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高等部

目立つ存在

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教室へ戻ると、私は女子生徒に囲まれることになった。
予想はしていたけれど……はぁ……。
私は煩わしさを隠しながら、何とか頬の筋肉を持ち上げると、迫りくる女子達に笑みを浮かべる。

(ねぇ、ねぇ一条さん、彼らとはどんな関係なの?)
(一条さん、一条さん、彼らの好きな物とか~趣味とか~教えて)
(二人と知り合いなら、二条君を紹介してくれない?)
(あの……これを華僑君に渡してほしいんだけど……)
(お願い一条さん!後生の頼み、彼らの写真を撮ってほしいの!いい値で買うわ)

ギラギラと猛獣のような彼女たちの勢いに、頬の筋肉がヒクヒクと動く。
中等部と違ってすごいパワー。
でも彼らはこういったことを苦手なはずだし……。
でも何か言わないと、ここから逃げれないよね……。
私は覚悟を決めると後ずさりながら、意を決して口を開いた。

「あのですね、二人とは知り合いだけど、そういったことはちょっと……。その……自分で伝えた方が良いんじゃないかな」

私は誤魔化す様に笑って見せると、女子生徒達の雰囲気が一変した。

(なによ、それが出来ないから頼んでいるのに)
(そうよ、そうよ!なに、まさか彼らを独り占めしたいの?)
(えー何それ、しらけるわ~。ねぇ、もう行こう)

女子生徒達は私を冷たく見据えると、チリチリに去っていく。
彼女達から解放されたことに、ほっと胸をなでおろすと、私はすぐに席へと戻り、そっと息をひそめた。

しかし休み時間毎に、入れ替わり立ち代わり二条や華僑の事を問いただされうんざり。
昼休みになると、私は逃げるように教室を後にした。
私はコソコソと人目を気成しながら昼食を片手に人通りの少ない校庭裏へ向かうと、誰もいないベンチへと腰かける。
満開の桜が咲き誇り、風に流れる桃色の花びらへそっと手を伸ばす。
花弁は手をすり抜け昼食の上に落ちた。

はぁ……幸先不安だなぁ。
こんなはずじゃなかったんだけど……。
花びらを見つめながら深いため息をついていると、クラスの男子生徒がこちらへやってきた。
彼は私の前で立ち止まると、爽やかな笑みで話しかける。

「一条さん、こんなところでお昼?あっ、俺、同じクラスなんだけど覚えているかな?」

誰だっけ……。
入学して数週間、顔見知りではあるが、話したことは一度もない。
私は困ったような笑みを返すと、男子生徒は気にする様子もなく私の隣へと腰かけた。

「ねぇ、一条さんって彼氏いるの?」

彼氏、なんだか懐かしい響き。
お嬢様学校に居た時は、婚約者が~と、(彼氏)と言う単語なんて、でこなかったからなぁ。

「いないわね」

どうしてそんな質問をしてくるのか、意図はわからないが素直に応えると、彼の瞳がキラキラと輝きを増す。

「まじで!俺もさ、フリーなんだよね!だからさ……ッッ」

「何の話をしているのかな?」

その声に振り返ると、いつの間に来たのか……ベンチの後ろに兄が佇んでいた。
隣に座っていた男子生徒は兄の姿に大きく目を見開くと、青ざめながら焦って立ち上がる。

「どっ、どうしたの!?大丈夫かしら?顔色が……」

具合の悪そうな彼へ手を伸ばした瞬間、邪魔するように私の腕を兄が捕らえた。
彼ははすみませんでした!!!と勢いよく謝ると、切羽詰まった様子で校庭から逃げていく。

「一体何だったのかしら……?」

ボソリと呟くと、兄は優しい眼差しを浮かべ私の髪を撫でた。

状況がつかめず兄を見上げていると、二条と華僑が焦った様子でこちらへと駆けてくる。

「一条こんなところに居たのか。ってすみません、歩さん、ありがとうございます」

「良いんだよ、でもちゃんと見てないと……わかっているよね?」

頭の上で交わされる言葉に首をかしげていると、華僑は気にしないでねと、ニッコリと微笑みを浮かべた。

昼休憩終わり私は急いで教室へ戻ると、女子生徒達の視線がこちらへ集中する。
先ほどまでの好奇心からくる視線ではなく、悪意のある視線に私の体が強張った。
これは……はぁ……また面倒なことになりそうだな……。
重苦しい教室の雰囲気に察すると、ヒソヒソと囁かれる声を振り払うように自分の席へと戻っていった。

あの日から生徒たちは私を遠巻きで眺めるようになっていく。
私の姿を見てコソコソ話すのだが、私が顔を上げるとスッと黙る。
私はそこに存在しないかのように扱われ、直接話しかけられることはなくなった。
正直、この状況が良いとは言えないけれど、実害はないし大人しくしておこう。
そう前向きにとらえると、私は囁かれる言葉に気にも留めず、学園生活を送っていた。

そんな日が続く中、高校生になって最初のイベントである体育祭が近づいてきた。
私は教室で一人浮いた存在となっており、もちろん体育祭でペアになる友達もいない。
皆が出場競技を決めていく様を羨まし気に眺めていると、隣の女子生徒が突然立ち上がった。

「一条さんが良いと思います~」

自分の名に私は慌てて顔を向けると、教室内の視線がこちらへ集中している。
突然の事で狼狽していると、前で仕切っていた男子生徒と目があった。

「一条さん、あっと、えー最終競技のリレーに推薦されているんだけど、大丈夫かな?」

リレー……?
リレーのアンカーに選ばれたの……?
どうして選ばれたのか、状況についていけないまま、とりあえずコクリと頷くと、女子生徒達の失笑する声が耳にどどく。
(ねぇいいの?あの子、絶対足が遅いわよ~)
(だからじゃない~、いい見世物になりそう)
(リレーで大恥かいて、二条君や華僑君に恥ずかしい姿をみせるチャンス)
(面白そう、クスクス)
何とも幼稚な彼女たちの言葉に私は呆れてものもいえなくなる。
嘲笑う彼女たちへ視線を向けると、嫌な笑い声が頭に響いた。
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