運命の落とし穴

恩田璃星

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重なり合う平行線1

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 どんなに酔っていても、ちゃんと自分の足で帰って、コンタクトを外して、メイクを落とし、着替えてから寝る性分。

 それがこの歳まで私が処女たる所以かもしれない。

 もちろん今夜も例外ではない。

 家の前にタクシーが停まったと同時にパカッと目を開けて、さも酔ってないていで車を降りる私を羽立くんが引き止める。

 「奏音さん!俺が支払い終るまで動かないでください」

 「平気平気。自分で歩けるから大丈…わぁっ!」

 言った側から玄関ポーチの段差に躓きそうになった私の腕を、間一髪のところで羽立くんが掴んでくれた。

 「危なっ!」

 「ご、ごめんっ!ありがー」

 最後までお礼を言う前に、タクシーがテールランプを赤く光らせながら走り去った。

 ほんの一瞬、それに気を取られていたら、両足が地面から離れる感覚。

 気づけばカバンごと羽立くんに抱き上げられていた。

 「ちょっ!!?おろっ、降ろして!!」

 「いいからじっとしてろって!」

 予想よりかなりキツめの言い方に、何も言い返せないでいると、羽立くんは私を抱いたまま家の中に入った。

 そしてオートライトになっている玄関の灯りがパッと点く中、羽立くんは上がりがまちに私を座らせた。

 必然的に、羽立くんの顔を見上げる形になる。

 完全に逆光ではあるけれど、その表情はちゃんと見えた。

 狭めの眉間にくっきりとシワを寄せて、形の良い唇を真一文字に引き結んでいる。

 うっわー、超怒ってる!

 心配かけちゃったから!?

 とりあえず謝っちゃおう。

 そんで、さっさと寝よう。

 羽立くんは優しいから、許してくれるはず。

 と、いう考えは、どうやら甘かったらしい。

 「あの…羽立くん、ごめんね?迷惑かけて」

 恐る恐る謝ってみても、返事はない。

 まずい。

 本当に呆れられてしまった。

 「も、もう月曜から飲みに行ったりしないって約束するから、許して」

 「許しません」

 「えっ」

 「相手が誰であれ、飲みに行くのは禁止です」

 「ええっ!?金曜日もダメなの!?」

 「分かってます?俺が迎えに行かなかったら、奏音さん今頃あの高倉って女にヤられちゃってたかもしれないんですよ!?」

 「なっ!?円香はそんなことしないもん!」

 突拍子のない発言に、ついこちらも声を荒げて反論してしまった。

 すると、羽立くんは突然私の左頬を自分の右手で忌々しげに強く拭い、その手をずいっと私の目の前に見せつけてきた。

 その部分だけ、玄関照明の光で、キラキラテカテカしている。

 「これ見てもそんな悠長なこと言ってられるんですか?」

 突如、頬に感じたふにゅっとした感触と、羽立くんの絶叫が脳裏に蘇る。

 そうか。あれは円香が私のほっぺにチューしたのか。

 …それにしても、あのときの羽立くんの絶叫…すごかったな。

 「ふふっ」

 つい思い出し笑いが口から漏れてしまったら、目の前の人の怒りのボルテージが上がった。

 「笑うとこじゃないでしょう!!寝てる間にキスされたんですよ!?」

 「ほ、ほっぺにチューくらいでそんなに怒らなくても…高校の時とか、ふざけて女の子同士口と口でチューしてるコ達だっていたよ?」

 って、私はしたことないんだけども。

 それ言っちゃうと説得力ないので黙っておく。

 でも、私の必死の言い訳にも、羽立くんの表情は険しいまま。

 彼にとって同性とのキスは、遊びにならないから、失敗だったかも。

 お説教、早く終わらないかな、と不真面目なことを考えていたら、頭の上から酷く真面目な声が降ってきた。

 「じゃあ、俺もチューしていいんですね?」
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