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異世界へ行った彼女の話:第二十一話

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そうして身を隠すこと数十分、シュワシュワと音が響いたかと思うと、ゆらゆらと揺れていた尻尾が霧のようになくなっていく。
よかった……やっと戻った!
そっと頭上を確認するように触ってみると、ピコピコと動いていた耳は綺麗さっぱりと消えている。
はぁ……恥ずかしさで死ぬかと思った……。
まさかこんな魔術があるなんて想定外すぎる……。
本当に何でもありなのね……。

身を縮こませながらに改めてその魔術版を見返してみると、発動用の円は消え、陣が薄っすらと浮かび上がっていた。
それにしてもこれとっても複雑ね……。
何重にも属性が重ねられているわ。
描くだけでも数日かかりそう……。

人間が獣になれる魔道具か……。
さっきの尻尾も耳も本物だった。
引っ張ると痛みを感じたして……
もしかして……組み合わせ次第で獣以外にもなれるのかな……?
それなら……っっ。
私はそう思い立つと、魔道具をしっかりを胸に抱いたままに勢いよく立ち上がった。

「お爺さん、すみません!!!この魔道具は獣以外にも変身できるのですか?」

「おや、どうしたんじゃい突然。ふむ……そうじゃなぁ~、試してはいないが、他の生物にも成れるやもしれぬな。獣が一番身近で作りやすくてな~それ以外は作ったことはないのじゃ」

他の生物にもなれるかもしれない……。
これだ、これであの池の底へ行けるかも……っっ!
そう希望の光が差し込む中、次に別の問題がふりかかる。

それにはまず……この術式を解明しないと……。
しかし術式が複雑すぎて、こんなところで簡単にわかる代物ではないわ。
なら……持ち帰って……。
この魔道具が欲しい……でもお金がないわ。
私は胸の中で魔道具をギュッと握りしめると、じっと考え込んでいた。

エルヴィンに貸してもらう……?
ダメダメ、それはありえないわ。
それに6つも年下の子に……バカな事を考えちゃだめよ。
お金を稼ぐには……働くしかない。
でもお城では働かせてもらない。
なら……ここは……試しに……っっ。

「あの……お爺さん。私はお金を持っていなくて……でもこれが欲しいんです。だからここで働かせてくれませんか?魔術については多少の知識があります。もしくは何でもするので、どこか働ける場所を教えて頂けませんか?こんな不躾なお願いしてごめんなさい。でもどうかお願いします!」

そう深く何度も頭を下げると、お爺さんは面白いと言わんばかりに笑ってみせた。

「ほっほっほ、お嬢さんの気持ちはわかったんじゃが……坊ちゃんの同僚をこんな下町で働かせでもしたら、怒られるわい。コラコラ、こんなおいぼれに……頭を上げなさい、気にしなさんな。代金はほれ……」

お爺さんは私の後方を指さすと、そこにはエルヴィンが不機嫌な様子で腕を組み佇んでいた。

「あんたなぁ……何を言い出すのかと思えば……はぁ……。欲しい物があるなら俺に言え!!!」

エルヴィンは懐から袋を取り出すと、お爺さんに金貨を差し出そうと手を伸ばす。
その姿に私は慌てて彼の腕を掴むと、首を横へ振って見せた。

「ダメよ。買ってもらうわけにはいかないわ。これはあなたが稼いだ物だもの!それに……6つも下の子に買ってもらうなんて……ダメダメ自分が情けないわ……」

私は深く息を吐き出しながらに、開いた手をギュッと握りしめると、ジリジリと押し戻していく。

「歳は関係ないだろう。俺が出すって言ってるんだ、素直に受け取れ」

彼の強い口調に一瞬ひるむ中、私はペシペシと頬をたたくと、甘えていダメだと自分に言い聞かせた。

「やっぱりダメよ!買ってもらうわけにいかないわ!働いて何とかする、だから……」

そう言い返す私にエルヴィンは小さく舌打ちを見せると、エメラルドの瞳に私の姿が映り込んだ。

「チッ、なら……あんたがいつも仕事の補佐をしてくれる代金だ」

「えっ……!?補佐って……何もしてないないわ。私は傍で魔術について勉強させてもらってるだけよ」

「……なら俺がその魔道具を買う、それなら文句ないだろう」

「へぇっ!?もしかして……あなたもケモ耳に!?…………………………ッッ、似合うかもしれない……」

ケモ耳姿となったエルヴィンを想像してみると、わるくない。
むしろ日ごろクールな彼がケモ耳に尻尾……わしゃわしゃしたいな。
そんなくだらない事を思い浮かべていると、怒った声が耳に届いた。

「違う!!!俺が買ってあんたにやるんだ!だからこの話は終わりだ!!」

エルヴィンはドンッとテーブルへ金貨を無造作に置くと、私の手を引っ張りながらに店の外へと連れ出していく。

「ほほっほ、痴話げんかもほどほどになぁ~」

そんな気の抜けた声が後方から響く中、私はエルヴィンの背へ顔を向けると、自然とため息がこぼれ落ちた。




****おまけ****
いやぁ~、珍しいもんをみせてもらったの~。
あまり感情を表に出さない坊ちゃんが……。
あれほど感情を露にした坊ちゃんを見たのは初めてじゃ。
あんな娘さんが坊ちゃんの傍におるなら、もう安心じゃな。

二人が去っていった入口へ視線を向けると、まだ見ぬ未来に自然と笑みがこぼれ落ちた。



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 お知らせ
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閑話3にて挿絵を追加致しました(*ノωノ)
照れるエルヴィン姿が可愛いので、ぜひ見て頂けれると嬉しいです!
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