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4話

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キャサリンは友人のミンディとカフェで会う約束をしていた。
婚約したことを知らせたところ、是非とも会って話を聞かせてと頼まれたからだ。

そして二人はカフェの一番端のテーブルに向かい合って座っていた。

「あまり幸せそうじゃないわね。婚約なんて思っていたほど良くはなかった?」
「それよりも酷いわよ。私、ライナス様に騙されたの」
「騙されて婚約したってこと?!」
「ちょっと違うけどね。でも重大なことを隠されて婚約を申し込まれたのよ」
「どういったことだったの?」

興味津々といったミンディにキャサリンは告げる。

「ライナス様は余命が1年程度という医師の診断結果だったらしいわ」

予想できないほどの事実にミンディは驚きを隠せなかった。

「まさか……本当なの?!」
「ライナス様はそう言っていたわ。顔色だって悪かったし、嘘ではないと思うけど……」
「それなのに婚約したの?!」
「知らなかったから婚約してしまったのよ。後で知らされても残された時間がわずかだと知らされたら婚約破棄なんてできないじゃない……」
「酷い話だわ……」

ミンディは怒りを抑え込んだ。
当事者であるキャサリンがそこまで怒っていないのだから、ここで感情を爆発するわけにはいかなかった。

「でも私だって考えがあるの。騙されたことに対して慰謝料を請求するわ」
「それで気持ちは晴れるの?」
「晴れないわ。でも見捨てられないじゃない……」
「そうよね、それがキャサリンだものね。……まったく優しさに付け込むなんて、ライナス様は本当に酷い人よ」
「同感だわ」

キャサリンは力なく笑った。



それから約二ヶ月後、キャサリンは再びミンディとカフェで会っていた。

「最近どうなの?」
「ライナス様は体調が悪いみたいで寝込んでいる日が増えたわ。一緒に出かけるのは難しいわね」
「そうだったの……。病気は本当だったのね」
「まだ疑っていたの? あれは演技には見えないから本当よ」

思っていたよりも事態は重いと理解し、ミンディは訊き難いことを訊くことに決めた。

「キャサリンはよくやっているわ。そんな関係で満足しているの?」
「満足かどうかの問題ではないの。関わってしまったから、せめて私にできることをしてあげようと思ったの。だから私は自分ができることをするの」
「……立派ね。でも無理はしないでね」
「ありがとう、ミンディ。こうやって話を聞いてくれるだけでも嬉しいわ」
「どういたしまして。でも本当に無理はしないでね? 何かあったら力になるから」
「ふふ、ありがとう」

愛ではなく義務感のようなもので付き合っているため、キャサリンが何をしようと彼女の心が満たされることはない。
逆にキャサリンに尽くされるライナスは婚約して良かったと考えていた。

そのような日々に消耗していたキャサリンはミンディに話を聞いてもらえたことで気が楽になった。

このようにキャサリンは自分の本当の気持ちを偽り、残された時間の少ないライナスのために自分を犠牲にしたのだ。
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