運命の落とし穴

恩田璃星

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奏太の落とし穴5

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 今どき学歴が全てではないことは分かっているつもりだ。

 でも、かつての私と同じように、親の負担を少しでも軽くしようと、奏太が国立今通っている大学に合格するために、どれだけ努力を重ねたかも知っている。

 せっかく入学したからには、中退より卒業した方が奏太の人生にとって有益なのは、言うまでもない。

 だから、せめて奏太が大学を卒後するまでの間は、この結婚の真実をどうしても隠し通したいと思っていたのにー

 お見合いから今日までがバタバタ過ぎて、羽立くんに奏太のこと話すのを完全に忘れてしまっていたなんてー!!

 私のバカバカバカーっ!!

 後悔の渦に飲み込まれている私に気付かない二人は、一触即発ムードが最高潮。

 そして、遂に羽立くんが口火を切った。

 「…もしかしなくても、奏音さんの弟?」

 「…だったら何だって言うんすか?」

 そ、奏太っ!!

 いくら知らないとは言え、8桁ものうちの借金を肩代わりしてもらっているのに、その態度はあんまりよ!!

 父母と私が縮み上がったのと同時に、羽立くんが力強く一歩前に出た。

 まさか、殴る!?

 反射的に目をつぶった私の耳に聞こえてきたのは…

 「奏音さんに似てめちゃくちゃ可愛いね」

 という羽立くんの声。

 そして、目を開けばそこにあるのは奏太にハグをする羽立くんと、赤面して完全に固まっている奏太の姿。

 羽立くんのセクシュアリティを否定する気はないけれど、できれば弟のソッチの扉は開けないでもらいたかった…。

   「奏太…ズルいわ」

   本気で羨ましそうな母の言葉で自分を取り戻した奏太は、一目散に私のところに駆け寄ってきて、背後に隠れた。

   初めて目にしたあちらの世界の扉が、奏太にとっては余程禍々しく見えたのだろう。

   そんな奏太の様子を見た羽立くんは、

   「ごめんね。俺、アメリカ向こうでの生活長かったから」

と、悪びれるどころか奏太に向かってウィンクをかましながら微笑む余裕。

   そして両親に促され、難なくうちの実家の敷居を跨いだ。

   それでも懲りない奏太は、キンキンにエアコンの効いた和室に座るなり、私の背後に隠れたまま羽立くんに噛み付いた。

   「お、俺は絶対認めないからな!!」

   「ちょっと奏太!さっきから失礼よ!」

   「奏音は黙ってろ!!普通に考えてたら分かるだろ?がお前なんか本気で相手にするわけないだろ!?目ぇ覚ませ!!」

   身内って本当に容赦ない。

   そんなに言わなくたって、私が羽立くんに不釣り合いなのは、誰よりも分かっているのに。

   「で?奏音の…姉のどこが好きなんですか?」

   何その質問!?

   契約結婚なんだから、馬鹿なこと聞かないで!!

   「そうだな…柔らかいところ、かな」

   「は?奏音は胸もケツもぺったんこですけど?」

   弟に対して明確な殺意を抱きかけた私を、羽立くんが「ふっ」と笑いを吹き出して嗜めた。

   「身体のことじゃなくて、考え方というか、物事の受け止め方のことだよ」

   「受け止め方?」

   「そう。俺、高校のときそれにかなり救われて」

   「え?じゃあ、二人は昔からの知り合い?」

   「うん。高校の先輩と後輩。奏音さんの進学を機に連絡取れなくなって。ずっと会いたいなって思ってたら、まさかの形で再会できたから、これは逃しちゃいけないなって」

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