃は、公式の場では、国の伝統的なデザインのドレスを纏うのが慣例だ。
それは、当然、婚姻前の婚約者にも適用される。
だから、俺も婚約者のアンネリネのために伝統的なデザインのものを公式のパーティーが開かれるたびに、毎回、新しく特別に作らせたドレスを贈っていた。
だから、本音を言えば、アンネリネに俺の贈ったドレスはどうしたんだ?と問いただしたかった。
今までこんなことは一度もなかったのに。
アンネリネは俺のことが、おそらく、気に食わないとはいえ、常に表向きは完璧な婚約者を演じてくれていた。
なのに、なぜ?
目の前にいるアンネリネに色々と問いただしたいことはあった。
それでも、男として、王太子としてのプライドが邪魔をして何も聞くことができなかった。
「アンネリネ、すまないが夜会の時間まで執務室で仕事をしていてもいいだろうか」
「えぇ、時間までここでお待ちしておりますね」
あくまで悪気のない態度を貫くアンネリネの様子に、内心、混乱した俺は、客室から逃げるように退出したのだった。
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