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高等部

始まりは

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体育祭が終了すると、すぐに梅雨の季節がやってきた。
毎日ジメジメと鬱陶しい中、私は今日も一人教室で窓の外を眺めていると、上級生が私の元へとやってきた。
はぁ……また来た。

「一条さん、バスケ部に入らない?あなたの足と運動神経があれば、すぐにレギュラーになれるわよ!」

「バスケ部なんかより、その速い足を生かして陸上部にしましょうよ!あなたなら即戦力になるわ!」

私は上級生の勢いに顔を引き攣らせると、必死で断る。
しかし納得していない様子でまた来ると帰っていくのがいつものパターン。

あの体育祭の一件以来、私の走りを見た運動部の生徒が勧誘しにくるようになってしまった。
どうやら私の走りは、そこそこ速かったらしい。
私はそれを苦笑いを浮かべながら断り続けているが、彼女たちに諦める様子はない。
私自身、前世で運動部に所属していたから、どこかへ入りたいとは思う。
だけどなにせ、一条家の娘ともなれば、放課後、土曜日、日曜日とせわしなく予定があるんだよね。
あまり練習に参加が出来ないとわかっているにも関わらず、運動部へ入部する気にはなれなかった。
それにどうして参加できないのか、一条家を知らない彼女たちに説明することも出来ないしね。

まぁそれは置いといて、あの体育祭終了後、遠巻きだった生徒達が数人声をかけてくれるようになった。
だがそんな様子を気に食わないらしい、女子生徒たちが苛立つ様子で私へ嫌悪の視線を向ける。
(何なのよ、あいつ)
(ねぇ、調子にのりすぎじゃない?)
(そうそう、あの子、体育祭の最中教室で二条君とイチャついていたらしいよ)
(えー、うそ!何それ、やっぱりイケメンを独り占めしたいだけじゃない)
(噂では二条君や華僑君以外の男にも愛想振りまいているんだって、ありえないよね~)

コソコソと悪口がささやかれる中、女子生徒達の中央に腕を組み佇んでいた女がゆっくりと口を開いた。

「あの女……目障りよね?」

集まっていた女子生徒達は同意するようにコクコクと頷くと、中央の女は一人ほくそ笑んでいた。





翌日、雨が降りしきる中、傘を差しながら校門をくぐると教室へと足を向けた。
教室のドアを開けると、何やら私の席の周りに人が集まっている。
いつもと違う教室の雰囲気に首を傾げていると、私の存在に気が付いた生徒達はが避けるように道を開けていく。
その先へ目を向けると、机の上に油性マジックで落書きがされていた。
そっと机に触れると、失笑する声が耳にとどく。

死ね、学校辞めろ、尻軽女、バカ、消えろ、ブス、

机には私を誹謗中傷する言葉がびっしり書きなぐられていた。
はぁ……暇人だね。
私は小さく息を吐くと、カバンからハンドクリームとティッシュを取り出した。
ハンドクリームを油性ペンの上に塗り、ティッシュでこする事数分、粗方落書きを消すと、次に筆箱を取り出し、消しゴムで机を擦っていく。
全て消しきるには少し時間はかかるが、ホームルームまでには落ちるだろう。
気が付けば、生徒達は静かに私の周りからいなくなっていた。

そうしてホームルームが始まり、私は何事もなかったかのように席へとつく。
そんな様子が面白くないのだろう、女子生徒達はコソコソと何かを話すと、鋭い目で睨みつけてきた。
相手にするだけ無駄だなぁ、まぁじきに飽きるでしょう。
そう悟り、女子生徒達を一瞥すると、授業に集中しようと、しっかりと前を向いた。

翌日私は早めに登校すると、またしても落書きされ、その上には一輪の花が飾られていた。
真っ白な菊の花。
あからさまな嫌がらせにため息が漏れる。
全くこんなくだらない事をいつ行っているのだろうか。
早朝なら落書きされる前にと思ったんだけど……。
放課後だと、どうしても家の用事やお稽古事で、中々残ることなんて出来ないだよね。
私は一人静かな教室でため息を吐くと、徐に花瓶を机の上から退け、窓際へと持っていく。
そうしてまた机の落書きを綺麗に消すと、平然とした様子で席へ着くのだった。

このぐらいの嫌がらせなら、問題はない。
それよりもこの事を二条や華僑、日華先輩……それにお兄様には絶対に知られないようにしないと。
二条や華僑が知れば、友達である私を助けようとするだろうし。
それは火に油を注ぐであろう事は、想像するに難くない。
もし日華先輩に知られればお兄様に、すぐに知られてしまうだろう。
お兄様に知られればきっと、私が気が付かない内に、いじめた主犯がつぶされてしまう。
私はそんな事を望んでいない。

子供じみたいたずらだし、飽きればやめるでしょ。
むしろ今まで誰も私に対して意見など言ってこない中等部生活に比べれば、刺激があって面白いぐらいだ。
一体次は何をしてくるのかな?
そろそろ漫画とかでよく見る、下駄箱に画びょうとか。
ふふっ、もしそうなっても、まぁ気を付けておけば問題ない。

そんな事を考えながら私はペンをクルクルと回していると、次第に生徒達が登校してくる。
そんな中、集団の女子生徒達が教室へ入ってくると、私の平然とした様子に苛立った様子を見せる。
私はそんな女子生徒達にニッコリ笑いかけると、彼女たちの眉間の皺が増えていた。
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