運命の落とし穴

恩田璃星

文字の大きさ
上 下
97 / 111

15-8

しおりを挟む

 
 「本っ当―に今から矢吹さんあの人と外回りに行くんですか?」
 
 「しつこいな。仕事なんだから仕方ないでしょ?」
 
 放心状態の矢吹を残し、羽立くんと宮本くんを見送りに行く途中のエレベーターには不穏な空気が漂っている。
 
 「…俺としてはあの場で辞表叩きつけて欲しかったぐらいですけど」
 
 「そんな無責任なことできません!」
 
 このまま私がシノノメとのアポをすっぽかすだけでなく、いきなり会社を辞めたりしたら…。
 
 怖い。
 怖すぎる。
 明日の朝、荒れまくる足立さんを想像して胃がキュッとなった。
 
 「本来の提案額で羽立コンサルティングと契約が取れてたら、それもできたかもしれないけど。売り上げ的に良い置き土産になるだろうし」
 
 「どうせ俺のところに永久就職決まってるんだから、この会社がどうなったって別に関係ないじゃないですか」
 
 「え」
 
 心のどこかでいつも思っていた。
 偽物のこんな関係は、いつか終わりが来る。
 
 だからこそ、羽立くんにとっては何気なく言ったであろう「永久」という言葉に、涙が出そうなほど心を揺さぶられる。
 
 「奏音さん?」
 
 俯いて必死に涙を堪えていると、羽立くんが私の肩を引き寄せた。
 
 「どうしました?」
 
 私の顔を覗き込む羽立くんの口元は、少し…いや、かなり意地悪く弧を描いている。
 
 前言撤回。
 全然何気なくなんてない。
 この男、完全に私の反応を楽しんでる。
 
 「…何でもない」

 プイッと顔を背けると、わしゃわしゃと頭を撫でられた。
 
 二人してほとんど存在を忘れかけていた宮本くんが、自分の存在をアピールするかのように咳払いをした。

 「何だよ、邪魔すんなよ、晃」
 
 宮本くん、今度は深いため息を吐いている。
 
 「…言っとくけど、、あの親子だけに言ったんじゃないからな」
 

 「「…?」」
 
 羽立くんと私は同時に問いかけ、顔を見合わせた。
 
 「『はたから見てりゃすぐ分かることなのに、なんで当人同士は分かんないんだろうな』ってヤツ」
 
 「あー、そんなこと言ってたな。で、誰のこと…」 
 「お前たちだよ!!」
 
 宮本くんが、ややかぶせ気味に鋭くツッコミを入れる。
 
 「常盤奏音はともかく、昴、お前、自分が常盤奏音の前だと完全にキャラ崩壊してるの、自覚してないのか?」
 
 キャラ崩壊だなんて大袈裟な。
 羽立くんは今も昔もずっとこんな感じなのに。
 
 羽立くんも心外そうに顔を顰めている。
 
 「…俺の知ってる昴は、誰にも本気にならないし、フラれた相手にもう一回結婚を申し込むなんてあり得ない」
 
 「そう…かもしれないけど…」
 
 「それに、ちょっと家からいなくなったからって、血相変えて家の周り探し回るなんて絶対しない」
 
 そう言えば、同居開始してすぐ、そんなこともあったな。
 
 「余計なこと言うなよ」と、ちょっと恥ずかしそうな羽立くんは、捜索先の宮本くん宅のバスルームに私が隠れていたことを知らない。
 
 その時に、私のことを好きだなんてありえないと羽立くんが言ったのをはっきりと思い出し、少しだけ胸を痛めていると、宮本くんと目が合った。
 
 「あの時も散々言ったけど、お前は自分はゲイだっていう分厚いレッテルを自分自身で貼ってたせいで認められなかったただけで、常盤奏音と再会したときから…いや、多分、それよりもずっと昔から常盤奏音のこと好きだったんだよ」

 お前が聞き逃していたのはここだと、宮本くんがアイコンタクトを送ってくる。

 再会したときから?
 それよりずっと昔から??

 私は一人密かに嬉しさと気恥ずかしさでパニックになっていた。

 「それなのに、俺含め何人もの幼気なノンケの男たちをの道に引き摺り込みやがって…」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎ ——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。 ※連載当時のものです。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

処理中です...