運命の落とし穴

それぞれの準備６

　聞きたくないと強く願った癖に、塞がなかった私の耳に響く、残酷な現実。

　「…ありえないだろ」

　体から一気に力が抜けた。

　バスルームの床にへたりこんで初めて、心のどこかで期待していた馬鹿な自分に気づいた。

　恋愛対象として好きになってもらえないことなんて、羽立くんを好きになったときから分かっていたつもりだったのに。

　いざ本人の口から聞くと、ショックで気が遠くなりそうだ。

　こんなところでコソコソと、盗み聞きなんてしてたから、バチが当たったんだ。

　二人の会話は、まだリビングで続けられているみたいだけれど、もうとてもこれ以上聞く気になれない。

　今度こそ両手で耳を覆ってうずくまっていると、連日の疲労と睡眠不足のせいで、あっけなく眠りに落ちてしまった。

＊

　「――のん！常盤奏音！！」

　荒っぽくバスルームのドアが開けられた音で目を覚ますと、宮本くんが立っていた。

　「昴帰ったぞ…って、あんた、まさかこんなところで寝てたのか！？」

　頭はまだ覚醒しきってはいないけど、さっきのショックは鮮明に覚えているせいで、つい返しが喧嘩腰になってしまう。

　「うるさいなー。バスルームこんなところに押し込んだのは宮本くんでしょ」

　「は？マジかよ！？俺お前の代わりに色々昴に質問してやったのに…あんな大事な話、聞いてなかったのかよ！？」

　本当は途中までしっかり聞いていたけど、自分の中でなかったことにしたくてー

　「全っ然聞いてませんでしたー」

　可愛げのかけらもない答え方になってしまった。

　宮本くんは呆れたようにため息をつくと、私を引っ張り上げて玄関まで連れて行った。

　「とりあえず家帰れ。昴、心配してたから」

　「…」

　「そんで、一回ちゃんと話し合え」

　今さら何を話し合えば良いのか全く見当がつかない。

　けれど、家主に帰れと言われてしまったらしょうがない。

　ぽん、と労るように背中を押され、私は宮本くんの家を出た。