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「ヘレン、君は実に面白みのない女性だな」
ティルソンは婚約者のヘレンに告げた。
婚約者にそういったことを平然と伝えてしまう男、それがティルソンだ。
告げられたヘレンは動揺することもなかった。
その反応こそが面白みのない理由の一つだった。
「そうかもしれないわね。それで、何が言いたいの?」
「俺たちの関係がこのままでいいのか疑問を抱いたんだ」
「それって婚約を解消したいということなの?」
あまりにも直接的な問いに、ティルソンのほうが動揺してしまった。
「そうだな、その通りだな。ずっと前から感じていたんだ。俺とヘレンの相性が良くないと。だからこれは切っ掛けにすぎない。遅かれ早かれ俺たちの関係は終わっただろう」
ヘレンは直感的に彼が何を目的にしているのか察してしまった。
きっと他の女性が好きだから自分が邪魔になったのだろうと考えた。
ヘレンは、あえてこの茶番に付き合うことにした。
「私が何をしたというの? 私たちは婚約者でしょう? 関係を良いものにするために努力すべきよね? ティルソンはそうは考えなかったの?」
ティルソンは目を逸らした。
「君は素晴らしい女性であることに間違いはない。だが……面白みがない。これからの長い時間を共に過ごすのであれば退屈したくはないんだ」
「面白みがないって、別に無理に面白くする必要はないわよね? ティルソンだってつまらない人間じゃない。どうして私ばかり責めるの?」
「いや、責めているつもりはない。もしそう感じたなら謝罪する」
「謝罪するなら婚約関係を解消したいことのほうではないの?」
「……そうかもしれないな。だが謝罪したところで結果は変わらないだろう?」
「そうね。それで、婚約は解消するということでいいの?」
「……ああ」
「わかったわ」
茶番に付き合うはずが関係の終わりまで誘導してしまった。
だがヘレンはその結果に後悔はない。
もし後悔があるとするならば一つだけだ。
「せっかくだから教えて。ティルソンが考える面白みのある女性ってどういった人?」
意外な問いかけにティルソンは考え込んだ。
彼の中では具体的な人物が思い浮かんでいたが、ヘレンはその人物のことを詳しく知らないはずだと考えた。
それに名前を挙げる必要もないと彼は判断した。
「きっと一緒にいれば毎日が楽しく感じられ新しい発見に満ちていると思う」
「私には無理そうね。参考になったわ。ありがとう」
ヘレンはティルソンが具体的な人物を想像しているのだろうと考えた。
そういった人物と一緒にいれば毎日も楽しくなるだろうし、新鮮味のない自分との婚約関係を終わらせ、別の人と新たな婚約を結べば新しい発見もあるだろうと考えた。
ヘレンの質問はまだ未練があるようにティルソンは感じ取った。
ならばせめて優しい言葉でもかけるべきだと彼は判断した。
「ごめん、ヘレン。君のことを傷つけたくはなかった。だが、正直でいたいと思ったんだ。本当は君が面白みがないなんて考えていなかった。ただ、俺が求めているものを手にしたかっただけなんだ……」
「そんなことを言わないで、ティルソン。あなたが優しくすべきはこれから婚約する相手でしょう?」
ティルソンは驚いた。
まるでこれから何をするか見透かされているように思えてしまった。
「面白みのない女性でごめんなさいね。あなたのこれからの人生が面白くなることを祈っているわ」
「あ……」
ティルソンは意味深なことを言われて気になったが、何かするよりも先にヘレンが別れの言葉を言ってしまった。
こうなってしまえば引き止めることもできない。
ティルソンはスッキリしない何かを抱え込んだまま、婚約関係は終わったのだった。
ティルソンは婚約者のヘレンに告げた。
婚約者にそういったことを平然と伝えてしまう男、それがティルソンだ。
告げられたヘレンは動揺することもなかった。
その反応こそが面白みのない理由の一つだった。
「そうかもしれないわね。それで、何が言いたいの?」
「俺たちの関係がこのままでいいのか疑問を抱いたんだ」
「それって婚約を解消したいということなの?」
あまりにも直接的な問いに、ティルソンのほうが動揺してしまった。
「そうだな、その通りだな。ずっと前から感じていたんだ。俺とヘレンの相性が良くないと。だからこれは切っ掛けにすぎない。遅かれ早かれ俺たちの関係は終わっただろう」
ヘレンは直感的に彼が何を目的にしているのか察してしまった。
きっと他の女性が好きだから自分が邪魔になったのだろうと考えた。
ヘレンは、あえてこの茶番に付き合うことにした。
「私が何をしたというの? 私たちは婚約者でしょう? 関係を良いものにするために努力すべきよね? ティルソンはそうは考えなかったの?」
ティルソンは目を逸らした。
「君は素晴らしい女性であることに間違いはない。だが……面白みがない。これからの長い時間を共に過ごすのであれば退屈したくはないんだ」
「面白みがないって、別に無理に面白くする必要はないわよね? ティルソンだってつまらない人間じゃない。どうして私ばかり責めるの?」
「いや、責めているつもりはない。もしそう感じたなら謝罪する」
「謝罪するなら婚約関係を解消したいことのほうではないの?」
「……そうかもしれないな。だが謝罪したところで結果は変わらないだろう?」
「そうね。それで、婚約は解消するということでいいの?」
「……ああ」
「わかったわ」
茶番に付き合うはずが関係の終わりまで誘導してしまった。
だがヘレンはその結果に後悔はない。
もし後悔があるとするならば一つだけだ。
「せっかくだから教えて。ティルソンが考える面白みのある女性ってどういった人?」
意外な問いかけにティルソンは考え込んだ。
彼の中では具体的な人物が思い浮かんでいたが、ヘレンはその人物のことを詳しく知らないはずだと考えた。
それに名前を挙げる必要もないと彼は判断した。
「きっと一緒にいれば毎日が楽しく感じられ新しい発見に満ちていると思う」
「私には無理そうね。参考になったわ。ありがとう」
ヘレンはティルソンが具体的な人物を想像しているのだろうと考えた。
そういった人物と一緒にいれば毎日も楽しくなるだろうし、新鮮味のない自分との婚約関係を終わらせ、別の人と新たな婚約を結べば新しい発見もあるだろうと考えた。
ヘレンの質問はまだ未練があるようにティルソンは感じ取った。
ならばせめて優しい言葉でもかけるべきだと彼は判断した。
「ごめん、ヘレン。君のことを傷つけたくはなかった。だが、正直でいたいと思ったんだ。本当は君が面白みがないなんて考えていなかった。ただ、俺が求めているものを手にしたかっただけなんだ……」
「そんなことを言わないで、ティルソン。あなたが優しくすべきはこれから婚約する相手でしょう?」
ティルソンは驚いた。
まるでこれから何をするか見透かされているように思えてしまった。
「面白みのない女性でごめんなさいね。あなたのこれからの人生が面白くなることを祈っているわ」
「あ……」
ティルソンは意味深なことを言われて気になったが、何かするよりも先にヘレンが別れの言葉を言ってしまった。
こうなってしまえば引き止めることもできない。
ティルソンはスッキリしない何かを抱え込んだまま、婚約関係は終わったのだった。
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