どんでん返し

あいうら

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まじない

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「いいか、飛行機雲が見えたらその場で目を閉じて3回願い事をするんだ。目を開けたときにまだ飛行機が見えてたら、その願いは叶うんだよ。」

「うん、わかった。」

娘の美咲が元気に返事をするのを見て、中山啓介も笑顔で頷く。

その日、彼は娘を連れて妻のお見舞いに来ていた。

彼の妻は2年前から癌の治療を受けているが、最近になって容態が悪化していた。

医者の話では、余命3ヶ月とのことだ。

日に日にやつれていく妻の姿を見て、美咲は元気を失くしているように見えた。

そんな彼女を何とか励まそうと、そんなまじないめいた話をしたのだった。

このままいつまでも家族3人での生活が続けばいいのにと、啓介は美咲の頭を撫でながら考えていた。



次の日、啓介はいつも通り娘を保育園まで送ると、仕事に行った。

朝の会議、お客さん回り、そして事務所に戻ってデスクワーク。

そこにはいつも通りの日常があった。

しかし、夕方に1本の電話が鳴ると、その日常は一瞬で崩れさっていった。

「私、世田谷警察署のものですが、中山啓介さんでお間違いないですか?」

「はい、そうですけど。」

「実は世田谷区内の踏切でお宅の娘さんが列車に轢かれる事故がありまして。」

啓介は無言のままだった。突然の知らせに驚き、頭が真っ白になる。

「残念ながら娘さんはその場で死亡が確認されました。今から署に来ていただくことは可能でしょうか。」

啓介は急いで電車に乗ると、警察署に駆けつけた。そこには神妙な面持ちの警察官と美咲が通う保育園の園長がいた。

園長は啓介の到着に気付くと、頭を下げたまま動かない。

「この度は、本当に申し訳ございませんでした。」

「はい…」

啓介は頭のなかを整理できていないためか、虚ろな返事をした。

「娘さんのご遺体は検死中ですので、しばらくお待ち下さい。事故当時の映像が残っていたのですが、確認されますか。」

啓介は迷った末に頷いた。

未だに現実を受け止められないでいる彼には、まだ娘が生きているような感覚があった。

この目で確認するまでは信じられない。

そして、その証拠が何かの間違いであってほしいと願っていた。

警察官が近くにあったテレビの電源をいれると、踏切の映像が映し出された。

そこを園児達一行が通過しようとしている。

その時、踏切が警告音を鳴らしながら遮断機を下ろし始めた。

やや小走りになる保育士や園児達。

その中に1人だけ踏切に残り続けている園児がいた。美咲だ。

美咲はしばらく目線を上げたまま立ち止まっている。

すると、今度は頭を下げて、そっと目を閉じた。

しばらくすると、目を開けてうれしそうな顔をしている。

その瞬間、まるでそこには始めから何もなかったかのように、勢いよく電車が通過した。

啓介の目からは大粒の涙が流れていた。
そして、声を震わせながら呟いた。


「俺のせいだ…」




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