forgive and forget

恩田璃星

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危険なマタニティーライフ編

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 目を覚ました私の第一声は

 「どういうこと?」

 だった。

 ここはうちじゃない。
 うちじゃないのに、オシャレな表札に『桐嶋』と書いてある一軒家。

 え?
 本当に??
 もしかして、もしかする???

 今の激しい混乱が顔に出てたんだろうか。
 明快な答えが返ってきた。

 「そ。新居」

 「マジでーーーっ!?」

 信じられない。
 夢のマイホームを何の相談もなしに。
 私が無類の建築物好きって知りながら。

 昔から密かにマイホームはあーしたいこーしたいって、色々色々希望があったのにっ!!!

 ついでに言うと先生の言葉聞いてたかどうかって、全く関係なくない?考えて損した。

 かなりショックでお腹の子に影響あるんじゃないかレベル。
 ガクプルしてるのは、決して喜びの感動に打ち震えているからじゃない。

 そんな私を目の当たりにしても、余程自信があるのか桐嶋はまったく動じなかった。

 「お前なぁ、文句は見てから言え」

 半ば挑戦状を叩きつけられた様な気分で未知の我が家の内覧を始めた。



 取り敢えず外観から…とか言って語り出すと、長くなるのでカットします。

 結論から言います。

 非の打ち所、ありませんでした。

 桐嶋が創るものがいちいち私の好みにハマるのは前からだけど、今回は本当に完璧だった。

 外観、家事動線を考えた間取り、内装や建具の細かい部分、家具までが全て私の理想どおりだった。




 そう言えば、ここ最近休みは返上、帰るのも深夜で『もしかして浮気…?』と思わないこともなかったけど、まさか私に内緒で家を造っていたなんて。

 うっかり変な追求しなくて良かった。

 でも。
 それにしても。

 どうしても素直に喜びたくはない。

 「ズルい…」

 「何がだ」

 「どんなに人間的に問題があっても、1個の才能で全部帳消しにするなんて…」

 「貶すか誉めるかどっちかにしろ」

 一応誉めているのは伝わったらしい。

 「いつ引っ越すの?この様子じゃ来週とか言わないよね?」

 「今日。家具も家電も大体入れてるからこのまま住める。今頃あっちで全部引っ越し業者が荷造りしてる」

 「えぇっ!?」

 驚き過ぎて何も言えなかった。


 「おい、行くぞ。何ぼーっとしてんだよ」

 「あ、あっちの家に戻る?引っ越しの手伝いしないといけないのか!」

 「アホか。妊婦はそんなん業者に任せとけ」

 桐嶋は玄関に向かおうとした私の手をしっかり掴んで少し早足でリビングを突っ切った。

 確かこっちの部屋って…

 少し乱暴に開けられたドアの先にはキングサイズのベッド。

 「こんな時間に何で寝室っ!?」

 意外とあっさり健診が終わって、まだ正午を回っていない時間帯。

 「センセーからお許しが出ただろ。タバコもお前も何日禁欲生活してると思ってんだ」

 『センセーの言うこと聞いてたか』って、そのこと!?

 それにしても…禁欲生活って言ったって、煙草じゃない方はしっかりイロイロ手伝わせてたじゃんか!!

 ぐいぐいとベッドの方に押されても、なんか怖くてしっかり踏ん張れないのが妊婦。

 「ひっ、引っ越し屋さん来るんでしょ!?」

 「だから早くしろ」

 「引っ越し終わってからでもいーじゃんっ」

 「今始めれば引っ越し屋が来たら終わり。夜始めたら朝まで。どっちか選べ」

 「何その二択っ!?『夜始めて早めに終わる』はないの?」

 「バカ。終わるか。お前が一番よく分かってるだろ」

 「身をもって知ってるけどっ…じゃあ最初から選択肢なんてあってないようなもんじゃないっ」

 そこまで言ったところで、ポスンと柔らかい音とともにベッドに押し倒された。
 背中を付けただけで寝心地が良さそうなことが分かる。

 桐嶋は、ベッドに手を着き、私を見下ろしていつもの意地悪そうな笑みを見ると

 「俺は今から引っ越し屋が来るまでシて、夜から朝まででってのもアリ」

と言って、私の言葉を待たずに唇を奪った。




 親指で下顎を軽く引っ張られて、自然と開かされた口の中に入ってくる桐嶋の舌の感触に戸惑いを隠せない。

 「ん、んんっ!?」

 実を言うと、妊娠してからこんな濃厚なキスをするのは初めてで。
 妊娠初期でも普通に仲良しする夫婦が居ることは知っていたし、別に医師からストップがかかっていたわけではない。
 ただ、初めての妊娠で色々と慎重になっていたので私も桐嶋も『回避』していた。
 キスくらいはしていたけど、それも悪阻があったので軽めのものに留めていた。

 …さっきも言ったとおり手伝わされてはいましたけど。

 何に戸惑っているのかと言うと、味。
 ちゃんと禁煙を続けてくれてた桐嶋の舌からは、すっかりタバコの苦い味が消えていて、爽やかなミントタブレットの味しかしない。

 何だか知らない人とキスしてるようで、戸惑う。

 口腔内で逃げ腰になっている私に気付くと、少し興奮した様子を見せながらも桐嶋は唇を離し、私の口に指を突っ込んだ。



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