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中等部

思わぬ失態

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あれから数日、狐目の男はあれ以来見ていない。
変わらない日常に、男の存在を忘れかけていたある日の事。
私はいつものように学園へ登校するや否や、二条と華僑に屋上へと連行された。
一体全体どうしたのか、彼らの只ならぬ雰囲気に私は大人しく従い、屋上の扉を潜ると、冬の始まりを告げる肌寒い北風が頬を掠めていく。
二条と華僑は私の手を離し立ち止まると、ゆっくりとこちらへ振り返った。

彼らの視線に私は一歩後ずさると、詰め寄るように近づいてくる。
ジリジリと後退する中、背中にコンクリートの冷たさを感じると、二条と華僑は私を囲うように見下ろす。
なに、私何かしたっけ……?

「一条、俺たちに言う事はないか?」

二条へ視線を向けると、不機嫌そうな表情をしていた。

「あっと、えーと、あの、その……」

何だろう、と私は苦笑いを浮かべながら、サッと二条から目を逸らすと、逆側にいた華僑と視線が絡んでしまう。

「一条さん、隠し事はいけませんよ!」

隠し事……あぁ、まさか……進学の話ッッ。
そうピンっとくると私は大きく目を見開き、その場で固まった。

「はぁ……どうして黙ってたんだ?」

どうしてばれたんだろう……。
動揺しながら頭を取れると、上手く言葉が出てこない。

「えっ、その、あの、どっ、どうして知っているの……?」

二条から深いため息が漏れたかと思うと、華僑が私の顔を覗き込む。

「昨日の放課後、職員室へ用がありまして、その時に先生から教えて頂きました。あまりに衝撃的すぎて先生に詰め寄ったほどです……」

おおぅ、先生か……。
秘密にしてくれとは頼んでいないけど、人の進路をペラペラと喋るのは教師としてどうなの?
私は頭に手を当て項垂れると、頭痛がしてくる。
自分から話をするつもりだったんだけど……まさかこんな形でばれるなんて……。
もう少し心の準備をしたかったのに……。

「あの、黙っていてごめんなさい。ちゃんと話をするつもりだったの。サクベ学園へ進学すると決めたときに……。高校は離れてしまうのが寂しくて……なかなか言えなくてごめんなさい」

たどたどしく言葉にすると、二人の動きが止まった。

「「はぁっ!?、えええええっ!」」

彼らの反応に私は顔を上げると、二人の表情を交互に見つめる。
驚く二人の様子に、思わず声が漏れた。

「えぇ、この話じゃないの……?」

「なんだそれ、俺は聞いてないぞ。一条、エイン学園へ行かないのか?」

「僕も初耳ですよ、ってそんな大事な事どうして黙っていたんですか!?」

彼らの反応に墓穴を掘ってしまったと気が付くが、時すでに遅し、もう引き返すことはできない。
あぁ、やってしまった。
でもこの話じゃないのなら一体何のことを言っていたんだろう?

「えーと、ごめん、ちょっと待って。この話じゃないのなら、二条も華僑君も何の事を言っていたの……?」

「僕が先生から聞いたのは、一条さんが男にからまれていたということですよ」

そのこと!?
まぁ、数日前絡まれていたけど、ってどうして先生が知っているの?
どこから知ったのか知らないけど、何もなかったし、わざわざ伝える必要ないよね。
違う、違う、今はそのことじゃなくて……。
失態に頭を抱え恐る恐る二人へ視線を向けると、二条も華僑もどういうことだと、怒った表情を浮かべていた。
うぅ……今更違うと言っても遅いよね……。

「一条、本当にサクベ学園へ行くのか?あそこは他県だろう?まさか……一人暮らしでもするつもりなのか?」

「そうですよね……ここから通うには遠すぎますし……」

私は二人の言葉に小さく頷くと、父に部屋を見つけてもらっている旨を説明する。

「一条家の当主なら、良い物件を見つけるだろうが……。それよりも歩さんが、一人暮らしなんて許すとは思えないが……」

その言葉に私は気まずげに視線を逸らせると、ボソッと呟いた。

「お兄様にまだいってないんだよね……」

私の言葉に、華僑は信じられないというような表情を浮かべ、二条は大きなため息をついた。

「一条さんそれはまずいですよ……」

「まじか……まさか話さないつもりなのか?」

「ううん、ちゃんと話すつもりだけど、なかなか言い出せなくて……。時期を見てとズルズル……」

二条は私の様子にまたも深いため息を吐くと、予鈴のチャイムが響き渡った。
あぁよかった、とりあえずこの尋問から解放される!
私はチャイムに気を散られた二人の間をすり抜けると、おぃ、待てとの引き留める声に立ち止まることなく、急いで教室へと走って行ったのだった。

**********おまけ************
   屋上に残された二人
***************************

「はぁ、信じられね。てか本題の絡まれた話を聞けていないな」

二条は開け放たれた扉を眺めながら、項垂れるようにその場に座り込んだ。

「そうですね。僕も驚きすぎて混乱しています。まぁ、でもあの様子ですと、何もなかったみたいですね。ところで、二条君はどうします?」

華僑と二条は視線をあわせると、二人は大きく頷いた。

「今からでも十分間に合うだろう」

「僕も両親に話を通しておきます。この事は一条さんに黙っていましょうか。彼女も僕たちに伝えなかったんですから……ね」

そうだな、と小さく微笑みを浮かべた二条と華僑は、そのまま教室へ戻ることなく職員室の方へと足を向けた。
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