50 / 169
中等部
逸る気持ち:前編 (二条視点)
しおりを挟む
あの日、ようやく一条を捕まえた。
どうして突然避けるようになったのか、問いただしたかったんだ。
けれど聞く前に香澄に連れていかれてしまった。
どれだけ考えてもわからない。
避けられるような事をした覚えはないからだ。
先ほどの困った一条の姿が頭を過ると、スマホの着信音が響いた。
通話ボタンを押すと、スマホ越しにすすり泣く声が聞こえる。
「もしもし、香澄か。どうしたんだ?」
「おっ、お兄様……グスッ、助けてぇ……一条さんが、一条さんが……ウゥ……ヒック……ッッ」
「おい、一条がどうしたんだ?何があった?」
「グスッ……一条さんがッッ……私を庇って車に……血がいっぱいで……ウゥッ、どうしようお兄様……」
その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。
俺は香澄へすぐに救急車を呼べと伝えると、全速力で香澄の元へと走っていく。
事故現場に到着すると、頭から血を流しグッタリとした彼女の姿に俺はその場に崩れ落ちた。
嘘だろう……。
意識のない彼女へ向かって何度も名を呼んでみるが、息は浅く目覚める気配はない。
辺りが騒然とする中、ようやくサイレンの音が耳に届くと、救護隊が彼女を救急車の中へと運んでいった。
俺も香澄もその救急車の後を追いかけると、日華総合病院へ搬送される。
すぐに歩さんに連絡をとり病院へ集まると、彼女は意識不明の重体だと聞かされた。
出来る限りの治療は行い、あとは目覚めるのを待つだけだと医者は話したが、彼女は目を覚まさなかった。
数日、一週間……時間だけが只々過ぎ去っていく。
俺は眠る彼女の隣に座っているだけ。
目覚めない彼女の姿に何度も話しかけてみるが、一度も返事はない。
このまま彼女を失ってしまう、そう考えると、怖くて怖くてたまらなかった。
彼女のいない世界はとてもちっぽけで、退屈で……光がなくなった。
俺は一人学園の屋上へと足を向け、色のない空を見上げると、彼女との思い出がよみがえる。
屈託のない笑みで笑いかけてくれる彼女の姿が鮮明に描かれると、いるかどうかもわからない神に必死で祈った。
二週間が経過したあの日、祈りが通じたのか……彼女が目を覚ました。
その姿に涙が止まらなかった。
彼女の笑顔をもう一度見れた喜びに感謝した。
目覚めた彼女は俺を避ける事無く、いつも通りに接してくれる。
あれは何だったのか、と問いかけたいが今更ぶり返すのも気が引けた。
彼女は順調に回復し歩けるようになった頃、なぜか容体が急変したと面会をとめられてしまった。
詳しい事情は教えてもらえない、だが命に別状はないと聞きほっとした。
何でも体の抵抗が弱り、一ヶ月ほど特別室へと移るのだとか。
彼女の回復のためならと会えない寂しさをグッとこらえる。
やっと彼女に避けられることなく、元のように話が出来るようになったんだけどな。
一月後、ようやく面会が解放されたあの日、俺はいつものように彼女の病室へと向かっていく。
久しぶりに会う彼女へ、大好き和菓子を用意し、喜ぶ顔を創造していると先客がいた。
扉へ耳を済ませると、日華家の当主の声に俺は扉の前で立ち止まる。
問診か、終わるまでここで待つか。
病室の隣にある待合の椅子へ腰かけると、彼女の病室に小学生ぐらい男の子が入って行った。
「あやかおねぇちゃん!僕と結婚してください!」
結婚との言葉に立ち上がると、開いたままの病室を覗き込んだ。
「俊はまだ8歳だろう?亮と結婚すれば、お姉ちゃんは本当のお姉ちゃんになるよ」
さっきの子供は日華家の次男か、いつの間に知り合ったんだ?
それよりも胸に抱きつくなんて……離れろッッ。
彼女に抱きつくその姿に、大人げなく嫉妬していると、ふと人影が現れる。
「俺は一条さんと、婚約したいと思っているよ」
その言葉に顔を向けると、そこには爽やかな笑みを浮かべた日華の姿。
「日華……」
「俺は来年18歳で彼女は16歳だ。お互いいつでも結婚できる。今は婚約を打診しているところだけどね。まぁ、そうやって威嚇するだけで、ここから動けない君に負けるつもりはないね」
日華は俺を押し退け病室へと入っていくと、一条の驚いた声が耳に届く。
婚約を迫る日華に、彼女ははっきりと答えない。
そればかりか楽しそうな笑い声が響くと、俺は慌てて病室から離れていった。
どうして突然避けるようになったのか、問いただしたかったんだ。
けれど聞く前に香澄に連れていかれてしまった。
どれだけ考えてもわからない。
避けられるような事をした覚えはないからだ。
先ほどの困った一条の姿が頭を過ると、スマホの着信音が響いた。
通話ボタンを押すと、スマホ越しにすすり泣く声が聞こえる。
「もしもし、香澄か。どうしたんだ?」
「おっ、お兄様……グスッ、助けてぇ……一条さんが、一条さんが……ウゥ……ヒック……ッッ」
「おい、一条がどうしたんだ?何があった?」
「グスッ……一条さんがッッ……私を庇って車に……血がいっぱいで……ウゥッ、どうしようお兄様……」
その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。
俺は香澄へすぐに救急車を呼べと伝えると、全速力で香澄の元へと走っていく。
事故現場に到着すると、頭から血を流しグッタリとした彼女の姿に俺はその場に崩れ落ちた。
嘘だろう……。
意識のない彼女へ向かって何度も名を呼んでみるが、息は浅く目覚める気配はない。
辺りが騒然とする中、ようやくサイレンの音が耳に届くと、救護隊が彼女を救急車の中へと運んでいった。
俺も香澄もその救急車の後を追いかけると、日華総合病院へ搬送される。
すぐに歩さんに連絡をとり病院へ集まると、彼女は意識不明の重体だと聞かされた。
出来る限りの治療は行い、あとは目覚めるのを待つだけだと医者は話したが、彼女は目を覚まさなかった。
数日、一週間……時間だけが只々過ぎ去っていく。
俺は眠る彼女の隣に座っているだけ。
目覚めない彼女の姿に何度も話しかけてみるが、一度も返事はない。
このまま彼女を失ってしまう、そう考えると、怖くて怖くてたまらなかった。
彼女のいない世界はとてもちっぽけで、退屈で……光がなくなった。
俺は一人学園の屋上へと足を向け、色のない空を見上げると、彼女との思い出がよみがえる。
屈託のない笑みで笑いかけてくれる彼女の姿が鮮明に描かれると、いるかどうかもわからない神に必死で祈った。
二週間が経過したあの日、祈りが通じたのか……彼女が目を覚ました。
その姿に涙が止まらなかった。
彼女の笑顔をもう一度見れた喜びに感謝した。
目覚めた彼女は俺を避ける事無く、いつも通りに接してくれる。
あれは何だったのか、と問いかけたいが今更ぶり返すのも気が引けた。
彼女は順調に回復し歩けるようになった頃、なぜか容体が急変したと面会をとめられてしまった。
詳しい事情は教えてもらえない、だが命に別状はないと聞きほっとした。
何でも体の抵抗が弱り、一ヶ月ほど特別室へと移るのだとか。
彼女の回復のためならと会えない寂しさをグッとこらえる。
やっと彼女に避けられることなく、元のように話が出来るようになったんだけどな。
一月後、ようやく面会が解放されたあの日、俺はいつものように彼女の病室へと向かっていく。
久しぶりに会う彼女へ、大好き和菓子を用意し、喜ぶ顔を創造していると先客がいた。
扉へ耳を済ませると、日華家の当主の声に俺は扉の前で立ち止まる。
問診か、終わるまでここで待つか。
病室の隣にある待合の椅子へ腰かけると、彼女の病室に小学生ぐらい男の子が入って行った。
「あやかおねぇちゃん!僕と結婚してください!」
結婚との言葉に立ち上がると、開いたままの病室を覗き込んだ。
「俊はまだ8歳だろう?亮と結婚すれば、お姉ちゃんは本当のお姉ちゃんになるよ」
さっきの子供は日華家の次男か、いつの間に知り合ったんだ?
それよりも胸に抱きつくなんて……離れろッッ。
彼女に抱きつくその姿に、大人げなく嫉妬していると、ふと人影が現れる。
「俺は一条さんと、婚約したいと思っているよ」
その言葉に顔を向けると、そこには爽やかな笑みを浮かべた日華の姿。
「日華……」
「俺は来年18歳で彼女は16歳だ。お互いいつでも結婚できる。今は婚約を打診しているところだけどね。まぁ、そうやって威嚇するだけで、ここから動けない君に負けるつもりはないね」
日華は俺を押し退け病室へと入っていくと、一条の驚いた声が耳に届く。
婚約を迫る日華に、彼女ははっきりと答えない。
そればかりか楽しそうな笑い声が響くと、俺は慌てて病室から離れていった。
0
お気に入りに追加
829
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は森で静かに暮らします。
あみにあ
恋愛
辺り一面が真っ赤な炎に染まってき、熱風が渦巻き、黒煙が舞い上がる中、息苦しさに私はその場で蹲った。
動く事も出来ず、皮膚が炎に触れると、痛みと熱さに意識が次第に遠のいていく。
このまま死んでしまう……嫌だ!!!
そう思った刹那、女性の声が頭に響いた。
「私の変わりになってくれないかしら?」
そうして今までとは全く違う正解で、私は新しい命を手に入れた。
だけど転生したのは、悪役の令嬢のような女性。
しかも18歳に愛する人に殺される悲惨な最後らしい。
これは何とか回避しないと……ッッ。
そんな運命から逃れる為悪戦苦闘するお話です。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~
硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚
多くの人々があやかしの血を引く現代。
猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。
けれどある日、雅に縁談が舞い込む。
お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。
絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが……
「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」
妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。
しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる