78 / 111
13-1
しおりを挟む
よく分からないけれど、今夜は首の皮一枚で貞操が守られた…ことになるよね?
一応、ノーカウントだよね?
矢吹は、『次は必ず抱く』と言っていた。
根本的には何も解決していないことは分かっている。
でも、とにかく良かったーーー
今はそれしか考えたくないと、震える手で膝を抱えて自分自身を抱きしめようとした私を、太ももの間から鳴った『ぐちゅっ』という嫌な音が止めた。
追い打ちをかけるように、私の体液で濡れ、冷たくなったシーツが私の頭を冷静にする。
「…気持ち悪…」
こんな所で乙女チックに震えている場合じゃない。
早く帰らないと羽立くんが心配する。
何より私が、今すぐにでも羽立くんに会いたい。
「おかえりなさい、奏音さん」
そう言いながら、優しく微笑んで。
それだけで、今日のこと、これから待ち受けていること、全部、全部乗り越えられるから。
そうと決まればローブを適当に羽織って、秒でシャワーを浴びようとベッドから降りた時、部屋のドアを叩く音がした。
まさか、矢吹が戻ってきた!?
どうして?
理由を探して室内に目を走らせると、サイドテーブルの上に矢吹の社員証を見つけた。
これを取りに来たんだ。
そうこうしている間にドアを叩く音は激しさを増していく。
もはやドアが壊れてしまいそうな勢いだ。
早く渡さなきゃ。
でも、さすがに今日はもう顔を見たくない。
ドアの隙間から社員証だけ渡してしまおう。
「はい、海斗。これでしょう?」
念の為ストッパーを掛けて、ドアを数センチだけ開け、隙間から社員証を渡す。
「じゃあ…」
閉めようとしたところで、ガッとねじ込まれた見覚えのある靴に頭が真っ白になった。
どうして!?
これは矢吹の靴じゃない。
この靴
この靴はー
「奏音さん、俺です。今すぐここ、開けてください」
今朝玄関で見た羽立くんの靴。
「開けないと、ドアぶっ壊しますよ」
落ち着いた冷たい声で、私は魔法をかけられたようにドアストッパーを外し、おぼつかない足取りでドアの前から離れた。
ゆっくりと部屋に入ってきた羽立くんの顔は、人形みたいに表情がない。
確かに今すぐにでも羽立くんに会いたいとは思ったけれど、こんな所で、こんな形で会うことになるなんて。
「ど…して…、何でここ…」
「高倉円香、です」
ああー
円香に釘を刺しておかなければといけないと思っていたのに、忙しくて話す時間すら作れていなかった。
自分の詰めの甘さに、呆れるしかない。
「訊きたいことは、それだけですか?」
私が口を開くのを待っていられない様子で羽立くんは先を続けた。
「じゃあ、今度は俺が訊きますけど、奏音さんの会社の社長の息子―、善家海斗は…矢吹海斗なんですか?」
ドアの向こうにいるのが羽立くんだと知らずに私が渡してしまった顔写真入の社員証を見せながら、羽立くんが尋ねる。
もう、どう足掻いても無理だ。
「ごめん…隠してて」
「どうして、隠してたんですか?」
「それは…」
この期に及んで自分の醜い嫉妬心を、羽立くんにさらけ出すのを躊躇っていると、この部屋に入って初めて羽立くんの表情が崩れた。
「…俺なんかと婚約してしまった後に、ずっと好きだった矢吹さんに再会してしまったからですか?」
一応、ノーカウントだよね?
矢吹は、『次は必ず抱く』と言っていた。
根本的には何も解決していないことは分かっている。
でも、とにかく良かったーーー
今はそれしか考えたくないと、震える手で膝を抱えて自分自身を抱きしめようとした私を、太ももの間から鳴った『ぐちゅっ』という嫌な音が止めた。
追い打ちをかけるように、私の体液で濡れ、冷たくなったシーツが私の頭を冷静にする。
「…気持ち悪…」
こんな所で乙女チックに震えている場合じゃない。
早く帰らないと羽立くんが心配する。
何より私が、今すぐにでも羽立くんに会いたい。
「おかえりなさい、奏音さん」
そう言いながら、優しく微笑んで。
それだけで、今日のこと、これから待ち受けていること、全部、全部乗り越えられるから。
そうと決まればローブを適当に羽織って、秒でシャワーを浴びようとベッドから降りた時、部屋のドアを叩く音がした。
まさか、矢吹が戻ってきた!?
どうして?
理由を探して室内に目を走らせると、サイドテーブルの上に矢吹の社員証を見つけた。
これを取りに来たんだ。
そうこうしている間にドアを叩く音は激しさを増していく。
もはやドアが壊れてしまいそうな勢いだ。
早く渡さなきゃ。
でも、さすがに今日はもう顔を見たくない。
ドアの隙間から社員証だけ渡してしまおう。
「はい、海斗。これでしょう?」
念の為ストッパーを掛けて、ドアを数センチだけ開け、隙間から社員証を渡す。
「じゃあ…」
閉めようとしたところで、ガッとねじ込まれた見覚えのある靴に頭が真っ白になった。
どうして!?
これは矢吹の靴じゃない。
この靴
この靴はー
「奏音さん、俺です。今すぐここ、開けてください」
今朝玄関で見た羽立くんの靴。
「開けないと、ドアぶっ壊しますよ」
落ち着いた冷たい声で、私は魔法をかけられたようにドアストッパーを外し、おぼつかない足取りでドアの前から離れた。
ゆっくりと部屋に入ってきた羽立くんの顔は、人形みたいに表情がない。
確かに今すぐにでも羽立くんに会いたいとは思ったけれど、こんな所で、こんな形で会うことになるなんて。
「ど…して…、何でここ…」
「高倉円香、です」
ああー
円香に釘を刺しておかなければといけないと思っていたのに、忙しくて話す時間すら作れていなかった。
自分の詰めの甘さに、呆れるしかない。
「訊きたいことは、それだけですか?」
私が口を開くのを待っていられない様子で羽立くんは先を続けた。
「じゃあ、今度は俺が訊きますけど、奏音さんの会社の社長の息子―、善家海斗は…矢吹海斗なんですか?」
ドアの向こうにいるのが羽立くんだと知らずに私が渡してしまった顔写真入の社員証を見せながら、羽立くんが尋ねる。
もう、どう足掻いても無理だ。
「ごめん…隠してて」
「どうして、隠してたんですか?」
「それは…」
この期に及んで自分の醜い嫉妬心を、羽立くんにさらけ出すのを躊躇っていると、この部屋に入って初めて羽立くんの表情が崩れた。
「…俺なんかと婚約してしまった後に、ずっと好きだった矢吹さんに再会してしまったからですか?」
0
お気に入りに追加
249
あなたにおすすめの小説
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
Home, Sweet Home
茜色
恋愛
OL生活7年目の庄野鞠子(しょうのまりこ)は、5つ年上の上司、藤堂達矢(とうどうたつや)に密かにあこがれている。あるアクシデントのせいで自宅マンションに戻れなくなった藤堂のために、鞠子は自分が暮らす一軒家に藤堂を泊まらせ、そのまま期間限定で同居することを提案する。
亡き祖母から受け継いだ古い家での共同生活は、かつて封印したはずの恋心を密かに蘇らせることになり・・・。
☆ 全19話です。オフィスラブと謳っていますが、オフィスのシーンは少なめです 。「ムーンライトノベルズ」様に投稿済のものを一部改稿しております。
ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる