上 下
81 / 169
高等部

首謀者は

しおりを挟む
一人屋敷へ戻ると、女中は不満をあらわにして玄関先で私を待っていた。
私はニッコリと微笑みを浮かべると、女中は渋々といった様子で、静かに彼女が待っている応接室へと連れて行く。
女中は終始何か言いたげな表情でチラチラ視線を向けるが、私は笑顔を崩さず口を閉ざした。
そんな私の姿に女中は小さく息を吐きだすと、部屋の前で立ち止まり静かに襖を開ける。

その先へ目を向けると、そこには土下座をした花蓮の姿があった。
額を畳にくっつけピクリとも動かない。
土下座……これはちょっと……。
私は顔を引き攣らせながら座布団へ腰を下ろすと、すぐに顔を上げてほしいと願い出る。
彼女は緊張した面持ちで顔を上げると、焦燥しきった顔をこちらへ向けた。

「この度は本当に申し訳ございませんでした」

「いいのよ、それに堅苦しい話し方はやめにしない?今は誰もいないわ」

閉まった襖へ目を向けると、私は笑みを作る。
彼女は目を伏せながら気まずげにボソボソ呟くと、困った様子で押し黙った。
そんな彼女の様子にリラックスさせるように彼女の肩へ手を置くと、口を開く。

「大丈夫、普通に話して、彩香と呼んで。私も花蓮さんと呼ぶわ」

彼女はわかりましたと頷くと、真っ赤に腫れあがった瞼をこちらへ向けた。

「彩華様、ごめんなさい。私……何も知らなくて……。あんなことをしたかったわけじゃないの。ある人に脅されて、それで……ッッ。こんなこと信じてもらえるかわからないけれど、あなたをあの学園から追い出さないと私の弟が……奏太があの女に人生を壊されされちゃう。でもこんな事になってしまって、家が……全てが……もう無茶苦茶なの……」

彼女は唇を噛みしめると、ポロポロと大きな雫が頬をつたっていく。

「あの女?あなたが私をいじめていたのは、誰かに命令されていたの?」

彼女はコクリと頷くと、また深く頭を下げる。

「こんなの言い訳だ……と思うかもしれない。でも私は、立花 さくらに指示されただけなの。まさか、あなたが一条家のお嬢様なんて考えもしなかった。サクベ学園に来ているなんて思わなかった。北条家なんてちっぽけな家だと、あなたのような高貴な方に会う機会もなかったから……。ただあなたを追い出せば、弟が彼女から解放されると思ってやったわ。自分勝手で身勝手な行動だったと自覚している。こうなってしまったのも自業自得……だけど、だけど……ッッ」

立花さくら、その名に雷が落ちたかのような衝撃を受けると私は放心状態になった。

立花さくら……嘘でしょ。
その名は乙女ゲームのデフォルト名。
どうしてヒロインが……?
それよりも私がサクベ学園に居るとどうして知っているの?

一度も出会ったことはない。
ヒロインの顔は覚えている、パッケージに大きくのっていたもの。
なのに私という存在を知ってる、それは即ち彼女も前世の記憶を持っている……?
恐ろしい結論に達し、私は小さく体を震わせた。

「……その立花さんという方は、今はどうしているの?」

恐々と言葉にすると、体が小さく震えだす。

「立花は私たちの家が条華家から外されたと知るや否や、手のひらを返したように家に来なくなったわ」

静まり返った部屋の中で、彼女は目をウルウルさせながら、頭を垂れる。
ポタポタと水滴が机に落ちると、彼女は声を殺し唇を噛んだ。

「……ッッ、こんなこと言うのは間違っていると、自覚しているわ。うぅ……でも、でも……もう私だけの力じゃどうにもならない。一条家に見放された私たちは、取引先からも手を引かれ、分家からも切り離されてしまった。私はあなたに酷いことをしたから罰を受けても当然。だけど、父や母やそれに弟は……何も悪くないわ。会社もう倒産寸前まで追い込まれて、一家路頭に迷う未来しか見えない。お願い……許してくれとは言わないわ。どんな形でも償うから……。でもどうか……どうか家族だけは助けて……お願いします」

追いすがるような声で深く頭を下げると、私は彼女の手をそっと握りしめる。
違う、これは私の責任……。
私が学園を変えたことで、巻き込んでしまった被害者。
私がエイン学園に素直に進学していれば、こんな結末にはならなかった。

「花蓮さん顔を上げて。こちらこそごめんなさい、お兄様はやりすぎたの。私からお兄様に話をして、あなたの家を元通りにするわ。それと近々行われる花堂家が主催するパーティーへ、私と一緒に出席しましょう。そこで一条家との仲を見せつけられれば、会社を立て直すのも早いはずよ。だから安心して。今日はもうゆっくり休んだほうがいいわ。ただ……今度でいいのだけれど、もう少し詳しく立花さんのお話を、聞かせてもらってもいいかしら?」

私の言葉に、花蓮は大粒の涙をこぼすと、ありがとうございますと小さく頷いた。
沈黙が部屋を包み、彼女はまた深く土下座すると、畳に額を押し付ける。

「この御恩は一生忘れません。どんな形でも必ず罪は償いますわ」

彼女の絞り出すような声に私はそっと手を添えると震える体を抱きしめた。

彼女を家に返すと、私はすぐに兄の部屋へと向かう。
兄は私が来ることがわかっていたようで、深いため息を吐くと、わかったよと呟きながら、北条家にかけていた圧力を外すよう手配をしてくれた。
その後、すぐに私は断るはずだったパーティーへ参加すると返事を出すと、北条家にも招待状を送るよう、花堂家へと指示を出したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

変態王子&モブ令嬢 番外編

咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と 「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の 番外編集です。  本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。 「小説家になろう」でも公開しています。

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。 私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。 攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって? 私は、執事攻略に勤しみますわ!! っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。 ※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...