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中等部
ホワイトクリスマス:後編
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食事が終わり一息つくと、薄暗い部屋の中、私は窓の外へ映る夜景をじっと眺めていた。
綺麗、このまま終わってしまうのかな……。
テーブルの蝋燭がユラユラと揺れ、夜景に赤い炎が浮かんでいる。
消えそうなその炎を眺めていると、突然二条は椅子から立ち上がり、私の手をとって窓の傍へと誘っていった。
戸惑いながらもつれそうになる脚を転ばないよう必死に動かすと、ガラスの窓には二条と並んだ私が夜景をバックに映し出される。
私はじっとガラスに映る二条の姿を見つめていると、彼はゆっくりと口を開いた。
「一条、俺を避けていた理由は華僑から聞いた。一条言ってたよな……俺たちの婚約話が出た時、まだ幼いから……この先色々な人に出会って、その中で本当に好きな奴が見つかるかもしれない」
彼の言葉に静かに頷くと、夜景から視線を逸らし振り返る。
「確かに一条の言う通り俺は子供だった。好きって気持ちをちゃんと理解していなかったのかもしれない。ただ傍に居たくて、誰にも取られたくなかった。そんな子供じみた独占欲が強かったのは確かだ」
そこで言葉を止めると、二条の瞳に私の姿が映し出された。
「でもお前に避けられて、誰かのものになりそうな現実に、俺ははっきり気が付いたんだ。……俺はやっぱりお前が好きだ。今まで学園でも外でも色んな女を見てきたが……他の女なんて眼中にない。だってお前以上に俺を夢中にさせる女なんていないからな」
真っすぐな告白に私は言葉を詰まらせると、彼の顔を見ていられない。
違う、違う……、今がそうなだけ……ヒロインが現れればきっと……。
だってここはゲームの世界で……私はヒロインにはなれなくて……。
「なぁ俺じゃダメなのか……?まだ俺の気持ちが信用できないのか……?」
消え入りそうな声に顔を上げると、悲しげな瞳を浮かべた二条がじっと私を見つめていた。
「違うわ……違うのよ。二条……私は怖いの……。お願いそんなこと言わないで……ッッ」
熱い思いがこみ上げようとするのを必死に抑え込むと、私は首を横に振った。
「高等部……卒業まで私は誰とも婚約しない。あの時そう言ったよね……それは変わらない、変えられないの……ッッ」
きっと彼には私が何を言っているのか伝わってないだろう。
支離滅裂な言葉に、二条は私の肩を強く引き寄せると、あの時より幾分厚くなった胸の中に囚われる。
「はぁ……またそれか。俺が嫌いなわけじゃないんだよな?嫌いなら……今すぐに突き放してくれ」
二条はそう言葉を紡ぐと、私を包み込む腕の力を弱めた。
突き放すなんて、できるはずない……だって……。
私は恐る恐る二条へ体を預けると、また腕の力が強くなった。
「……よかった。なぁ、ところで日華家との婚約話はどうするだ?」
突然出てきた(日華)と言う言葉に私はビクッと体を跳ねさせると、二条を見上げた。
「どうして……知っているの……?」
「でっ、どうするんだ?」
私の質問に答えるつもりがないのか、二条は私の肩に顔を埋めると、熱い吐息が肌にかかる。
「んっ……ッッ二条……んんッ」
くすぐったさに身をよじると、二条は逃がさないとばかりにさらに腕に力を込めた。
二条は耳元へ唇を寄せると、熱い吐息にギュッと彼の服へとしがみつく。
「んん、二条……ッッ、さっきも話したでしょう。高等部を卒業するまで、私は誰とも婚約しないわ」
何とか言葉にすると、私を捕えていた腕の力が弱くなっていく。
「そっか、お前の口から聞けて安心した」
私は彼を見上げると、愁いを帯びたその表情にまたドクンと胸が高鳴った。
鼓動が早くなる中、二条は私から体を離すと、ポケットへ手を入れ何かを取り出した。
「一条、少し遅くなったが……その……メッ、メリークリスマス。退院おめでとう」
彼の手の中には、小さな箱が置かれている。
二条はその箱をゆっくりと開けると、中から現れたのは可愛らしいブレスレット。
ローズゴールドにエメラルドの宝石があしらわれキラキラと輝いている。
美しいブレスレットに魅入っていると、自分は何も用意していない事実に私は慌てて顔をあげた。
「ありがとうで。でも、その……ごっ、ごめんなさい、私何も用意していなくて……」
「気にすんな、俺が渡したかっただけだ」
二条はいつもの優しい微笑みを浮かべ私の腕を持ち上げると、そっとブレスレットを私の手首へとつけた。
その様はまるで乙女ゲームのスチルにあるような美しさで、私は必死に高鳴る鼓動を押さえたのだった。
綺麗、このまま終わってしまうのかな……。
テーブルの蝋燭がユラユラと揺れ、夜景に赤い炎が浮かんでいる。
消えそうなその炎を眺めていると、突然二条は椅子から立ち上がり、私の手をとって窓の傍へと誘っていった。
戸惑いながらもつれそうになる脚を転ばないよう必死に動かすと、ガラスの窓には二条と並んだ私が夜景をバックに映し出される。
私はじっとガラスに映る二条の姿を見つめていると、彼はゆっくりと口を開いた。
「一条、俺を避けていた理由は華僑から聞いた。一条言ってたよな……俺たちの婚約話が出た時、まだ幼いから……この先色々な人に出会って、その中で本当に好きな奴が見つかるかもしれない」
彼の言葉に静かに頷くと、夜景から視線を逸らし振り返る。
「確かに一条の言う通り俺は子供だった。好きって気持ちをちゃんと理解していなかったのかもしれない。ただ傍に居たくて、誰にも取られたくなかった。そんな子供じみた独占欲が強かったのは確かだ」
そこで言葉を止めると、二条の瞳に私の姿が映し出された。
「でもお前に避けられて、誰かのものになりそうな現実に、俺ははっきり気が付いたんだ。……俺はやっぱりお前が好きだ。今まで学園でも外でも色んな女を見てきたが……他の女なんて眼中にない。だってお前以上に俺を夢中にさせる女なんていないからな」
真っすぐな告白に私は言葉を詰まらせると、彼の顔を見ていられない。
違う、違う……、今がそうなだけ……ヒロインが現れればきっと……。
だってここはゲームの世界で……私はヒロインにはなれなくて……。
「なぁ俺じゃダメなのか……?まだ俺の気持ちが信用できないのか……?」
消え入りそうな声に顔を上げると、悲しげな瞳を浮かべた二条がじっと私を見つめていた。
「違うわ……違うのよ。二条……私は怖いの……。お願いそんなこと言わないで……ッッ」
熱い思いがこみ上げようとするのを必死に抑え込むと、私は首を横に振った。
「高等部……卒業まで私は誰とも婚約しない。あの時そう言ったよね……それは変わらない、変えられないの……ッッ」
きっと彼には私が何を言っているのか伝わってないだろう。
支離滅裂な言葉に、二条は私の肩を強く引き寄せると、あの時より幾分厚くなった胸の中に囚われる。
「はぁ……またそれか。俺が嫌いなわけじゃないんだよな?嫌いなら……今すぐに突き放してくれ」
二条はそう言葉を紡ぐと、私を包み込む腕の力を弱めた。
突き放すなんて、できるはずない……だって……。
私は恐る恐る二条へ体を預けると、また腕の力が強くなった。
「……よかった。なぁ、ところで日華家との婚約話はどうするだ?」
突然出てきた(日華)と言う言葉に私はビクッと体を跳ねさせると、二条を見上げた。
「どうして……知っているの……?」
「でっ、どうするんだ?」
私の質問に答えるつもりがないのか、二条は私の肩に顔を埋めると、熱い吐息が肌にかかる。
「んっ……ッッ二条……んんッ」
くすぐったさに身をよじると、二条は逃がさないとばかりにさらに腕に力を込めた。
二条は耳元へ唇を寄せると、熱い吐息にギュッと彼の服へとしがみつく。
「んん、二条……ッッ、さっきも話したでしょう。高等部を卒業するまで、私は誰とも婚約しないわ」
何とか言葉にすると、私を捕えていた腕の力が弱くなっていく。
「そっか、お前の口から聞けて安心した」
私は彼を見上げると、愁いを帯びたその表情にまたドクンと胸が高鳴った。
鼓動が早くなる中、二条は私から体を離すと、ポケットへ手を入れ何かを取り出した。
「一条、少し遅くなったが……その……メッ、メリークリスマス。退院おめでとう」
彼の手の中には、小さな箱が置かれている。
二条はその箱をゆっくりと開けると、中から現れたのは可愛らしいブレスレット。
ローズゴールドにエメラルドの宝石があしらわれキラキラと輝いている。
美しいブレスレットに魅入っていると、自分は何も用意していない事実に私は慌てて顔をあげた。
「ありがとうで。でも、その……ごっ、ごめんなさい、私何も用意していなくて……」
「気にすんな、俺が渡したかっただけだ」
二条はいつもの優しい微笑みを浮かべ私の腕を持ち上げると、そっとブレスレットを私の手首へとつけた。
その様はまるで乙女ゲームのスチルにあるような美しさで、私は必死に高鳴る鼓動を押さえたのだった。
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