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第七章

第46話 出立

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 目をさますと、さっぱりとした部屋が目に入った。これが最後の日だと思い知る。

 昨日のうちに部屋は片づけた。借りていたテーブル、長椅子、チェストなども返している。スノードロップの鉢はメイドのカーラにわたした。

 持って帰る荷物も、すでにまとめて手配した。娘と、最後の支度をととのえる。ここに来た時と同じ、小さなバッグを持って一階に降りた。

 お城の中は人影がなく、静かだった。玄関には執事のグリフレットと、庭師長のスタンリーが待っていてくれた。

「今日は、あまり人がいないのね」

 執事に聞くと、もう最低限の人しかいないそうだ。エルウィンは、やっぱり大勢の人に見送られるのが嫌らしい。

 メイド長のミランダは、いないようだ。ちょっと、いや、かなり残念。もう一度、会いたかった。

 庭師長は、わたしを抱きしめ、背中をバンバンと叩いた。けっこう痛い。モリーを抱きしめた時には、ちょっと泣いていた。

 わたしはついでに、執事の前に手を差しだしてみる。

「お気をつけて、お帰りください」

 執事はにべもなく手を組んだまま答えた。この執事は、最後まで冷静ね。

 わたしたちに用意された車は、普通のセダンだった。良かった、リムジンじゃなくて。階段を降りて車に乗りこもうとしたが、いったんやめる。お城を見あげた。これが最後。じっくりと眺める。

 うしろの座席に乗って前を見ると、運転手はボブではなかった。人の良さそうな初老の運転手だ。行き先を確認されたので、お城の人間でもないようだ。

 ゆっくり車が走りだす。もう一度、お城を見ておきたくなった。窓をあけて、身を乗りだす。

 今日は運よく晴れていた。青空を背景に、白亜の城がくっきりと見えた。玄関で、庭師長が大きく手をふっている。わたしも大きく手をふった。モリーも反対の窓から手をふった。執事は手を前に組み、じっと車を見送っている。角を曲がる寸前に、執事が深々とお辞儀するのが見えた。

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