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13-2話 喜多絵麻 「菩提樹の精霊」
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妖精さんは、まだプリンスの服を引っ張っていた。
「どうも、どこかへ連れていきたいみたいね」
そう言ったのはヒメちゃん。
「ああ。ひつこくてな。ちょっと行ってきていいか?」
「それなら全員で行こうぜ。おれら、行くあてもないし」
いつのまにか帰ってきたキングくんが、プリンスとヒメちゃんに言った。
「そうねぇ。村長さんご夫婦は、これからどうされます?」
「わしらも行くあてがない。ご迷惑でなければ、ご一緒させてくれんか」
反対する人はいなかった。
村長さんの許可をもらい、村に残っていた食料や鍋、毛布などを集める。それをみんなで分担して持ち、出発した。
妖精さんの案内で深い森を抜け、谷へ下りていく。
谷底は迷路のようになっていて、案内がなければ迷うだろう。
「このあたりは、わしらでも来たことがないの」
横を歩いていた村長さんが言う。地元の人がそう言うのだから、人が歩くような場所ではないんだと思う。
途中で日が暮れて、野宿をした。次の朝にまた出発。しばらくすると川に出た。川に沿って上流へ登る。
やがて、小さな滝に着いた。
妖精さんはプリンスの服を引っ張り、滝の中へ導こうとしている。
「これって……」
「ああ、童話なんかじゃ、滝の先は桃源郷ってパターンだな」
私の言葉にプリンスが応えた。思わず目を背ける。妖精を連れたキラキラのプリンスは、萌えすぎて直視できない。
キングを筆頭に、数名が先に入る。
しばらくして戻ってきた。滝の先に行けるようだ。
濡れるのを我慢して滝に入った。その裏は洞窟になっていた。長い直線で、向こうに出口の明かりが見える。
暗い洞窟を手探りで進み反対側へ出た。思わず、ぽかんと口を開けて周りを見る。
そこは桃源郷ではなかった。山に囲まれた土地。草木は、どれもみんな枯れていた。
「なんか、とてつもない気配がするんだけどなぁ」
「ああ、殺気や敵意ではないがな」
キングくんとプリンスが、そんな会話をしている。私には、わからなかった。ただ、枯れ果てた風景が広がるけど、薄気味悪さはない。
妖精さんは、ここのさらに奥へ案内したいようだった。みんなで慎重に進んでいく。
「おい、あれ」
誰かが言って、みんなが木の上を見ている。ところどころに背は低いが太い木があり、そこに小さな家があった。誰かが住んでいる気配はない。
大きな道があり、そこを進んでいく。
四角に区画された土地もあった。たぶん畑だったんだろうと思う。今は枯れた雑草が茂っていた。
これは村だ。かつて、何かの村があった場所。
さらに村の奥に進み、私は、キングとプリンスの言葉がわかった。
「とてつもない気配」とは巨大な樹だった。
私が両手を広げても届かないほど、樹の幹は太い。その巨大な幹に、違う木が絡まっていた。私は近づこうとしたが、プリンスに止められた。
「グリーンマンだ」
「グリーンマン?」
「ケルト神話なんかで出てくるやつ。『葉の頭』とも言うかな」
ほんとだ。よく見ると、絡まった木には男性の顔のような窪みがあった。
「うっ」と声がして、誰かが倒れた。
花ちゃん、花森千香ちゃんだ。あわてて駆け寄って抱き起こすと、目を閉じたまま声を発した。
「わらわは菩提樹の精霊。人の子らよ、わらわの話を聞いて欲しい」
うわっ! これ「口寄せ」だ。この樹の精霊が話しかけてる!
「聞けんな」
「えっ?」
「とりあえず、花森を離せ」
そう言ったのはキングだ。
「おれの拳は物を粉砕する力を持っている。花森を離さないなら、お前を壊す!」
えー! キングくん! ほんとに拳を引いて、樹を殴る構えだ。
「ちょっ、ちょっと待ちなさい。この子はわらわと親和性が高いのです。媒介がなければ、話すことはできません」
「知らんな。花森の体を使って、どんな影響が出るかわかんない。おれは、お前なんかより花森のほうが大事だ」
菩提樹があせってる。精霊って、すごい存在じゃなかったっけ。
誰かが以前に言った言葉を思い出した。
「誰にも屈せず膝を折らない、王様ってそうだろ? 有馬はキングだよ」
聞いた時は何も思わなかったけど、ほんと、有馬くんってキングなんだね。
あっ、それよりさっきの言葉、あっちの世界なら録画できたのになぁ。
「おれは、お前なんかより花森のほうが大事だ」
花ちゃん喜んでるだろうなぁ。ちゃんと聞けたかなぁ。私もフライパンの神様にでも乗っ取られて、プリンスが言ってくれないかなぁ。
「お前より、喜多のほうが大事だ」
なんてやばい。妖精つれてるプリンスに言われたら……は、鼻血出ちゃう!
「どうも、どこかへ連れていきたいみたいね」
そう言ったのはヒメちゃん。
「ああ。ひつこくてな。ちょっと行ってきていいか?」
「それなら全員で行こうぜ。おれら、行くあてもないし」
いつのまにか帰ってきたキングくんが、プリンスとヒメちゃんに言った。
「そうねぇ。村長さんご夫婦は、これからどうされます?」
「わしらも行くあてがない。ご迷惑でなければ、ご一緒させてくれんか」
反対する人はいなかった。
村長さんの許可をもらい、村に残っていた食料や鍋、毛布などを集める。それをみんなで分担して持ち、出発した。
妖精さんの案内で深い森を抜け、谷へ下りていく。
谷底は迷路のようになっていて、案内がなければ迷うだろう。
「このあたりは、わしらでも来たことがないの」
横を歩いていた村長さんが言う。地元の人がそう言うのだから、人が歩くような場所ではないんだと思う。
途中で日が暮れて、野宿をした。次の朝にまた出発。しばらくすると川に出た。川に沿って上流へ登る。
やがて、小さな滝に着いた。
妖精さんはプリンスの服を引っ張り、滝の中へ導こうとしている。
「これって……」
「ああ、童話なんかじゃ、滝の先は桃源郷ってパターンだな」
私の言葉にプリンスが応えた。思わず目を背ける。妖精を連れたキラキラのプリンスは、萌えすぎて直視できない。
キングを筆頭に、数名が先に入る。
しばらくして戻ってきた。滝の先に行けるようだ。
濡れるのを我慢して滝に入った。その裏は洞窟になっていた。長い直線で、向こうに出口の明かりが見える。
暗い洞窟を手探りで進み反対側へ出た。思わず、ぽかんと口を開けて周りを見る。
そこは桃源郷ではなかった。山に囲まれた土地。草木は、どれもみんな枯れていた。
「なんか、とてつもない気配がするんだけどなぁ」
「ああ、殺気や敵意ではないがな」
キングくんとプリンスが、そんな会話をしている。私には、わからなかった。ただ、枯れ果てた風景が広がるけど、薄気味悪さはない。
妖精さんは、ここのさらに奥へ案内したいようだった。みんなで慎重に進んでいく。
「おい、あれ」
誰かが言って、みんなが木の上を見ている。ところどころに背は低いが太い木があり、そこに小さな家があった。誰かが住んでいる気配はない。
大きな道があり、そこを進んでいく。
四角に区画された土地もあった。たぶん畑だったんだろうと思う。今は枯れた雑草が茂っていた。
これは村だ。かつて、何かの村があった場所。
さらに村の奥に進み、私は、キングとプリンスの言葉がわかった。
「とてつもない気配」とは巨大な樹だった。
私が両手を広げても届かないほど、樹の幹は太い。その巨大な幹に、違う木が絡まっていた。私は近づこうとしたが、プリンスに止められた。
「グリーンマンだ」
「グリーンマン?」
「ケルト神話なんかで出てくるやつ。『葉の頭』とも言うかな」
ほんとだ。よく見ると、絡まった木には男性の顔のような窪みがあった。
「うっ」と声がして、誰かが倒れた。
花ちゃん、花森千香ちゃんだ。あわてて駆け寄って抱き起こすと、目を閉じたまま声を発した。
「わらわは菩提樹の精霊。人の子らよ、わらわの話を聞いて欲しい」
うわっ! これ「口寄せ」だ。この樹の精霊が話しかけてる!
「聞けんな」
「えっ?」
「とりあえず、花森を離せ」
そう言ったのはキングだ。
「おれの拳は物を粉砕する力を持っている。花森を離さないなら、お前を壊す!」
えー! キングくん! ほんとに拳を引いて、樹を殴る構えだ。
「ちょっ、ちょっと待ちなさい。この子はわらわと親和性が高いのです。媒介がなければ、話すことはできません」
「知らんな。花森の体を使って、どんな影響が出るかわかんない。おれは、お前なんかより花森のほうが大事だ」
菩提樹があせってる。精霊って、すごい存在じゃなかったっけ。
誰かが以前に言った言葉を思い出した。
「誰にも屈せず膝を折らない、王様ってそうだろ? 有馬はキングだよ」
聞いた時は何も思わなかったけど、ほんと、有馬くんってキングなんだね。
あっ、それよりさっきの言葉、あっちの世界なら録画できたのになぁ。
「おれは、お前なんかより花森のほうが大事だ」
花ちゃん喜んでるだろうなぁ。ちゃんと聞けたかなぁ。私もフライパンの神様にでも乗っ取られて、プリンスが言ってくれないかなぁ。
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