1 / 74
1話 有馬和樹 「召喚部屋」
しおりを挟む
クラス全員で二子玉川の河川敷に来た。
夏休み初日。みんなで花火をするためだ。
まだ日が完全に暮れるまで時間がある。持ってきたプラスチックのバケツで水を汲んでおこう。
川べりに行こうとしたその時、おれの下にぼうっと光る円のような物が浮かんだ。
まじか! 身体がゆっくり沈んでいく。おれは逃れようと動いてみたがびくともしない。
クラスメートの女子一人が気づき、おれの腕をつかんだ。その子もろとも引きずりこまれる。
さらに誰かが、その子の腰にしがみついた。それでも沈んでいく体は止まらない。
みんなが駆けてくるのが見えた。よせ、逃げろ! 叫ぼうとしたが体が固まったように動かず、声も出ない。
……気づけば、ごつごつとした石造りの部屋に立っている。
まわりを見た。くそっ、3年F組の全員が落ちたのか!
扉がひらき、灰色のローブを着た老人が入ってきた。頭はツルッパゲ。聖職者? いや雰囲気がちがう。倒すべきか?
重心を沈めて構える。肩をそっと叩かれた。親友の飯塚清士郎だ。
清士郎が首を振る。様子を見ろ、という事だろう。
清士郎の家は古くからの武家で、飯塚抜刀術の家元だ。道場はやってないが、祖父から手ほどきは受けている。真剣で練習をする古武術だ。こういう時の肝の座り方は尋常じゃない。
老人が何かしゃべった。言葉がわからない。そう思っていると、何かを唱えて腕を振った。
「これで言葉がわかろう」
ほんとだ、日本語に聞こえる。
「諸君らを召喚したのが、吾輩である。先に申しておくが暴れようとすれば……」
老人が手をかざすと、身体が重くなり身動きが取れなくなった。横を見ると清士郎も同じだ。嘘だろ、魔法かよ!
生まれて初めて魔法を見た。おどろいていると扉から大勢の兵士が入ってきた。
身動きが取れないまま、鉄のような金属でできた輪っかを付けられる。しまった、やはり入ってきた瞬間に倒すべきだったか!
「その首輪は、諸君らの居場所を探るものだ。危害はないので安心したまえ」
老人が笑っておれを見る。手を下ろすと、身体が動くようになった。
兵士が二枚の羊皮紙と、羽ペンを配った。一枚が薄っすら赤っぽくて、もう一枚が青っぽい。めくって裏を見ると、何かの魔法陣が描かれている。
「諸君らに特殊技能を一つ、授けることができる。赤にその名前を、青にその効果を書きたまえ。元いた世界の言葉でかまわぬ」
特殊技能?
誰かに見つめられている気がして、振り向いた。おれのもう一人の親友、蛭川日出男だ。そうか、日出男が貸してくれたラノベと同じか!
日出男と清士郎、三人で馬鹿話をしたことがある。自分なら、どんな特殊スキルがいいかと。あの時、日出男は言った。自分が最も得意なものであること。そうでなければ、応用が利かないと。へたにチートと呼ばれる最強スキルを狙うと、だいたい上手くいかないらしい。
日出男と目線が合い、うなずいた。やっぱり、それが言いたいのだろう。
日出男は、さらさらと一番に書いた。老人のもとに持っていく。老人がそれを見て口をひらいた。
「無限の魔力、ふむ。無限というのはできぬな」
日出男は新しい紙を持って下がった。また、すぐに書いて持っていく。
「特殊技能の強奪か。できるが、さきほど言ったように一つしか持てぬぞ? つまり、強奪した瞬間に、強奪の能力はなくなる」
日出男は肩を落として帰っていった。そして再び提出。
「乳房の大きさに比例して、自分を好きになる。ふざけておるのか?」
日出男が、ここ一番肩を落として帰った。
何度もそれを繰り返し、ついに納得のいくスキルが通ったようだ。
「これは、何の得があるのか……まあ、よかろう」
老人は二枚の紙を頭上に掲げ、何かを唱えた。紙は燃え上がり、その炎は小さく集まると日出男に向かって飛びこんだ。
「ほかの者はトロール並みの頭か? いつまでかかるのだ」
みんなが、はっと我に返った。急いで書く。日出男は自分が終わったからか、みんなの紙をのぞいたりと余裕だ。
全員の儀式が終わると長い廊下を歩かされた。
大きな扉の前に来る。
うしろで兵士が廊下をさえぎる鉄格子の門を閉めた。鉄格子の向こうにいる老人が睨みを利かせ、前にでる。
「それでは、諸君らの健闘を祈る」
そう言って、老人は帰っていった。
健闘? あの老人はそう言った。まずいぞ、この中世に似た世界でそのセリフ。
……ここは闘技場だ。
夏休み初日。みんなで花火をするためだ。
まだ日が完全に暮れるまで時間がある。持ってきたプラスチックのバケツで水を汲んでおこう。
川べりに行こうとしたその時、おれの下にぼうっと光る円のような物が浮かんだ。
まじか! 身体がゆっくり沈んでいく。おれは逃れようと動いてみたがびくともしない。
クラスメートの女子一人が気づき、おれの腕をつかんだ。その子もろとも引きずりこまれる。
さらに誰かが、その子の腰にしがみついた。それでも沈んでいく体は止まらない。
みんなが駆けてくるのが見えた。よせ、逃げろ! 叫ぼうとしたが体が固まったように動かず、声も出ない。
……気づけば、ごつごつとした石造りの部屋に立っている。
まわりを見た。くそっ、3年F組の全員が落ちたのか!
扉がひらき、灰色のローブを着た老人が入ってきた。頭はツルッパゲ。聖職者? いや雰囲気がちがう。倒すべきか?
重心を沈めて構える。肩をそっと叩かれた。親友の飯塚清士郎だ。
清士郎が首を振る。様子を見ろ、という事だろう。
清士郎の家は古くからの武家で、飯塚抜刀術の家元だ。道場はやってないが、祖父から手ほどきは受けている。真剣で練習をする古武術だ。こういう時の肝の座り方は尋常じゃない。
老人が何かしゃべった。言葉がわからない。そう思っていると、何かを唱えて腕を振った。
「これで言葉がわかろう」
ほんとだ、日本語に聞こえる。
「諸君らを召喚したのが、吾輩である。先に申しておくが暴れようとすれば……」
老人が手をかざすと、身体が重くなり身動きが取れなくなった。横を見ると清士郎も同じだ。嘘だろ、魔法かよ!
生まれて初めて魔法を見た。おどろいていると扉から大勢の兵士が入ってきた。
身動きが取れないまま、鉄のような金属でできた輪っかを付けられる。しまった、やはり入ってきた瞬間に倒すべきだったか!
「その首輪は、諸君らの居場所を探るものだ。危害はないので安心したまえ」
老人が笑っておれを見る。手を下ろすと、身体が動くようになった。
兵士が二枚の羊皮紙と、羽ペンを配った。一枚が薄っすら赤っぽくて、もう一枚が青っぽい。めくって裏を見ると、何かの魔法陣が描かれている。
「諸君らに特殊技能を一つ、授けることができる。赤にその名前を、青にその効果を書きたまえ。元いた世界の言葉でかまわぬ」
特殊技能?
誰かに見つめられている気がして、振り向いた。おれのもう一人の親友、蛭川日出男だ。そうか、日出男が貸してくれたラノベと同じか!
日出男と清士郎、三人で馬鹿話をしたことがある。自分なら、どんな特殊スキルがいいかと。あの時、日出男は言った。自分が最も得意なものであること。そうでなければ、応用が利かないと。へたにチートと呼ばれる最強スキルを狙うと、だいたい上手くいかないらしい。
日出男と目線が合い、うなずいた。やっぱり、それが言いたいのだろう。
日出男は、さらさらと一番に書いた。老人のもとに持っていく。老人がそれを見て口をひらいた。
「無限の魔力、ふむ。無限というのはできぬな」
日出男は新しい紙を持って下がった。また、すぐに書いて持っていく。
「特殊技能の強奪か。できるが、さきほど言ったように一つしか持てぬぞ? つまり、強奪した瞬間に、強奪の能力はなくなる」
日出男は肩を落として帰っていった。そして再び提出。
「乳房の大きさに比例して、自分を好きになる。ふざけておるのか?」
日出男が、ここ一番肩を落として帰った。
何度もそれを繰り返し、ついに納得のいくスキルが通ったようだ。
「これは、何の得があるのか……まあ、よかろう」
老人は二枚の紙を頭上に掲げ、何かを唱えた。紙は燃え上がり、その炎は小さく集まると日出男に向かって飛びこんだ。
「ほかの者はトロール並みの頭か? いつまでかかるのだ」
みんなが、はっと我に返った。急いで書く。日出男は自分が終わったからか、みんなの紙をのぞいたりと余裕だ。
全員の儀式が終わると長い廊下を歩かされた。
大きな扉の前に来る。
うしろで兵士が廊下をさえぎる鉄格子の門を閉めた。鉄格子の向こうにいる老人が睨みを利かせ、前にでる。
「それでは、諸君らの健闘を祈る」
そう言って、老人は帰っていった。
健闘? あの老人はそう言った。まずいぞ、この中世に似た世界でそのセリフ。
……ここは闘技場だ。
2
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら
Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!?
政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。
十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。
さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。
(───よくも、やってくれたわね?)
親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、
パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。
そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、
(邪魔よっ!)
目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。
しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────……
★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~
『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』
こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。
冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~
日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました!
小説家になろうにて先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n5925iz/
残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。
だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。
そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。
実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく!
ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう!
彼女はむしろ喜んだ。
ユニークジョブ【スペランカー・バーサーカー】一撃くらうと死ぬクソ職ですが、どうやら最強職らしいです。
しのこ
SF
original style onlineはダンジョン攻略をメインとしたVR MMO。タックは運良く、ユニークジョブ【スペランカー・バーサーカー】に当選する。
低確率での当選だったので適当に職を選んだタックだったが、【スペランカー・バーサーカー】は最弱で最強の職だった。
HP・防御は1のくらったら終わりのクソ仕様。しかし、他のステータス、スキルは最強という極端な性能だったのだ。
タックは【スペランカー・バーサーカー】の個性を使いこなし、最強のプレイヤーへと駆け上がる。
連載候補です。
救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~
日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。
そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。
優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。
しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
異世界転移でモブの俺はよくある不遇パターンかと思ったら、イケメン幼馴染みは一般人で俺が救世主になってるんだが
空色蜻蛉
SF
平凡な名前に存在感皆無の村田青年は、イケメン御曹司の幼馴染とその彼女に都合よくパシリ扱いされていた。横暴に慣れ過ぎて自分は所詮脇役と卑屈になり、自己主張を諦めていた村田だったが、異世界召喚という珍事態に巻き込まれる。
その世界は「古神」と呼ばれるロボットが活躍するパラレルワールドの日本で、召喚された自分達の中に、特別な印を持つ古神操縦者がいるという。
どうせイケメン幼馴染みが勇者だろう。「ナイナイ絶対ない(ヾノ・ω・`)」と思っていた村田の方に、なぜか特別な印が現れて……。
【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜
高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。
フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。
湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。
夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる