運命の落とし穴

恩田璃星

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奏太の落とし穴7

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   そう広くはない和室に響き始めた、両親のすすり泣きを打ち消すように、羽立くんは大きくため息を吐いてから言った。

   「そうだね。全くもって同感だ。だけど、君のお姉さんは、強くて、優しくて、バカがつくほどのお人好しだ。そんな奏音さんが、家族の窮状を知ってどれだけ苦しむか分からない?長年一緒にいた家族である君なら、俺よりも容易に想像できるんじゃないのか?だから、ご両親も苦渋の決断をしたんだ。それが分からないなら、君は本当に無知で愚かなただのガキだ」

   この羽立くんの冷たい長台詞で、流石に黙るだろうと思いきや、私の弟は思った以上にタフだった。

   「でもっ!何で…あんた程の男が奏音なんかを…」

   奏音って!

   さっきから黙って聞いてれば好き放題言ってくれちゃって。

   羽立くんがいなかったら、この場で締め上げてやるのに…!

   脳内で思い切り奏太の首を締め上げていると、羽立くんが懲りることなく奏太に答えてくれた。

   「さっきも言っただろ?俺は昔、奏音さんに救われたって。その時誓ったんだ。この人に何かあった時は、絶対に守るって。それくらい、大切な存在だよ」

   羽立くんは、確かにさっきも私に救われたと言っていた。

   だけど、私は単に理科準備室で、偶然彼のセクシュアリティを知ってしまい、それを否定も肯定もしなかっただけで。

   『絶対に守る』なんて言ってもらえるほどのことはしていない。

   つまり、これは溺愛設定の一貫ということで、作り話フィクションに過ぎない。

   本気にしちゃダメなヤツだ。

 奏太のしつこさに、さっきまで洟をすすっていた母が羽立くんに加勢した。

 「奏太、羽立さんはね、奏音が一度縁談をお断りしたのに、諦めずにもう一度結婚を申し込んでくれたのよ」

 「え…一度断った?それってつまり、奏音はこのひとのことそんな好きじゃないってこと?」

   羽立くんの頬が、一瞬引き攣った。

   無理もない。

   女はもちろん数々の男達を虜にしてきた羽立くんが、私ごときに振られたなんて、一生の汚点に違いない。

 そして、隣から物凄い圧が放たれ始めた。

 羽立くん的には私のためにこんな茶番に付き合ってやっているのに、下手な芝居をして台無しにするなというプレッシャーだろう。

 「そ、そんなこと…」

 「そんなことないってどっち?好きなの?嫌いなの?」

 笑顔でぼかしてぬるっと乗り切ろうと思ったのに、逆にクロージングをかけられてしまった。

 羽立くん→私の溺愛設定でいけば今日を乗り越えられるという考えは甘かった。

 両親はともかく、奏太は私と羽立くんが相思相溺愛でなければ納得しないらしい。

 おまけに、

 「俺も聞きたいな。奏音さん、照れ屋だから普段あんまりハッキリ言ってくれませんもんね」

 なんて、羽立くんまで悪ノリしてくる始末。

 もう、誰が敵で誰が味方なのかよく分かんなくなってきた。

 「「で、どっち?」」

 奏太と羽立くんの声が見事にハモる。

 こんな、家族の前で公開告白させられる形になるなんてー

 

 「っ…だ…、大好きです」

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