運命の落とし穴

恩田璃星

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波乱の同居生活4

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 羽立くんは、私の背後にあったタオル掛けからバスタオルを掴み、背中にふわりと掛けてくれた。

 「あ、ありがとう」

 タオルの端と端を身体の前で合わせて、ギュッと握りしめる。

 助かった。

 これで何とかこれ以上の丸見えの刑は避けられた。

 「俺の方こそありがとうございました。でも…このまま奏音さんに鼻押さえてもらってても止まりそうにないので、リビングあっちに戻ってますね」

 「え?あ、ごめんね。押さえ方足りなかった?付け根のところ、しっかり押さえて、安静にしててね」

 羽立くんが頷いて出ていくと、私はその場にしゃがみこんだ。

 見られた。

 全っ部見られた。

 あー。もうお嫁に行けない!!って…一応行けるわけだけれども。

 でも、結婚相手の羽立くんは、私の裸を見ても眉一つ動かさなかった。

 そりゃそうだ。この結婚は、ある種の契約結婚なんだから。

 分かっていたことだけど、凹む…。

 今さら、私ばかりが羽立くんを好きなのだと思い知らされて苦しくなる。

 初日からこんな調子でやっていけるんだろうか。

 深いため息を吐きながら、濡れたティッシュで床の血をきれいに拭い取った。

 そして、乱されまくった心が落ち着くまで、ドライヤーでしっかりと髪を乾かし、一度自分の部屋に寄って着替えてから、羽立くんのいるリビングに戻った。

 一難去ってまた一難。

 私は今、羽立くんの部屋のベッドと壁の隙間で、地蔵の様に固まっています。

 だってしょうがないじゃん!

 自慢じゃないけど、私28で処女だし!!

 父親と弟以外の男の人となんて寝たことないし!!!

 おまけに相手、羽立くんだよ?

 それもただの羽立くんじゃなくて、お風呂上がりで信じられないくらいいい匂いさせて、パジャマの第二ボタンまで外してる、色気全開の羽立くんだよ!!?

 このポジションをキープしておかないと、無理やり襲いかねない。

   もちろん、私が。

   羽立くんを。

 そんなことになったら、嫌われて婚約解消どころか、父の会社への援助も引き上げられてしまう。

 最悪、警察沙汰。

   そこに発動される、優しい羽立くんの甘い誘惑。

 「奏音さん、そんな端っこにいたら落ちますよ…って、ほとんど落ちてるじゃないですか!」 

 「わ、私はここで大丈夫だから!!」

 「ダメですって!もっとこっちに来てください!!」

 見かけよりずっと力強い手で肩を掴まれ、身体の向きをごろんと変えさせられてしまった。

 広いベッドのお陰で、私達の身体は、どこも触れ合ってはいない。

 でも、眼の前には、羽立くんの美しすぎる顔面。

 匂いを嗅がないよう、反射的に息を止めた。

 「これで大丈夫ですね」

 全然大丈夫じゃない!息できない!!

 ダメダメダメダメ!!

 ムリムリムリムリ!!!

 窒息しそうな上に、ドキドキしてどんどん頭に血が上っていく。

   このままだと顔、赤いのバレちゃう。

 もう、限界!!!

 というところでー

 「じゃ、電気消しますね。おやすみなさい」

 羽立くんはサイドテーブルに置いていたリモンコンで照明を落とすと、すぐに寝息を立て始めた。

 間一髪…。

 できる限り静かに元の位置に戻って地蔵に徹するうちに、私は眠りに落ちていた。

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