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1話 有馬和樹 「召喚部屋」

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 クラス全員で二子玉川の河川敷に来た。

 夏休み初日。みんなで花火をするためだ。

 まだ日が完全に暮れるまで時間がある。持ってきたプラスチックのバケツで水を汲んでおこう。

 川べりに行こうとしたその時、おれの下にぼうっと光る円のような物が浮かんだ。

 まじか! 身体がゆっくり沈んでいく。おれは逃れようと動いてみたがびくともしない。

 クラスメートの女子一人が気づき、おれの腕をつかんだ。その子もろとも引きずりこまれる。

 さらに誰かが、その子の腰にしがみついた。それでも沈んでいく体は止まらない。

 みんなが駆けてくるのが見えた。よせ、逃げろ! 叫ぼうとしたが体が固まったように動かず、声も出ない。


 ……気づけば、ごつごつとした石造りの部屋に立っている。

 まわりを見た。くそっ、3年F組の全員が落ちたのか!

 扉がひらき、灰色のローブを着た老人が入ってきた。頭はツルッパゲ。聖職者? いや雰囲気がちがう。倒すべきか?

 重心を沈めて構える。肩をそっと叩かれた。親友の飯塚いいずか清士郎せいしろうだ。

 清士郎が首を振る。様子を見ろ、という事だろう。

 清士郎の家は古くからの武家で、飯塚抜刀術の家元だ。道場はやってないが、祖父から手ほどきは受けている。真剣で練習をする古武術だ。こういう時の肝の座り方は尋常じゃない。

 老人が何かしゃべった。言葉がわからない。そう思っていると、何かを唱えて腕を振った。

「これで言葉がわかろう」

 ほんとだ、日本語に聞こえる。

「諸君らを召喚したのが、吾輩である。先に申しておくが暴れようとすれば……」

 老人が手をかざすと、身体が重くなり身動きが取れなくなった。横を見ると清士郎も同じだ。嘘だろ、魔法かよ!

 生まれて初めて魔法を見た。おどろいていると扉から大勢の兵士が入ってきた。

 身動きが取れないまま、鉄のような金属でできた輪っかを付けられる。しまった、やはり入ってきた瞬間に倒すべきだったか!

「その首輪は、諸君らの居場所を探るものだ。危害はないので安心したまえ」

 老人が笑っておれを見る。手を下ろすと、身体が動くようになった。

 兵士が二枚の羊皮紙と、羽ペンを配った。一枚が薄っすら赤っぽくて、もう一枚が青っぽい。めくって裏を見ると、何かの魔法陣が描かれている。

「諸君らに特殊技能を一つ、授けることができる。赤にその名前を、青にその効果を書きたまえ。元いた世界の言葉でかまわぬ」

 特殊技能?

 誰かに見つめられている気がして、振り向いた。おれのもう一人の親友、蛭川ひるかわ日出男ひでおだ。そうか、日出男が貸してくれたラノベと同じか!

 日出男と清士郎、三人で馬鹿話をしたことがある。自分なら、どんな特殊スキルがいいかと。あの時、日出男は言った。自分が最も得意なものであること。そうでなければ、応用が利かないと。へたにチートと呼ばれる最強スキルを狙うと、だいたい上手くいかないらしい。

 日出男と目線が合い、うなずいた。やっぱり、それが言いたいのだろう。

 日出男は、さらさらと一番に書いた。老人のもとに持っていく。老人がそれを見て口をひらいた。

「無限の魔力、ふむ。無限というのはできぬな」

 日出男は新しい紙を持って下がった。また、すぐに書いて持っていく。

「特殊技能の強奪か。できるが、さきほど言ったように一つしか持てぬぞ? つまり、強奪した瞬間に、強奪の能力はなくなる」

 日出男は肩を落として帰っていった。そして再び提出。

「乳房の大きさに比例して、自分を好きになる。ふざけておるのか?」

 日出男が、ここ一番肩を落として帰った。

 何度もそれを繰り返し、ついに納得のいくスキルが通ったようだ。

「これは、何の得があるのか……まあ、よかろう」

 老人は二枚の紙を頭上に掲げ、何かを唱えた。紙は燃え上がり、その炎は小さく集まると日出男に向かって飛びこんだ。

「ほかの者はトロール並みの頭か? いつまでかかるのだ」

 みんなが、はっと我に返った。急いで書く。日出男は自分が終わったからか、みんなの紙をのぞいたりと余裕だ。

 全員の儀式が終わると長い廊下を歩かされた。

 大きな扉の前に来る。

 うしろで兵士が廊下をさえぎる鉄格子の門を閉めた。鉄格子の向こうにいる老人が睨みを利かせ、前にでる。

「それでは、諸君らの健闘を祈る」

 そう言って、老人は帰っていった。

 健闘? あの老人はそう言った。まずいぞ、この中世に似た世界でそのセリフ。

 ……ここは闘技場だ。
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