forgive and forget

恩田璃星

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蜜月京都旅行編

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 私のことをずっと見ていたと言いながら、射るような視線はまーくんに向けられている。
 完全に威嚇...。 

 「お、俺だってヨリ姉のことずっと」

 「ずっと、何?」

 桐嶋の声音が低く、静かになる。

 「依子の弟的立場で『ずっと』側に居たんなら依子を自分のものにするチャンスはいくらでもあっただろ?それを使わなかったってことはその程度の思いってことだ」

 「そんなことっ!」

 「もっと捨て身で、なりふり構わず奪いに来たらいつでも相手してやるよ、まーくん。ただし死んでも依子はやんねえけど」


 席に戻る桐嶋を追いかける途中、背後でまーくんが

 「かっけえぇ...」

と呟くのが聞こえた。





 席に着いて豪華な朝食を食べていると、突然桐嶋が呟いた。

 「俺がまーくんのポジションだったら精通後即ヤッてるな…」

 「ぶふっっ」

 思わず赤出汁のお味噌汁を吹きそうになった。

 「やめてよ。ご飯食べてる時にっ。しかも冬馬が言うと冗談に聞こえないっ!」

 「冗談なわけねーだろ。おもっきり想像めぐらせたわ」

 …誰かこの人止めて…。


 「今日、町家巡りするんだろ?」

 「それよ、それ。私町家巡りしたいとか冬馬に一言も言ってないよね?」

 「...」 

 「もしかして、タブレットの閲覧履歴…?」

 「...」

 「反論しないってことは当たりってことね」

 「何でそーゆーとこだけ鋭いんだよ…」

 まーくん、あんたが『かっけえぇ』って言った男は嫁のタブレットの閲覧履歴を盗み見するような男だよって言ってやりたい。

 「でも今日は町家はいいや」

 「は?何で?」

 「嵐山方面に行きたい」

 「…全っ然検索してなかったのに?」

 「冬馬が来る予定じゃなかったからよ。京都なんてそう簡単に来れないんだし、せっかくだから祇王寺一緒に行こう」

 桐嶋は

 「ん」

と、短く返事をすると、嬉しそうにご飯を口に運んだ。







 旅館から嵐山までは1時間近くかかるので、早めに出発することになった。

 荷物を取るために恐る恐る本来の私の部屋に戻ると、谷原さんの姿は見えず、あったら生々しいであろう寝具の類も綺麗に片付けられていた。

 ホッと胸をなでおろして自分の鞄を持ち上げた時

 「依子さん」

と背後から声をかけられてぴゃっとなった。

 「あ、谷原さん…」

 できればこのまま顔を合わさずに部屋を出たかった。

 「あの、昨日はごめんなさい。…大丈夫でした?」

 「あ、うん。急遽主人が来たからもう一部屋とってそっちに居たから。気にしないで?」

 「じゃあ朝食会場で一緒だったのがご主人ですか?」

 「うん、そう」

 「すっごいイケメンですねー。しかも有名な設計士さんなんでしょ?いいなー。私も早くそういう人と結婚したーい」

 「…谷原さんは『結婚』がしたいの?」

 「したいですよぉ。ただし依子さんの旦那さんみたいなハイスペックなヒトと、ですけど」

 「ハイスペック…」


 谷原さんの口ぶりから、まーくんが捕食されてしまったのは単に「弁護士」ステータス目当てだったことが分かりちょっと安心する。

 こういう人は脈がなければ次にいくのも早いから、そんなに揉めることもないだろう。

 「ご主人の周りに誰かいい人居たら教えてくださいね」

 なんてちゃっかり自分の宣伝をしつつ、お詫びにと言っていい香りのするボディークリームのサンプルを分けてくれた。




 桐嶋のいる部屋に戻ると何故かまーくんが来ていて、二人して何かを真剣に見ている。

 こちらの部屋の布団も朝食中に綺麗に片付けられていたことにホッとする。

 「何見てるの?」

 覗きこんだ先にはタブレットがあって画面には写真が映し出されていた。

 「これ…」

 幼いころの私?

 「何で京都に来てこんなもん見てるのよ!」

 「だってヨリ姉んちのアルバム、おじさんのせいで建物ばっかりで依姉全然映ってないって冬馬兄が…」

 「『冬馬兄とうまにい?何その呼び方!!?」

 「…ヨリ姉のダンナは俺の義兄みたいなもんでしょ?」

 まーくん、シスコンなだけじゃなくブラコン?

 なんて呆れていると、データを転送しながら桐嶋が冷たく言い放った。

 「俺、そっちの趣味ねーから」

 桐嶋の言葉を聞いて、どうでもいい記憶が蘇る。


 「…そう言えば冬馬さぁ、2年の頃都築くんと噂になってなかった?」

 「シカトしてた癖にそういうのは知ってんだな…」

 「ヨリ姉と冬馬兄って同級生なの?ヨリ姉、冬馬兄のことシカトしてたの?何で?」

 まーくんが目を輝かせて私たちの過去に食いついてくる。

 「まーくん。その話全然楽しい方向に進まないから。冬馬、そろそろ行こう」

 「…ハイハイ」

 「俺も行っていい?」

 「いーわけねーだろ。邪魔」

と桐嶋に一蹴されて落ち込むまーくんを残し、二人で旅館を後にした。
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