上 下
20 / 74

14-1話 沼田睦美 「エルフの隠れ里」

しおりを挟む
視点変わります。むっちゃんこと沼田睦美(ぬまたむつみ)
ほか登場人物(ニックネーム)
友松あや(あやちゃん)
花森千香(花ちゃん)
有馬和樹(キング)
渡辺裕翔(ワタナベ)
飯塚清士郎(プリンス)
喜多絵麻(エマちゃん)
ジャムザウール(ジャムパパ)

-・-・-・-・-・-・-・-・ー



「ケルファー! ケルファー!」

 友松あやさんが自分のスキル名を連呼する。

 私の家の床、そこに置かれた木製のベッド台などがピカピカに綺麗なった。

 私の家と言っても、元はエルフの家だ。ここは、エルフの隠れ里だったらしい。木の上にいくつもの家がある。それを一人に一つ、自分の家とした。

 家と言っても四畳ぐらいの部屋だった。家具はベッド台と小さな机があるだけ。

「はあ、さすがに三十一人分は疲れるわね」

 友松さんが苦笑いした。クラスの二十八人、それにジャムさんとヴァゼルさん、あと村長さんの家だ。

 ここまで友松さんは大活躍。掃除というスキルはすごい。

「むっちゃんも、綺麗にしとく?」

 友松さんが、私の身体を指差した。

「あっ、もし良かったら。でも疲れてたら」
「いいの、いいの。女子は遠慮しないで。ケルファー!」

 ベタベタした身体がスッキリした。

 一部から「癒やし」のスキルを持つ花森千香さんは「ゴッド・マザー」と呼ばれている。私なら、友松さんがゴッド・マザーだ。彼女がいなければ、生きていけないかも。

「そういや、むっちゃんのスキルって何?」

 私は顔を引きつらせた。あまりに役に立たなくて、みんなに言えない。

「あっ、言いたくなかったら、いいからね」

 友松さんが笑顔で帰っていった。

 ベッド台に座って、ため息をつく。

 みんなのスキルは、みんなのためになる。それに比べ、私はなんて考えが足りないんだろう。

 家のハシゴから地面に降りた。すぐそばに、この里の大通りがある。男子数名が、その大通りに木の杭を打ち込んでいた。ランタンを吊るすらしい。

 大通りを真っ直ぐ進むと、大きな広場だ。

 広場の中央には、大きな焚き火が作られていた。

「今日は、キャンプファイヤーぐらいでっかくしようぜ」

 キングが提案している。そのうしろに霧が集まって、女性の姿になった。あれは、菩提樹の精霊? でも、ここには映像を出せる渡辺くんがいない。

「あまり、わらわの近くで火を使わないで欲しいのですが……」

 どうやってるんだろう? 近づいて聞いてみる。

「せ、精霊様、どうやってお姿を?」
「ワタナベとやらの一部を吸収し、自らの幻を出せるようにしたのです」
「い、一部?」
「そうです。タイヒを吸収しました」
「タイヒ?」
「渡辺のウンコだよ、沼田」

 キングが笑ってる。

 ……ああ、堆肥ね!

「この人は、ウンコを食って出現した女ってわけさ」
「……わらわへの何か侮蔑な意図を感じるのは気のせいか?」
「気のせいだろ。いや。そもそも木の精か」

 よく見ると、菩提樹の精霊は前より鮮明に女性の姿になっている。髪は長く、仙女のようなフワフワした服を着ていた。

「それより、あちらに置いた篝火が近い。動かしてはもらえぬか?」
「面倒だなぁ。プリンス、ウンコ様の要望に応えるか」

 プリンスがうなずき、二人が去っていく。その後姿を眺めた。

 プリンスの周りには妖精が飛び、キングの横には精霊がいる。いよいよ、あの二人の見た目は人間離れしちゃった。

 広場の横に、大きな屋根の建物があった。レンガでできたバーベキュー台のような物が並んでいる。そこは昔の炊事場だったらしい。

 女子六人ほどが何か作っていた。私も何か役立たないと!


 みんなは根野菜の皮を剥いていた。

 考えると、三十二人の食事ってすごい。

 食器や調理器具は、ずいぶん揃ってきた。全滅した村から集めたものと、このエルフの里に残っていたもの。汚れは小川で洗えば綺麗になった。錆びなんかは、友松さんの掃除スキルで一発!

 やっぱり、彼女のスキルが私にとって一番のチートだわ。

「私も手伝う」
「むっちゃん、ありがとぉ」

 笑顔で応えてくれたのは「キッチン喜多」の喜多絵麻さんだ。

 喜多さんは、おとなし目でカワイイのに、料理がめちゃ上手。

 学園祭で彼女が作ったロールケーキは、破壊的に美味しかった。褒める意味で「殺人ロール」と今では伝説になっている。

 私が男子なら、彼女と結婚したい。

 ここでも、やっぱり手付きがハンパない。するすると皮が剥かれていく。

 その横の友松さんも手慣れたもの。彼女は普段から弟たちの料理を作ってるから、当たり前か。

 私も慣れない手付きで皮を剥く。皮を捨てようとして、注意された。

「皮はダシに使うから、残しといてぇ」
「あっ、はいっ!」

 そんな技があるのね。

 調理場を見まわすと、野菜の他に見たこともない草や木の実があった。

「それね、ドクがくれたの。香辛料の代わりになるかもだって」

 友松さんは、あごで向こうを指した。同じ炊事場に、ドクこと坂城秀くんが一人で何かをやっている。大きな鍋に湯を沸かし、何か色んな草を煮ていた。

 ちょっとのぞいて見たけど、ドス黒い。それに、陶器の器と棒を使って白い石をゴリゴリしている。科学者が実験でもしているみたいだ。

「彼、何作ってるの?」
「うちらも、さっぱり」

 みんなもわからないようだ。

「そういや、今日の料理って何?」
「野菜で辛めのスープ作って、麦飯にかけてみるんだって」
「それって!」

 喜多さんが、にこりと笑った。これはカレーだ! 異世界でカレーが食べれる!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

異世界ロマンはスカイダイビングから!

KeyBow
ファンタジー
21歳大学生の主人が半年前の交通事故で首から下が動かない絶望的な生活が、突然の異世界転位で一変!転位で得た特殊なドールの能力を生かして異世界で生き残り、自らの体を治す道を探りつつ異世界を楽しく生きていこうと努力していく物語。動かない筈の肉体を動かす手段がある事に感動するも性的に不能となっていた。生きる為の生活の糧として選んだ冒険者として一歩を踏み出して行くのである。周りの女性に助けられるも望まぬ形の禁欲生活が始まる。意識を取り戻すと異世界の上空かららっかしていたのであった・・・

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...