上 下
17 / 22

囚われの令嬢

しおりを挟む
そんなある日、以前聞いた王妃の言葉が頭を掠めた。

《あまり抵抗なさらず受けとめてしまったほうが楽ですのよ》

《わたくしもね、王妃になるのが嫌で反発していた時期があったの……。でも、どうやっても私たちは結局つかまってしまう運命なのよ……彼らにね……》

今なら……この王妃の言葉の意味がわかる。

私もあのときに……逃げることを諦めるべきだったのだ。

そう改めて思うが……もう全てが手遅れだった。

私はあれから……毎日毎日犯された。

彼が居ない間は蔓に……、そして彼が戻ってくれば彼にグチャグチャに愛される。

最近は、メイドや騎士に会った覚えもない。

薄暗い部屋の中、私の傍にはもうアラン王子以外存在しないのだ。

今日も彼が戻ってくると、私は蔓から解放され、ベッドの上へ引きずり込まれる。
その時にまた……王妃の言葉が頭をよぎった。

《身を委ねた方が楽になる》

ミヲユダネル……。
今からでも……遅くないのかしら……。
慣れた彼の指先が私の中へ侵入してくると、甘い快楽が駆け抜けていく。
そのまま私は与えられる快楽に身を委ねていくと、そのまま夜が明けていった。


そうして目を覚ますと、いつもの朝がやってくる。
鉄格子の隙間から漏れる光に、身動きが取れない鎖に、心が落ちていく。
もう何度流したかわからない涙が頬を伝っていくと、私は大きく息を吸い込んだ。

私は一体どれぐらいここに閉じ込められているんだろうか……。

そっと顔を上げ、月明かりが差し込む薄暗い部屋の中、ふと疑問が頭を掠めた。

グレイスに婚約破棄について相談しているとき。

私が婚約破棄する為に、処女を捨てようとしたとき。

この部屋から逃げようとしたとき。

窓から自殺を謀ろうとしたとき。

彼は私のもとへやってきた。

どんなに騎士やメイドがいないときを狙っても彼らはどこからとも突然現れる。
どれもタイミングが良すぎる登場だった。
なぜだろうか、私の行動をよんでいるのかしら?
私の行動を遠くから誰かに監視させているのかしら?
私に追跡魔法を付けているのかしら……?
そう考えてみるが……魔力を封じられた私では調べるすべがない。
彼に聞いても、きっと教えてくれないだろう。

様々に思う疑問の中、一番わからない事がある。

それは……私は彼といつ出会ったのだろうか。

なぜ彼はそこまで私に執着するのだろうか。

考えても考えても答えが見つからないことばかりだ。

私には彼と会った記憶が思い出せない。
むしろ出会っていないとすら思っている。
でも彼ははっきりと私と会ったと話すのだ。

ある日私はこの事を彼に問いかけてみると、彼はいつも同じように答える。

「君が僕を見つけたんだよ」

私が彼を見つけた……。

これはどういう意味なのかしら……。

そして私はどうして……彼を見つけてしまったのかしら……。

そんなことを考えていると暗くなった部屋に、微かな光が差し込んだ。

ガチャッと音と共に扉が開かれると、彼が優しい笑みを浮かべながらに佇んでいた。

彼は相も変わらず笑顔で私を見つめ、ゆっくりとベットへと腰かける。

そうして彼は私の髪を優しくなでながらに、徐に口を開いた。

「もうすぐ君は16歳になるね。結婚できるようにはなるのは嬉しいけれど、貴族は誰もが学園に通わなくてはいけない年齢だ。でもね、僕は君を外へ出すつもりはないんだ」

学園……もうそんなに立つのね……。

でも外へ出すつもりはない……。

私は一生ここから出ることが出来ないの……?

絶望がこみ上げてくる中、彼の言葉が頭の中で反芻する。

「今ね、王宮魔術師にとっておきの物を作ってもらっているんだ。君もびっくりすると思うから楽しみにしていてね」

そう微笑む彼に、私は全ての言葉を飲み込むと、只々微笑み返すことしかできなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。 ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。 断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。 ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。 更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。 平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。 しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。 それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね? だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう? ※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。 ※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……) ※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。

【完結】君は私を許してはいけない ーーー 永遠の贖罪

冬馬亮
恋愛
少女は、ある日突然すべてを失った。 地位も、名誉も、家族も、友も、愛する婚約者も---。 ひとりの凶悪な令嬢によって人生の何もかもがひっくり返され、苦難と苦痛の地獄のような日々に突き落とされた少女が、ある村にたどり着き、心の平安を得るまでのお話。

【完結】婚約者取り替えっこしてあげる。子爵令息より王太子の方がいいでしょ?

との
恋愛
「取り替えっこしようね」 またいつもの妹の我儘がはじまりました。 自分勝手な妹にも家族の横暴にも、もう我慢の限界! 逃げ出した先で素敵な出会いを経験しました。 幸せ掴みます。 筋肉ムキムキのオネエ様から一言・・。 「可愛いは正義なの!」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済み R15は念の為・・

婚約者からブスだと言われて婚約破棄されたので、私は結婚相手は容姿で決めません!

高坂ナツキ
恋愛
「アイリス・エンダーハイム! 貴様との婚約は第一王子の権限で今夜破棄する!」  公爵家のパーティーに参加していたら、突然私の婚約者……ラグランジュ王国第一王子ゲオルグ・ラグランジュが意味不明なことを叫びだした。  ゲオルグの傍には見たこともない令嬢がしな垂れかかっているし、どうやら私の婚約者は隠れて浮気をしていたらしい。 「ゲオルグ様、一体どういうつもりか教えてくださいな。公爵家のパーティーで突然そのような戯言を言うなど……」 「うるさい! 貴様のようなブスは王妃に相応しくないのだ!」 「……ブ……?」 「俺様のような美形の隣には同じくらい輝きのある女性が相応しい。王妃がブスなど諸外国に馬鹿にされるではないか!」  は? 私がブスだから婚約を破棄するって? 正気? これは魔導具が好きな一人の少女が、婚約者からブスだという理由で婚約破棄されてからの物語。

【短編集】人間がロボットになるのも悪くないかも?

ジャン・幸田
大衆娯楽
 人間を改造すればサイボーグになる作品とは違い、人間が機械服を着たり機械の中に閉じ込められることで、人間扱いされなくなる物語の作品集です。

処刑された女子少年死刑囚はガイノイドとして冤罪をはらすように命じられた

ジャン・幸田
ミステリー
 身に覚えのない大量殺人によって女子少年死刑囚になった少女・・・  彼女は裁判確定後、強硬な世論の圧力に屈した法務官僚によって死刑が執行された。はずだった・・・  あの世に逝ったと思い目を覚ました彼女は自分の姿に絶句した! ロボットに改造されていた!?  この物語は、謎の組織によって嵌められた少女の冒険談である。

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

専属奴隷として生きる

佐藤クッタ
恋愛
M性という病気は治らずにドンドンと深みへ堕ちる。 中学生の頃から年上の女性に憧れていた 好きになるのは 友達のお母さん 文具屋のお母さん お菓子屋のお母さん 本屋のお母さん どちらかというとやせ型よりも グラマラスな女性に憧れを持った 昔は 文具屋にエロ本が置いてあって 雑誌棚に普通の雑誌と一緒にエロ本が置いてあった ある文具屋のお母さんに憧れて 雑誌を見るふりをしながらお母さんの傍にいたかっただけですが お母さんに「どれを買っても一緒よ」と言われて買ったエロ本が SM本だった。 当時は男性がSで女性がMな感じが主流でした グラビアも小説もそれを見ながら 想像するのはM女性を自分に置き換えての「夢想」 友達のお母さんに、お仕置きをされている自分 そんな毎日が続き私のMが開花したのだと思う

処理中です...