運命の落とし穴

恩田璃星

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深まる落とし穴2

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 長めのシャワーを終えても出社時間まで余裕があったので、簡単な朝ごはんを作り、羽立くんと向かい合って食べている。

 「そういえば、結婚式のことなんですけど」

 「え?するの??」

 「もちろん。むしろソレがメインっていうか。今回の結婚は、会社の取引先とか関係企業に『ちゃんとした後継者がいますよ』って見せるのが一番の目的ですからね」

 それを聞いて、もう一度夢から醒めたような気持ちになった。

 羽立くんの実家は、「羽立ホールディングス」という、平たく言うと、道路、橋、ダム、港の建設の計画や設計をする建設コンサルタントを経営している。

 後継者になるはずのお兄さんが亡くなってしまってのこの状況。

 私が羽立くんを好きとか、羽立くんが私のことを好きじゃないとか、そういう問題じゃない。

 こっちは借金を肩代わりしてもらっている身。

 私は私の役割をちゃんと果たさなければ。

 「場所と日取りはあっちが決めて連絡してくるので、奏音さんはドレスとか好きに選んでください。ついでに俺のも」

 「あ、うん…了解」

 つい、返事が間の抜けたものになってしまったのは、いくら契約結婚とはいえ、式場とかドレスとかは、周りの友達みたいに相手と一緒に選ぶのが当たり前だと思っていたから。

 自分の役割をちゃんと果たさなければと決意したばかりなのに。

 変な空気にならないよう、席を立って洗い物を始めると、すぐに手元が涙で滲んで見えなくなった。

 なんとか羽立くんの前で涙を零さずに洗い物を終え、家を出ようとした時、

 「奏音さん、待ってください」

 と呼び止められた。

 「何?」

 振り返らずに返事をする。

 「今日から俺、できるだけ奏音さんの会社の送り迎えしますから」

   予想外の申し出に、思わず振り返ってしまった。

 「え?何で?私の会社と羽立くんの会社、逆方向じゃない?」

 車を使って私の会社経由で出社したら、通勤に1時間はかかってしまう。

 「いいんです」

 「良くないって。何でいきなりそんなこと?」

 「心配だからです」

 「何が?」

 「奏音さん会社、変なのがいっぱいいそうなんで、虫よけです」

 『変なの』って、もしかして円香のこと?

 それとも、昨夜タクシーで言ってた、私がお見合い相手の候補にされそうになってたっていう社長の息子?

 どっちにしろ、せっかく自分の立場を再認識したところなのに。

 そんな真剣な顔でヤキモチ焼いてるみたいな顔をしないで欲しい。

 これ以上期待して、振り回されるのはもうゴメンだ。

 「形だけとは言え、婚約者がいるんだから大丈夫だよ」

 ちょっと皮肉交じりにキッパリ突っぱねると、逆に突っぱね返された。

 「いいえ。奏音さんはお人好しが過ぎるので心配です。頼み込まれたら断りきれるとは思えません。現に形だけの婚約者の俺に流されるまままでさせるくらいですから」

 何それ。

 まるで頼まれたら私が誰とでも寝るみたいな言い方。

 「私は…羽立くんだから…っ!!」

 「…え?」

 あ、ダメだ。

 今度こそ泣く。

 「っ、形だけとはいえ羽立くんの婚約者として責任持って行動するから大丈夫です!行ってきます!!」

 早口で言い捨てて、玄関を飛び出した瞬間、涙が頬を伝い落ちた。
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