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2話
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ヴァレリーはまず母親に相談することにした。
父親に相談すれば極端な行動に出る恐れがあったからだ。
「お母様、少しお話があるのですがよろしいでしょうか? ルパート様のことです」
「どうしたの、ヴァレリー? 何かあったの?」
「実は今日、庭園でルパート様とメリンダ様が話しているのを偶然聞いてしまったのです。ルパート様は政略結婚が好ましくないと言っていました。私との結婚は義務として仕方なくするようです」
「なんですって! ルパートがそんなことを……。ヴァレリーを悲しませるようなことを言うなんて許せないわ!」
「落ち着いてください、お母様。ルパート様は私に対して悪意があってそう言ったのではありません。今までだって私には良くしてくださいました。でも……それすらも自分の本心を偽っていたのだとすれば申し訳なくて……」
「ヴァレリーは悪くないわ。どこに出しても恥ずかしくない自慢の娘ですもの。それなのに不満を抱くルパートのほうが悪いに決まっているわよ」
母親の顔も声も怒りに満ちていた。
こうなってしまったらヴァレリーの手に負えない。
「夫に話しましょう。こんなこと、見過ごせないわ。早く対処すべきよ」
「そうですね」
ヴァレリーも同調するほかなかった。
ヴァレリーと母親は父親の書斎に向かい、事の次第を報告した。
父親は冷静に話を聞いていたが、その答えは彼女たちが期待していたものとは異なるものだった。
「確かにルパートの発言は気に入らないな。だがそれで婚約関係を見直すことはできない。我が家の名誉と立場を考えれば事を荒立てるわけにはいかない。これは家族のためでもある。ヴァレリー、不満かもしれないがこれは政略結婚なのだ」
「心得ています。私のせいでこのようなことになってしまい申し訳ありませんでした」
ヴァレリーは謝罪したが、母親はこれでは納得できなかった。
「それでは納得できないわ! 娘の幸せを犠牲にしてまで家を守る必要があるの? ヴァレリーが愛されない結婚を強いられるなんて可哀そうよ!」
「だがなぁ、貴族としては家のことを第一に考えなくてはならないのだ。どうか理解してくれないか?」
「そんな理屈ばかりでは幸せになれないのよ! あなたはいつだってそう。立派なことを言って家族に我慢を強いてばかり。本当に家族が大切なら問題を解決してよ!」
「落ち着いてくれ、これは立場もあるから難しい問題なんだ」
「だからそれを言い訳って言うのよ!」
父親と母親の言い争いが激しさを増す中、ヴァレリーは静かにその場を見守りつつ思う。
相性の悪い相手と結婚すると両親のような関係になってしまうのではないか。
将来の不安がよぎり、それならお互いの気持ちを抑えた仮面夫婦のほうが良いのではないかと考えた。
愛がないくらいで済むならそのほうが良かった。
喧嘩ばかりする日々のほうが耐えがたいと考えていた。
結局両親に相談しても何の役にも立たなかった。
問題は何一つ解決していない。
両親が頼りにならない以上、自分でどうにかしなくてはならない。
ヴァレリーはため息をつき、これから先のことを考えた。
やはりため息しか出ない未来ばかりが思い浮かんだ。
父親に相談すれば極端な行動に出る恐れがあったからだ。
「お母様、少しお話があるのですがよろしいでしょうか? ルパート様のことです」
「どうしたの、ヴァレリー? 何かあったの?」
「実は今日、庭園でルパート様とメリンダ様が話しているのを偶然聞いてしまったのです。ルパート様は政略結婚が好ましくないと言っていました。私との結婚は義務として仕方なくするようです」
「なんですって! ルパートがそんなことを……。ヴァレリーを悲しませるようなことを言うなんて許せないわ!」
「落ち着いてください、お母様。ルパート様は私に対して悪意があってそう言ったのではありません。今までだって私には良くしてくださいました。でも……それすらも自分の本心を偽っていたのだとすれば申し訳なくて……」
「ヴァレリーは悪くないわ。どこに出しても恥ずかしくない自慢の娘ですもの。それなのに不満を抱くルパートのほうが悪いに決まっているわよ」
母親の顔も声も怒りに満ちていた。
こうなってしまったらヴァレリーの手に負えない。
「夫に話しましょう。こんなこと、見過ごせないわ。早く対処すべきよ」
「そうですね」
ヴァレリーも同調するほかなかった。
ヴァレリーと母親は父親の書斎に向かい、事の次第を報告した。
父親は冷静に話を聞いていたが、その答えは彼女たちが期待していたものとは異なるものだった。
「確かにルパートの発言は気に入らないな。だがそれで婚約関係を見直すことはできない。我が家の名誉と立場を考えれば事を荒立てるわけにはいかない。これは家族のためでもある。ヴァレリー、不満かもしれないがこれは政略結婚なのだ」
「心得ています。私のせいでこのようなことになってしまい申し訳ありませんでした」
ヴァレリーは謝罪したが、母親はこれでは納得できなかった。
「それでは納得できないわ! 娘の幸せを犠牲にしてまで家を守る必要があるの? ヴァレリーが愛されない結婚を強いられるなんて可哀そうよ!」
「だがなぁ、貴族としては家のことを第一に考えなくてはならないのだ。どうか理解してくれないか?」
「そんな理屈ばかりでは幸せになれないのよ! あなたはいつだってそう。立派なことを言って家族に我慢を強いてばかり。本当に家族が大切なら問題を解決してよ!」
「落ち着いてくれ、これは立場もあるから難しい問題なんだ」
「だからそれを言い訳って言うのよ!」
父親と母親の言い争いが激しさを増す中、ヴァレリーは静かにその場を見守りつつ思う。
相性の悪い相手と結婚すると両親のような関係になってしまうのではないか。
将来の不安がよぎり、それならお互いの気持ちを抑えた仮面夫婦のほうが良いのではないかと考えた。
愛がないくらいで済むならそのほうが良かった。
喧嘩ばかりする日々のほうが耐えがたいと考えていた。
結局両親に相談しても何の役にも立たなかった。
問題は何一つ解決していない。
両親が頼りにならない以上、自分でどうにかしなくてはならない。
ヴァレリーはため息をつき、これから先のことを考えた。
やはりため息しか出ない未来ばかりが思い浮かんだ。
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