【完結】愛することはないと告げられ、最悪の新婚生活が始まりました

4話

ハンナは、ロレッタとの会話から得た情報を元に、アンダースと直接話すことを決意した。
彼の真意を確かめるために、彼の別邸を訪れた。
イザベラと顔を会わせたくないアンダースは自宅へもあまり帰らず、もっぱらこの別邸かロレッタのところへ入り浸っていた。

ハンナは物怖じせず重厚なドアをノックした。
しばらくしてアンダースが現れた。

「ハンナか。どうしたんだ？」

アンダースは驚いた様子だった。
ハンナはイザベラの友人であるからアンダースも面識がある。
とはいえ急に訪ねてくるような間柄ではない。
それにイザベラの友人なのだから自分に味方するようなことはないだろうとも考えた。

ハンナは深呼吸をし、まっすぐ彼を見つめた。

「アンダース、あなたに大切な話があるの。イザベラやロレッタのことについて」
「……そうか。長くなりそうだな。入ってくれ」



アンダースはハンナを応接室へと案内した。

ハンナはロレッタとの会話内容をアンダースに伝えた。
アンダースは黙って彼女の話を聞いていたが、ハンナが話し終わると、深いため息をついた。

「ロレッタのことを愛しているんだ、ずっと前から。イザベラとの結婚はただの形式だった。彼女に対する愛情は最初からなかったんだ」
「それで結婚までしたの？　愛を誓ったのは嘘だったのね」
「仕方なかったんだ」
「アンダース、あなたは最低ね。イザベラを傷つけるだけでなく、ロレッタのことも苦しめているのよ」
「わかっている、わかってはいるんだ……」

アンダースは苦しげな表情を浮かべた。
だが意を決したようにハンナに語り掛ける。

「ハンナ、君に頼みたいんだ。最低な自分を助けてほしい」

ハンナはその言葉にショックを受け、しばらく言葉が出なかった。
ハンナは驚きと困惑が入り混じった表情でアンダースを見つめた。

「助ける？　どういう意味？」
「俺は自分の行動が間違っていることを知っている。でも、どうすればいいのかわからないんだ。イザベラを傷つけることなく、ロレッタを愛する方法があるなら、教えてほしい」

あまりにも都合のいい話にハンナは幻滅した。

「最低ね、アンダース。イザベラはもう傷ついてるのよ？　謝るほうが先でしょう？」
「今さら謝れる関係じゃない。もう俺たちは終わったんだ。ああ、そうか、まだ離婚していなかったな。早く離婚しないと……」

アンダースはぶつぶつと言った。
もうこの場にハンナがいることを忘れているかのようだった。

「しっかりしてよ！　アンダース！　あなたが自分の行動を変えなければ、誰も幸せになれないのよ！」

ハンナの強い言葉に、アンダースはまるで目が覚めるような思いだった。
彼はハンナの真剣な表情と、その背後にある愛情を感じ取った。
その瞬間、アンダースはハンナこそが自分にとって本当に大切な存在であることに気が付いた。
勝手な思い込みだがアンダースにとっては運命的なものだった。

「ハンナ、君の言う通りだ。本当にすまなかった」

アンダースは深く頭を下げた。
謝罪というよりも感謝。

「君の言葉で目が覚めたよ。君こそが、本当に俺が愛するべき相手だったんだ」

顔を上げたアンダースの微笑みが恐ろしいものに感じられ、予想だにしない言葉にハンナは困惑した。