【完結】浮気していないならこの書類にサインできますよね?

紫崎 藍華

文字の大きさ
上 下
5 / 8

5話

しおりを挟む
翌日、ヴァレリーはアランに会いに行った。
突然のことにアランは驚いたが、ヴァレリーの深刻な表情を見て面倒事に巻き込まれたと思った。
アランは仕方なくヴァレリーの話を聞くことにした。

「急にごめんなさい、アラン。どうしても訊きたいことがあったの」
「いいけど……何を知りたいんだい?」
「ルパート様が浮気しているという噂を聞いたんだけど、あなたはその日彼がどこにいたか知ってる?」

ヴァレリーが告げた日、おおよその時間、それに場所。
アランは真剣に聞き、記憶を探った。

「ヴァレリー、それは正しくない。確かにルパートをその日に見た。だが彼は一人だった。彼も僕の姿を見たし、声はかけなかったけど目はあった。間違いない」

ヴァレリーはアランの言葉を聞いて、ますます混乱した。
マイアから聞いた話とアランの証言が食い違っていることに、何が真実なのか分からなくなってしまった。

「ヴァレリー、君が混乱しているのはよく分かる。でも、焦らずに冷静に考えることが大事だよ。僕の言葉を思い出してほしい。僕はルパートが一人でいるところを目撃した。これは事実だ」
「はい」
「その前後に女性と一緒にいたと考えれば浮気の可能性はあるだろう? 僕はルパートのことをずっと見ていたわけではないんだ」
「確かに……」
「ルパートは僕の証言がアリバイになると言ったようだけど詭弁だよね。浮気を否定するアリバイにはならないよ」

もしかしたら上手く騙されたのではないかとヴァレリーは考えた。

「ありがとう、アラン。そんな大切なことまで教えてくれて。助かったわ」
「いや、礼には及ばない。僕は知っているから答えた。ただそれだけだよ」

そういった面倒な性格だから婚約者ができないのだろうとヴァレリーは余計なことを考えていた。
だが彼のお陰でルパートのアリバイが完全ではないことを知ることができた。
むしろ、あえて誤解させるように誘導されたようで、ルパートへの信用がますます地に落ちてしまった。

「ついでだから考えてくれない? もしルパート様が浮気していたとしたら私はどうすればいいと思う?」
「ヴァレリーがどうしたいかだけど、やり直したいなんてことはないよね? そうなると制裁して婚約破棄かな」
「そう……。でも私から婚約破棄は難しいと思うの。父が反対するだろうし……」
「あるいはルパートのほうから婚約破棄してくるかもしれないな。浮気相手に本気になればヴァレリーとの婚約が邪魔だろうし。幸か不幸か二人の信頼関係は揺らいでいる。それを理由に婚約破棄されることも考えられる」

アランは饒舌に語った。
ヴァレリーとしても参考になる意見であり、彼の言葉を聞き逃せなかった。

「婚約破棄されるかもしれないわね。ルパート様は私なんてもう邪魔だろうし。浮気を証明できなければ私の有責で婚約破棄されそう」

自嘲するようにヴァレリーは言った。
今までの行動は自分が不利になることも多く、ルパートから婚約破棄される可能性は低くないと考えた。

「ならば対策をすればいい」
「……どうすればいいの?」
「簡単だよ。浮気の事実が明らかになったら莫大な慰謝料を請求するという条件を付けるんだ。ここまで来て後には退けないだろう? ルパートは条件を呑むさ」
「もし浮気していなかったらどうするの?」
「ルパートに大切にされている自覚はある? ないだろう? そんな相手と婚約破棄されたところで悪いことではないだろう?」
「そうね……」

他人事のように言われてヴァレリーは呆れてしまった。
アランはこういう人なのだと理解した。

「ありがとう、いろいろと。これでどうすべきかも見えてきたわ」
「それは良かった。ヴァレリーが幸せになれることを祈っているよ」

やはり他人事のようであり、ヴァレリーはアランの評価はそういったものだと考えた。
頼りになるかもしれないけど親身ではない、それがアランだった。

アランとしては知人として最大限の助力をしたつもりだった。
ヴァレリーに好意を抱いているわけでもなく、そもそもそこまで親しい間柄でもなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブスなお前とは口を利かないと婚約者が言うので、彼の愛する妹の秘密は教えませんでした。

coco
恋愛
ブスなお前とは口を利かないと、婚約者に宣言された私。 分かりました、あなたの言う通りにします。 なので、あなたの愛する妹の秘密は一切教えませんよ─。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

病弱な妹に婚約者を奪われお城に居場所がなくなったので家出したら…結果、幸せになれました。

coco
恋愛
城に戻ってきた妹に、騎士兼婚約者を奪われた私。 やがて城に居場所がなくなった私は、ついに家出を決意して…?

完璧すぎる幼馴染に惚れ、私の元を去って行く婚約者ですが…何も知らず愚かですね─。

coco
恋愛
婚約者から、突然別れを告げられた私。 彼は、完璧すぎる私の幼馴染に惚れたのだと言う。 そして私の元から去って行く彼ですが…何も知らず、愚かですね─。

私の婚約者と姉が密会中に消えました…裏切者は、このまま居なくなってくれて構いません。

coco
恋愛
私の婚約者と姉は、私を裏切り今日も密会して居る。 でも、ついにその罰を受ける日がやって来たようです…。

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

【完結】ドレスと一緒にそちらの方も差し上げましょう♪

山葵
恋愛
今日も私の屋敷に来たと思えば、衣装室に籠もって「これは君には幼すぎるね。」「こっちは、君には地味だ。」と私のドレスを物色している婚約者。 「こんなものかな?じゃあこれらは僕が処分しておくから!それじゃあ僕は忙しいから失礼する。」 人の屋敷に来て婚約者の私とお茶を飲む事なくドレスを持ち帰る婚約者ってどうなの!?

処理中です...