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Jinx
Side 冬馬 3
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披露宴終了から数時間後。
すっかり静寂を取り戻した控室に、遠慮がちにノック音が響いた。
「冬馬ー?依子ちゃん、無事ぃ?」
優子がそっと開けた隙間から顔を覗かせる。
「今寝てる」
部屋に準備されていた花嫁の冷え対策用のショールとやらに包まれて俺の腕に抱かれている依子は、静かに寝息を立てている。
「ちょ、それ、寝てるんじゃなくて意識失ってるの間違いでしょ?」
ズカズカと優子が部屋に入ってきて、依子の顔を覗き込んだ。
「ほら、精根尽き果てた顔してるじゃない!!あんた、またこんな無理させてー。これ、着替えと、身体拭くもの準備しといたから、ちゃんとしてあげなさいよ」
「分かってるって」
例えこれまでも、そして今日を迎えるに当たり散々世話になった優子と言えど、事後の依子を見せたくはない。
特に今日はもったいない。
どーしても見せたくない。
シッシッと手で追い払うジェスチャーをしていると、
「優子ちゃん?こっち?」
という声がして、またドアが開きかけたので、依子が寝ているにもかかわらず、大声で吠えた。
「おいっ!今入ったらぶっ殺す!!」
そして同時に、優子に思い切り頭を叩かれた。
「ちょっと冬馬!あんた、誰に向かって言ってんのよ」
「痛って…そんなだから行き遅れんだよ」
聞こえないくらいの声で呟いたはずなのに、地獄耳の優子には聞こえていたらしく、もう一発殴られた。
「私程の女が今も独身なのは、あんたが自分で中学の時馬鹿なことしでかしておきながら、いつっまでも依子ちゃんのこと引きずってウジウジメソメソして、心配かけまくったからでしょ!!」
「う…ウジウジメソメソとかしてねー」
…はず。
優子に無理やり酔わされたときに何か言ってても、それは俺のせいじゃない。
「してたわよ!!カズにも散々心配させて。その上、依子ちゃんがその気になるような式場自由に作らせてもらって、花嫁姿の依子ちゃんとこんな時間まで思う存分ヨロシクできたのだって、カズがClassic Palaceのオーナーだからでしょうが!!それを…!!」
あー。
もー。
うるせー。
「ギャーギャー喚くなよ。依子が起きるだろ」
不本意ではあるが、依子をそっとソファの上に寝かせ、テーブルの上に置いておいた物を手に、ドアの外に居る都築の所へ向かう。
「都築にもちゃんと感謝してる」
「は?感謝の印がガーターリング?依子ちゃんが身に着けてたものだからあんたにとっちゃお宝かもしれないだろうけど、カズには安過ぎるでしょ」
横から茶々を入れる優子をスルーして、都築は水色のガーターリングを受け取ると、ハッとした表情で俺を見た。
「冬馬…これってもしかして…」
「そ、『ガータートス』ってヤツ?」
ニヤリと笑ってみせると、都築がギョッと目を見開いた。
「えっ、まさか、冬馬気づいて…!?」
「気づいてないとでも思ってたのか?」
いつも澄ました顔で俺に説教垂れてくる都築が、見る間にソワソワと落ち着きを失っていく様は、結構笑える。
「ねえ!全然話が見えないんだけど!!ガータートスって何よ?」
「結婚式で花嫁がブーケ投げるだろ?アレの男版みてーなもん」
噛み付く優子の質問に答えてやると、都築の異変の理由が分かったらしく、今度は優子が固まった。
二人して付き合ってることを俺に隠せていると思っていたらしい。
いくらなんでも、こんな身近な人間がどーこーなれば気づくだろ、普通。
気づいたのは依子と籍入れて、ほんのちょっと心に余裕ができた後とは言わないでおくが。
それにしても。
依子以外が照れたり焦ったりする姿見ても何とも思わねーな。
いつも鬼とか悪魔とかドSとか言われるけど、依子の間違いだ。
「俺もこれからちょっとは落ち着くと思うし?迷惑かけた二人にはいい加減幸せになって欲しいってことで」
「…今日までの紆余曲折を知ってる分、ご利益かなり凄そうだね。じゃあ、これも、冬馬の大切なお姉さんもありがたくいただきます」
俺と長年付き合ってるだけあって、腹の据わっている都築はもういつもの調子を取り戻し、深々と頭を下げた。
優子はその光景に、声を上げて泣き始めた。
すっかり静寂を取り戻した控室に、遠慮がちにノック音が響いた。
「冬馬ー?依子ちゃん、無事ぃ?」
優子がそっと開けた隙間から顔を覗かせる。
「今寝てる」
部屋に準備されていた花嫁の冷え対策用のショールとやらに包まれて俺の腕に抱かれている依子は、静かに寝息を立てている。
「ちょ、それ、寝てるんじゃなくて意識失ってるの間違いでしょ?」
ズカズカと優子が部屋に入ってきて、依子の顔を覗き込んだ。
「ほら、精根尽き果てた顔してるじゃない!!あんた、またこんな無理させてー。これ、着替えと、身体拭くもの準備しといたから、ちゃんとしてあげなさいよ」
「分かってるって」
例えこれまでも、そして今日を迎えるに当たり散々世話になった優子と言えど、事後の依子を見せたくはない。
特に今日はもったいない。
どーしても見せたくない。
シッシッと手で追い払うジェスチャーをしていると、
「優子ちゃん?こっち?」
という声がして、またドアが開きかけたので、依子が寝ているにもかかわらず、大声で吠えた。
「おいっ!今入ったらぶっ殺す!!」
そして同時に、優子に思い切り頭を叩かれた。
「ちょっと冬馬!あんた、誰に向かって言ってんのよ」
「痛って…そんなだから行き遅れんだよ」
聞こえないくらいの声で呟いたはずなのに、地獄耳の優子には聞こえていたらしく、もう一発殴られた。
「私程の女が今も独身なのは、あんたが自分で中学の時馬鹿なことしでかしておきながら、いつっまでも依子ちゃんのこと引きずってウジウジメソメソして、心配かけまくったからでしょ!!」
「う…ウジウジメソメソとかしてねー」
…はず。
優子に無理やり酔わされたときに何か言ってても、それは俺のせいじゃない。
「してたわよ!!カズにも散々心配させて。その上、依子ちゃんがその気になるような式場自由に作らせてもらって、花嫁姿の依子ちゃんとこんな時間まで思う存分ヨロシクできたのだって、カズがClassic Palaceのオーナーだからでしょうが!!それを…!!」
あー。
もー。
うるせー。
「ギャーギャー喚くなよ。依子が起きるだろ」
不本意ではあるが、依子をそっとソファの上に寝かせ、テーブルの上に置いておいた物を手に、ドアの外に居る都築の所へ向かう。
「都築にもちゃんと感謝してる」
「は?感謝の印がガーターリング?依子ちゃんが身に着けてたものだからあんたにとっちゃお宝かもしれないだろうけど、カズには安過ぎるでしょ」
横から茶々を入れる優子をスルーして、都築は水色のガーターリングを受け取ると、ハッとした表情で俺を見た。
「冬馬…これってもしかして…」
「そ、『ガータートス』ってヤツ?」
ニヤリと笑ってみせると、都築がギョッと目を見開いた。
「えっ、まさか、冬馬気づいて…!?」
「気づいてないとでも思ってたのか?」
いつも澄ました顔で俺に説教垂れてくる都築が、見る間にソワソワと落ち着きを失っていく様は、結構笑える。
「ねえ!全然話が見えないんだけど!!ガータートスって何よ?」
「結婚式で花嫁がブーケ投げるだろ?アレの男版みてーなもん」
噛み付く優子の質問に答えてやると、都築の異変の理由が分かったらしく、今度は優子が固まった。
二人して付き合ってることを俺に隠せていると思っていたらしい。
いくらなんでも、こんな身近な人間がどーこーなれば気づくだろ、普通。
気づいたのは依子と籍入れて、ほんのちょっと心に余裕ができた後とは言わないでおくが。
それにしても。
依子以外が照れたり焦ったりする姿見ても何とも思わねーな。
いつも鬼とか悪魔とかドSとか言われるけど、依子の間違いだ。
「俺もこれからちょっとは落ち着くと思うし?迷惑かけた二人にはいい加減幸せになって欲しいってことで」
「…今日までの紆余曲折を知ってる分、ご利益かなり凄そうだね。じゃあ、これも、冬馬の大切なお姉さんもありがたくいただきます」
俺と長年付き合ってるだけあって、腹の据わっている都築はもういつもの調子を取り戻し、深々と頭を下げた。
優子はその光景に、声を上げて泣き始めた。
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