悪役令嬢エリザベート物語

kirara

文字の大きさ
上 下
66 / 82
エリザベート嬢はあきらめない

闇の精霊とドルマン

しおりを挟む
 彼女が次に目を向けたのは、遠くアミルダ王国の方向だった。

 その視線の先には、ウィリアム王太子殿下、エドモンド・ブラウン、アメリア・グレイシャス、マルティナ・ノルマン、そして、アミルダ王国の第一王女アントワーズの姿があった。

 エリザベートは何も言わずに、その一人一人と視線を合わせ、頷き合った。

『また後で伺(うかが)いますわ』

 彼女からの念話が彼らには届いていた。

 エリザベートの視線がさらに遠くに向けられる。そこには、サウスパール王国の友人の姿があった。

 アンソニーとレオンが驚きの表情で彼女を見ていた。

『アンソニー殿下、レオン、お元気そうで良かったです。あの時の温かいお言葉、ありがとございます。

 私は残念ながら、サウスパール王国の国母にはなれませんが、これからも良き友人としてお付き合いして頂きたいですわ』

 アンソニーは少し残念そうな顔をしながら頷いた。

『エリザ、聞こえているかい?とても残念だけれど、わかったよ。これからも良き友人として付き合っていこう』

 視線はゆっくりとドリミア王国に戻された。

 エリザベートは、王都学園の生徒会長アルベール・ロレーヌに気がついた。暫く2人は見つめ合っていたが、ゆっくりとアルベールが黙礼をして視線を外した。

『アル、大変な役目を押し付けてしまってごめんなさい』

 彼女からの念話にアルベールは驚いた。そして、もう一度、改めてエリザベートと視線を合わせた。

『僕の方こそ、突然、冷たい態度を取って申し訳なかった。エリザ、君が無事でいてくれて良かったよ』

 そう言ってゆっくりと視線を隣に立つ青年に移した。

『お前も今回は大丈夫のようだな』

 アルベールはハッとした。テネーブはそんな彼を見て頷いている。

 それから、エリザベートはゆっくりと聖女ロリエッタに視線を移した。隣には彼女の祖母で、アミルダ王国の聖女レティシアがいた。

 レティシアはエリザベートの封印が解かれた事には気がついていた。

「ロリエッタ様、お久しぶりでございます」

 エリザベートがロリエッタに話しかけた。

 今まで震えていた聖女ロリエッタは、その声に反応して、キッとエリザベートを睨みつけた。

「何よ!私を嘲笑いに来たの?」

 彼女の声がむなしく響いた。

「いえ、そうではありません。ロリエッタ様。貴方が頑張って下さったから、私が間に合いました。

 大変な浄化の作業、お疲れ様でした。さすがドリミア王国が認めた聖女様です」

 ロリエッタは驚いた。ロリエッタだけではない。この会話を聞いていた全ての人々が驚いていた。

 何かを言いかけた人々に視線を巡らしてエリザベートは続けた。

「皆さまもお久しぶりでございます。私はエリザベート・ノイズ。あなた方は要らないと仰るでしょうけど、戻ってきてしまいましたわ」

 それを聞いた身に覚えのある人々は、貴族、平民に関わらず顔色を失った。

「彼はテネーブ。闇を司る精霊です」

 エリザベートはテネーブを紹介した。彼女の言葉を聞いて、辺りは水を打ったように静まり返った。

「闇の精霊テネーブ!」

 誰かが耐えきれずに声に出した。

 ザワザワ……
 ザワザワ……

 身に覚えのある者達は、身体の震えを抑える事が出来ないでいた。

 ザワザワ……
 ザワザワ……

 そんな中、喜びの声を上げた者がいた。

「闇の精霊テネーブ様!」

 ドリミア城の中庭で様子を見ていたドルマンだ。

「お前には見覚えがある」

「はい!私は闇魔法に通じる者。闇の精霊テネーブ様の僕(しもべ)でございます」

 ドルマンは顔を輝かせて返事をした。

「俺にお前のような僕(しもべ)はいない。このエリザベートを国外に追放したのもお前だった。1度めで彼女の母を殺害したのもな」

 その言葉をきいてドルマンは思い出した。
 そして視線をアフレイドに向けた。

(そうだった。俺はあの時、このアフレイド・ノイズに処刑されたのだ。

 あの時は最後の魔力を使って、この男の悲しみを増幅させ、闇に引き摺り落としたのだ。その後のことは分からないが)

「このエリザベートの最初の人生を狂わせたのはお前だ。今後、お前の詠唱に俺が応える事はないだろう。何処にでも去るが良い」

 ドルマンは真っ青になりながら頷いている。アフレイドとリアムが、そんな男をじっと見ていた。

「ご挨拶はこれで終わりね」

 エリザベートがテネーブに言った。

「そうだな」

 テネーブが着ていたマントを翻(ひるがえ)してその場から消え、そして直ぐに現れた。

「魔物達は異世界に戻した」

 何ごとも無かったかのように、あっさりとテネーブが言った。

「次は私の出番ですわ」

 エリザベートはそう言ったあと、その場から姿を消したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

他人の人生押し付けられたけど自由に生きます

鳥類
ファンタジー
『辛い人生なんて冗談じゃ無いわ! 楽に生きたいの!』 開いた扉の向こうから聞こえた怒声、訳のわからないままに奪われた私のカード、そして押し付けられた黒いカード…。 よくわからないまま試練の多い人生を押し付けられた私が、うすらぼんやり残る前世の記憶とともに、それなりに努力しながら生きていく話。 ※注意事項※ 幼児虐待表現があります。ご不快に感じる方は開くのをおやめください。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

糞ゲーと言われた乙女ゲームの悪役令嬢(末席)に生まれ変わったようですが、私は断罪されずに済みました。

メカ喜楽直人
ファンタジー
物心ついた時にはヴァリは前世の記憶を持っていることに気が付いていた。国の名前や自身の家名がちょっとダジャレっぽいなとは思っていたものの特に記憶にあるでなし、中央貴族とは縁もなく、のんきに田舎暮らしを満喫していた。 だが、領地を襲った大嵐により背負った借金のカタとして、准男爵家の嫡男と婚約することになる。 ──その時、ようやく気が付いたのだ。自分が神絵師の無駄遣いとして有名なキング・オブ・糞ゲー(乙女ゲーム部門)の世界に生まれ変わっていたことを。 しかも私、ヒロインがもの凄い物好きだったら悪役令嬢になっちゃうんですけど?!

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

処理中です...