【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華

文字の大きさ
上 下
1 / 8

1話

しおりを挟む
「ヘレン、君は実に面白みのない女性だな」

ティルソンは婚約者のヘレンに告げた。
婚約者にそういったことを平然と伝えてしまう男、それがティルソンだ。

告げられたヘレンは動揺することもなかった。
その反応こそが面白みのない理由の一つだった。

「そうかもしれないわね。それで、何が言いたいの?」
「俺たちの関係がこのままでいいのか疑問を抱いたんだ」
「それって婚約を解消したいということなの?」

あまりにも直接的な問いに、ティルソンのほうが動揺してしまった。

「そうだな、その通りだな。ずっと前から感じていたんだ。俺とヘレンの相性が良くないと。だからこれは切っ掛けにすぎない。遅かれ早かれ俺たちの関係は終わっただろう」

ヘレンは直感的に彼が何を目的にしているのか察してしまった。
きっと他の女性が好きだから自分が邪魔になったのだろうと考えた。

ヘレンは、あえてこの茶番に付き合うことにした。

「私が何をしたというの? 私たちは婚約者でしょう? 関係を良いものにするために努力すべきよね? ティルソンはそうは考えなかったの?」

ティルソンは目を逸らした。

「君は素晴らしい女性であることに間違いはない。だが……面白みがない。これからの長い時間を共に過ごすのであれば退屈したくはないんだ」
「面白みがないって、別に無理に面白くする必要はないわよね? ティルソンだってつまらない人間じゃない。どうして私ばかり責めるの?」
「いや、責めているつもりはない。もしそう感じたなら謝罪する」
「謝罪するなら婚約関係を解消したいことのほうではないの?」
「……そうかもしれないな。だが謝罪したところで結果は変わらないだろう?」
「そうね。それで、婚約は解消するということでいいの?」
「……ああ」
「わかったわ」

茶番に付き合うはずが関係の終わりまで誘導してしまった。
だがヘレンはその結果に後悔はない。
もし後悔があるとするならば一つだけだ。

「せっかくだから教えて。ティルソンが考える面白みのある女性ってどういった人?」

意外な問いかけにティルソンは考え込んだ。
彼の中では具体的な人物が思い浮かんでいたが、ヘレンはその人物のことを詳しく知らないはずだと考えた。
それに名前を挙げる必要もないと彼は判断した。

「きっと一緒にいれば毎日が楽しく感じられ新しい発見に満ちていると思う」
「私には無理そうね。参考になったわ。ありがとう」

ヘレンはティルソンが具体的な人物を想像しているのだろうと考えた。
そういった人物と一緒にいれば毎日も楽しくなるだろうし、新鮮味のない自分との婚約関係を終わらせ、別の人と新たな婚約を結べば新しい発見もあるだろうと考えた。

ヘレンの質問はまだ未練があるようにティルソンは感じ取った。
ならばせめて優しい言葉でもかけるべきだと彼は判断した。

「ごめん、ヘレン。君のことを傷つけたくはなかった。だが、正直でいたいと思ったんだ。本当は君が面白みがないなんて考えていなかった。ただ、俺が求めているものを手にしたかっただけなんだ……」
「そんなことを言わないで、ティルソン。あなたが優しくすべきはこれから婚約する相手でしょう?」

ティルソンは驚いた。
まるでこれから何をするか見透かされているように思えてしまった。

「面白みのない女性でごめんなさいね。あなたのこれからの人生が面白くなることを祈っているわ」
「あ……」

ティルソンは意味深なことを言われて気になったが、何かするよりも先にヘレンが別れの言葉を言ってしまった。
こうなってしまえば引き止めることもできない。

ティルソンはスッキリしない何かを抱え込んだまま、婚約関係は終わったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

番を辞めますさようなら

京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら… 愛されなかった番 すれ違いエンド ざまぁ ゆるゆる設定

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

うるさい!お前は俺の言う事を聞いてればいいんだよ!と言われましたが

仏白目
恋愛
私達、幼馴染ってだけの関係よね? 私アマーリア.シンクレアには、ケント.モダール伯爵令息という幼馴染がいる 小さな頃から一緒に遊んだり 一緒にいた時間は長いけど あなたにそんな態度を取られるのは変だと思うの・・・ *作者ご都合主義の世界観でのフィクションです

結婚なんてしなければよかった。

haruno
恋愛
夫が選んだのは私ではない女性。 蔑ろにされたことを抗議するも、夫から返ってきたのは冷たい言葉。 結婚なんてしなければよかった。

処理中です...