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よく分からないけれど、今夜は首の皮一枚で貞操が守られた…ことになるよね?
一応、ノーカウントだよね?
矢吹は、『次は必ず抱く』と言っていた。
根本的には何も解決していないことは分かっている。
でも、とにかく良かったーーー
今はそれしか考えたくないと、震える手で膝を抱えて自分自身を抱きしめようとした私を、太ももの間から鳴った『ぐちゅっ』という嫌な音が止めた。
追い打ちをかけるように、私の体液で濡れ、冷たくなったシーツが私の頭を冷静にする。
「…気持ち悪…」
こんな所で乙女チックに震えている場合じゃない。
早く帰らないと羽立くんが心配する。
何より私が、今すぐにでも羽立くんに会いたい。
「おかえりなさい、奏音さん」
そう言いながら、優しく微笑んで。
それだけで、今日のこと、これから待ち受けていること、全部、全部乗り越えられるから。
そうと決まればローブを適当に羽織って、秒でシャワーを浴びようとベッドから降りた時、部屋のドアを叩く音がした。
まさか、矢吹が戻ってきた!?
どうして?
理由を探して室内に目を走らせると、サイドテーブルの上に矢吹の社員証を見つけた。
これを取りに来たんだ。
そうこうしている間にドアを叩く音は激しさを増していく。
もはやドアが壊れてしまいそうな勢いだ。
早く渡さなきゃ。
でも、さすがに今日はもう顔を見たくない。
ドアの隙間から社員証だけ渡してしまおう。
「はい、海斗。これでしょう?」
念の為ストッパーを掛けて、ドアを数センチだけ開け、隙間から社員証を渡す。
「じゃあ…」
閉めようとしたところで、ガッとねじ込まれた見覚えのある靴に頭が真っ白になった。
どうして!?
これは矢吹の靴じゃない。
この靴
この靴はー
「奏音さん、俺です。今すぐここ、開けてください」
今朝玄関で見た羽立くんの靴。
「開けないと、ドアぶっ壊しますよ」
落ち着いた冷たい声で、私は魔法をかけられたようにドアストッパーを外し、おぼつかない足取りでドアの前から離れた。
ゆっくりと部屋に入ってきた羽立くんの顔は、人形みたいに表情がない。
確かに今すぐにでも羽立くんに会いたいとは思ったけれど、こんな所で、こんな形で会うことになるなんて。
「ど…して…、何でここ…」
「高倉円香、です」
ああー
円香に釘を刺しておかなければといけないと思っていたのに、忙しくて話す時間すら作れていなかった。
自分の詰めの甘さに、呆れるしかない。
「訊きたいことは、それだけですか?」
私が口を開くのを待っていられない様子で羽立くんは先を続けた。
「じゃあ、今度は俺が訊きますけど、奏音さんの会社の社長の息子―、善家海斗は…矢吹海斗なんですか?」
ドアの向こうにいるのが羽立くんだと知らずに私が渡してしまった顔写真入の社員証を見せながら、羽立くんが尋ねる。
もう、どう足掻いても無理だ。
「ごめん…隠してて」
「どうして、隠してたんですか?」
「それは…」
この期に及んで自分の醜い嫉妬心を、羽立くんにさらけ出すのを躊躇っていると、この部屋に入って初めて羽立くんの表情が崩れた。
「…俺なんかと婚約してしまった後に、ずっと好きだった矢吹さんに再会してしまったからですか?」
一応、ノーカウントだよね?
矢吹は、『次は必ず抱く』と言っていた。
根本的には何も解決していないことは分かっている。
でも、とにかく良かったーーー
今はそれしか考えたくないと、震える手で膝を抱えて自分自身を抱きしめようとした私を、太ももの間から鳴った『ぐちゅっ』という嫌な音が止めた。
追い打ちをかけるように、私の体液で濡れ、冷たくなったシーツが私の頭を冷静にする。
「…気持ち悪…」
こんな所で乙女チックに震えている場合じゃない。
早く帰らないと羽立くんが心配する。
何より私が、今すぐにでも羽立くんに会いたい。
「おかえりなさい、奏音さん」
そう言いながら、優しく微笑んで。
それだけで、今日のこと、これから待ち受けていること、全部、全部乗り越えられるから。
そうと決まればローブを適当に羽織って、秒でシャワーを浴びようとベッドから降りた時、部屋のドアを叩く音がした。
まさか、矢吹が戻ってきた!?
どうして?
理由を探して室内に目を走らせると、サイドテーブルの上に矢吹の社員証を見つけた。
これを取りに来たんだ。
そうこうしている間にドアを叩く音は激しさを増していく。
もはやドアが壊れてしまいそうな勢いだ。
早く渡さなきゃ。
でも、さすがに今日はもう顔を見たくない。
ドアの隙間から社員証だけ渡してしまおう。
「はい、海斗。これでしょう?」
念の為ストッパーを掛けて、ドアを数センチだけ開け、隙間から社員証を渡す。
「じゃあ…」
閉めようとしたところで、ガッとねじ込まれた見覚えのある靴に頭が真っ白になった。
どうして!?
これは矢吹の靴じゃない。
この靴
この靴はー
「奏音さん、俺です。今すぐここ、開けてください」
今朝玄関で見た羽立くんの靴。
「開けないと、ドアぶっ壊しますよ」
落ち着いた冷たい声で、私は魔法をかけられたようにドアストッパーを外し、おぼつかない足取りでドアの前から離れた。
ゆっくりと部屋に入ってきた羽立くんの顔は、人形みたいに表情がない。
確かに今すぐにでも羽立くんに会いたいとは思ったけれど、こんな所で、こんな形で会うことになるなんて。
「ど…して…、何でここ…」
「高倉円香、です」
ああー
円香に釘を刺しておかなければといけないと思っていたのに、忙しくて話す時間すら作れていなかった。
自分の詰めの甘さに、呆れるしかない。
「訊きたいことは、それだけですか?」
私が口を開くのを待っていられない様子で羽立くんは先を続けた。
「じゃあ、今度は俺が訊きますけど、奏音さんの会社の社長の息子―、善家海斗は…矢吹海斗なんですか?」
ドアの向こうにいるのが羽立くんだと知らずに私が渡してしまった顔写真入の社員証を見せながら、羽立くんが尋ねる。
もう、どう足掻いても無理だ。
「ごめん…隠してて」
「どうして、隠してたんですか?」
「それは…」
この期に及んで自分の醜い嫉妬心を、羽立くんにさらけ出すのを躊躇っていると、この部屋に入って初めて羽立くんの表情が崩れた。
「…俺なんかと婚約してしまった後に、ずっと好きだった矢吹さんに再会してしまったからですか?」
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