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僕は痛い奴なんかじゃない

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「西条さん!おはよ!」
「あ、おはようございます」
 登校早々、下駄箱前で西条さんを発見!
 西条さんチャンスがやってきた。
 いつもは陽キャ達に息していることを悟られないようひっそりしているけれど公衆の面前で西条さんに挨拶してみた。
 だが返ってきたのはあっさりとしたあまりによそよそしい他人行儀な挨拶だった。
「西条さん、どうしたの?」
「どうしたの?って何ですか?猫にどうしたのー?って人間が聞くけど猫はどうもしてないのに何がどうしたのー?だよ、人間ってやつは、っていうやつですか?」
「何の話?」
 僕と1ミリも目を合わせてくれないし、敬語だし、よく分からない返事きて僕は激しく動揺していた。
「えっ、きも……。急に話しかけないでよね。誰だか知らないけど。行こ!ゆめ」
 西条さんの取り巻き陽キャが僕を不審者扱いしてきて早々に西条さんの擁護にまわった。
 こちらをチラチラ見て警戒しながら消えていった。
 僕はやはり陽キャの中では認知もなくただの不審人物ってことか。
 周りに仲間がいるうちは西条さんに近づくのは難しいかもしれない。


 次の作戦はお弁当大作戦。
 以前僕のお弁当を幸せそうに食べてくれた西条さん、また僕のお弁当で幸せになってもらおう。
 早朝から作ったこのお弁当。
 今日はより一層の気持ちを込め、ハート型のおにぎりに桜でんぶをまぶすというなんともキュートなお弁当にしてみた。
 お弁当を西条さんが休み時間にいない隙に机の引き出しにインした。
 授業開始のチャイムが鳴り、席に着いた西条さんは机の中から教科書を取り出す。
「えっ!」
 ガチャン!
 教科書を取り出すと同時にお弁当が飛び出してきた。
 そして床に逆さまに落ちたお弁当。
 西条さんもクラスメイト達もただ呆然をそれを見つめている。
 こんな切ない風景は他にないだろう。
 僕はその授業中、机にうつ伏せになって泣いた。
 嗚咽するほど泣いた。
「何アイツ、きも」
「女にフられたんじゃね」
 陽キャクラスメイト達がヒソヒソとこっちを見ながらそう会話していたけど関係ない。
 全僕が泣いた。


 次の作戦はお手紙大作戦。
 お手紙ならお弁当のように儚いものではない。
 昨日徹夜で書き上げた謝罪と弁解文の内容の手紙(便箋計50枚)を西条さんの下駄箱に入れた。
「ちょっと誰!?ゆめの下駄箱にこんな大量のラブレター入れた奴!!キモいんだけど!!」
 休み時間、クラスの陽キャが急に騒ぎ出した。
 その右手に持っていたのは僕のあのお手紙!!
「ねぇ!誰?嫌がらせにもほどあるよ!こんな大量の紙!」
 ざわつく教室。
「えー、やばくね?」
「ないわ」
「ゆめちゃん可哀想」
 まずいことになった。
 これをもし他の人に読まれたら僕の人生は終わると言っても過言ではない。
 昨日あったギャルとの戯れの弁解が細かく書かれているし、西条さんへの正直な気持ちも書かれている。
 でもさっき、確かラブレターって言ってたよな?
 ってことはまだ中身は見られてないってことじゃないか!
 ここで公開処刑されるより回収だ!
 お手紙大作戦はここでお手紙回収大作戦に変わった。
 僕はすかさず手を挙げてそいつの元へ駆け寄った。
「すいません!僕、自分の下駄箱と間違えて西条さんの下駄箱に入れてしまったんです!」
「は?西条さんへって書いてあるじゃん。ってかこれあんたなの?」
「あ、違うんです。西条さんへって書いてあるけどこれを本当に西条さんに渡すつもりはなくて、なんていうか……そう!デモンストレーション!」
「はあ?」
 僕は頭をフル回転させて言い訳を考えた。
 だけど焦って思ってもみないことを口走っていた。
「実際には渡さないけど、自分の下駄箱を西条さんの下駄箱と想像して入れることによって実際の感じが体験できるというか……」
「なにそれきも」
 虫けらを見るような目でこちらを威嚇しながらその手紙を僕に返してくれた。
「あ、ありがとう……」
「現実と妄想ごちゃ混ぜにすんなよ」
「はい……」
 静まりかえった教室。
 クラスメイトが引きつった顔でこちらを見てくる。
 僕は静かに自分の席につくと机にうつ伏せになって泣いた。
 嗚咽するほど泣いた。
 全僕が泣いた(本日2回目)。


「おいどうしたよ優樹。なんか今日、可哀想だぞお前。めっちゃ泣いてるし」
 昼休み、沰が心配そうに話しかけてくれた。
「沰~!」
「おーし、どうどう」
 なぜか馬をなだめる時の言葉で僕を慰めてくる。
 しかし今のメンタルにはこれも効いてくるのが不思議だ。
 いや、僕は前世は馬だったのかもしれない。
「そのイメチェンと今日のお前の痛い行動は何か関係あるのか?そもそも今日の行動自体もイメチェンの一環なのか?」
「そんなわけあるか!」
 クラスメイト達をドン引きさせるイメチェンってどんなイメチェンだよ。
「なんだ?急にイメチェンなんかしてよー、眼鏡が無くて大丈夫なのか?外界とのフィルターとか意味わからんこと言ってたのに」
「あ、意味わからないと思ってたんだ」
「そんなことよりさ、お前、西条さんの事好きなのか?前に西条さんと親戚って言ってなかったっけ?そういうのなんて言うんだっけかな?えっと……よく見るジャンルなんだけど」
「ジャンル?」
 そういえば前に西条さんに話しかけられて親戚だと嘘をついたことを今思い出した。
「思い出した!近親相姦だ!」
「ばか!声が大きい!」
 クラスメイト達の痛い奴を見る視線を感じる。
 今日の事でもう僕の信頼とイメージはガタ落ち、もう平穏に暮らしていかないと息をすることすら許されなくなる。
「あー、ごめんごめん。思い出したことが嬉しくてつい」
「本当沰ってやつは」
「とにかくやばいんじゃないか?親戚に手を出すとか……ハッ!だから妄想の中でしか許されない恋なのか!!」
 なるほど、と手を叩いて難しい問題の答えを閃いたかのようなパッとした表情をした沰。
 声がどんどん大きくなっている気がする。
「だから静かに!もうだめだ、沰、こっち来て」
 僕は沰を連れて逃げるように教室を出た。
 そして屋上へ向かった。
 青春といえば学校の屋上ではないだろうか。
「教室じゃ周りの視線が痛いしこれ以上痛い奴だと思われたくない!」
「ごめんごめん。俺声が大きくて」
「いいよ、僕が悪いよ。全部正直に話すから」
 これ以上親友に嘘はつけない、僕はそう思い今までの事を全部話した。
 後輩のギャルのことは除外したけど。
「というわけなんだ沰。今まで黙っててごめん。騙すつもりはなかった」
 僕はめいいっぱい頭を下げて謝罪した。
 親友に隠し事をされてたんだ、もし怒られても殴られても仕方ないと思っていた。
 沰は考え込むような感じで一点を見つめてフリーズしている。
「おい、沰」
 沰の肩を持って揺さぶると目を見開いて我に返った様子。
「……ははっ。ははははは!!!うわぁ!!くっ……ふはははははは!!」
「えっ、ちょっと……」
 そしてなぜか沰は呼吸困難になるほど爆笑し始めた。
「待って待って!どうしたの?沰!ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」
 落ち着かせる為に出産の時の呼吸をするよう促す僕。
 後々考えれば意味が分からないがこの時は予想外の反応に戸惑いが隠せなかった。
「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」
 一緒に呼吸をし始めた沰。
 次第に落ち着いてため息を吐くとその場に座り込んだ。
 僕も合わせて座る。
「いや、お前重症だ」
「何言ってるの?」
「西条さんに告白されるなんて事、あるわけないだろ。妄想が行き過ぎちまったんだな」
「え?沰、勘違いしてるよね?」
「いやいや、それはお前だ。西条さんの事好きすぎて妄想が膨らんで現実と妄想が分からなくなっちまってる。親友の俺が気づかせてやらないと」
「僕痛い奴だと思われてるよね?」
「いやいや親友よ。痛い奴だなんて思っていないぜ!俺は応援する」
「はい?」
 何故か目を輝かせ空を見上げ、拳を天に突き上げる沰。
 青春系厨二病か?
「そんだけ西条さんのことが好きになっちまったんだろ?妄想はやめて現実にしようぜ!」
「全然分かってない!」
「お前の熱い気持ち、俺には分かるぞ!親友だからな!西条さんは高嶺の花だぞ?届かないからこそ燃えるぜ!」
 盛大な勘違いを清々しい程続ける沰。
 そういえば昔も僕が好きな子がいると勘違いされて全力で応援するって言われて空回りしてたっけ。
 好きではない子と色々イベントを発生させられてしまいにはその子が僕たちにいじめられてると勘違いして泣かせてしまったこともあった。
 昔からお節介なのだ。
 馬鹿で一生懸命で、でも空回りしてしまう。
 でもこういう所、嫌いじゃない。
 他人のことなのに全力で応援できるってすごいことだと思う。
 むしろ好きだから親友なんだ。
「ありがとう沰。僕頑張るよ」
「おう!告白本当にされるようにいい男になるぞ!」
「あ、うん……」
 告白されたのは本当なんだけどな。
 頑張るという点においては同じだからまあいいか。
 とりあえずもう信じてくれなさそうなので説明を諦めた僕。
 親友の恋路を応援しようと燃える沰。
 これが青春ってやつか……多分。
 僕も天に向かって拳を突き上げた。
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