68 / 82
エリザベート嬢はあきらめない
エリザベートの怒り
しおりを挟む瘴気が浄化された夜更けの空には、星が無数に煌めいていた。
「瘴気の浄化も終わり、魔物は異世界に戻りました」
エリザベートは国王陛下を見てそう言った。
「其方達のおかげで我が国は救われた。感謝する」
窓が開き国王陛下が姿を現した。
「陛下、どういたしまして。私達はやるべき事をやっただけですわ。
魔物達を異世界に戻してくれたのは、精霊テネーブです」
陛下は彼女の言葉を聞いてテネーブに黙礼を行う。
「俺も俺のやるべきことをしただけだ。礼には及ばぬ」
テネーブはそう言って国王陛下を見た。エリザベートの話は続く。
「〈あとの事〉は、この国の聖女ロリエッタ様にお任せ致しますわ」
聖女ロリエッタの名前を聞いた人々が、騒めきはじめた。
「貴方が聖女になってくれるのではないのですか?」
誰かが大きな声で問いかけた。
「エリザベート様。我が国の聖女になって下さい」
「ヴァイオレットの聖女様」
「ロリエッタ様ではダメです」
「あの聖女様は役に立たないわ」
「エリザベート様、私達を見捨てるのですか?」
ザワザワ……
ザワザワ……
ザワザワ……
ザワザワ……
「嫌ですわ」
エリザベートは言った。
「私は自由に生きて行きますわ」
それを聞いたロリエッタは、驚いた表情を浮かべた。
エリザベートは人々を見下ろして話を続ける。
「『見捨てるのですか?』どなたが仰ったの?
私を見捨てて私の追放を望んだのは、あなた方だったのではありませんか?
自分達は私を見捨てても、私はあなた達を見捨てないと思っているのですか?
『ロリエッタ様を要らない?』要らないのはエリザベートだったのでは?
自分は〈ただのモブ〉だと思って、好き勝手に人を批判するのは辞めて下さる?不愉快ですわ」
彼女は怒っていた。
「ロリエッタ様も、こんな方々の聖女なんてお辞めになったら?
〈あとの事〉も、この国の聖女をお辞めになるのなら、行う義務はありませんわ」
国王陛下もこの会話を聞いておられるだろう。
エリザベートには今のロリエッタが、どこにでもいる普通の日本の女子高生に見えていた。
「貴方に聖女は似合わない。こんな人々なんか放っておいて、貴方は〈貴方の世界〉にお帰りなさい。私はその為の協力を惜しみませんわ」
ロリエッタは驚愕に眼を見開いてエリザベートを見ていた。そして小さく呟(つぶ)やいた。
「帰れるの?・・パパとママのところに?」
「どうなさいます?私と一緒に来られますか?」
ロリエッタは何度も何度も頷きながら、涙を流している。
エリザベートは少しの間、目を閉じて心を落ち着かせた後、話を続けた。
「つい堪えきれずに暴言を吐いてしまいましたわ。若気の至りと思いお許し下さい。それでは皆さま、私はこれで失礼いたします」
彼女は優雅に淑女の礼をとり、テネーブと一緒に、聖女ロリエッタを伴って姿を消していった。
後に残された人々は暫くの間、言葉を発することなく、誰もいなくなった空を見ていたのだった。
0
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
他人の人生押し付けられたけど自由に生きます
鳥類
ファンタジー
『辛い人生なんて冗談じゃ無いわ! 楽に生きたいの!』
開いた扉の向こうから聞こえた怒声、訳のわからないままに奪われた私のカード、そして押し付けられた黒いカード…。
よくわからないまま試練の多い人生を押し付けられた私が、うすらぼんやり残る前世の記憶とともに、それなりに努力しながら生きていく話。
※注意事項※
幼児虐待表現があります。ご不快に感じる方は開くのをおやめください。
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
糞ゲーと言われた乙女ゲームの悪役令嬢(末席)に生まれ変わったようですが、私は断罪されずに済みました。
メカ喜楽直人
ファンタジー
物心ついた時にはヴァリは前世の記憶を持っていることに気が付いていた。国の名前や自身の家名がちょっとダジャレっぽいなとは思っていたものの特に記憶にあるでなし、中央貴族とは縁もなく、のんきに田舎暮らしを満喫していた。
だが、領地を襲った大嵐により背負った借金のカタとして、准男爵家の嫡男と婚約することになる。
──その時、ようやく気が付いたのだ。自分が神絵師の無駄遣いとして有名なキング・オブ・糞ゲー(乙女ゲーム部門)の世界に生まれ変わっていたことを。
しかも私、ヒロインがもの凄い物好きだったら悪役令嬢になっちゃうんですけど?!
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる