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「…つっかれたぁ…」
書類の作成が一段落したので、休憩室のソファに沈み込むように座ると、営業先から戻ってきた足立さんが開けっ放しのドアから顔を覗かせた。
「お。疲れてんな、常盤。そーいや昨日は両家顔合わせだったっけ?もしかして、揉めたのか?」
やけに嬉しそうに訊いてくるのは、自分のときに何か揉め事があったからだろうか。
足立さんには残念ながら、昨日行われた両家顔合わせは終始和やかな雰囲気だった。
それもそのはず。
両親達には、お互いの事情を知らせていないのだから。
まあ、もしかしたら羽立家のご両親の方は、うちの事情を調べたうえで黙ってくれているのかもしれない。
羽立くんの素行を調査して、彼のセクシュアリティを突き止めるような家だもの。
更に時間を遡ると、常盤家への挨拶の翌日、羽立家に挨拶に行ったとき、私は破格のもてなしを受けた。
その際、うちの母より一回り近く年上というお母さんは、素人目に見ても高級そうな着物の袖で涙を拭いながら言っていた。
冗談抜きで、何百というお見合い写真を準備しても、首を縦に振らなかった羽立くんが、突然自分から会いたいと言い出した相手が私だったのだと。
つまり、羽立家としては羽立くんの相手が女でさえあれば、実家に借金があるくらい取るに足らないことなのだ。
「…違います。疲れてるのは足立さんのせいですよ。見積もり作成指示何件出したか覚えてます?」
プロジェクトメンバーは名前で呼び合うようになったものの、上下関係が確立しきっていた私達だけは、結局これまでどおりの呼び方のままだ。
「あー、悪いな。25…くらいだっけ?」
「29です!!」
「そうカリカリすんなよ。婚約者の写真でも見て癒やされとけ」
そうだ。
こんな時のために、この間写真撮ったんだった!!
いそいそとジャケットのポケットを探ってスマホを取り出し、画面に映し出された羽立くんに嘆息していると、足立さんが邪魔をしてきた。
「は?お前、マジで見てんの?」
「見ろって言ったの足立さんじゃないですか」
「普通、真に受けないだろ。大体見合い結婚のくせに、写真見てニヤけるとか嘘くさっ」
「余計なお世話です。本当に癒されるんだもん」
画面から放たれる癒しオーラを鼻いっぱい吸い込んでいると、ヒョイっと手からスマホを引き抜かれた。
「ちょ!足立さん!?」
「どれどれ?入社以来男っ気0の常盤を骨抜きにした色男の顔、拝ませてもらおうか」
「ダメです!返してください」
「いいだろ、減るもんじゃあるまいし。あ。実は全然イケメンじゃないとか?」
意地悪く上がった口元で分かる。
これは、完全に非イケメンだと思われている。
ギャフンと言わせたいけれど、この綺麗な寝顔は誰にも見せたくない。
「失礼な!羽立くんは目に入れたら視力が良くなるくらい美しいんです!!」
「じゃあ、見せてみろ。お返しにうちの嫁と娘の写真見せてやるから」
「そんなのもう何百回と見せられてるので、今更要りません!!」
スマホを取り返そうとして、もみ合った弾みで、足立さんの手からスマホが落下した。
「あーーーーっ!!」
くるくると回転しながら滑ったスマホは、休憩室の入り口の向こう側にいた人物の、磨き上げられた革靴に当たってピタリと止まった。
「ごめん!海斗。それ、私のー」
スマホを拾ってくれた矢吹の表情を見て初めて私は気が付いた。
私の側に誰がいるのか、隠さないといけない相手が、羽立くんだけではなかったかもしれないことに。
書類の作成が一段落したので、休憩室のソファに沈み込むように座ると、営業先から戻ってきた足立さんが開けっ放しのドアから顔を覗かせた。
「お。疲れてんな、常盤。そーいや昨日は両家顔合わせだったっけ?もしかして、揉めたのか?」
やけに嬉しそうに訊いてくるのは、自分のときに何か揉め事があったからだろうか。
足立さんには残念ながら、昨日行われた両家顔合わせは終始和やかな雰囲気だった。
それもそのはず。
両親達には、お互いの事情を知らせていないのだから。
まあ、もしかしたら羽立家のご両親の方は、うちの事情を調べたうえで黙ってくれているのかもしれない。
羽立くんの素行を調査して、彼のセクシュアリティを突き止めるような家だもの。
更に時間を遡ると、常盤家への挨拶の翌日、羽立家に挨拶に行ったとき、私は破格のもてなしを受けた。
その際、うちの母より一回り近く年上というお母さんは、素人目に見ても高級そうな着物の袖で涙を拭いながら言っていた。
冗談抜きで、何百というお見合い写真を準備しても、首を縦に振らなかった羽立くんが、突然自分から会いたいと言い出した相手が私だったのだと。
つまり、羽立家としては羽立くんの相手が女でさえあれば、実家に借金があるくらい取るに足らないことなのだ。
「…違います。疲れてるのは足立さんのせいですよ。見積もり作成指示何件出したか覚えてます?」
プロジェクトメンバーは名前で呼び合うようになったものの、上下関係が確立しきっていた私達だけは、結局これまでどおりの呼び方のままだ。
「あー、悪いな。25…くらいだっけ?」
「29です!!」
「そうカリカリすんなよ。婚約者の写真でも見て癒やされとけ」
そうだ。
こんな時のために、この間写真撮ったんだった!!
いそいそとジャケットのポケットを探ってスマホを取り出し、画面に映し出された羽立くんに嘆息していると、足立さんが邪魔をしてきた。
「は?お前、マジで見てんの?」
「見ろって言ったの足立さんじゃないですか」
「普通、真に受けないだろ。大体見合い結婚のくせに、写真見てニヤけるとか嘘くさっ」
「余計なお世話です。本当に癒されるんだもん」
画面から放たれる癒しオーラを鼻いっぱい吸い込んでいると、ヒョイっと手からスマホを引き抜かれた。
「ちょ!足立さん!?」
「どれどれ?入社以来男っ気0の常盤を骨抜きにした色男の顔、拝ませてもらおうか」
「ダメです!返してください」
「いいだろ、減るもんじゃあるまいし。あ。実は全然イケメンじゃないとか?」
意地悪く上がった口元で分かる。
これは、完全に非イケメンだと思われている。
ギャフンと言わせたいけれど、この綺麗な寝顔は誰にも見せたくない。
「失礼な!羽立くんは目に入れたら視力が良くなるくらい美しいんです!!」
「じゃあ、見せてみろ。お返しにうちの嫁と娘の写真見せてやるから」
「そんなのもう何百回と見せられてるので、今更要りません!!」
スマホを取り返そうとして、もみ合った弾みで、足立さんの手からスマホが落下した。
「あーーーーっ!!」
くるくると回転しながら滑ったスマホは、休憩室の入り口の向こう側にいた人物の、磨き上げられた革靴に当たってピタリと止まった。
「ごめん!海斗。それ、私のー」
スマホを拾ってくれた矢吹の表情を見て初めて私は気が付いた。
私の側に誰がいるのか、隠さないといけない相手が、羽立くんだけではなかったかもしれないことに。
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