上 下
160 / 169
乙女ゲームの世界

最上階の会場で(二条視点)

しおりを挟む
時は少し遡る。
このお話は彩華がまだ、パーティー会場へ到着していない頃。





あぁー、今日はクリスマスイブだってのに、全く面倒だな。
だが明日は一条と……二人っきりではないが、まぁそこは仕方がない。
謎の男の正体もわかっていない今、焦りは禁物だ。
とりあえず、今日一日頑張るか。
俺は頬を叩きながら気合を入れると、スーツに袖を通す。
そのまま車の後部座席へ乗り込むと、帝国ホテルへやってきた。

西日が眩しいほどに差し込む中、夕暮れに染まる高く聳え立つビルを見上げていた。
今日はここで、藤グループ主催のパーティーが開催される。
藤グループとは、ここ数十年で急成長してきたベンチャー企業だ。
今のご時世、こういった企業が目立ってきた。

従来であれば格式のある条華家がこういった催しに参加することはなかったのだが、さすがにこれほど成長した会社を無視することは出来ない。
そこで当主の息子である俺が駆り出されたのだが……。
そういえば歩さんや華僑、それに日華はもう到着しているのだろうか。
そんな事を考えながら背広の胸ポケットから招待状取り出すと、俺はホテルの中へと入って行った。

ロビーへやってくると、そこは人でごった返していた。
何気なく参加者たちを見渡してみると、名のある企業の代表取締役や政治家、それに大物俳優に女優、更には世界的に有名なデザイナーや起業家の姿が目に映る。
業種、職種共に様々で、なんとも派手な集まりだ。
そんな彼らを横目に、俺は手早く受付を済ませると、会場内へ入って行った。

会場は軽く500人は収容できそうな程の広さ。
どうやら帝国ホテルの最上階フロアを全てを貸切っているようだ。
会場内にはBGMだろう、ゆったりとしたピアノとヴァイオリンのクラシックが流れ、天井にはキラキラと輝くシャンデリアが連なり、正面には舞台が用意されている。
クリスマスをイメージした装飾品の中には、有名な美術品がいくつも並び、高級感を演出していた。

中央には立食パーティー用に豪華食事がズラリと並べられ、メディアを通してみたことがある、有名なシェフが数人佇んでいた。
なんともまぁ、金がかかっている。
分家の条華家の姿もチラホラ視界に映る中、会場を進んで行くと、華僑の姿を見つけた。

「よっ、もう来てたんだな」

「二条君こんばんは。はい、歩さんや日華さんも来られてますよ。ところで思っていた以上に派手なパーティーのようですね。……懇親会程度の催しなのかと思ってました」

「だよな、俺もそう思ってたが。まぁ……藤グループもあちこちに顔を広げて手広くやって大変そうだよな。確か今は二代目が社長を継いでるんだろう」

華僑は俺の言葉に頷くと、近くを通りがかったウェイターからグラスを手に取った。
それに合わせて俺もグラスを手に取ると、乾いた喉を潤していく。

「ですね、初代は会長として頑張っているようですよ。それに……」

「あれ、二条も来てたんだ。こんばんは」

その声に顔をあげると、日華がドンッと背中へ乗りかかった。
グラスが激しく揺れ茶が零れそうになるが、何とか持ちこたえると振り返る。

「ちょっ、日華さん危ないじゃないですか」

「ごめんごめん。ところで彩華ちゃんを連れてきたりしてない?」

コソコソ耳元で囁かれると、俺は思いっきりに腕を振り上げ引きはがす。

「いやいや、連れて来られるわけないじゃないっすか。歩さんが許してくれませんよ。その前に俺が殺されます」

「ははっ、まぁそうだよねぇ……」

そう呟くと、日華は何かを考え込むように口を閉ざす。
そんな彼の様子に首を傾げ華僑へ向き直ると疑問を口にした。

「そういえば歩さんは?」

「歩さんでしたら、たぶんロビーかと。会場にいると女性たちが集まってきてしまって、鬱陶しいからと出て行ってしまいました……」

あー、それだとたぶん機嫌が悪いだろうな、これはそっとしておこう。

そうして暫くすると、会場内は先ほどよりも人が集まっていた。
ガヤガヤと声が響く中、会場内に流れていた音楽が止まった。
ふと腕時計へ目を向けると、もうすぐ開宴の時間だ。
歩さんはまだ戻ってきてないのか。
辺りをキョロキョロ見渡してみるが、彼の姿はなかった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

処理中です...