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5話
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翌日、ヴァレリーはアランに会いに行った。
突然のことにアランは驚いたが、ヴァレリーの深刻な表情を見て面倒事に巻き込まれたと思った。
アランは仕方なくヴァレリーの話を聞くことにした。
「急にごめんなさい、アラン。どうしても訊きたいことがあったの」
「いいけど……何を知りたいんだい?」
「ルパート様が浮気しているという噂を聞いたんだけど、あなたはその日彼がどこにいたか知ってる?」
ヴァレリーが告げた日、おおよその時間、それに場所。
アランは真剣に聞き、記憶を探った。
「ヴァレリー、それは正しくない。確かにルパートをその日に見た。だが彼は一人だった。彼も僕の姿を見たし、声はかけなかったけど目はあった。間違いない」
ヴァレリーはアランの言葉を聞いて、ますます混乱した。
マイアから聞いた話とアランの証言が食い違っていることに、何が真実なのか分からなくなってしまった。
「ヴァレリー、君が混乱しているのはよく分かる。でも、焦らずに冷静に考えることが大事だよ。僕の言葉を思い出してほしい。僕はルパートが一人でいるところを目撃した。これは事実だ」
「はい」
「その前後に女性と一緒にいたと考えれば浮気の可能性はあるだろう? 僕はルパートのことをずっと見ていたわけではないんだ」
「確かに……」
「ルパートは僕の証言がアリバイになると言ったようだけど詭弁だよね。浮気を否定するアリバイにはならないよ」
もしかしたら上手く騙されたのではないかとヴァレリーは考えた。
「ありがとう、アラン。そんな大切なことまで教えてくれて。助かったわ」
「いや、礼には及ばない。僕は知っているから答えた。ただそれだけだよ」
そういった面倒な性格だから婚約者ができないのだろうとヴァレリーは余計なことを考えていた。
だが彼のお陰でルパートのアリバイが完全ではないことを知ることができた。
むしろ、あえて誤解させるように誘導されたようで、ルパートへの信用がますます地に落ちてしまった。
「ついでだから考えてくれない? もしルパート様が浮気していたとしたら私はどうすればいいと思う?」
「ヴァレリーがどうしたいかだけど、やり直したいなんてことはないよね? そうなると制裁して婚約破棄かな」
「そう……。でも私から婚約破棄は難しいと思うの。父が反対するだろうし……」
「あるいはルパートのほうから婚約破棄してくるかもしれないな。浮気相手に本気になればヴァレリーとの婚約が邪魔だろうし。幸か不幸か二人の信頼関係は揺らいでいる。それを理由に婚約破棄されることも考えられる」
アランは饒舌に語った。
ヴァレリーとしても参考になる意見であり、彼の言葉を聞き逃せなかった。
「婚約破棄されるかもしれないわね。ルパート様は私なんてもう邪魔だろうし。浮気を証明できなければ私の有責で婚約破棄されそう」
自嘲するようにヴァレリーは言った。
今までの行動は自分が不利になることも多く、ルパートから婚約破棄される可能性は低くないと考えた。
「ならば対策をすればいい」
「……どうすればいいの?」
「簡単だよ。浮気の事実が明らかになったら莫大な慰謝料を請求するという条件を付けるんだ。ここまで来て後には退けないだろう? ルパートは条件を呑むさ」
「もし浮気していなかったらどうするの?」
「ルパートに大切にされている自覚はある? ないだろう? そんな相手と婚約破棄されたところで悪いことではないだろう?」
「そうね……」
他人事のように言われてヴァレリーは呆れてしまった。
アランはこういう人なのだと理解した。
「ありがとう、いろいろと。これでどうすべきかも見えてきたわ」
「それは良かった。ヴァレリーが幸せになれることを祈っているよ」
やはり他人事のようであり、ヴァレリーはアランの評価はそういったものだと考えた。
頼りになるかもしれないけど親身ではない、それがアランだった。
アランとしては知人として最大限の助力をしたつもりだった。
ヴァレリーに好意を抱いているわけでもなく、そもそもそこまで親しい間柄でもなかった。
突然のことにアランは驚いたが、ヴァレリーの深刻な表情を見て面倒事に巻き込まれたと思った。
アランは仕方なくヴァレリーの話を聞くことにした。
「急にごめんなさい、アラン。どうしても訊きたいことがあったの」
「いいけど……何を知りたいんだい?」
「ルパート様が浮気しているという噂を聞いたんだけど、あなたはその日彼がどこにいたか知ってる?」
ヴァレリーが告げた日、おおよその時間、それに場所。
アランは真剣に聞き、記憶を探った。
「ヴァレリー、それは正しくない。確かにルパートをその日に見た。だが彼は一人だった。彼も僕の姿を見たし、声はかけなかったけど目はあった。間違いない」
ヴァレリーはアランの言葉を聞いて、ますます混乱した。
マイアから聞いた話とアランの証言が食い違っていることに、何が真実なのか分からなくなってしまった。
「ヴァレリー、君が混乱しているのはよく分かる。でも、焦らずに冷静に考えることが大事だよ。僕の言葉を思い出してほしい。僕はルパートが一人でいるところを目撃した。これは事実だ」
「はい」
「その前後に女性と一緒にいたと考えれば浮気の可能性はあるだろう? 僕はルパートのことをずっと見ていたわけではないんだ」
「確かに……」
「ルパートは僕の証言がアリバイになると言ったようだけど詭弁だよね。浮気を否定するアリバイにはならないよ」
もしかしたら上手く騙されたのではないかとヴァレリーは考えた。
「ありがとう、アラン。そんな大切なことまで教えてくれて。助かったわ」
「いや、礼には及ばない。僕は知っているから答えた。ただそれだけだよ」
そういった面倒な性格だから婚約者ができないのだろうとヴァレリーは余計なことを考えていた。
だが彼のお陰でルパートのアリバイが完全ではないことを知ることができた。
むしろ、あえて誤解させるように誘導されたようで、ルパートへの信用がますます地に落ちてしまった。
「ついでだから考えてくれない? もしルパート様が浮気していたとしたら私はどうすればいいと思う?」
「ヴァレリーがどうしたいかだけど、やり直したいなんてことはないよね? そうなると制裁して婚約破棄かな」
「そう……。でも私から婚約破棄は難しいと思うの。父が反対するだろうし……」
「あるいはルパートのほうから婚約破棄してくるかもしれないな。浮気相手に本気になればヴァレリーとの婚約が邪魔だろうし。幸か不幸か二人の信頼関係は揺らいでいる。それを理由に婚約破棄されることも考えられる」
アランは饒舌に語った。
ヴァレリーとしても参考になる意見であり、彼の言葉を聞き逃せなかった。
「婚約破棄されるかもしれないわね。ルパート様は私なんてもう邪魔だろうし。浮気を証明できなければ私の有責で婚約破棄されそう」
自嘲するようにヴァレリーは言った。
今までの行動は自分が不利になることも多く、ルパートから婚約破棄される可能性は低くないと考えた。
「ならば対策をすればいい」
「……どうすればいいの?」
「簡単だよ。浮気の事実が明らかになったら莫大な慰謝料を請求するという条件を付けるんだ。ここまで来て後には退けないだろう? ルパートは条件を呑むさ」
「もし浮気していなかったらどうするの?」
「ルパートに大切にされている自覚はある? ないだろう? そんな相手と婚約破棄されたところで悪いことではないだろう?」
「そうね……」
他人事のように言われてヴァレリーは呆れてしまった。
アランはこういう人なのだと理解した。
「ありがとう、いろいろと。これでどうすべきかも見えてきたわ」
「それは良かった。ヴァレリーが幸せになれることを祈っているよ」
やはり他人事のようであり、ヴァレリーはアランの評価はそういったものだと考えた。
頼りになるかもしれないけど親身ではない、それがアランだった。
アランとしては知人として最大限の助力をしたつもりだった。
ヴァレリーに好意を抱いているわけでもなく、そもそもそこまで親しい間柄でもなかった。
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