38 / 85
生首坂――namakubizakaーー『四天王寺ロダンの挨拶』より
その10
しおりを挟む
10
「カラス…」
意外な言葉に田中巡査は思わず口が開いた。
「ええ、カラスです」
ロダンが断定的に言う。
「どういうこと?」
素直にアフロヘアの若者に聞いた。今までの謎に悩んでいた自分の頬桁を張り倒されて感じだった。
「あのカラスですがね。彼等の習性として貯食性や何か光ものとかを持ち帰り巣に運んだり…もうそれは人間の塵というものをなんでもさらっていく習性があります。それで、あの楠の上はカラスの巣になっているんですよ。だからカラスが何かを運んだりすると偶に階段とかに色んなものが落ちたりするんです。僕も何やら落ちてるのを見たことがありますからね」
そういえば…、
巡査も心の内に思い当たる。
あの付近に偶に腕時計やらスマホやら何やら色んなものが落ちているのだ…
それを自分は偶に落とし物として処理している。
「それで僕はここで仮説を立てて、もしかしてカラスがこいつを運んできたのじゃないか?それもカラスは恐らくある特定の所に必ず行くんだ。そしてそこで何かを偶にカラスは持ち去る。そのこともこの持ち主たちは知っているのではないかと?」
言ってからロダンはアプリを開いて見せた。それは成程道伝いではない。住居を横切る様に太い線が引かれている。
「それで僕はカラスたちにこの追跡用GPSを何とか餌だと思わせて苦労させて嘴に摘まませれば…このふたつを運んできた場所に行くだろうと。だから、よし!!空を飛んでもらってと言う訳です。それで、その結果が見事このアプリなんです」
田中巡査はビールを一口飲んだ。まるでこのロダンが話すことは自分が昔読んだ推理小説のような話だ。現実にはない、推理という仮説を立て実証していく、それが今目の前で実証されている。
疑いはまたそれが最新の科学技術GPSによって正確に裏付けされている。犯人捜査の為の遺伝子確認のような高度な事をしているわけでもない。
ごく日常にある認知症追跡システムを単に使っているだけだ。誰でもそんなことは考えれば工夫立てられることなのだ。
「結果はですがね…、どうもこのカラス達、縄張りが広いのか…東大阪迄飛んでいるのですよ」
「東大阪?」
「ええ、小坂ってところがあるんですがね。その先にかの有名な司馬遼太郎先生の記念館があるんですが、このカラス共その先の付近のNというところまで行っているのが分かりました。あのあたりは意外と神社は藪や竹林も多く、カラスにとっては日中過ごすにはいい所なのかもしれません」
巡査は地図を頭に思い描いた。それはあの石階段を起点に南東に向かって線が引かれてゆく。中々の距離であることは分かった。
「それは…距離があるな」
巡査が唾を飲みこむ。
「それでそこにあの二つと結びつく何か関連するものがあったのかい?」
ロダンは軽く頷く。
「あった?本当かい?」
巡査が目を見開く。
「ええ、その場所付近で検索エンジンでね、ワードを探ってみたんですよ、…『九谷焼』『彫刻』『美術』とか、そしたら出て来たんです。その付近に住む芸術家が…」
「芸術家??」
「二科展などにも出展している年老いた彫刻家が居たんです」
「それは誰??」
その問いかけにロダンは首を振った。
「今は言えません。だって僕はカラスに持たせた手紙に『あなたの名前を伏せておきます』と書いておいたんです」
田中巡査は思い出した。このロダンがカラスに手紙を追跡GPSと共につけていたのを。
「そういえば、君は手紙を書いてカラスに運ばせるようにしたんだよね」
「はい、相手が読むことを期待して」
「それは、どういった内容だったんだい?」
一瞬、ロダンは返事を言い淀んだがじっと田中巡査を見ると、頷いて言った。
「確かこれは警察捜査じゃない、悪戯解明でしたもんね」
それからビールを飲む。空いたグラスをテーブルに置いた。
「僕はこう書いたんです。『例のものは僕が所持しています。もし返してほしければいつでも例の場所に来てください。あなた方の棲み処は既に僕とカラスが承知です。名前は伏せておきますよ。それが互いにこれからの取引の信用上、大事でしょうから。ではまた』…シンプルです。場所は特定しませんでした。そう今は相手をX氏としておきましょう」
「カラス…」
意外な言葉に田中巡査は思わず口が開いた。
「ええ、カラスです」
ロダンが断定的に言う。
「どういうこと?」
素直にアフロヘアの若者に聞いた。今までの謎に悩んでいた自分の頬桁を張り倒されて感じだった。
「あのカラスですがね。彼等の習性として貯食性や何か光ものとかを持ち帰り巣に運んだり…もうそれは人間の塵というものをなんでもさらっていく習性があります。それで、あの楠の上はカラスの巣になっているんですよ。だからカラスが何かを運んだりすると偶に階段とかに色んなものが落ちたりするんです。僕も何やら落ちてるのを見たことがありますからね」
そういえば…、
巡査も心の内に思い当たる。
あの付近に偶に腕時計やらスマホやら何やら色んなものが落ちているのだ…
それを自分は偶に落とし物として処理している。
「それで僕はここで仮説を立てて、もしかしてカラスがこいつを運んできたのじゃないか?それもカラスは恐らくある特定の所に必ず行くんだ。そしてそこで何かを偶にカラスは持ち去る。そのこともこの持ち主たちは知っているのではないかと?」
言ってからロダンはアプリを開いて見せた。それは成程道伝いではない。住居を横切る様に太い線が引かれている。
「それで僕はカラスたちにこの追跡用GPSを何とか餌だと思わせて苦労させて嘴に摘まませれば…このふたつを運んできた場所に行くだろうと。だから、よし!!空を飛んでもらってと言う訳です。それで、その結果が見事このアプリなんです」
田中巡査はビールを一口飲んだ。まるでこのロダンが話すことは自分が昔読んだ推理小説のような話だ。現実にはない、推理という仮説を立て実証していく、それが今目の前で実証されている。
疑いはまたそれが最新の科学技術GPSによって正確に裏付けされている。犯人捜査の為の遺伝子確認のような高度な事をしているわけでもない。
ごく日常にある認知症追跡システムを単に使っているだけだ。誰でもそんなことは考えれば工夫立てられることなのだ。
「結果はですがね…、どうもこのカラス達、縄張りが広いのか…東大阪迄飛んでいるのですよ」
「東大阪?」
「ええ、小坂ってところがあるんですがね。その先にかの有名な司馬遼太郎先生の記念館があるんですが、このカラス共その先の付近のNというところまで行っているのが分かりました。あのあたりは意外と神社は藪や竹林も多く、カラスにとっては日中過ごすにはいい所なのかもしれません」
巡査は地図を頭に思い描いた。それはあの石階段を起点に南東に向かって線が引かれてゆく。中々の距離であることは分かった。
「それは…距離があるな」
巡査が唾を飲みこむ。
「それでそこにあの二つと結びつく何か関連するものがあったのかい?」
ロダンは軽く頷く。
「あった?本当かい?」
巡査が目を見開く。
「ええ、その場所付近で検索エンジンでね、ワードを探ってみたんですよ、…『九谷焼』『彫刻』『美術』とか、そしたら出て来たんです。その付近に住む芸術家が…」
「芸術家??」
「二科展などにも出展している年老いた彫刻家が居たんです」
「それは誰??」
その問いかけにロダンは首を振った。
「今は言えません。だって僕はカラスに持たせた手紙に『あなたの名前を伏せておきます』と書いておいたんです」
田中巡査は思い出した。このロダンがカラスに手紙を追跡GPSと共につけていたのを。
「そういえば、君は手紙を書いてカラスに運ばせるようにしたんだよね」
「はい、相手が読むことを期待して」
「それは、どういった内容だったんだい?」
一瞬、ロダンは返事を言い淀んだがじっと田中巡査を見ると、頷いて言った。
「確かこれは警察捜査じゃない、悪戯解明でしたもんね」
それからビールを飲む。空いたグラスをテーブルに置いた。
「僕はこう書いたんです。『例のものは僕が所持しています。もし返してほしければいつでも例の場所に来てください。あなた方の棲み処は既に僕とカラスが承知です。名前は伏せておきますよ。それが互いにこれからの取引の信用上、大事でしょうから。ではまた』…シンプルです。場所は特定しませんでした。そう今は相手をX氏としておきましょう」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
孤独な銀弾は、冷たい陽だまりに焦がれて
霖しのぐ
キャラ文芸
ある目的を果たすためにだけ生きていた主人公〈空木櫂人/うつぎ・かいと〉は、毎日通うスーパーで顔を合わせる女性〈伊吹澪/いぶき・みお〉のことをなんとなく気にしていた。
ある日の夜、暗がりで男性と揉めていた澪を助けた櫂人は、その礼にと彼女の家に招かれ、彼女のとんでもない秘密を知ってしまう。しかし、櫂人もまた澪には話すことのできない秘密を持っていた。
人を喰らう吸血鬼と、それを討つ処刑人。決して交わってはならない二人が、お互いに正体を隠したまま絆を深め、しだいに惹かれあっていく。
しかし、とうとうその関係も限界を迎える時が来た。追い詰められてしまった中で、気持ちが通じ合った二人が迎える結末とは?
御神楽《怪奇》探偵事務所
姫宮未調
キャラ文芸
女探偵?・御神楽菖蒲と助手にされた男子高校生・咲良優多のハチャメチャ怪奇コメディ
※変態イケメン執事がもれなくついてきます※
怪奇×ホラー×コメディ×16禁×ラブコメ
主人公は優多(* ̄∇ ̄)ノ
よんよんまる
如月芳美
キャラ文芸
東のプリンス・大路詩音。西のウルフ・大神響。
音楽界に燦然と輝く若きピアニストと作曲家。
見た目爽やか王子様(実は負けず嫌い)と、
クールなヴィジュアルの一匹狼(実は超弱気)、
イメージ正反対(中身も正反対)の二人で構成するユニット『よんよんまる』。
だが、これからという時に、二人の前にある男が現われる。
お互いやっと見つけた『欠けたピース』を手放さなければならないのか。
※作中に登場する団体、ホール、店、コンペなどは、全て架空のものです。
友よ、お前は何故死んだのか?
河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」
幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。
だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。
それは洋壱の死の報せであった。
朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。
悲しみの最中、朝倉から提案をされる。
──それは、捜査協力の要請。
ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。
──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?
横浜で空に一番近いカフェ
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
大卒二年目のシステムエンジニア千晴が出会ったのは、千年を生きる妖狐。
転職を決意した千晴の転職先は、ランドマークタワー高層にあるカフェだった。
最高の展望で働く千晴は、新しい仕事を通じて自分の人生を考える。
新しい職場は高層カフェ! 接客業は忙しいけど、眺めは最高です!
NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。
彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。
そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!
彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。
離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。
香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。
月宮殿の王弟殿下は怪奇話がお好き
星来香文子
キャラ文芸
【あらすじ】
煌神国(こうじんこく)の貧しい少年・慧臣(えじん)は借金返済のために女と間違えられて売られてしまう。
宦官にされそうになっていたところを、女と見間違うほど美しい少年がいると噂を聞きつけた超絶美形の王弟・令月(れいげつ)に拾われ、慧臣は男として大事な部分を失わずに済む。
令月の従者として働くことになったものの、令月は怪奇話や呪具、謎の物体を集める変人だった。
見えない王弟殿下と見えちゃう従者の中華風×和風×ファンタジー×ライトホラー
あの世とこの世の狭間にて!
みーやん
キャラ文芸
「狭間店」というカフェがあるのをご存知でしょうか。
そのカフェではあの世とこの世どちらの悩み相談を受け付けているという…
時には彷徨う霊、ある時にはこの世の人、
またある時には動物…
そのカフェには悩みを持つものにしか辿り着けないという。
このお話はそんなカフェの物語である…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる