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乙女ゲームの世界
Summer vacation
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花堂家のパーティーが終わり、学園は夏休みになった為、私は家に引きこもっていた。
あの時立花さくらの言った言葉が、何度も反芻する中、答えの出ない現状に頭を抱える。
彼女は私のことも彼のことも知っていて、それに内容も知っているようだった。
こうやって改めて考えてゲームの内容を考えてみると、確か主人公が好きになる男性の婚約者として、私が登場するはず。
なのにどうして私が二条と婚約していると思ったのだろうか……?
彼女が二条狙いだから?可能性としてはそれしか考えられないが……。
でもそれならどうして彼女は、私が学園に居ないことに何もいわないのかな。
まぁ、直接会ったのは数分、花蓮が居る手前聞けなかったとか……。
ゲームの内容を知っているのであれば、もっとこうなんていうか、ゲームから外れた行動に怒ると思うんだけどな。
うーん、やっぱりいくら考えてもわからない。
部屋の中、座布団の上で座っていると、机に置いてあったスマホのバイブ音が響く。
徐に手を伸ばすと、画面には二条 香澄 の名前が表示されていた。
香澄ちゃん、どうしたんだろう……?
耳にスマホを当てると、香澄の明るい声が響く。
「もしもし、彩華おねぇさま!!来週、海の別荘に遊びに行くの、一緒に行かない?」
「別荘……?来週なら構わないけど、泊まりになるのかな?」
「ええ!お兄様もいるし安心よ!行きましょうよ!ねぇっ!」
「わっ、わかったわ。お母様に聞いてみる、また連絡するね」
私はスマホを手にしたまま立ち上がると、母の部屋へと向かった。
母に別荘の件を話をしてみると、二条家なら安心ね、いってらっしゃいとすぐに了承をもらえた。
私はスマホ片手に香澄に別荘へ行く旨のメッセージを送っていると、突然肩に手がのせられる。
徐に顔を上げ振り返ると、そこには兄が佇んでいた。
「彩華、どうしたんだい?なんだか、嬉しそうだね」
私はニッコリ笑みを浮かべると、
「えへへ、香澄ちゃんが一緒に海の別荘へお泊まりしようって誘ってくれたの。お母様の許しも頂いたし、来週が楽しみなんだ」
「海へ……宿泊……彩華、海に入るのかい?」
「うん、そのつもりだけど……どっ、どうしたのお兄様?」
私の返事になぜか兄の笑みが、氷のように冷たいものへ変化していく。
その様子に私はブルッと体を震わせると、そっと後ずさった。
「彩華、僕も一緒に行くよ。二条には僕から連絡を入れておくから安心して」
兄はそれだけ話すと、静かに廊下を歩いて行った。
その後ろ姿を呆然眺めていると、スマホの振動に私はハッと我に返る。
スマホを持ち上げ画面に目を向けると、そこにはメッセージが届いていた。
[歩さんには秘密よ!]
短い文に私は目を見張ると、もう知られてしまった旨を香澄に伝えるのだった。
翌日、部屋でくつろいでいると、女中の一人が来客だと私の部屋へとやってきた。
私はサッと立ちあがると、女中の後に続く。
玄関まで来ると、そこには花蓮の姿があった。
「花蓮さん、どうしたの?」
私が微笑みかけると、彼女は深く頭を下げる。
あがって、と彼女を居間へと案内させると、女中にお茶を頼み、向かい合うように腰かけた。
「彩華様……本当にありがとうございました。あのパーティーに参加させてもらったおかげで、思っていたよりも早く、会社も持ち直すことができたんです。何度お礼の言葉を伝えても足りません……」
「そんな堅苦しくなくていいよ、リラックス、リラックス。でもよかった、花蓮さんが元気になって、私も嬉しいわ」
「彩華様……!!!」
「ふふ、彩華でいいよ。ところで今日はどうしたの?」
私の言葉に押し黙る花蓮にじっと視線を向ける中、ふと外が何やら騒がしくなった。
次第に騒ぎが大きくなってくると、突然部屋の襖が大きく開かれた。
「彩華お姉様!!!……もうどうして一条様に言っちゃったの!!!…………あらあなたは?」
突然の大きな声に私は大きく飛び退くと、怒った様子の香澄と視線が絡む。
香澄の後ろからは、不機嫌を隠そうともしない、冷たい目をしたお兄様が、ゆっくりと近づいて来ていた。
ひぃっ……お兄様もなんか怒ってる……。
そっと花蓮さんに視線を向けると、驚きのあまり口を半開きに固まっていた。
「彩華、煩くして悪いね。……それよりも、北条さん君も一緒に別荘へ来るといい」
「えっ!?私ですか?……それよりも別荘って……なんのことです?」
「はぁっ!?何勝手なこと言ってるのよ!!!北条ってお姉様を虐めていた女でしょ!!!」
その言葉に花蓮小さく顔を歪めると、恐縮したように頭を垂れた。
「あぁそうだが……女同士だと男が入れない場所も多い。お前の行動を抑止する役目は必要だろう。……北条さんちょっとこっちに来てくれるかな」
兄の言葉に花蓮は恐々立ち上がると、ゆっくりと兄の傍へと歩いて行く。
二人で何やらコソコソと話すと、花蓮はしっかり前を向き香澄を見据えた。
「二条様、私も同行いたしますわ」
「はぁ!?私が許可するとでも思っているの……?」
睨み合う二人の間に兄が割り込むと、兄はスマホを掲げ、香澄へと見せつけた。
「もうすでに、お前の兄、二条敦の許可は取ってある、問題ない」
そっとお兄様の掲げるスマホ画面に、目を凝らしてみると、
[……なんかわからないですが、いいっすよ。人数多い方が楽しいと思うんで]
と書かれていた。
香澄は苛立つようにお兄様!!!!と叫ぶと私の傍へ駆け寄ってくる。
そんな香澄を花蓮後ろから捕まえると、私から引き剥がすように自分の元へと引き寄せた。
「北条家ごときが、何様なの!離しなさいよ!!」
「彩華様が困っているでしょう!」
あれ……結局、花蓮の話を聞けていないわね……。
まぁいいか……。
二人はいがみ合うように視線を交わらせる中、私はオロオロとこの惨状を眺めている事しかできなかった。
********おまけ********
歩と花蓮の会話
*********************
花蓮はおずおずと言った様子で、歩の前で立ち止まると、体を強張らせた。
「北条……彩華は許したようだが……僕は許していない。あれだけの事をしておいて無罪放免なんて考えるな」
「そんな事わかっています!!私は……彩華様に償いたい……でも彩華様はお優しいから……」
歩はその言葉に小さく口角を上げると、花連の肩に手を添えた。
「そう思うなら、彩華をあの香澄から守れ。あいつは彩華に擦り寄って、彩華の迷惑も考えず、自分の兄と婚約させようと画策しているんだ」
「えっ!?本当なの!」
「あぁ、彩華を見てみると良い、あの彩華の困った表情……可哀そうだろう?」
「あら……本当だわ……!私、彩華様ために全力を尽くします!!!!」
頼んだよ、と歩は小さく笑みを浮かべると、彼女の背中を軽く香澄の元へと押した。
女同士、邪魔を出来ないところもあるからな、これで少しは香澄の邪魔をしてくれるだろう……。
言い合う二人を横目に、歩は徐にスマホを耳に当てると、日華へ電話を掛けていた。
あの時立花さくらの言った言葉が、何度も反芻する中、答えの出ない現状に頭を抱える。
彼女は私のことも彼のことも知っていて、それに内容も知っているようだった。
こうやって改めて考えてゲームの内容を考えてみると、確か主人公が好きになる男性の婚約者として、私が登場するはず。
なのにどうして私が二条と婚約していると思ったのだろうか……?
彼女が二条狙いだから?可能性としてはそれしか考えられないが……。
でもそれならどうして彼女は、私が学園に居ないことに何もいわないのかな。
まぁ、直接会ったのは数分、花蓮が居る手前聞けなかったとか……。
ゲームの内容を知っているのであれば、もっとこうなんていうか、ゲームから外れた行動に怒ると思うんだけどな。
うーん、やっぱりいくら考えてもわからない。
部屋の中、座布団の上で座っていると、机に置いてあったスマホのバイブ音が響く。
徐に手を伸ばすと、画面には二条 香澄 の名前が表示されていた。
香澄ちゃん、どうしたんだろう……?
耳にスマホを当てると、香澄の明るい声が響く。
「もしもし、彩華おねぇさま!!来週、海の別荘に遊びに行くの、一緒に行かない?」
「別荘……?来週なら構わないけど、泊まりになるのかな?」
「ええ!お兄様もいるし安心よ!行きましょうよ!ねぇっ!」
「わっ、わかったわ。お母様に聞いてみる、また連絡するね」
私はスマホを手にしたまま立ち上がると、母の部屋へと向かった。
母に別荘の件を話をしてみると、二条家なら安心ね、いってらっしゃいとすぐに了承をもらえた。
私はスマホ片手に香澄に別荘へ行く旨のメッセージを送っていると、突然肩に手がのせられる。
徐に顔を上げ振り返ると、そこには兄が佇んでいた。
「彩華、どうしたんだい?なんだか、嬉しそうだね」
私はニッコリ笑みを浮かべると、
「えへへ、香澄ちゃんが一緒に海の別荘へお泊まりしようって誘ってくれたの。お母様の許しも頂いたし、来週が楽しみなんだ」
「海へ……宿泊……彩華、海に入るのかい?」
「うん、そのつもりだけど……どっ、どうしたのお兄様?」
私の返事になぜか兄の笑みが、氷のように冷たいものへ変化していく。
その様子に私はブルッと体を震わせると、そっと後ずさった。
「彩華、僕も一緒に行くよ。二条には僕から連絡を入れておくから安心して」
兄はそれだけ話すと、静かに廊下を歩いて行った。
その後ろ姿を呆然眺めていると、スマホの振動に私はハッと我に返る。
スマホを持ち上げ画面に目を向けると、そこにはメッセージが届いていた。
[歩さんには秘密よ!]
短い文に私は目を見張ると、もう知られてしまった旨を香澄に伝えるのだった。
翌日、部屋でくつろいでいると、女中の一人が来客だと私の部屋へとやってきた。
私はサッと立ちあがると、女中の後に続く。
玄関まで来ると、そこには花蓮の姿があった。
「花蓮さん、どうしたの?」
私が微笑みかけると、彼女は深く頭を下げる。
あがって、と彼女を居間へと案内させると、女中にお茶を頼み、向かい合うように腰かけた。
「彩華様……本当にありがとうございました。あのパーティーに参加させてもらったおかげで、思っていたよりも早く、会社も持ち直すことができたんです。何度お礼の言葉を伝えても足りません……」
「そんな堅苦しくなくていいよ、リラックス、リラックス。でもよかった、花蓮さんが元気になって、私も嬉しいわ」
「彩華様……!!!」
「ふふ、彩華でいいよ。ところで今日はどうしたの?」
私の言葉に押し黙る花蓮にじっと視線を向ける中、ふと外が何やら騒がしくなった。
次第に騒ぎが大きくなってくると、突然部屋の襖が大きく開かれた。
「彩華お姉様!!!……もうどうして一条様に言っちゃったの!!!…………あらあなたは?」
突然の大きな声に私は大きく飛び退くと、怒った様子の香澄と視線が絡む。
香澄の後ろからは、不機嫌を隠そうともしない、冷たい目をしたお兄様が、ゆっくりと近づいて来ていた。
ひぃっ……お兄様もなんか怒ってる……。
そっと花蓮さんに視線を向けると、驚きのあまり口を半開きに固まっていた。
「彩華、煩くして悪いね。……それよりも、北条さん君も一緒に別荘へ来るといい」
「えっ!?私ですか?……それよりも別荘って……なんのことです?」
「はぁっ!?何勝手なこと言ってるのよ!!!北条ってお姉様を虐めていた女でしょ!!!」
その言葉に花蓮小さく顔を歪めると、恐縮したように頭を垂れた。
「あぁそうだが……女同士だと男が入れない場所も多い。お前の行動を抑止する役目は必要だろう。……北条さんちょっとこっちに来てくれるかな」
兄の言葉に花蓮は恐々立ち上がると、ゆっくりと兄の傍へと歩いて行く。
二人で何やらコソコソと話すと、花蓮はしっかり前を向き香澄を見据えた。
「二条様、私も同行いたしますわ」
「はぁ!?私が許可するとでも思っているの……?」
睨み合う二人の間に兄が割り込むと、兄はスマホを掲げ、香澄へと見せつけた。
「もうすでに、お前の兄、二条敦の許可は取ってある、問題ない」
そっとお兄様の掲げるスマホ画面に、目を凝らしてみると、
[……なんかわからないですが、いいっすよ。人数多い方が楽しいと思うんで]
と書かれていた。
香澄は苛立つようにお兄様!!!!と叫ぶと私の傍へ駆け寄ってくる。
そんな香澄を花蓮後ろから捕まえると、私から引き剥がすように自分の元へと引き寄せた。
「北条家ごときが、何様なの!離しなさいよ!!」
「彩華様が困っているでしょう!」
あれ……結局、花蓮の話を聞けていないわね……。
まぁいいか……。
二人はいがみ合うように視線を交わらせる中、私はオロオロとこの惨状を眺めている事しかできなかった。
********おまけ********
歩と花蓮の会話
*********************
花蓮はおずおずと言った様子で、歩の前で立ち止まると、体を強張らせた。
「北条……彩華は許したようだが……僕は許していない。あれだけの事をしておいて無罪放免なんて考えるな」
「そんな事わかっています!!私は……彩華様に償いたい……でも彩華様はお優しいから……」
歩はその言葉に小さく口角を上げると、花連の肩に手を添えた。
「そう思うなら、彩華をあの香澄から守れ。あいつは彩華に擦り寄って、彩華の迷惑も考えず、自分の兄と婚約させようと画策しているんだ」
「えっ!?本当なの!」
「あぁ、彩華を見てみると良い、あの彩華の困った表情……可哀そうだろう?」
「あら……本当だわ……!私、彩華様ために全力を尽くします!!!!」
頼んだよ、と歩は小さく笑みを浮かべると、彼女の背中を軽く香澄の元へと押した。
女同士、邪魔を出来ないところもあるからな、これで少しは香澄の邪魔をしてくれるだろう……。
言い合う二人を横目に、歩は徐にスマホを耳に当てると、日華へ電話を掛けていた。
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