上 下
158 / 169
乙女ゲームの世界

パートナーとして

しおりを挟む
車へ乗り込み街中を進んで行く中、ふと目の前に《帝国ホテル》と大きな掲示板が浮かび上がる。
掲示板の傍には、クリスマス仕様にアレンジされたキラキラと輝くネオンが浮かぶ中、また方向指示器がカチカチを音を立てると、車は帝国ホテルの駐車場へと入って行った。
えぇ、まさか……ここがパーティー会場?

帝国ホテルは世界で数本の指に入る五つ星の超高級ホテル。
政財界、世界の名のある貴族や王族、一流階級の人たちが利用する場所。
以前お兄様と行ったベーストンホテルとは比べられないほどに敷居が高い。
戸惑いを隠せない中、キキィッと車が停車すると、そこには壮大な出迎えが待っていった。

「ようこそお出で下さいました。ささっ、こちらへお進みください」

レッドカーペットのような物が敷かれ、年配の燕尾服の男性がやってくると、車のドアが開き、下りる様に促される。
助手席側にはフォーマルな姿の女性が佇み、私へと深く頭を下げた。
何なのこれ、本当に……彼は一体何者なの?

唖然としながらもなんとか足を動かすと、天斗は私の隣へとやってきた。
スマートに腰へ手を回したかと思うと、そのまま燕尾服の男の後ろをついていく。
ホテルの入口へと進む中、狼狽しながら彼を見上げてみるが、視線が合う事はない。
そのままエレベーターへ乗り込み最上階のボタンが点灯すると、上へ上へと上がっていった。

最上階……この場所を貸切るのに一体いくらかかるの……!?
主催しているのは誰なのかしら?
チンッと音と共に扉が開くと、そこには大きなクリスマスツリーが飾られている。
もうパーティーが始まっているのだろうか……エントランスには人の姿は見たらなかった。
男に案内されるままに足を進めると、通り過ぎる扉の前からはガヤガヤと声が耳にとどく。
通路にも飾られたネオンがピカピカと鮮やかに光り輝く中、控室のような場所へ案内されると、バタンと扉が静かに閉まった。

茫然とする中、腰に回されていた手が離れると、天斗は私と向き合うように前へと進み出る。

「彩華、とりあえずだ、何も説明せずに悪かったな。今から参加するこのパーティーで、俺のパートナーとして隣に立っていてくれ。それが終われば写真は削除してやる」

「パートナーですって!?やっぱり一条家の名を利用するんじゃない!」

私はキッと天斗を睨みつけると、悔しさと不甲斐なさに唇を小さく噛んだ。

「全く違うとは言えないが、一条家に迷惑をかけるつもりはない。何度も言ってるだろう、必要なのは彩華お前だ」

意味がわからないわ。
私の価値は……一条家であることだけ。

「嫌よ、参加しないわ!……ここにいるのは私とあなた二人だけ……なら」

私はぼそりと呟くと、扉の前へ佇むと、拳を上げファイティングポーズをとる。

「……これが最後だ、頼む」

いつものように喧嘩腰で向かってくるとそう思っていたが、彼はギュッと拳を握りしめると、私へ向かって深く頭を下げた。
その姿はいつもの傲慢な態度ではない、必死さが伝わってくる。
私は振り上げた腕をそっと下ろすと、そんな彼へと視線をあわせた。

「なら……証明して。あなたの身分証と、今ここで写真を消して。そうすればあなたのパートナーになってあげてもいいわ」

名前を知れば、もし別の場所へ写真が保存されていても対策は打てるはず。

天斗は徐にポケットから財布を取り出し、免許を取り出す。
そしてスマホも取り出すと、ロックを解除し私へと差し出した。

「俺は 藤 天斗だ。……写真はすぐ削除した。バックアップもとっていない。さすがに一条家を敵に回したくないから。もし俺があんたの兄に捕まった時に、写真があれば潰される。そんなリスク背負うはずないだろう」

彼の言葉に私は画面をタップしアルバムを開いてみると、中にデーターは入っていない。
ほっと息を吐き出す中、免許書へ視線を向けると、その名はどこかで見たことがあった。
藤 天斗、どこで見たんだっけ……えーと、確かお兄様の……ッッ

「あっ!あなたあの藤グループの?」

「あぁ、そうだ。今日のパーティーは俺の家が主催している」

その言葉に大きく目を見開くと、窺うように天斗を見上げる。

「……まさか婚約者として紹介しようとしているの?」

「おぉ?ははっ、婚約者になってくれるのか?」

天斗は楽しそうに笑ったかと思うと、いつもと同じようにニヤリと口角を上げ、私をじっと見下ろした。

「なっ、なるはずないでしょう!」

「だよな。俺のパートナーとして彩華が傍に居ることが重要なんだ。それだけいい。婚約はしない。挨拶が済めばすぐに会場から離れてくれていい。これは俺と……兄貴の勝負なんだ……」

彼から笑みが消え、瞳に怒りの炎が燃えあがると、空気が一気に冷えていく。
勝負?一体何のことなの?
そんな彼の様子に畏怖する中、私は一歩後ずさると、背中に冷たい扉が触れた。

「……ッッ、ちゃんと説明して」

そう何とか言葉を絞り出すと、彼は静かに私へと近づいてくる。
その刹那、トントントン、と背中にノックの音が響くと、私は大きく肩を跳ねさせた。

「天斗様お時間でございます」

「今行く」

天斗は短く返事を返すと、私の腰を抱くように引き寄せた。

「今は時間がねぇ。全てが片付いたら説明するよ。約束だ」

その言葉に私は深く頷くと、彼の腕へ体を預ける様に歩き始めた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...